SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とは、2015年9月に国連サミットで採択された国際目標です。貧困の撲滅や環境保護など、SDGsに掲げられている目標はさまざまです。17の目標と169のターゲットから構成されており、2030年までの達成を目標としています。
「平和と公正をすべての人に」という目標は、SDGsの中で16番目に掲げられている目標です。世界中の人が等しく守られ、安全に暮らせることを目標としています。
そこで本記事ではこの目標16「平和と公正をすべての人に」における現状や課題、取り組みについて解説します。平和で公正な世界の実現に向けて私たちに何ができるか、一緒に考えていきましょう。
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」には、以下のとおり12項目のターゲットが設けられています。
分類 | ターゲット |
16.1 | あらゆる場所において、すべての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。 |
16.2 | 子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。 |
16.3 | 国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供する。 |
16.4 | 2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。 |
16.5 | あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。 |
16.6 | あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。 |
16.7 | あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する。 |
16.8 | グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。 |
16.9 | 2030年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。 |
16.10 | 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する。 |
16.a | 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。 |
16.b | 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。 |
(注1)
では 、日本や世界では、どれくらい目標16「平和と公正をすべての人に」を達成できているのでしょうか。平和や公正に関する現状と、課題を見ていきましょう。
日本で暮らしていると、身の危険や格差を感じることは少ないかもしれません。しかし、以下の問題は日本でもいまだに多発しています。
特に児童虐待の件数は、平成2年度から年々増えている傾向があります。令和3年度には20万7659件もの児童虐待相談があり、過去最多となりました(注2 p.1)。なかでも言葉や態度によって子どもを傷つける「心理的虐待」の件数は前年比で3,388名も増加。ネグレクトや性的虐待も、同じく増加傾向です(注2 p.4)。
また令和1年度には、78人もの子どもが死亡。うち21人の子どもは親と心中して亡くなっています(注2 p.28)。法律で子どもを守るだけでなく、親の精神的、経済的支援も日本の課題といえます。
家庭内暴力(DV)やいじめ、高齢者を狙った特殊詐欺なども後を絶ちません。法の整備だけでなく行政、警察からの呼びかけによる予防が急務となっています。
国連児童基金(UNICEF)の報告書によれば、2021年の時点で5歳未満の子どもの4人に1人が出生登録されておらず、全世界で2億3700万人もの子どもが出生証明書を持っていないと推定されています(注3)。
この背景には出生登録に関する知識不足や手数料の高さ、施設へのアクセスの悪さや昔ながらの慣習など、さまざまな要因があります。特にサハラ以南のアフリカの国々では戸籍の登録率が低く、制度化が必須です。
また2018年の世界保健機関(WHO)の発表によると、世界で10億人もの子どもが暴力や虐待の被害に遭っているというデータも存在(注4)。割合にすると世界の5人に1人以上の子どもが身体的虐待、3人に1人以上が精神的虐待を経験しているとあります。特に犯罪や紛争などによる暴力は10〜19歳の少年の死因の2番目を占めるほど多い割合です。
このように世界ではいまだに数多くの子どもたちが、紛争や貧困などの影響を受けて苦しんでいます。
ウガンダで暮らす子どもたちとワールド・ビジョンのスタッフ
ではSDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」達成に向けて、日本や世界ではどういった取り組みをしているのか見ていきましょう。
日本では2000年に、児童虐待を防止する「児童虐待の防止等に関する法律(通称:児童虐待防止法)」が制定されました。従来の「児童福祉法」に比べ、国や地方公共団体だけでなく教育機関や、民間団体との連携を強化。虐待を見つけた人にも通告義務があるとし、より一層厳しく児童虐待を取り締まる内容の法律が整備されました(注5)。
さらに「オレンジリボン運動」と呼ばれる子どもの虐待防止を目的とした啓発運動も実施。行政によるチラシやSNSでの情報発信はもちろん、各自治体と連携した子育て支援や相談窓口の設置などにも注力しています(注5)。
近年児童虐待の相談件数が増えている背景には、こうした啓発活動により国民一人ひとりの意識が高まっているといった要因も考えられます。
なお児童虐待以外にも、日本政府は高齢の人を狙った特殊詐欺防止やDV防止などあらゆる取り組みを行っています。特殊詐欺については警察庁、金融庁、消費者庁といった各庁を筆頭に、自治体や民間団体などと連携を強め注意喚起を実施しています(注6 p.2)。
平成25年にはDV防止法が制定され、全国に「配偶者暴力相談支援センター」という相談窓口も設置されています(注7)。
ワールド・ビジョンでは、世界中の子どもたちが平和で平等に暮らせるよう、さまざまな支援を実施しています。例えば人身取引や性的虐待・搾取の被害にあった人たちの保護やケアを実施。さらに国連や各国の政府に対して、現在の課題や子どもたちに必要な支援などの情報を発信する啓発活動も行っています。
ワールド・ビジョンは世界各地に「子どもクラブ」を組織してきました。子どもクラブは勉強だけでなく、子どもたちの自主性といったさまざまなスキルの習得を促す場です。実際に子どもクラブに通って「内気な性格が変わり、自分の価値が分かって前向きになれた」と話してくれる子どももいます。
このように将来を担う子どもたちが自主性を持って意思決定することは、SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」の「あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型および代表的な意思決定を確保する」の達成にもつながるでしょう。こうした活動を行うことで、周囲から子どもたちへの保護意識も高まりました。
ワールド・ビジョンでは、特に住むところを追われ難民や国内避難民となった危機的な状況にある子どもたちや人々の支援を行っています。
皆さまも一緒に、このような子どもたちが守られ、未来を築くことができるようにサポートをお願いします。難民支援募金を通して、子どもたちの成長期をサポートすることによって、一人ひとりの子どもたちの未来が開けるように一緒に歩んでいただけますと幸いです。
シリアの避難民キャンプに暮らすのアちゃんと妹のサマールちゃん(仮名)
世界ではいまだに弱い立場で苦しんでいる子どもたちが多くいます。特に法的にも保護されず、身近なおとなからも搾取される子どもには、早急な支援が必要です。一人でも多くの子どもを救うためにも、ぜひ難民支援募金にご協力ください。皆さまからの寄付金が子どもたちの健やかな成長を支え、SDGsの目標達成にも大きく貢献します。
注1 農林水産省: SDGsの目標とターゲット
注2 厚生労働省: 令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)
注3 ユニセフ: 差別が妨げる出生登録 乳幼児の4人に1人が登録されず
注4 日本経済新聞: 子供への暴力・虐待、世界で10億人 WHOが対策要請
注5 厚生労働省: 児童虐待防止対策
注6 首相官邸: オレオレ詐欺等対策プラン
注7 男女共同参画局: 配偶者からの暴力被害者支援情報