食品ロスが問題になっている日本に住んでいると想像しにくいかもしれませんが、世界には深刻な食糧問題があります。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、2022年時点で世界の飢餓人口は約7億3500万人とされており、11人に1人が飢餓に直面しているという状態です(注1)。食糧問題の原因と解決策について考えましょう。
「食料」と「食糧」の違いをご存知でしょうか。「食料」は食べ物すべての事であり、「食糧」は主食の事、と分類されています(注2)。世界で主食として用いられている穀物はサトウキビ、トウモロコシ、小麦、米などです(注3)。食糧問題の内容と現状をまとめました。
世界ではすべての人が食べるのに十分な食料が生産されているにもかかわらず、11人に1人が飢餓状態、3人に1人が中度または重度の食料不安にあり、女性や農村部の人々に多く見られる傾向があります(注1)。
魚や肉の骨など廃棄される食品や食品ロスを含む「食品廃棄物」は、日本では年間約1,500万トン(注4)発生しています。その内、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品ロスの量は、各家庭から発生する「家庭系食品ロス」と事業活動で生じる「事業系食品ロス」と合わせて約523万トンとされています。この食品ロスの量は、国連世界食糧計画(WFP)が2021年に実施した食料支援量の約1.2倍になるとされ、日本で廃棄されてしまう食品ロスで多くの子どもたちの命を救えるのです(注5)。
人々が毎日口にしている食べ物は、生命の維持に欠かすことができません。健康で充実した生活を送るための基礎として、食料は大変重要です。充分で安全、かつ栄養ある食料に「誰でも」「どんなときにも」「アクセスできる(入手・購入できる)」ことを「食料安全保障」と呼びますが、その保障のない人々が世界に数多く存在しているのです(注6)。
世界の食料安全保障を強化するために、国連食糧農業機関(FAO)が1945年に設立されました。FAOが発足した10月16日は「世界食料デー」となり、世界中で食料について考える日とされています。日本でも毎年イベント等が開催され、世界の食料問題の現状把握と解決に向けた働きかけが行われています。
世界の穀物生産量は年間28億トン以上です(注7)。備蓄されたものもあるので、それも合わせると世界の人々が充分食べられる量はあるのです。しかし行き渡っていないという問題があります。
FAOはじめ、国際農業開発基金(IFAD)・国連児童基金(UNICEF)・国連世界食糧計画(WFP)・世界保健機関(WHO)が2023年に発表した「世界の食料安全保障と栄養の現状」によると、世界では約7億3500万人が充分な食料を得られず、栄養不良状態にあるということが明らかになりました。2019年の飢餓人口と比べて1億2,200万人増、人口割合では7.9%から9.2%へと増加しており、依然として新型コロナウイルス感染症パンデミック前の水準をはるかに上回っているとされています(注1)。
また、5歳未満児の約22%にあたる1億4,810万人が発育阻害の状態です。約7%にあたる4,500万人以上が消耗症を呈しており、多くの子どもたちが命の危機に直面している一方で、約6%の3,700万人が体重過多であると推定されています(注1)。栄養不良と重度の食料不安は、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ・カリブ海諸国で近年増加のペースは鈍化しつつあるものの、2019年から増加傾向にあります。(注8)。
世界で起きている食糧問題は、様々な原因が絡み合って発生しています。ここでは、自然災害や極度の貧困、需要と供給のバランスなど、3つの視点から食糧問題の原因を解説しましょう。
自然災害は農業に大きな影響を与え、作物の生産を脅かします。世界では、台風・洪水・干ばつなどの異常気象などによる気候災害が2000年からの20年間で82%も増大しました(注9)。気候変化は熱帯地域や温暖地域の主要作物である小麦、米、トウモロコシの生産に影響をおよぼしているのです。
2017年には、気候ショック(干ばつ・洪水・サイクロン)が食糧危機の主要な原因のひとつでした。食料危機に陥った51カ国のうち34カ国が、気候ショックによるものだったのです(注10)。また、2020年には、気候ショックの影響が高い国の栄養不足の平均水準は、気候ショックによる影響が少ない国やまったくない国よりが3%高いとされています(注11)。
気候変動による自然災害は、食料安全保障の供給・アクセス・利用・安定に負の影響を及ぼし、育児・保健医療サービス・環境衛生に関連する栄養不良の背景にもなっています(注10)。
また、先進国で無駄になった食品が埋め立てられ、そこから発生する温室効果ガスが水の供給に影響を与えることで、砂漠化や干ばつを加速させる原因にもなっています(注12)。
食糧問題は、貧困問題とも深く関係しています。無収入、または十分な収入が無い場合は、自分の食糧を確保し生産することができません。極度の貧困に陥ると、農民は作物の生産能力が落ち込んでしまい、食糧を買うこともできなくなります。栄養不良や飢餓の状態になってしまうのです。貧困により教育へのアクセスも困難になるので、基本的な栄養の知識を得ることもできません。貧困の連鎖から抜けることができず、生産性が極端に低下する事態となっているのです。
先進国では作りすぎによる食べ残しや賞味期限切れによる食品ロスが問題になっていますが、開発途上国でもまた、生産過程における食品ロスが問題になっています。生産農家が、出荷前に傷んでしまった作物を捨てなければならない状況にあるのです。その理由として、作物の保存設備の衛生状態が悪く害虫やカビが発生してしまうこと、また、貧しい農家では人手不足や必要な機械が手に入らず収穫が間に合わないといったことが挙げられます(注13)。作物を売ることができず貯蔵もできないので、貧しい農民はますます貧しくなり、農業を続けることができなくなってしまいます。
