中東と北アフリカ地域とはどのような国々で、どのような貧困問題があるのでしょうか。中東と北アフリカの貧困問題解決のために行われている国際協力についても解説します。
中東・北アフリカ地域といえば、イスラム教の国々であること、石油などの資源が豊富であることなどが思い浮かびます。紛争が多いというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。豊かな国もある一方、貧困問題が発生して被援助国となっている国も存在しています。
日本の政府開発援助(ODA)では、国際協力を行う対象の国々を8つの地域に区分しています(注1)。「東アジア地域」「南アジア地域」「中央アジア及びコーカサス地域」「サブサハラ・アフリカ地域」「中南米地域」「大洋州地域」「欧州地域」そして「中東・北アフリカ地域」です。 中東・北アフリカ地域で、日本がODAを実施しているのは次の16カ国です(注2)。
中東・北アフリカ地域は、世界のエネルギー供給地です。石油と天然ガスの埋蔵量は世界の5割。日本は原油輸入の大部分をこの地域に依存しています(注3 P96)。 中東諸国には石油を輸出に回すことができる「輸出余力」があることから、日本をはじめ世界の資源輸入国は、中東に依存している状況なのです(注4)。
世界の原油確認埋蔵量(2015年末)
中東・北アフリカ地域には、どのような貧困問題があるのでしょうか。ユニセフが2017年に実施した分析調査によると、この地域の子どもの4人に1人にあたる2,900万人が貧困の影響を受けていることがわかりました(注5)。なぜこのような事態に陥っているのでしょうか。
中東・北アフリカ地域は古くから紛争や政変が繰り返されており、中東戦争や湾岸戦争、イラク戦争なども勃発しました。
2011年ごろに始まった「アラブの春」からは紛争が激化しており、数多くの犠牲者が出ています。特にシリア難民は560万人にもおよびました(注6)。リビア、イエメン、イラク、トルコ、レバノン、ヨルダンにも難民問題や政情不安の問題があります。
難民の半数は子どもです。難民キャンプでは、弱い立場の子どもたちを中心に貧困が拡大しています。ユニセフが2018年に行った調査によると、ヨルダンの受け入れコミュニティにいるシリア難民の子ども85%が貧困状態で暮らしているということがわかりました。そのうち、5歳未満の子どもの94%が多次元貧困状態という深刻な結果だったのです。
多次元貧困とは「教育」「保健」「水と衛生」「子どもの保護」「子どもの安全」などの5つのニーズのうち、2つ以上が剥奪されている状態の事です(注7)。ほかにも少年兵の問題や、児童婚が増加しているという問題もあります(注8)。
中東と北アフリカの国々で起こった民主化運動「アラブの春」は、北アフリカのチュニジアが発端です。2010年12月17日、路上販売をしていたチュニジアの青年が当局から取り締まりにあい、抗議の焼身自殺を図りました。この事件をきっかけに、若い失業者を中心に反政府運動がはじまったのです。SNSなどで拡散されて参加者が増え、中東・北アフリカ地域に民主化運動が広がりました(注9)。
「アラブの春」の背景には、経済格差などの貧困問題があると言われています。若者の失業率も非常に高く、不満が溜まっていたのです。民主化運動は成功し、独裁政権の崩壊や政権交代などが実現しましたが、社会の混乱は収まりませんでした。民主化運動が成功しても貧富の差などの経済格差は無くならず、貧困が暴力的過激主義を助長する結果となってしまいました(注10)。
中東・北アフリカ地域には、紛争や難民などと関連した貧困問題があることがわかりました。世界の援助機関は中東・北アフリカ地域の貧困問題解決のために、どのような国際協力を実施しているのでしょうか。
国連は中東問題と深くかかわっています。国連が発足して間もない頃から、中東問題の平和的解決に向けた支援をしてきました。1949年には国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を発足し、中東の難民支援を実施しました。現在では500万人のパレスチナ難民がUNRWAから支援を受けています(注11)。多くの国連機関が中東・北アフリカ地域で国際協力を実施し、貧困問題解決を目指しています。
