移民問題とは?難民との違いや日本と諸外国の移民政策を知ろう

2019年、外国人労働者の受け入れに関する改正法が施行され、日本でも移民に関する関心が高まりを見せています。移民をめぐる議論は、ヨーロッパやアメリカでも近年特に活発化しています。この記事では、移民とは何かを解説し、日本と諸外国が抱えている移民問題と移民政策、そして移民問題の解決に向けた課題を順にご紹介します。

移民とは

移民と難民はしばしば同様のものとして扱われますが、皆さんは移民と難民がどのように区別されるかご存知でしょうか。まずは移民の定義を確認し、難民との違いを明確にしましょう。

移民の定義

国際的な人の移動に関する活動を行う国連機関である国際移住機関(IOM)によると、移民とは、本人の法的地位や移動の自発性、理由、滞在期間にかかわらず、「本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」のことを指します(注1)。

移民となる理由

移民の大多数は、仕事や家族、勉学などに関する理由で移住します。その一方で、紛争や迫害、災害といったように、避けがたい理由によって移動を余儀なくされる人々もいます(注2)。

移民と難民の違い

移民のうち、紛争や迫害など、自発的でない理由で移動を強いられる人々を、難民や国内避難民と呼びます(注3)。難民とは国境を越えて移動した人、国内避難民とは国境を越えず居住地と同じ国の中で移動した人を指します。

つまり、難民と移民は別個のものではなく、移民の中の一部の人々を難民と呼ぶのです。

不法移民

ニュースなどで移民が話題にのぼるときに、「不法移民」という単語を聞くこともあるかと思います。不法移民という言葉は、一般に不法滞在者のことを指して使われます。

不法滞在者とは、不法に入国し、在留資格のないままその国に留まっている人、または、合法的な在留期間を過ぎ、在留資格を失った後もその国に留まっている人のことを言います(注4)。

移民問題

人が移動するのに伴って、受け入れ側の社会にも様々な変化が生じます。移民に関連して起こる色々な変化のうち、好ましくない側面の強いものを、ひとまとめに「移民問題」と呼んで議論することがあります。今、世界でどのような移民問題が起きているのか、地域別に見ていきましょう。


移民問題とは何か

移民問題として議論される課題は多岐に渡ります。特に不法移民に関しては、安全保障や犯罪と関連付けた報道や政策議論が多く見られます。合法的な移民や難民についても、受け入れ国の社会への統合という視点で、ますます議論が活発化しています。

一方で、アントニオ・グテーレス第9代国連事務総長自らが「私たちは移民に関し、有害で誤った発言を多く耳にします」というコメントを発しているように、しばしば客観的でない情報が流布されていることに留意する必要があります(注5)。

ヨーロッパにおける移民問題

ヨーロッパでは、2015年に「欧州難民危機」と呼ばれる大量の難民の流入が起こりました。主に中東地域やアフリカから、規定の手続きを踏まずに海や国境を越えて移動する人々が多数見られたことから、難民や移民の受け入れに反対する動きが各地で起こりました。

例えばハンガリーでは、不法入国を阻止するためにセルビアとの国境に鉄条網が設置されました。さらに、この時期から、ドイツ、フランス、イギリス、スウェーデン、フィンランドなどを含む多くの国で、移民排斥や移民関連の規制強化を訴える政党が議席を伸ばすなど、急速に存在感を増しました。

このような排外主義の強まりの背景として、移民に職を奪われる、あるいは社会保障制度への負担となる、といった懸念を抱く人々の存在が指摘されています。さらに、移民問題は欧州連合(EU)としての共通政策、ひいては欧州連合の連帯にも影響を及ぼしており、ヨーロッパにおいてはとりわけ重大な関心事項であると言えます(注6)。

アメリカにおける移民問題

移民が多いことで知られるアメリカには、2017年時点で4,440万人の移民が暮らしており、これは全人口の13.6%に当たります。移民の数は1970年代から一貫して増加を続けており、2017年時点の移民数は、1970年の実に4.6倍以上に増えています(注8)。

こうした背景も手伝ってか、アメリカでは、メキシコ国境から入国する不法移民についての議論が活発です。日本でも広く報道されているとおり、現在メキシコとの国境を隔てる壁の建設が進められています。さらに、アメリカ政府は、メキシコ、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの政府との間で不法移民の抑制についての合意を結ぶなど、規制強化を進めています(注7)。

