食品ロスが問題になっている日本に住んでいると想像しにくいかもしれませんが、世界には深刻な食糧問題があります。2018年の調査によると、世界の飢餓人口は8億2千万人以上で、9人に1人が飢餓に直面しているという状態です(注1)。食糧問題の原因と解決策について考えましょう。
「食料」と「食糧」の違いをご存知でしょうか。「食料」は食べ物すべての事であり、「食糧」は主食の事、と分類されています(注2)。世界で主食として用いられている穀物は米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモなどです(注3)。食糧問題の内容と現状をまとめました。
世界ではすべての人が食べるのに十分な食料が生産されているにもかかわらず、9人に1人が飢餓状態にあり、3人に1人が何らかの栄養不良に苦しんでいます(注4)。
日本の廃棄食料は年間約 2,000 万トンといわれています。それは、途上国に住む人々5,000 万人分の、1 年分の食糧にあたります。世界では、年間で約920万人の子どもが栄養不良で亡くなっています。日本が廃棄している食料の1割で、その子どもたちの命が救えるのです(注5 P2)。
人々が毎日口にしている食べ物は、生命の維持に欠かすことができません。健康で充実した生活を送るための基礎として、食料は大変重要です。充分で安全、かつ栄養ある食料に「誰でも」「どんなときにも」「アクセスできる(入手・購入できる)」ことを「食料安全保障」と呼びますが、その保障のない人々が世界に数多く存在しているのです(注6)。
世界の食料安全保障を強化するために、国連食糧農業機関(FAO)が1945年に設立されました。FAOが発足した10月16日は「世界食料デー」となり、世界中で食料について考える日とされています(注6)。日本でも毎年イベント等が開催され、世界の食料問題の現状把握と解決に向けた働きかけが行われています。
世界の穀物生産量は年間26億5千万トン以上です(注7)。備蓄されたものもあるので、それも合わせると世界の人々が充分食べられる量はあるのです。しかし行き渡っていないという問題があります。
FAOはじめ、国際農業開発基金(IFAD)・国連児童基金(UNICEF)・国連世界食糧計画(WFP)・世界保健機関(WHO)が2018年に発表した「世界の食料安全保障と栄養の現状」によると、世界では8億2,100万人が充分な食料を得られず、栄養不良状態にあるということが明らかになりました。長らく減少傾向にあった世界の飢餓人口が、増加に転じているのです。
また、5歳未満児の約22%にあたる1億5,100万人が発育阻害の状態です。5,000万人以上が消耗症を呈しており、命の危機に直面しています(注8 P4)。栄養不良と重度の食料不安はアフリカのほぼすべての地域と南米で増加傾向にあり、アジアでは概ね横ばいで推移しています(注8 P6)。
世界で起きている食糧問題は、様々な原因が絡み合って発生しています。ここでは、自然災害や極度の貧困、需要と供給のバランスなど、3つの視点から食糧問題の原因を解説しましょう。
自然災害は農業に大きな影響を与え、作物の生産を脅かします。低・中所得国では酷暑・干ばつ・洪水・暴風雨など、異常気象による中規模・大規模災害が毎年平均して213件も発生しています。気候変化は熱帯地域や温暖地域の主要作物である小麦、米、トウモロコシの生産に影響を及ぼしているのです。特に干ばつは深刻な自然災害で、農畜産物の生産被害の8割を占めています(注8 P18)。
2017年には、気候ショック(干ばつ・洪水・サイクロン)が食糧危機の主要な原因のひとつでした(注8 P22)。食料危機に陥った51カ国のうち34カ国が、気候ショックによるものだったのです(注8 P23)。
気候変動による自然災害は、食料安全保障の供給・アクセス・利用・安定に負の影響を及ぼし、育児・保健医療サービス・環境衛生に関連する栄養不良の背景にもなっています(注8 P23~24)。
食糧問題は、貧困問題とも深く関係しています。無収入、または十分な収入が無い場合は、自分の食糧を確保し生産することができません。極度の貧困に陥ると、農民は作物の生産能力が落ち込んでしまい、食糧を買うこともできなくなります。栄養不良や飢餓の状態になってしまうのです。貧困により教育へのアクセスも困難になるので、基本的な栄養の知識を得ることもできません(注9)。貧困の連鎖から抜けることができず、生産性が極端に低下する事態となっているのです。
先進国では食品ロスが問題になっていますが、開発途上国でもまた、食品廃棄が問題になっています。生産農家が、出荷前に傷んでしまった作物を捨てなければならない状況にあるのです。その理由は、作物の保存設備が無いこと、市場への輸送手段が無いことなどです(注10)。作物を売ることができず貯蔵もできないので、貧しい農民はますます貧しくなり、農業を続けることができなくなってしまいます。
全世界で生産されている食品は、その3分の1が捨てられています。その量は年に13億トンあまりに達します。先進国では余った食品が捨てられ、途上国では飢餓人口が増えているという「食の不均衡」が問題になっています(注10)。