全世界で生産されている食品は、その3分の1が捨てられており、食べられずに捨てられた食料は世界の20億人分におよぶとされています。先進国では余った食品が捨てられ、途上国では飢餓人口が増えているという「食の不均衡」が問題になっています(注13)。
世界的な食料の需要は年々伸びている状態です。その理由は、「主に新興国・途上国における総人口の増加」「新型コロナウイルス感染症パンデミックによる世界経済の大減速後の中期的な経済回復」「所得が向上したことによる畜産物需要の増加」「バイオ燃料向けの農産物の需要増加」などがあげられます(注14)。
世界人口は、2050年には97億人を超えると推計されています。型コロナウイルス感染症パンデミック後の経済回復の鈍化により、肉類消費量の増加も鈍化していますが、将来的に主に新興国や発展途上国などで人々の所得が向上することで、肉などの需要が増えることが見込まれています(注14)。畜産物の生産には多くの穀物が必要です。例えば、牛肉1㎏を得るためには、11㎏の穀物が必要となります。豚肉1㎏には6㎏、鶏肉1㎏には4㎏の穀物が使われるのです(注15 P4)。
バイオ燃料を生産するために、原料となるトウモロコシなどの農産物の需要も増加しています。バイオ燃料の生産は新型コロナウイルス感染症パンデミックによる影響を受け一時的に低下したものの、原油価格の高騰や地球温暖化対策、エネルギー安全保障への意識の高まりなどから長期的には増加傾向にあります(注14)。2020年には、世界の農産物の穀物生産の8%、植物油生産の26%、トウモロコシ生産の30%がバイオ燃料の原料として使用され、飼料と合わせて食料需要と競合することが将来的に懸念されています(注16)。
これらの需要に対して、供給がなかなか追い付いていないのが現状です。農業技術により生産性が向上して穀物などの生産量は増加する見通しですが、「異常気象の頻発」「砂漠化の進行」「水資源の制約」「家畜伝染病の発生」などにより、供給は不安定な状態にあるのです(注14)。
深刻な状態が続いている食糧問題ですが、どのような解決策があるのでしょうか。国際援助機関によるアプローチと、ワールド・ビジョンによる取り組みを解説します。
国連をはじめとした国際援助機関は、世界の食糧問題を解決するために様々なアプローチをしています。ここでは、2つの国連機関を紹介しましょう。
国連世界食糧計画(WFP)は50年以上にわたり「学校給食プログラム」を開発途上国で実施しています。学校で給食を配布することにより、子どもが学校に通うようになり、教育を受ける機会を得ることができるようになります。家計も助かり栄養状態も改善するので、親も子どもを学校に行かせるようになるのです。このプログラムで、女の子も学校へ通えるようになりました。
国連食糧農業機関(FAO)は、世界中の人々が栄養ある安全な食べ物を得ることができるように、様々な活動をしています。各国が食糧問題について話し合う場を提供したり、食糧生産のための技術協力をしたりしています。
ワールド・ビジョンは、子どもたちの命をつなぐ食糧支援を実施しています。長引く紛争で、子どもたちの多くが栄養不良に陥っています。ワールド・ビジョンはソマリア、スーダン、南スーダンなどの紛争地で大規模な食糧支援を行っています。また、WFPと連携してニーズ調査や公平な分配を担当し、終了後のモニタリングも行っています。
また、2017年2月20日に南スーダンの一部で飢饉が発生したとの宣言を受け、ワールド・ビジョンは直ちに緊急食糧支援を実施しました。
ワールド・ビジョンは、南スーダンが独立する前から人々のニーズに寄り添い、栄養・食料支援、水衛生、教育支援、農具や漁網の配布による生計向上などの支援を幅広く行っていました。2016年度には、WFPと連携して60万人以上に支援を届けました。
食糧問題の解決や栄養改善のためにチャイルド・スポンサーシップを通した支援活動も実施しています。チャイルド・スポンサーシップは、子どもたちが健やかに成長できる持続可能な環境を整えることを目指しています。子どもが教育を受ける権利や、安全に暮らす権利が守られるように、支援地域の人々とともに水衛生、保健、栄養、教育、生計向上等に取り組んでいます。
また、活動の成果を地域の人々自身が将来にわたって維持し、発展させるために人材や住民組織の育成にも力を入れています。
例年11月ごろからは、栄養不良の子どもの命を守り将来の食糧を届ける、クリスマス募金(水と食糧のための募金)のご案内をしています。水と食糧のための募金は通年でご案内しています。ご協力くださった皆様には、毎年3月頃にお届けする年次報告書の中で、募金により行われた活動をご報告します。
※1 FAO:The State of Food Security and Nutrition in the World 2023
※2 農業協同組合新聞:「食料」と「食糧」、「学習」と「学修」
※3 FAO:STATISTICAL YEARBOOK 2023
※4 農林水産省:令和3年度食品廃棄物等の年間発生量及び食品循環資源の再生利用等実施率(令和4年度(令和3年度推計))
※5 農林水産省:特集「食品ロスって何が問題なの?」
※7 FAO:Crop Prospects and Food Situation #3, November 2023
※8 公益社団法人 国際農林業協働協会:『世界の食料安全保障と栄養の現状2022年報告 要約版』
※9 JICA: 一緒に考えよう、気候変動のこと
※10 公益社団法人 国際農林業協働協会:世界の食糧安全保障と栄養の現状
※11 United Nations Office for Disaster Risk Reduction:Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2022
※12 WFP:食品ロスに関する11の事実 ― 持続可能なフードシステムとの関連性について
※13 WFP:飢餓と食品ロスに関する、5つの事実
※14 農林水産政策研究所:世界の食料需給の動向と中長期的な見通し
※15 農林水産省:その2:お肉の自給率
※16 国際環境経済研究所:バイオ燃料の現状分析と将来展望
※このコンテンツは2020年1月の情報をもとに作成し、2024年7月に一部を更新しています。