2017年時点で、アメリカで暮らす全ての移民の23%に当たる1,050万人が不法移民だと言われています。ただし、移民全体の数が増えている一方で、不法移民の数は2007年をピークに年々減少しています(注9)。


日本における移民問題

日本では、移民は基本的に労働力として扱われ、本来の意味での移民政策が存在しないとも言われます。

これを裏付けるように、2018年に、首相が国会答弁において「政府としては、例えば、国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受入れの在り方とは相容れないため、これを採ることは考えていない」と回答しています(注10)。

また、日本は主要先進国と比べて難民の受け入れ数が非常に少ないことが知られていますが、他国と比べて難民認定の基準が厳しいことを、国連難民高等弁務官からも指摘され、改善を促されています(注11)。

移民政策の現状

以上のように、地域によって、移民に関する様々な課題を抱えています。それでは、現在どのような移民政策が実施されているのか、諸外国と日本の例を見ていきましょう。

諸外国の移民政策

2012年から、ヨーロッパ諸国では「EUブルーカード」という高資格の外国人労働者向けの滞在許可証が発行されるようになりました。大卒で高収入の職が保証されている人、また理工系の高度資格保有者、医師などは、滞在許可の条件が優遇され、永住権の申請条件も優遇されます(注12)。

このように、高度な専門性を有する外国人人材の受け入れを積極的に行っている一方で、移民の受け入れに対する規制強化も進んでいます。

難民危機の折に、率先して寛大な難民受け入れ政策を打ち出したのがドイツです。2015年、メルケル首相が大規模な難民受け入れを宣言し、1年間で100万人近い難民がドイツに流入しましたが、移民排斥を訴える勢力が台頭するなど政治的混乱が生じました。与野党の対立を背景に、2018年には、移民の受け入れや家族の呼び寄せを制限する政策が採用されました(注13)。

フランス政府は、2019年11月に「移民・難民・同化政策の改善に向けた20の政策措置」を発表しました。主な政策として、難民審査機関の大幅増員、難民や不法移民向けの医療援助制度の厳格化、そして外国人人材の積極的受け入れに向けたクオータ制の導入などが挙げられます。

審査機関の増員によって難民審査を迅速化するとともに不法滞在者を速やかに国外退去させることにつなげ、さらに、制度の厳格化によって社会保障制度が不当に搾取されることを防ぐのが狙いです。クオータ制では、国内で人材が不足している産業分野で、能力ごとに受け入れ人数を定めて移民を受け入れる計画です(注14)。

アメリカでは、不法移民対策が強化されると同時に、難民の受け入れ数が顕著に減少しています。2017年以降、メキシコ国境の警備強化が繰り返され、2018年には、メキシコ国境から違法に入国した者を例外なく起訴するという政策が打ち出され、他にも、強制送還の対象が拡大されるなど、ここ数年で不法移民への取り締まりが強化されています(注15)。

これと並行して、難民受け入れの一時停止、難民による再定住申請の審査の厳格化、再定住難民の受け入れ枠の削減などが実施されました(注16)。また、移民による家族の呼び寄せを大幅に制限し、ヨーロッパ諸国と同様、高度な能力や学歴を有し経済的に自活できる人材を選択的に呼び込む方針に転換しています(注17)。

日本の「移民法」

日本では、2019年4月から「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が施行されました。一般に「改正入管法」と呼ばれているこの法律が、事実上の「移民法」であると言われています。この法改正により、人材が不足している産業分野での技能を有する外国人人材向けに「特定技能」という新たな在留資格が創設されました(注18)。人手不足の解消につながる外国人人材を積極的に受け入れるという点で、諸外国の移民政策と方向性は同じであると言えます。

他方で、在留期間に5年の上限があり、ヨーロッパのブルーカードのように永住に向けた優遇措置が定められていないこと、また特に熟練した人材以外は家族の帯同が認められないことなどから、あくまでも労働力としての一時的な滞在を想定していることが伺えます。

移民の受け入れ状況

国際連合経済社会局(UN DESA)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が公開しているデータを使って、ヨーロッパ及び北米で移民の多い10カ国と日本について、国内にいる移民数と難民数、そして2019年にUNHCR経由で第三国定住の審査を行った難民数を表にまとめました。第三国定住(再定住)とは、出身国外で難民認定を受けてキャンプ等で暮らしている難民を、先進国を中心とする第三国に定住させる取り組みです。

