2015年9月、シリア人の小さな男の子の遺体がトルコの海岸に打ち上げられた時の衝撃を覚えている方も多いのではないでしょうか。ヨーロッパに押し寄せている難民が問題になっています。その背景と、受け入れ国など海外の反応、そしてワールド・ビジョンが行っている支援について解説します。
中東や北アフリカに住む多くの人々が難民となり、ヨーロッパへ避難しました。ヨーロッパの難民が問題となっていますが、なぜでしょうか。
2015年に「ヨーロッパ難民危機」という言葉が使われ始めました。2015年の上半期だけで、地中海を渡ってヨーロッパにたどり着いた難民の数は13万7千人に上りました。前年の同時期には7万5千人だったので、84%も増加したことになります。ヨーロッパに押し寄せた人々の内訳は、3人に1人がシリア出身者で、その次に多かったのはアフガニスタンやエリトリアの人々でした(注1)。
2018年末の統計では、ヨーロッパで保護している難民の数は520万人にも上っていることがわかりました。ヨーロッパに避難した人々は累計で1106万人で、前年度よりも80万人増加している状態です。ヨーロッパで難民となっている人々の殆どは、シリアをはじめとした中東と北アフリカからの難民です(注2)。
なぜ、中東や北アフリカの人々がヨーロッパに押し寄せているのでしょうか。
中東や北アフリカは、民主化運動などにより政情不安や内戦が続いています。そこに住む人々は命の危険や貧困にさらされ、まずは比較的安定していると思われているリビアに逃れるのです。しかし、リビアも安全ではなく、そこでも搾取や暴力、誘拐などの危険がありました。命を守るためにリビアを離れ、ヨーロッパを目指す人が急増した、という背景があるのです(注3)。
ヨーロッパの難民問題に対して、海外の反応はどのようなものがあるのでしょうか。受け入れ国となっている国や、国際援助団体の反応について見てみましょう。
ヨーロッパで難民を一番多く受け入れているのはトルコです。2018年末時点で、390万人の難民がトルコで暮らしているというデータがあります。その多くは内戦から逃れたシリア人です(注2)。トルコは、2011年に勃発したシリア内戦の直後から難民を受け入れ続けており、世界一の難民受け入れ国となっているのです(注4)。
ドイツも、人道的見地から多くの難民を受け入れました。EU加盟国には「難民がEU域内を目指した時、最初に入った国で難民申請をしなければならない」という「ダブリン協定」があります。しかしドイツは、大量の難民がヨーロッパに押し寄せた2015年にダブリン協定を破り、ハンガリーに避難してきた人々を受け入れたのです(注5)。
ヨーロッパは大量の中東・アフリカ難民を受入れましたが、テロの恐怖も味わうことになってしまいました。2015年11月にパリで同時多発テロが起こり、2016年にはドイツで相次いでテロ事件が起こりました。容疑者はどれも、難民としてヨーロッパに入ってきた者や難民申請を却下された者だったのです。これらの事件がきっかけとなって「反難民・移民、反イスラーム運動」が起こり、政党まで生まれる事態となりました(注6)。
ヨーロッパ難民危機に関して、国際援助団体はどのように反応したのでしょうか。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、避難場所や物資のサポートはもちろんのこと、難民登録のサポートや離散家族を再会させるサポート、親のいない子どものサポートなどを行っています。ヨーロッパへの流入に大きく関係しているリビアへの支援も実施しています(注3)。ユニセフと協働で、ヨーロッパでもっとも難民が往来する経路上に「子どもと家族の支援拠点(注7)」を開設するなど、様々な援助団体とも連携して難民保護に努めています。他の国連機関も、それぞれの分野に特化した難民支援をしています。
また、UNHCRは2019年12月17日・18日に、スイス政府との共催で「第1回グローバル難民フォーラム」を開催しました。2018年12月末に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」(GCR)の実践のフォローアップが行われました(注8)。
日本の政府開発援助(ODA)も、中東や北アフリカ支援を通して、ヨーロッパ難民危機に関わっています。「北部地域シリア難民受入コミュニティ水セクター緊急改善計画」を実施するなど、難民受け入れのための環境を整備しています(注9)。