世界的な食料の需要は年々伸びている状態です。その理由は、「世界人口の増加」「所得が向上したことによる畜産物需要の増加」「中国やインドなどの急激な成長」「バイオ燃料向けの農産物の需要増加」などがあげられます(注11)。
世界人口は、2050年には92億人を超えると推計されています。中国やインドなどが発展して人々の所得が向上したことで、肉などの需要が増えています(注11)。畜産物の生産には多くの穀物が必要です。例えば、牛肉1㎏を得るためには、11㎏の穀物が必要となります。豚肉1㎏には7㎏、鶏肉1㎏には4㎏の穀物が使われるのです(注12 P4)。
バイオ燃料を生産するために、原料となるトウモロコシなどの農産物の需要も増加しています。原油の高騰や地球温暖化対策、エネルギー安全保障への意識の高まりなどから、バイオ燃料の生産が拡大しています。2020年には、世界の農産物の穀物生産の13%、植物油生産の15%、サトウキビ生産の30%がバイオ燃料の原料として使用される見込みで、食料需要と競合することが懸念されています(注13)。
これらの需要に対して、供給がなかなか追い付いていないのが現状です。農業技術などが向上して面積当たりの収量は増加しましたが、「異常気象の頻発」「砂漠化の進行」「水資源の制約」「家畜伝染病の発生」などにより、供給は不安定な状態にあるのです(注11)。
深刻な状態が続いている食糧問題ですが、どのような解決策があるのでしょうか。国際援助機関によるアプローチと、ワールド・ビジョンによる取り組みを解説します。
国連をはじめとした国際援助機関は、世界の食糧問題を解決するために様々なアプローチをしています。ここでは、2つの国連機関を紹介しましょう。
国連世界食糧計画(WFP)は50年以上にわたり「学校給食プログラム」を開発途上国で実施しています。学校で給食を配布することにより、子どもが学校に通うようになり、教育を受ける機会を得ることができるようになります。家計も助かり栄養状態も改善するので、親も子どもを学校に行かせるようになるのです。このプログラムで、女の子も学校へ通えるようになりました(注14 P7)。
国連食糧農業機関(FAO)は、世界中の人々が栄養ある安全な食べ物を得ることができるように、様々な活動をしています。各国が食糧問題について話し合う場を提供したり、食糧生産のための技術協力をしたりしています(注14 P8)。
ワールド・ビジョンは、子どもたちの命をつなぐ食糧支援を実施しています。長引く紛争で、子どもたちの多くが栄養不良に陥っています。ワールド・ビジョンはソマリア、スーダン、南スーダンなどの紛争地で大規模な食糧支援を行っています。また、WFPと連携してニーズ調査や公平な分配を担当し、終了後のモニタリングも行っています。
また、2017年2月20日に南スーダンの一部で飢饉が発生したとの宣言を受け、ワールド・ビジョンは直ちに緊急食糧支援を実施しました。
ワールド・ビジョンは、南スーダンが独立する前から人々のニーズに寄り添い、栄養・食料支援、水衛生、教育支援、農具や漁網の配布による生計向上などの支援を幅広く行っていました。2016年度には、WFPと連携して60万人以上に支援を届けました。
食糧問題の解決や栄養改善のためにチャイルド・スポンサーシップを通した支援活動も実施しています。チャイルド・スポンサーシップは、子どもたちが健やかに成長できる持続可能な環境を整えることを目指しています。子どもが教育を受ける権利や、安全に暮らす権利が守られるように、支援地域の人々とともに水衛生、保健、栄養、教育、生計向上等に取り組んでいます。
また、活動の成果を地域の人々自身が将来にわたって維持し、発展させるために人材や住民組織の育成にも力を入れています。
例年11月ごろからは、栄養不良の子どもの命を守り将来の食糧を届ける、クリスマス募金(水と食糧のための募金)のご案内をしています。水と食糧のための募金は通年でご案内しています。ご協力くださった皆様には、毎年3月頃にお届けする年次報告書の中で、募金により行われた活動をご報告します。
※1 WFP:世界食料デー World Food Day 2019
※2 農業協同組合新聞:「食料」と「食糧」、「学習」と「学修」
※3 農林水産省:世界各国の主食は何ですか
※4 WFP:飢餓をゼロに
※5 JICA:MDGs2015
※6 外務省:日本と世界の食料安全保障のために - 国連食糧農業機関(FAO)との関係強化
※7 大臣官房政策課食料安全保障室:米国農務省穀物等需給報告(2019 年 10 月 10 日発表のポイント)
※8 公益社団法人 国際農林業協働協会:世界の食糧安全保障と栄養の現状
※9 UNDP:行動を起こすためのヒント
※10 WFP:考えよう、飢餓と食品ロスのこと
※11 農林水産省:世界の食料等の需給動向
※12 農林水産省:我が国における食糧問題の現状と課題
※13 農林水産省:国際的な食料需給をめぐる動向
※14 JICA:世界の食料
※このコンテンツは、2020年1月の情報をもとに作成しています。