SDGs目標11の「住み続けられるまちづくりを」の現状と取り組み

2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2030年までに持続可能でよりよい世界の実現を目指すための国際目標です。この17項目の目標のうち11番目に挙げられているのが、「住み続けられるまちづくりを」という目標です。

まちづくりというと地域的で小規模な取り組みのようにイメージされることがあります。しかし、これは都市や居住環境の包摂性や安全性、強靭(きょうじん)性を実現するための目標で、災害や大気汚染、遺産の保護など、実に幅広い分野にまたがる目標です。

この記事では、SDGs目標11の「住み続けられるまちづくりを」の詳細と現状を解説したうえで、この目標に関連する問題に対する取り組み事例をご紹介します。今後、目標達成に向けて私たちに何ができるのかを考えるきっかけになれば幸いです。

SDGs目標11の「住み続けられるまちづくりを」とは


バングラデシュのスラムで暮らす子どもたち
バングラデシュのスラムで暮らす子どもたち

SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」は、「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」ことを目的としています。

目標11「住み続けられるまちづくりを」を達成するために掲げられた具体的なターゲットは、以下の10項目です。(注1)

11.1 2030年までに、全ての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。
11.2 2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子供、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、全ての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。
11.3 2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、全ての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。
11.4 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。
11.5 2030年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。
11.6 2030年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。
11.7 2030年までに、女性、子供、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。
11.a 各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する。
11.b 2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。

このように、目標11「住み続けられるまちづくりを」が関係する分野は、スラムや交通、文化遺産や自然遺産、災害、大気、ごみ、都市計画など、多岐に渡ります。また、単に都市やその他の居住地の再生と計画を実行するだけでなく、その過程でコミュニティの絆と個人の安全を強化することや、イノベーションや雇用を刺激することに重点が置かれています。

SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の現状や問題点


衛生環境が劣悪なカンボジアの様子
衛生環境が劣悪なカンボジアの様子

「住み続けられるまちづくりを」という目標がSDGsに盛り込まれた背景には、居住環境に関わるさまざまな世界的な問題があります。ここでは、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に関係する世界の現状を解説したうえで、主要な問題点である都市化と自然災害についてさらに詳しくお伝えします。

世界の現状

現在、世界の人口の半数以上が都市部で生活していますが、その割合は2050年までに人口全体の約7割に達する推定です。全世界のGDPの8割以上が都市で生み出されており、経済成長をけん引する存在ですが、同時に温室効果ガス排出量も多く、世界全体の7割以上が都市部からの排出で占められています。(注2)。

持続可能で包摂的な都市化を実現するためには、入念な計画と管理が不可欠です。しかし、ずさんで急激な都市化によって、安価な住居不足、公共交通や水、電気などのインフラの整備不足、大気汚染、気候変動の悪化と災害の増加など、多くの地域でさまざまな問題が発生しています(注2)。

問題点1:都市化に伴う人口集中と大気汚染

産業革命以降、世界的に都市化が進行中ですが、近年は特にアジアやアフリカ地域で急速な都市化が見られています。それに伴ってスラムで生活する人の数も年々増加しており、2020年時点でアジアとサハラ以南のアフリカ地域を中心に10億人以上の人びとがスラムで生活しているという統計があります(注3)。急激な都市化は貧困や失業を招き、格差の拡大の原因になりうるほか、気候変動や環境破壊に発展する可能性も大きいです(注4)。

都市の拡大に伴う具体的な問題の1つとして、大気汚染が挙げられます。国連は、世界の都市人口の99%が汚染された空気の中で生活しているという推計を公開しました(注5)。大気汚染による健康被害は世界的に問題視されてきましたが、特に開発途上国では、今も大気汚染が死亡原因の上位に入っています(注4)。

問題点2:気候変動に起因する自然災害

近年、日本でも豪雨や台風の被害が増えていますが、世界でも同じように気候変動の影響によって災害が頻発しています。世界人口が増えていることや、人が住む地域が広がっていることに伴い、災害発生時にその被害に遭う人の数も増加中です(注6)。

避難を余儀なくされたり、食料不足に陥ったりと、自然災害の影響はさまざまな形で人びとの生活を圧迫します。国連児童基金(UNICEF)は、人に影響を与える自然災害の発生数と、自然災害の影響を受ける人の数の両方が近年大きく増加していると報告しています(注6)。

SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に対する取り組み事例


南スーダンで暮らす家族。洪水に見舞われ、母親(写真中央)は家族の健康を心配している

南スーダンで暮らす家族。洪水に見舞われ、母親(写真中央)は家族の健康を心配している

それでは、SDGs目標11に関連するこうした問題に対して、どのような取り組みが行われているのでしょうか。ここでは、日本政府の取り組みとともに、日本企業の取り組み事例もご紹介します。そのうえで、スラムと災害に対するワールド・ビジョン・ジャパンの活動のうち、バングラデシュでの取り組みを詳しくご紹介します。