国際NGOであるワールド・ビジョンは難民支援にも力を入れており、その時々の実状に即したプログラムを実施しています。危険とされている地域にいち早く入り、まずは命を守る緊急支援を実施。そして、傷ついた心のケアや、よりよい未来を描く力をつけるため、長期的な支援を行っていきます。支援の手がとどきにくい国内難民も支援の対象にしています。
ワールド・ビジョンは、ヨーロッパ難民危機が叫ばれ始めた2015年に欧州のシリア難民支援に着手しました。セルビアでのニーズ調査を行い、EU(欧州連合)へのアドボカシーも活発化させました。
ヨーロッパへ流入した難民の多くを占めているのはシリア難民です。ヨーロッパ難民危機が叫ばれ始めた2015年よりも前から、ワールド・ビジョンはシリアの人々のために支援活動を実施しました。危険を冒してヨーロッパへ渡らずにすむように、シリアの国内難民をはじめ、周辺国に避難しているシリア難民の支援を優先しています。
ワールド・ビジョンが実施しているシリア難民支援の内容を、緊急支援と長期的支援の二つの視点から解説しましょう。
ワールド・ビジョンの活動の大きな柱のひとつが緊急人道支援です。緊急援助活動は人々の命を守るために、文字通り時間との戦いになります。緊急人道支援募金を常時受け付けており、いつ起こるとも知れない突発的な災害や紛争に備えています。
シリアと周辺諸国でも緊急支援を行っています。3万人を収容できる避難キャンプに水・衛生施設を建設したり、食糧を配布したりしました。シリア難民およびヨルダン人への緊急越冬支援も行うなど、現地のニーズに迅速に応える活動を実施しています。
難民への支援活動は、一刻を争う緊急支援と同時に、長期的視点を取り入れた支援も必要となります。難民キャンプで何年も暮らす人々のための教育・職業訓練の支援や、将来的には紛争地の復興支援や難民再定住などのプログラムも必要になっていきます。
ワールド・ビジョンは、シリア難民の子どもたちへの教育支援を実施しています。教育支援には時間や人的資源、資金が必要ですが、長期的支援としてとても効果的です。子どもたちは教育を受けることによって、未来に希望を持つことができ、貧困の連鎖を断ち切ることができるのです。
8年間にもおよぶ内戦のため70万人ちかくのシリア難民がヨルダンに逃れました。ワールド・ビジョンはそこで、長期間学校に通えなかったシリア難民の子どもを対象に、ヨルダンの学校の授業についていけるように補習授業をしています。紛争のトラウマや避難生活のストレスを和らげるためのレクリエーション活動も実施し、子どもが健やかに育つことができるよう長期的な支援を行っています。子どもを保護できるよう、周りの大人への教育も実施しています。
ワールド・ビジョンは、イベントやメディア(恐怖と夢 シリアと世界の子どもたち)、ブログなどでもシリア難民支援を呼びかけ、長期的な援助活動を実施しています。
シリア難民支援活動報告会を開催しました(2019.07.05)
【シリア】紛争により深刻な被害を受けた南西部で、教育支援事業を開始しました(2019.08.28)
WVインターンが聞く! シリア難民支援の現場から(2019.09.30)
ワールド・ビジョンは、難民のなかで最も弱い立場の子どもたちを対象に支援活動を実施しています。
難民の半分は18歳未満の子どもです。難民の子どもたちの多くは、教育の機会や安全に過ごせる場所が与えられていません。基礎学力に乏しくなり、暴力や虐待、児童労働や早婚などのリスクにさらされているのです。紛争などの影響で子どもらしい生活を奪われるばかりか、兵士として過ごさなければならなかったケースも沢山あるのです。明るい未来を描くことができない子どもたちが、とても多いのです。
この活動は、皆さまからの募金によって成り立っています。難民支援へのご協力をお待ちしています。
※1 UNHCR:2015年上半期:地中海を渡る難民、移民が過去最高に
※2 UNHCR:UNHCRの難民援助活動2019
※3 国連UNHCR協会:続・ヨーロッパ難民危機
※4 JICA:JICA、UNHCR共催「トルコにおけるシリア難民支援セミナー」
※5 法政大学:難民受け入れ国としてのドイツ
※6 長崎大学:難民・内戦・テロ ―全てがつながる時代に共生を考える―
※7 UNHCR:プレスリリース:欧州難民危機 ユニセフと協働で子どもと家族の支援拠点開設
※8 UNHCR:「第1回グローバル難民フォーラム」、12月17日、18日にジュネーブで開催
※9 外務省:難民受け入れ地域への一貫した支援に,感謝と期待
※このコンテンツは、2019年12月の情報をもとに作成しています。