後発開発途上国の貧困削減をするために行われていること

後発開発途上国という言葉を聞いたことがありますか? あまり耳慣れない言葉ではないでしょうか。開発途上国の中でも、特に貧しい国のことを後発開発途上国と呼びます。世界の貧困問題と大きな関わりのある後発開発途上国について解説しましょう。

学校で勉強するザンビアの子どもたち
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後発開発途上国とは


どのような国のことを後発開発途上国というのでしょうか。後発開発途上国の定義についてまとめました。

開発途上国の中でも貧しい国々のこと

後発開発途上国とは、開発途上国の中でも特に貧しい国のことです。Least Developed Countryを短縮して「LDC」とも呼ばれています。開発途上国であるかどうか、その中でも後発開発途上国に分類されるかどうかは、国連開発計画委員会(CDP)が定める基準をもとに、国連総会の決議により認定されています。

日本は経済協力開発機構(OECD)の加盟国です。OECDは「経済成長」「貿易自由化」「途上国支援」を三大目的としています(注1)。

三大目的のひとつ「途上国支援」は、OECD内で開催される開発援助委員会(DAC)が行います。DACの目的は下記のとおりです(注2)。

  • 持続的・包摂的かつ持続可能な経済成長
  • 貧困撲滅
  • 途上国の人々の生活水準の改善
  • 2030アジェンダの実施に貢献するため、開発協力・政策を促進

DACは開発協力を実施するために「ODA(政府開発援助)受け取り国リスト」(注3)を作成します。そのリストに載っているのが被援助国、つまり開発途上国ということになるのです。

「ODA(政府開発援助)受け取り国リスト」では、開発途上国各国の所得などに応じて、4つの段階に分類されています。この分類の内容で、最も所得が低く開発の度合いが遅れているのが「後発開発途上国」です。その次に所得が低いのが「低所得国」、そして「低中所得国」「高中所得国」と続きます(注3)。低所得国を卒業して低中所得国になることがあるため、リストは調査年ごとに変動します。

2022年時点の後発開発途上国

後発開発途上国は、国連総会の決議により認定されます。3年に1度、リストの見直しが行われます。例えば2021年に決められた後発開発途上国の基準は次の通りです。



  後発開発途上国の基準     (注4)より抜粋
1 一人あたりGNI(3年平均):1,018米ドル以下
2 HAI(Human Assets Index):人的資源開発の程度を表すために国連開発政策委員会(Committee for Development Policy:CDP)が設定した指標で、栄養不足人口の割合、5歳以下乳幼児死亡率、妊産婦死亡率、中等教育就学率、成人識字率を指標化したもの。
3 EVI(Economic Vulnerability Index):外的ショックからの経済的脆弱性を表すためにCDPが設定した指標。人口規模、地理的要素、経済構造、環境、貿易のショック、自然災害のショックから構成。


「ODA(政府開発援助)受け取り国リスト」(注3)によると、2022年から2023年に「後発開発途上国」にリストアップされているのは全部で46カ国です。アフリカの国々が最も多くて33カ国です。次いでアジア9カ国、大洋州3カ国、中南米1カ国と続きます。アフリカの貧しい国は、サハラ砂漠より南に集中しているのがわかります。

後発開発途上国のリストも、見直しが行われるので変動します。2012年に南スーダンがリストに追加されました。2023年にはブータン、2024年にはアンゴラ共和国・サントメ プリンシペ民主共和国・ソロモン諸島が後発開発途上国を卒業予定です(注4)。

また、2021年の第76回国連総会でラオス・ミャンマー・バングラデシュが、後発開発途上国(LDC)卒業の決議案が採択されました。バングラデシュは国連の開発政策委員会によるモニタリングなどを経て、2026年11月にLDCを卒業する見込みです(注5)。

後発開発途上国の子どもたち
後発開発途上国の子どもたち

後発開発途上国の国々が抱える貧困問題

後発開発途上国は、どのような貧困問題を抱えているのでしょうか。地域ごとに調べてみました。

アフリカ

アフリカには最も多くの後発開発途上国が存在しています。アフリカ54カ国(注6)の中で、サハラ砂漠より南の33カ国が後発開発途上国として位置づけられています。内訳は次の通りです(注4)。


アンゴラ(2024年に卒業予定)、ベナン、ブルキナファソ、ブルンジ、中央アフリカ、チャド、コモロ、コンゴ民主共和国、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、レソト、リベリア、マダガスカル、マラウイ、マリ、モーリタニア、モザンビーク、ニジェール、ルワンダ、サントメ プリンシペ(2024年に卒業予定)、セネガル、シエラレオネ、ソマリア、南スーダン、スーダン、トーゴ、ウガンダ、タンザニア、ザンビア

