貧困層とは、どのような状態の人々を指すのでしょうか。技術が進歩し、誰もが豊かさを享受できる時代になっても、貧困に苦しむ人びとは世界中に存在しています。貧困層の定義とその割合について解説しましょう。
貧困を測る指標はいくつか存在しています。代表的なものに、世界銀行による「国際貧困ライン」と、国連開発計画(UNDP)による「多次元貧困指数」があります。それぞれの指標をもとに、貧困層の定義について見てみましょう。
1990年、独立した研究グループと世界銀行が、世界的な貧困層を把握するための指標として「世界貧困ライン」を設定しました。世界各国の物価データを基に割り出された「購買力平価(PPP)」により、最初の国際貧困ラインが1日1ドルと定められたのです。
2005年には国際貧困ラインが1日1.25ドルに変更され、2015年からは1日1.90ドルに設定されました。2015年の統計では、極度な貧困層は7億3,600万人と発表されました。1990年の時よりも大幅に貧困層の数は減りましたが、まだまだ深刻な状態は続いています。なお今回参照した統計は、2018年に公開された2015年のデータです。貧困データの収集・分析は時間がかかることもあり、世界銀行では2年ごとにデータ調査を行っています。(注1)。
UNDPは、多次元貧困指数(MPI)という指標を用いています。MPIとは、「保健、教育、所得という人間開発指数(HDI)の3つの要素に関して、世帯レベルで複数の形態の貧困がどの程度重なり合っているかを表す指標であり、多次元貧困状態にある人の割合、および多次元貧困状態にある世帯が直面している貧困の深刻さを映し出すもの(注2)」です。
この指標により、貧困層にいる人々は経済的な問題だけではなく、多様な貧困問題を同時にいくつも抱えていることが明らかとなりました。UNDPは多次元貧困層を「健康、教育、生活水準に関する加重指標のうち、少なくとも3分の1で貧困状態にある人々(注3)」と定めています。
世界には、どのくらいの割合で貧困層が存在しているのでしょうか。経済的指標である国際貧困ラインによる貧困層と、貧困を多面的に捉える多次元貧困指数による貧困層の数や割合について見てみましょう。
2015 年に改定された1日1.90ドルの「国際貧困ライン」に沿うと、1990年は36%(18億9,500万人)、2015年は10%(7億3,600万人)でした。この間に貧困層の数は大幅に減りましたが、まだまだ深刻な状態は続いています。(注1)。世界銀行は、2015年の貧困層について次のように分析しています。
一方、UNDPによる「多次元貧困指数」で見ると、2019年では全世界に13億人もの多次元貧困層が存在していることが発表されています。こちらの調査でも、多次元貧困層のうち84.5%が南アジアとサブサハラに分布していることが明らかになっています。UNDPでは多次元貧困率が国によって大きな差があることについて、次のように述べています(注3)。
またUNDPは、子どもの多次元貧困についてもは次のようにまとめています(注3)。
国際労働機関(ILO)は2019年、世界の所得格差に関するレポートを発表しました。世界で支払われている労働所得の半分を、世界のわずか10パーセントの人々が得ている、という内容です(注5)。またスイスの金融大手クレディ・スイス銀行の発表した「グローバルウェルスレポート2019」では世界全体の貧富の分布をみることができます。そのデータから、「下から 50%の層が保有する額は世界の総資産の1%未満。上位10%の人が総資産の82%、上位1%が半分近くを保有している」と読み取れます(注6,注7)。
経済産業省の資料によると、富裕層は2つのカテゴリーに分けられています。純金融資産が30億円以上の「超富裕層」と、1億円以上30億円未満の「富裕層」です。2017年時点で、純金融資産50億円以上の人口は世界に129,730人いました(注7 P29)。
一方で前述のとおり、2015年に1日1.9ドル未満で生活する貧困層は7億3,600万人で、多次元貧困層は2019年の発表では13億人だったわけです。多くの人が深刻な貧困に直面しており、世界に住むほんの一部の人々が富を独占しているという現状なのです。