日本政府の取り組み

日本は、戦後の高度経済成長期に急激な都市化とそれに伴う地域間格差の拡大を経験しました。これはまさに、現在多くの開発途上国が直面している課題でもあります。このように過去にインフラ整備、環境問題への対応、格差是正などさまざまな都市問題を克服した実績、そして大地震などを経て得た都市災害の教訓や復興の経験は、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成に向けた日本の強みであると言えます(注7)。

実際、日本政府による開発協力を担う国際協力機構(JICA)は、世界各地で総合的な都市開発のマスタープラン策定支援を数多く進めてきました。このような計画段階での支援に加え、気候変動対策や環境管理、防災などに関する行政能力強化の支援、また交通や廃棄物処理を含むインフラ整備の実績も豊富です。そのため、持続可能な都市づくりに総合的に貢献できる強みがあります(注7)。

日本政府はこうした強みに立脚して、持続可能な都市の実現、格差の是正と発展、気候変動適応策や防災への取り組み推進、都市環境改善の取り組み推進、都市開発関連法制度整備・ノウハウの活用という5つの重点分野を設定しました。SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成に向けて支援活動を展開しています(注7)。

企業の取り組み事例

SDGsの目標達成に向けた活動には、企業も積極的に参加しています。

例えばJALグループは、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成に向けた取り組みとして、被災地の復興支援を実施中です。具体的には、発災時に臨時便を飛ばすなどして航空輸送を確保しているほか、政府や自治体に加えて国際人道支援組織「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」や緊急災害対応アライアンス「SEMA(シーマ)」などの非営利団体のネットワークと連携して、救援物資や救護要員の輸送体制を整備しています(注8)。

日本国外での災害に対しても、JALマイレージバンク会員にマイルの寄付を呼びかけ、集まったマイル寄付相当額を被災者支援を行う非営利団体などに寄付する取り組みを行っています(注8)。

バングラデシュのスラムでのワールド・ビジョンの取り組み

ワールド・ビジョン・ジャパンは、SDGsのさまざまな目標に関連する活動を世界各地で行っています。SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に関わる取り組みとしては、2019年11月からバングラデシュのスラムで、廃棄物管理と衛生管理の能力強化事業を実施してきました。

この事業では、まず各地域の住民たちで構成される「ごみ・衛生管理委員会」を組織し、廃棄物処理の重要性を理解してもらうための研修を実施。さらに、地域の有力者からも事業への理解と協力を得つつ、希望する世帯にフタつきのごみ箱を配布するなどの活動をとおして、廃棄物の適切な管理システムを構築しました。衛生管理の面では、手洗いの啓発活動やトイレの新設・補修、トイレの維持管理方法についての研修などを実施しました。

活動においては、事業終了後も住民だけで廃棄物と衛生の管理を継続できるように、行政と住民グループのつながり、そして住民グループ同士のつながりを強化することを重視しました。

災害が多いバングラデシュでの地域開発プログラム

バングラデシュは都市化が進んでスラムが問題となっている地域ですが、災害に弱いという別の一面もあります。

ワールド・ビジョンがチャイルド・スポンサーシップをとおして1994年から2019年まで支援を行っていたカルマカンダ地域は、バングラデシュのなかでも開発から取り残された地域でした。雨期には地域の盆地全体が冠水し、通学や市場、病院へのアクセスが閉ざされていたほか、洪水が頻発し、道路や橋が崩壊することも少なくありませんでした。

ワールド・ビジョンは26年におよぶ支援のなかで、教育、保健衛生、経済開発、道路や橋の建設といった幅広い活動を行いました。その一環でコンクリート製の橋が40本建設され、さらに200キロ以上の道路が整備されたことで、多くの人びとの生活が変わりました。それ以上に、こうした活動を地域住民自身が実施することで、人びとの意識も大きく変わりました。

災害対策というと発災時の緊急支援に注目が集まりがちですが、このような長期的な取り組みで住民たち自身の意識を変え、地域の強靭さを育てることこそが、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成に向けて不可欠なのではないでしょうか。

チャイルド・スポンサーシップにご協力ください


カンボジアで暮らす子どもたち

カンボジアで暮らす子どもたち

チャイルド・スポンサーシップは、月々4,500円、1日あたり150円の継続支援です。

チャイルド・スポンサーになっていただいた方には、支援地域に住む子ども、"チャイルド"をご紹介します。支援金はチャイルドやその家族に直接手渡されるものではなく、子どもを取り巻くコミュニティ全体に働きかけ、長期にわたりコミュニティに寄り添いながら展開する持続可能な活動に使われます。

チャイルドは、皆さまと1対1の関係を育み、支えられている存在です。支援地域がどのように発展し、チャイルドがそこでどのように成長しているかという支援の成果を、毎年お送りする「プログラム近況報告」と、チャイルドの「成長報告」を通じて実感していただけます。

子どもたちが災害や衛生上の危険にさらされることなく健康で安全な環境で育ち、等しく教育の機会を得て未来に夢を描けるように、チャイルド・スポンサーシップへのご協力をお願いいたします。

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