レバノンの難民受け入れと現在の状況 | 難民の数や出身国、歴史を解説

北側でシリア、南側でイスラエルと国境を接する地中海東岸の国、レバノン。首都ベイルートはかつて「中東のパリ」と称された美しい街でしたが、ベイルートの港で2020年8月に起きた爆発事故により、現在は大きく姿を変えてしまいました。

レバノンはまた、長年にわたって難民を受け入れてきた国です。この記事では、レバノンに避難している難民の数や出身国を最新のデータを使って解説し、テロ組織の誕生やシリア内戦など、難民に関連するレバノンの歴史を紹介します。

さらに、現在経済危機にあるレバノンで難民がどのような状況に置かれ、どのような支援が行われているのかも詳しくお伝えします。

レバノンが受け入れている難民の出身国や数の推移

人口1人当たりの難民受け入れ数世界一の国、レバノンで暮らす子ども
人口1人当たりの難民受け入れ数世界一の国、レバノンで暮らす子ども

はじめに、レバノンで受け入れている難民の出身国や人数の推移を見ていきましょう。ここでは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が公開している最新のデータを使用しています。

レバノンは人口1人当たりの難民受け入れ数世界一

2020年末時点で、レバノンの人口の8人に1人は、国外から避難してきた難民です。この8人に1人という割合は、島民6人に対して1人の割合でベネズエラ避難民を受け入れているアルバ島(ベネズエラ沖のオランダ領の島)を除けば、世界最大です。つまりレバノンは、自国の人口に対する割合で見た場合に、世界で最も多くの難民を受け入れている国と言えます(注1 p.2)。


レバノンに避難している難民の数と内訳

それでは、レバノンに避難している難民はどこから来たのでしょうか。

レバノンにいる難民の大部分は、シリア難民とパレスチナ難民です。

国連において難民支援を行うのは基本的にUNHCRですが、パレスチナ難民については、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)という別の組織が支援を担当しています。

UNHCRによると、パレスチナ難民を除くと2020年末時点で約87万人の難民がレバノンで暮らしていますが、そのうち実に86万5,300人がシリア難民です。つまり、パレスチナ難民を別にすると、レバノンにいる難民の99%以上を、シリア難民が占めているということになります。

難民のその他の出身国は、イラク(4,049人)、スーダン(668人)、エジプト(88人)です。レバノンはこのほかにも中東やアフリカ地域を中心とする16カ国から難民を受け入れていますが、その数は各国とも数十人規模までにとどまります(注2)。


レバノンで暮らすパレスチナ難民の数の推移

イスラエルと国境を接していることもあって、レバノンでは昔から多くのパレスチナ難民が暮らしています。

次のグラフは、UNHCRがデータを公開している1952年から2020年までの期間における、レバノンで暮らすパレスチナ難民数の推移です(注3)。



レバノンが受け入れているパレスチナ難民の数は年々増え続け、2020年末時点で約48万人に達していますが、これはデータが記録され始めた1952年の5倍近い数です。

ただし、これはあくまでもUNRWAによって難民と認定されているパレスチナ難民の人数であり、このほかに難民として認定を受けていないパレスチナ人もいるとされています(注4 p.64)。

難民に関わるレバノンの歴史と現在の状況

レバノンで暮らす若者たちは地域社会の主役としてアクションを起こすなど、自分たちが暮らす社会のために活動をしている
レバノンで暮らす若者たちは地域社会の主役としてアクションを起こすなど、
自分たちが暮らす社会のために活動をしている

レバノンにいる難民のほとんどがシリア難民とパレスチナ難民であることを踏まえ、次は難民に関係するレバノンの歴史を振り返ってみましょう。

近隣国との関係とレバノン国内の動きを俯瞰(ふかん)してみると、難民の受け入れだけでなく、レバノンの人々が避難を強いられた出来事も浮かび上がってきます。

レバノンの建国の歴史とイスラエルとの関係

1943年にフランスから独立したレバノンでは、イスラム教やキリスト教の諸宗派が混在しており、宗派間での紛争が長年繰り返されてきました。1948年にイスラエルが建国されると、隣国ヨルダンから多数のパレスチナ人が流入し、難民キャンプが設立されました。後にこのキャンプはパレスチナ解放機構(PLO)などのパレスチナ武装組織の活動拠点として利用されていたと言われています(注5)。