世界銀行による2015年のデータでは、後発開発途上国であるサブサハラ・アフリカ地域の貧困率は41%でした。世界全体の平均は10%なのに対し、とても高い貧困率であることがわかります(注7)。

また、アフリカは人口増加が著しく、2022年の約14億820万人から2030年には約16億9,009万人、2050年に24億6,312万人に増加すると見込まれています。2050年には世界人口の4分の1をアフリカが占める予想です(注8)。

ただし、アフリカの人口が増大するに従って、貧困層の人数も増えていくとは限りません。アフリカの経済成長が加速化すれば、2030年時点で貧困率が15%まで減少する可能性もあります(注9 p.8)。一方、貧困削減のペースが緩慢であるため、現状のペースだと2030年時点で貧困率は25%と高止まりする予測もされています(注9 p.6)。アフリカの人口増加に反して貧困層を減少させるには、経済成長の加速化が急務と言えるでしょう。

アフリカの後発開発途上国で起こっている貧困は、経済的なものだけではありません。紛争が多発していることや、厳しい自然環境も影響しているでしょう。さらに新型コロナウイルス感染症への対応や、ロシアによるウクライナ侵攻もアフリカ経済に多大な影響を及ぼしています(注10)。教育や医療にアクセスできないことも原因となります。複合的な要因が絡み合い、人間開発指数(注11)は下位の国ばかりです。そして多次元貧困(注12)の状態にも陥っているのです。

アジア

2022年時点で、アジアでは9カ国が後発開発途上国としてリストアップされています。内訳は次の通りです(注4)。


アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン(2023年に卒業予定)、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ネパール、イエメン、東ティモール

ブータンが2023年に後発開発途上国を卒業予定であり、前述の通り、ラオス・ミャンマー・バングラデシュも卒業する見込みです。

所得などでは現在のところ後発開発途上国に分類されていますが、人間開発指数ではどうでしょうか。2021年度の人間開発指数が算出されたのは191カ国です。アジアで後発途上国となっている9カ国の人間開発指数ランキングを上位から並べると、次のようになります(注13 概要版PDF p.43)。


ブータン127位・バングラデシュ129位・ ラオス140位・東ティモール140位・ネパール143位・カンボジア146位・ミャンマー149位・アフガニスタン180位・イエメン183位

9カ国すべてが、100位以内に入っていませんでした。南アジアや東南アジアの国々は経済発展は目覚ましいものの、まだ教育や医療へアクセスできない人も多く、ジェンダー問題も解決されていないようです。アフガニスタンとイエメンは紛争や内戦の影響で、貧困状態にあります。

大洋州・中南米

大洋州の後発開発途上国は、キリバス・ソロモン諸島(2024年に卒業予定)・ツバルです(注4)。大洋州の国々は楽園のイメージがありますが、現実は厳しいと言わざるをえません。ひとつひとつの国土がとても小さく、資源が限られており人口も少ないという問題があります。

サハラ以南アフリカのように極端な教育格差はなく、識字率も高いのですが、海外の市場から遠く離れており、経済的な自立が困難な状態です(注14 p.1)。気候変動によって海抜が上がり、国土が海に浸食されるなどの問題もあります。人間開発指数では、ツバル130位・キリバス136位・ソロモン諸島155位という結果でした(注13 概要版PDF p.43)。

中南米の後発開発途上国は、ハイチだけです(注4)。ハイチは西半球の最貧国とも呼ばれています(注15)。カリブ海に浮かぶエスパニョーラ島が2つの国に分断されており、西側がハイチ、東側がドミニカです。ハイチはフランスの植民地となりました。18世紀には世界最大の砂糖生産地に成長し、フランスの貿易を支えていました。1804年にフランスから独立するときに、多額の賠償金をフランスに支払わなければならず、それが経済を圧迫したのです。その後も様々な国から干渉され、政情も不安定で貧困状態から脱することはできませんでした。2010年に大きな地震もあり、復興に時間がかかっている状態です(注15)。人間開発指数は163位でした(注13 概要版PDF p.43)。

2010年のハイチ地震発生後、ワールド・ビジョンも緊急支援活動を実施しました
2010年のハイチ地震発生後、ワールド・ビジョンも緊急支援活動を実施しました

貧困削減へのアプローチ

後発開発途上国には様々な貧困問題があることがわかりました。国連や政府開発援助はどのような取り組みをしているのでしょうか。また、ワールド・ビジョンが後発開発途上国に対して実施している支援についても紹介します。

