貧困を削減するためには、人権に配慮することが重要です。人権が無視された状態は格差を生み出し、貧富の差が生じてしまうからです。「世界人権宣言」は、世界で初めて人権について採択されたもの。その内容を解説しましょう。
世界人権宣言は、1948年12月10日に国連総会において採択されました。これは「人権」の歴史にとって、非常に大きな出来事です。人権および自由を尊重して確保するために、すべての人民とすべての国が達成するべき共通の基準が、世界に向けて宣言されたのです(注1)。
第二次世界大戦を二度と繰り返してはならないという教訓から生まれたのが、世界人権宣言です。あらゆる場所のあらゆる人権の保障がされることを目的に、国連憲章を補完する形で作られました。
まず1946年の第1回国連総会で審議されたのち、人権委員会が設立されました。政治的・文化的・宗教的背景の違う18カ国から委員を選出。会合を重ねて原案が提出されたのが1948年9月でした(注2)。
同年12月10日の第3回国連会議で採択。賛成48、反対0、棄権8(ソ連、ウクライナ、白ロシア、ポーランド、チェコスロバキア、ユーゴスラビア、サウジアラビア、南アフリカ)、欠席2(ホンジュラス、イエメン)という結果でした。その後、第5回国連総会にて12月10日を「人権デー」として定め、世界中で記念行事を行うことが決まりました(注3)。
世界人権宣言(注4)の内容をみてみましょう。まず前文があり、次に30条までの条文が続きます。要約すると、次の通りになります(注5)。
世界人権宣言要約 注5より抜粋
前文 | 世界のすべての人の尊厳と平等を守る権利を承認することは、世界における自由・平等・正義・平和の基礎となる。法の支配によって人権を保護することが大切である。 |
第1条、第2条 | すべての人は生まれながらに平等で、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治、その他いかなる事柄によっても差別されるべきではない。全ての人が差別されることなく、世界人権宣言に掲げる権利と自由を享受できる。 |
第3条~21条 |
市民的・政治的権利(生存・自由・安全の権利、奴隷・苦役・拷問などからの自由、法の下に人間として認められる権利、干渉されない権利、移動・避難の自由、国籍を持つ自由、婚姻の権利、財産を持つ権利、思想・宗教の自由、集会・結社の自由、政治に参加する自由など) |
第22条~27条 | 経済的・社会的・文化的な権利(社会保障を受ける権利、働く権利、休む権利、生活水準を保持する権利、教育を受ける権利、文化生活に参加する権利など) |
第28条~30条 | すべての人がこの宣言に規定する権利と自由を持っていること。また、全ての人は自分の住む社会に対して義務を負うこと。 |
世界人権宣言はそのまま読んでも理解が難しいものです。子どもにもわかりやすいように「やさしい言葉で書かれた世界人権宣言(注6)」もありますので、活用されてみてはいかがでしょうか。
地球上のすべての人には、差別なく平等に生きる権利があると、世界人権宣言で述べられています。しかしながら、貧困状態にある人々の多くは差別や不平等にさらされており、人権が守られていない状態です。人権問題と貧困が深くかかわっている例として、紛争と差別についてまとめました。
紛争は、人権が軽視され貧困をもたらします。国連開発計画(UNDP)は2005年の人間開発報告書で、貧困と武力紛争の悪循環を絶つよう国際社会に訴えました。1990年以降、武力紛争の半数以上が開発途上国で起こりました。そのうちの40%近くはアフリカ地域で発生したのです(注7)。
国が貧しいほど武力紛争に苦しむ可能性は高くなると、UNDPは報告しています。1人当たりの年間所得が250ドルの国が内戦へと突入する確率は、所得が600ドルの国の2倍に上るのだそうです(注7)。貧困は紛争を誘発し、紛争によって貧困状態が深刻化するという負のスパイラル状態になっていることがわかりました。
イラクの例を見てみましょう。ユニセフは、イラクの子どもの4人に1人が紛争と貧困の影響を受けていると発表しました。子どもは最も弱い立場です。2017年の報告では、紛争の影響で深刻な暴力を受けている子どもが400万人以上存在し、年間で270人の子どもが殺害されました。紛争の前線で戦闘に参加することを強制されているのです(注8)。
武力紛争は、人々の暮らしを根底から変えてしまいます。仕事をしたり学校に行くことができなくなり、安全な生活を奪われるのです。財産を捨てて、住み慣れた土地から避難しなければなりません(注9)。機会も財産も奪われ、極度の貧困状態に陥ってしまいます。世界人権宣言では平和の大切さや生きる権利、仕事をしたり教育を受ける権利がすべての人に平等にあると述べられています。紛争はそれらの権利と自由を人々から奪っているのです。
すべての人は平等で差別があってはならないと、世界人権宣言は謳っています。それにもかかわらず、未だに差別が無くなっていないのが現状です。
差別を受けているのは、どのような人々でしょうか。先住民族、少数民族、避難民、女性、子ども、障がい者、LGBT。それから人種的、宗教的、政治的、経済的、文化的な差別もあります。病気や職業、迷信による差別もあるでしょう。言語の違いや肌の色の違いも差別をもたらします。