1975年、キリスト教徒の一派がパレスチナ人の乗ったバスを襲撃した事件をきっかけに宗派間対立が激化したことで、15年間におよぶ内戦に突入しました。1976年にはシリア軍がPLOへ越境攻撃を行い、1978年にはイスラエル軍がPLO掃討のためにレバノンへ進攻しました(注5)。これ以降、イスラエルは南レバノンを占領し、2000年にようやく撤退しましたが、現在もレバノンとイスラエルの間には国境線の画定などの課題が残されています(注6)。



レバノンを拠点とするテロ組織ヒズボラの誕生

イスラエルの占領下にあった1982年、レバノンにシーア派主導のイスラーム国家を樹立することを目指す組織「ヒズボラ」が設立されました。ヒズボラは当初、レバノン南部に駐留するイスラエル軍や、イスラエル軍の撤退を監視するため派遣された国連レバノン暫定軍(UNIFIL)への武力攻撃を行っていました。

その後、2000年のイスラエル軍撤退後もイスラエルに対してロケット砲での攻撃を行うなど、イスラエルの滅亡を企図したテロ活動を続けています(注7)。

2006年7月には、国境地帯でイスラエル軍への大規模攻撃を仕掛け、イスラエル兵8人を殺害、2人を拉致しました。これを受けてイスラエル軍は海上封鎖や空爆を含む本格的な軍事作戦を開始。戦闘が続いたのは停戦が発効するまでの34日間でしたが(注7)、この年にレバノンでは約20万人の国内避難民が発生するなど、市民生活にも深刻な影響がおよびました(注8)。
なお、ヒズボラは1992年から、レバノン国内で合法的な政党としての政治活動も行っています。この年以降、ヒズボラは選挙で継続的に議席を獲得しており、2009年には2人を入閣させ、2018年には他の政党との連立政権を組むなど、影響力を増しています(注7)。



レバノンでのシリア難民の急増と現在の経済危機

2011年にシリア内戦が勃発すると、国境を接するレバノンに多数のシリア難民が押し寄せました。UNHCRが公開しているレバノンのシリア難民受け入れ数の推移をグラフにすると、次のようになります(注9)。



2011年まではごくわずかであったシリア難民の数が、2012年に突如12万人を超える規模へと増加し、その後も急増を続けて2014年には115万人弱にまで膨れ上がっています。2015年以降は徐々に減少していますが、先に紹介したとおり、2020年末時点でいまだに86万人を超えるシリア難民がレバノンにとどまっている状態です。

なお、全世界に逃れたシリア難民の数は、2020年末時点で合計約670万人でした。つまり、シリア難民全体の13%がレバノンに避難している計算になります(注1 p.3)。

レバノンでは1990年以降、内戦からの復興のために多額の借り入れを行ったことなどで財政赤字が拡大していましたが、その後シリア内戦の影響もあって経済成長の失速に拍車がかかり、2020年3月に政府が債務不履行(デフォルト)を行う事態に陥りました。こうした状況のもと、レバノン国内では食料価格が高騰しているほか、特に移民の失業が相次ぐなど、人々は苦しい生活を強いられています。

これに追い打ちをかけるように同年8月にベイルート港での爆発が起こったことで、政治的にも不安定な状態が続いており、経済危機の収束のめどは立っていません(注10)。

レバノンで暮らす難民への国際社会の支援

レバノンで暮らす難民の子ども
レバノンで暮らす難民の子ども

現在は経済危機のただ中にあるレバノンですが、経済的な苦境の中で特に困難にさらされやすいのが難民です。レバノンで暮らす難民が現在置かれている状況とそれに対する支援について、ワールド・ビジョンの活動事例を交えてご紹介します。