国際NGOとして世界で活動しているワールド・ビジョンは、貧困層にいる人々へあらゆる角度から支援を行っています。その中から、チャイルド・スポンサーシップ、難民支援、関係機関との連携事業について解説しましょう。
先ほども触れたとおり、貧困層の約半分は子どもです。ワールド・ビジョンは、貧困問題を解決するためにチャイルド・スポンサーシップを通した支援活動を実施しています。チャイルド・スポンサーシップは、子どもたちが健やかに成長できる持続可能な環境を整えることを目指しています。地域の人々とともに、水衛生、保健、栄養、教育、生計向上等の活動に取り組み、子どもを含む地域全体が貧困から抜け出せるよう手助けをします。
また、チャイルド・スポンサーシップを通して開発援助活動を実施し、活動の成果を地域の人々自身が将来にわたって維持し、発展させるために人材や住民組織の育成にも力を入れています。
チャイルド・スポンサーシップの成果が定着し、支援から卒業できる地域もたくさん出てきています。
2019年にはバングラデシュのカルマカンダ地域とウガンダ共和国のナラウェヨ・キシータ地域がチャイルド・スポンサーから卒業し、子どもたちが「豊かないのち」を生きられるようになりました。
チャイルド・スポンサーシップを詳しく知る
ワールド・ビジョンの活動の大きな柱のひとつが緊急人道支援です。紛争により住む場所を追われた人々は、貧困と命の危機に直面しています。緊急援助活動は人々の命を守るために、文字通り時間との戦いになります。緊急人道支援募金を常時受け付けており、いつ起こるとも知れない突発的な紛争に備えています。
難民支援には、長期的な支援も必要です。様々な理由で自国に戻れず、難民キャンプで何年も暮らさざるを得ない人が大勢いるからです。そのような人々に教育の機会や職業訓練の支援を提供することは、貧困から脱し生活を立て直すこと、また、将来への希望を持って生活することにつながります。
ワールド・ビジョンは、難民のなかでも特に子どもにフォーカスしたキャンペーン「Take Back Future ~難民の子どもの明日を取り戻そう~」 を、2018年から4年間の計画で展開しています。教育を通して、紛争や貧困により移動を強いられる子どもたちに対する暴力を撤廃し、暴力が繰り返されない未来を築くことを目指しています。
難民支援活動は、皆さまからの募金によって成り立っています。「難民支援募金」へのご協力をお待ちしています。
ワールド・ビジョンは、日本政府(外務省)や国際協力機構(JICA)、国連機関などとも連携し、相対的貧困に直面している世界の子どもたちのために支援活動をしています。
政府・国連等との連携事業
日本政府や国連機関と連携等による資金の活用にあたっては、事業総費用の一部をNGO側も拠出する必要があります。ワールド・ビジョンは皆さまの募金と日本政府や国連機関等による資金を合わせて、様々な事業を実施し、大きな効果を上げています。
皆さまの募金は、政府や国連機関等との連携事業を通して、子どもたちのために様々な方法で役立てられています。難民支援のため、危機にある子どもたちのため、緊急人道支援のためなど、困難に直面している貧困層の子どもたちに希望を届ける支援活動を行うことができます。
※1 The World Bank:世界の貧困に関するデータ
※2 国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所:よくあるご質問:多次元貧困指数(MPI)とは
※3 国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所:2019年グローバル多次元貧困指数
※4 The World Bank:1年を振り返って:14の図表で見る2019年
※5 国際労働機関(ILO):Just 10 per cent of workers receive nearly half of global pay
※6 CNN:世界の富裕層の上位10%、中国人が1億人で最多
※7 クレディ・スイス銀行:グローバルウェルスレポート2019
※8 経済産業省:【調査報告書】平成30年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業
※このコンテンツは、2020年2月の情報をもとに作成しています。