UNDPは先住民族について「世界のもっとも不利な立場におかれているグループのひとつ」と述べており、「多くの先住民族は政策決定プロセスから除外され、ぎりぎりの生活を強いられ、搾取され、社会に強制的に同化させられてきた。自分の権利を主張すると弾圧、拷問、殺害の対象となった(注10)」と報告しています。先住民族は差別されており、貧困な状態にあるのです。この状態は先住民族だけではなく、差別されている多くの人々も同じような状態にあると言えるでしょう。
肌の色の違いと迷信により、差別や迫害を受けている例を挙げましょう。アフリカで横行している「アルビノ狩り」をご存知でしょうか。アルビノとは先天性白皮症のこと。アルビノの体の一部を持っていると魔除けや幸運をもたらすという迷信があり、手や足を切り取られたり殺されたりする例が後を絶たないのです。
アルビノとして生まれた本人だけではなく、家族や周りの人々も、襲撃してくる者からの危険に怯えて暮らさなければなりません。仕事や家を追われて逃げ回り、貧困状態に陥っています。アルビノの人は無くなっても迫害されます。墓を掘り起こされ、埋められていた遺体が奪われるケースも多発しているのです。UNHCRはアルビノの少年を支援していますが(注11)アルビノへの差別や迫害は今でも続いています。
世界人権宣言があるにもかかわらず、人間としての権利や自由を奪われる人々が多く存在していることがわかりました。世界人権宣言を実現して貧困を撲滅するために、どのような支援があるのでしょうか。
国連は、世界人権宣言が採択された後、国際人権規約の作成にとりかかりました。国際人権規約とは世界人権宣言の内容を条約にしたもので、1966年に採択されました(注12)。
世界人権宣言には法的な拘束力がありませんでしたが、国際人権規約には法的な拘束力があります。その内容は「経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約」と「市民的、政治的権利に関する国際規約」の2つに分かれています。世界人権宣言の内容を一歩前進させて法的なコミットメントに変え、締結国がそれを遵守しているかを専門委員会が監視することになっています(注5)。
1993年に「世界人権会議」がウィーンで開催され、人権が普遍的価値であり、国際社会の正当な関心事項であることが確認されました(注13)。それを受けて創設されたのが「国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)」です。任務内容は人権享受の普遍的な促進、人権に関わる国際協力、国際的基準の普遍的実施等の促進などです(注14)。
国連の各組織は、世界人権宣言や国際人権規約を遵守しながら、すべての人が自由で平等に暮らすために計画を立て、支援をしているのです。
日本政府は「開発協力大綱(注15)」で、重点課題のひとつに「質の高い成長とそれを通じた貧困撲滅」を挙げています。開発協力には基本的人権の推進も含まれることが確認されており、基本方針には脆弱な立場に置かれている人々を対象にすることが、次のように記されています。
「開発協力大綱」(Ⅰ理念 (2)基本方針 イ.人間の安全保障の推進)より抜粋(注15)
ワールド・ビジョンは、人権に関しても提言と支援活動を行っています。
ジュネーブで開かれた第10回国連人権理事会で、ワールド・ビジョンは「子どもの権利」についての提言を行いました。あらゆる問題に対して「子どもの視点」がもりこまれる事の重要性を訴えたのです。「子どもの健康への権利」「食料を得る権利」「安全な水を得る権利」「人身売買の問題」などについても提言を行い、子どもたちに配慮した結論が会議で出されるように働きかけたのです。
ワールド・ビジョンが実施している、世界人権宣言を実現して貧困を削減するプログラムがチャイルド・スポンサーシップです。子どもが教育を受ける権利や、安全に暮らす権利が守られるように支援地域の人々とともに水衛生、保健、栄養、教育、生計向上等に取り組みます。
チャイルド・スポンサーシップは、子どもたちが健やかに成長できる持続可能な環境を整えることを目指します。活動の成果を地域の人々自身が将来にわたって維持し、発展させるために人材や住民組織の育成にも力を入れている開発援助活動も、世界人権宣言の第22条~27条を実現するプログラムとなっています。
※1 外務省:世界人権宣言
※2 国際連合広報センター:世界人権宣言の歴史
※3 外務省:世界人権宣言の作成及び採択の経緯
※4 国際連合広報センター:世界人権宣言テキスト
※5 国際連合広報センター:国際人権章典
※6 文部科学省:【資料】『やさしい言葉で書かれた世界人権宣言』
※7 国連開発計画(UNDP):UNDP『人間開発報告書2005』 プレスリリース IV
※8 ユニセフ:イラク 子ども4人に1人に紛争と貧困の影響
※9 JICA:平和構築
※10 国連広報センター:先住民族
※11 UNHCR:UNHCR、呪術の手から逃れるアルビノの少年を支援
※12 外務省:国際人権規約
※13 外務省:人権・人道
※14 外務省国際機関人事センター:国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)
※15 外務省:開発協力大綱
※16 国連開発計画(UNDP):持続可能な開発目標
※17 JICA:社会保障
※このコンテンツは、2019年10月の情報をもとに作成しています。