子どもに焦点を当てた国際協力を行っているユニセフの活動を紹介しましょう。ユニセフによると、2018年1月だけで、中東と北アフリカ地域の子ども83人が命を落としました。紛争が原因です。イラク、リビア、パレスチナ、イエメンで紛争や自爆攻撃などが激化し、その影響で子どもたちが殺害されたり、爆撃の犠牲になったのです。
また、レバノンの冬の嵐の中を逃げていた子どもたちが、あまりの寒さに凍死したり凍傷で入院したという報告もありました(注12)。子どもたちが紛争の一番の犠牲者になっていることがわかります。ユニセフは中東・北アフリカの子どもたち2,700万人に対して緊急支援などの国際協力を実施しています。
日本政府は「中東・北アフリカ地域の平和と安全は日本の安全と繁栄に直結する」ことから、この地域への国際協力には意義があるとしています。日本政府による中東・北アフリカ地域との外交の4つの基本姿勢と、5つのイニシアチブは次の通りです(注13)。
日本の外交の基本姿勢ワールド・ビジョンは約100カ国で活動する世界最大規模の国際NGOで、世界で困難な状態に置かれている子どもたちを対象に、幅広い国際協力活動を実施しています。ワールド・ビジョン・ジャパンは2018年度に29カ国で135事業を実施しました。
中東・北アフリカ地域におけるワールド・ビジョンの活動は、シリア難民・ヨルダンに逃れたシリア難民・イラク国内避難民などを対象とした難民支援を柱としています。
難民の子どもたちの多くは、長期化する避難生活の中で学校に通えず、教育の空白期間が生じています。基礎学力が乏しくなるだけでなく、幼稚園や学校など安全に過ごせる場所を失うことで児童労働や虐待、早婚のリスクにさらされています。
ワールド・ビジョンは、難民の子どもの明日を取り戻すためにTake Back Futureキャンペーンを2018年から4年間の計画で展開しています。教育を通して、紛争や貧困により移動を強いられる子どもたちに対する暴力を撤廃し、暴力が繰り返されない未来を築くことを目指しています。
また、政府や国連機関等と連携した国際協力も行っています。皆さまからの募金と、各機関からの助成金を合わせて次の事業を実施しています。
・ジャパンプラットフォーム(JPF)と連携
ヨルダン | シリア難民とヨルダン人の子どもたちへの教育支援事業 受益者940人 緊急越冬支援 受益者4500人 |
イラク | 教育支援事業と子どもの保護 |
アフガニスタン | 保健・医療従事者養成のための環境整備事業 |
・国連世界食糧計画(WFP)と連携
イラク | シリア難民への現金支給事業 受益者65,000人 国内避難民のクルド人への現金支給事業 受益者120,000人 食糧支援 受益者229,500人 |
※1 外務省:ODA(政府開発援助)
※2 外務省:中東・北アフリカ地域
※3 外務省:2018年版開発協力白書(中東・北アフリカ地域)
※4 経済産業省資源エネルギー庁HP:日本のエネルギーと中東諸国~安定供給に向けた国際的な取り組み
※5 ユニセフ:中東・北アフリカ子どもの貧困、2,900万人 地域全体の子どもの貧困の実態が初めて明らかに ユニセフ、地域会合で発表
※6 国連UNHCR協会:UNHCRの難民援助活動2019
※7 ユニセフ:シリア難民・ヨルダン 子ども85%が貧困下に暮らす
※8 ユニセフ:シリア難民の児童婚が急増 結婚して母親になった15歳の少女
※9 外務省:「アラブの春」と中東・北アフリカ情勢
※10 外務省:中東・北アフリカ地域が抱える問題について理解しよう
※11 国連広報センター:中東
※12 ユニセフ:中東・北アフリカ子どもの犠牲、止められずシリア、イエメン、リビア等1月だけで80人以上ユニセフ・中東・北アフリカ地域事務所代表声明
※13 外務省:中東・北アフリカ地域・アフガニスタンに対する我が国ODA
※このコンテンツは、2019年11月の情報をもとに作成しています。