国連の取り組み

国連は、2030年までに達成すべき17の目標、「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げています。第1番目の目標が「貧困をなくそう」で、2030年までに「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」としています。誰一人取り残さないよう、すべての国が行動し、すべてのステークホルダーが参画し、統合的に取り組んで定期的にフォローアップすると定めています(注16)。

貧困をなくすために、7つのターゲットが次の通りに定められています(注17)。

  SDGs目標1.貧困をなくそう  (注17)より抜粋
1.1 2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
1.2 2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる。
1.3 各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。
1.4 2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、全ての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。
1.5 2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。
1.a あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。
1.b 貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。

これらのターゲットを実現するために、国連は様々な機関と連携して活動を実施しています。特に貧困状態が激しい後発開発途上国を、国連の計画・投資・行動において常に優先することを約束しました(注18)。

政府開発援助の取り組み

日本政府もSDGsの目標を2030年までに実現するため、国内実施と国際協力の両方に取り組んでいます。実施体制を構築し、実施指針を策定しました。SDGs推進円卓会議を設置して、行政・NGO・有識者・民間セクター・国際機関・各種団体などステークホルダーと意見交換をしています。

また、後発開発途上国の大半を占めるアフリカ諸国と連携を行い支援を実施するため、アフリカ開発会議を実施しています。また、日本政府はSDGsのすべての分野に取り組んでいます。特に保健・ジェンダー・防災に関して、日本の経験や専門性を活かした支援をしています(注19)。

ODAの一環として技術協力を行っているJICAも、SDGsの目標実現を通して後発開発途上国の貧困削減を目指しています。あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせるために、後発開発途上国に存在している「開発の恩恵から取り残された貧困層」の存在に注目した援助を実施しています(注20)。

国際NGOワールド・ビジョンの取り組み

笑顔でこちらを見つめるザンビアの子どもたち
笑顔でこちらを見つめるザンビアの子どもたち

ワールド・ビジョンは2022年度、37カ国で185の事業を実施しました。その中には後発開発途上国の貧困削減への取り組みがいくつもあります。

ウガンダ・コンゴ民主共和国・タンザニア・エチオピア・マラウイ・ルワンダ・ネパール・ミャンマーでは、チャイルド・スポンサーシップを通した支援活動を実施しています。このプログラムでは、子どもたちが健やかに成長できる持続可能な環境を整えていけるよう、支援地域の人々とともに水衛生、保健・栄養、教育、生計向上等に取り組みます。

ルワンダ・バングラデシュ・カンボジアなどでは、特別プロジェクト支援として、学校の衛生環境を改善したり、学校や保健センターの建設も行いました。

ラオス及びバングラデシュでは少数民族を対象に支援活動を実施しています。教育支援や生計向上、ダム建設、保健衛生環境向上などを実施しています。南スーダンでは人道支援を行っています。緊急支援だけではなく、教育など長期的な支援も実施しています。

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参考資料

注1 外務省:OECD(経済協力開発機構)の概要外部リンク

注2 外務省:OECD開発援助委員会(DAC:Development Assistance Committee)外部リンク

注3OECD:DAC List of ODA Recipients | Effective for reporting on 2022 and 2023 flowspdfアイコン

注4 外務省:後発開発途上国(LDC:Least Developed Country)外部リンク

注5 JETRO:国連総会、バングラデシュのLDC卒業を決議外部リンク

注6 外務省:アフリカ外部リンク

注7 世界銀行:世界の貧困に関するデータ外部リンク

注8 JETRO:人口増加にみるアフリカ市場の可能性と課題外部リンク

注9 JICA:アフリカの構造転換と強靭性強化に向けてpdfアイコン

注10 経団連:アフリカの内発的・持続的発展に貢献する外部リンク

注11 UNDP:国連開発計画 「人間開発報告書2020(HDI: Human Development Index)」外部リンク

注12 UNDP:国連開発計画 「グローバル多次元貧困指数 (MPI: Multidimensional Poverty Index)」外部リンク

注13 UNDP:人間開発報告書2021-2022外部リンク

注14 外務省:2020年版 開発協力白書pdfアイコン

注15 JICA:ハイチ外部リンク

注16 外務省:持続可能な開発のための2030アジェンダpdfアイコン

注17 外務省:SDGグローバル指標(SDG Indicators)外部リンク

注18 国際連合広報センター:国連、後発開発途上国を計画、投資、行動において優先外部リンク

注19 外務省:持続可能な開発のための2030アジェンダと日本の取組pdfアイコン

注20 JICA:ゴール 1 の達成に向けた JICA の取組方針pdfアイコン


※このコンテンツは、2019年10月の情報をもとに作成、2023年6月に更新しています

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