レバノンで暮らす難民の現在の状況

レバノンで避難生活を送る難民には、レバノン国民と同等の権利が与えられていません。このため、難民はもともと困難な状況に置かれていましたが、経済危機によって難民の置かれた状況はさらに悪化しています。

国連児童基金(ユニセフ/UNICEF)の報告では、十分な食料を買うためのお金がない世帯の割合は、シリア難民に限れば99%に達するとされています(注10)。また、国連世界食糧計画(WFP)によると、レバノンで避難生活を送っている大人のシリア難民の3人に1人は、子どもたちに十分な食事を与えるために、自分たちの食事を制限していたようです(注11)。

さらに、国連人道問題調整事務所(OCHA)が2021年8月に発行した資料によれば、強制退去、入店拒否、割増価格での商品販売など、難民に対する差別的な行為も増えています(注13)。



難民を含むレバノンの人々に対する国際社会の支援

OCHAが公開しているデータによると、2020年に集まったレバノン支援のための資金は総額およそ15.9億ドル(約1,825億円)でした。この年はベイルート港での爆発が世界中で耳目を集めたことも影響してか、OCHAによるレバノン支援計画に基づく資金拠出の呼びかけも、総額の87%が充足されました。

しかし、翌2021年にはレバノンへの支援額は約9億ドルへと急激に減少し、OCHAの資金拠出の呼びかけもわずか18%しか充足されないままに終わりました(注14)。

OCHAは毎年の支援計画に基づいて国際社会に資金拠出を呼びかけていますが、その要請額は2020年に約1.4億ドル(約157億円)、2021年に約1.7億ドル(約193億円)、そして2022年には約2.2億ドル(約254億円)と、年々増加しています(注14)。
このことからも、難民を含むレバノンの人々の状況が悪化の一途をたどっていることがうかがえますが、国際社会の支援はそれに反して減少している状況です。



ワールド・ビジョンのレバノンでの支援

ワールド・ビジョンは、レバノンで児童労働を余儀なくされている子どもたちへの支援を行っています。経済危機によって家計が切迫するなかで、家族の生活を支えるために学校を辞めて働かなければいけなくなる子どもたちが増えているのです。

ワールド・ビジョンの支援を受けたあるシリア難民の子どもは、自分の置かれた環境について次のように語りました。

「シリアにいた頃の家はすごくきれいで、戦争が始まる前は冬もとても暖かかった。今はテントで暮らしていて、冬はとても寒い。学校に行かない時は朝8時から夕方5時まで鉄を集める仕事をするよ。僕にはきょうだいが11人いて、お父さんは病気で働けないから、家族みんなの分の食べ物を買うために、みんなが働かないといけないんだ。それに、家でお母さんの手伝いもする」

ワールド・ビジョンは、このような状況にある子どもたちに、子どもの権利について教え、子どもたちが安全な場所で自分を表現したり、友だちを作ったり、将来の夢や将来について語ったりすることができるように支援を行っています。


レバノンで暮らす難民への国際社会の支援

レバノンで暮らす子どもたちとワールド・ビジョンのスタッフ
レバノンで暮らす子どもたちとワールド・ビジョンのスタッフ

ワールド・ビジョンは、レバノンに限らず、世界中で避難生活を送っている難民や国内避難民の子どもたちのための支援活動を行っている団体です。「命を守る」、「順応する」、「未来を築く」の3つを活動の軸とし、次のような活動を展開しています。

  • 「命を守る」:新型コロナウイルス感染症等を予防するための、石けん配布や手洗い指導等
  • 「順応する」:紛争で傷ついた子どもたちの心のケアや、個別に必要な物資提供等
  • 「未来を築く」:補習授業により学習の遅れを取り戻し、学び続けられる環境作り等

難民となって先の見えない生活を強いられている子どもたちの命と未来を守るため、ぜひワールド・ビジョンの難民支援募金へのご協力をお願いします。
※このコンテンツは、2021年2月の情報をもとに作成しています。

紛争により家を追われ、生活が一変した子どもたちに難民支援募金にご協力ください。

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