2019年移民数(注19)2018年難民数(注20)2019年再定住受付数(注21)
1 アメリカ 5,066万人 31万3千人 24,808人
2 ドイツ 1,313万人 106万4千人 9,640人
3 イギリス 955万人 12万7千人 3,507人
4 フランス 833万人 36万8千人 3,307人
5 カナダ 796万人 11万4千人 14,624人
6 イタリア 627万人 18万9千人 413人
7 スペイン 610万人 2万人 1,193人
8 スイス 257万人 10万4千人 1,102人
9 オランダ 228万人 10万2千人 1,433人
10 スウェーデン 200万人 24万8千人 5,408人
日本 250万人 1900人 40人

移民に関する今後の課題

移民に関連して、地域によって異なる問題に直面し、それぞれの国が実情に合った政策を通して解決を図ろうとしていることがわかりました。今後、移民問題を解決に導いていくために、どういった取り組みが必要なのでしょうか。

ワールド・ビジョンからの支援を受けたハイチの家族

移民流出抑制

移民の中には、母国で十分な稼ぎを得られないために、出稼ぎ労働者として他国へ移住する人々も多く含まれます。こうした人々は、移住を試みる過程で人身売買の被害に遭ったり、密入国あっせん業者によって非人道的な扱いを受けたりする危険性もあります。無事に目的の国に入国できた場合でも、合法的な在留資格を得られなければ、不法移民として弱い立場に置かれてしまいます。

このように、経済的困窮などを理由に危険を冒して他国への移住を試みる必要がなくなるよう、低所得国などに継続的な開発支援を行うことが望まれます。教育や就業の機会を拡大し、自国でも十分に生活していける環境を整えることで、移民の流出を抑えることにつながります。

難民の受け入れ

難民や国内避難民など、強制的に移動を強いられる人の数は年々増加し、2018年末時点で7千万人を超えています(注22)。近隣国や先進国などが難民認定を行い、移民として自国に定住させることで、こうした人々が安心して新たな生活を始めることができるようになります。

日本のように、地理的な条件などによって難民が直接流入しにくい先進国も、第三国定住の受け入れなど、地理的制約を受けない取り組みを通して難民の受け入れを行っています。

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参考資料

※1 IOM:「移民」の定義外部リンク
※2 IOM:World Migration Report 2020外部リンク 19頁
※3 IOM:World Migration Report 2020外部リンク 19頁
※4 法務省:退去強制業務について外部リンク 10頁
※5 国際連合広報センター:国際移住者デー(12月18日)に寄せる アントニオ・グテーレス国連事務総長メッセージ外部リンク
※6 国際貿易投資研究所:欧州の反グローバリズム台頭の背景 -経済格差、難民危機、エリート・大衆、ポピュリズムという要因-外部リンク
※7 The White House:The Trump Administration's Immigration Agenda Protects American Workers, Taxpayers, And Sovereignty外部リンク
※8 Pew Research Center:Facts on U.S. Immigrants, 2017外部リンク
※9 Pew Research Center:Mexicans decline to less than half the U.S. unauthorized immigrant population for the first time外部リンク
※10 衆議院:衆議院議員奥野総一郎君提出外国人労働者と移民に関する質問に対する答弁書外部リンク
※11 UNHCR:フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官:日本とのパートナーシップ強化を外部リンク
※12 JETRO:外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用外部リンク
※13 労働政策研究・研修機構:第四次メルケル政権発足 ―連立協定書に基づく今後の労働政策骨子外部リンク
※14 JETRO:移民政策を発表、不法移民・難民の管理強化、クオータ制導入(フランス)外部リンク
※15 Migration Policy Institute:Immigration-related Policy Changes in the First Two Years of the Trump Administration外部リンク 2-4頁
※16 Migration Policy Institute:Immigration-related Policy Changes in the First Two Years of the Trump Administration外部リンク 16-17頁
※17 Migration Policy Institute:"Merit-Based" Immigration: Trump Proposal Would Dramatically Revamp Immigrant Selection Criteria, But with Modest Effects on Numbers外部リンク
※18 外務省:特定技能の創設外部リンク
※19 United Nations Department of Economic and Social Affairs (UN DESA):International migrant stock 2019外部リンク By destination and origin
※20 UNHCR:Global trends: Forced displacement in 2018外部リンク Annex table 1
※21 UNHCR:Resettlement Data Finder外部リンク Demographics/2019のcsvデータ
※22 UNHCR:Global trends: Forced displacement in 2018外部リンク 2頁

※このコンテンツは、2020年2月の情報をもとに作成しています。

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