ここ数年のうちで「難民」というキーワードがニュースやテレビで耳にすることが増えたのではないでしょうか。
難民問題は今現在も続いており、難民の数も増え続けている状況です。
世界では、紛争や内戦、自然災害などにより約7,080万人が故郷を追われています。
そのうち約2,590万人が難民という状態です。また難民のおよそ50%が子ども(18歳未満)で、深刻な問題になっています(注1)。そんな「難民」というワードを知っている人が多い中で、難民の現状や実際の状況を知っている人は少ないのではないでしょうか。
そこで今回は難民が生活をしている「難民キャンプ」について紹介をします。今回の記事を通して「難民キャンプ」について現状と問題点を説明し、理解を深めていただければと思います。
難民とは、政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために国境を越えて他国に庇護を求めた人々を指します(注2)。難民の出身国として最も多いのがシリアです(注3)。 次がアフガニスタン、南スーダン、ミャンマー、ソマリアと続きます。これら上位5カ国が世界の難民の約7割を占めています(注3)。
このことから難民の多くは中東、アジア、東アフリカ出身であることが分かります。 また、難民の受け入れの数はトルコが最も多く、次いでパキスタン、ウガンダ、スーダン、ドイツと、難民出身国の周辺の国が多いことが分かります(注3)。
「難民キャンプ」とは、難民が発生した場合に、難民受け入れ国の要請に応じて支援団体が設置する、難民のための滞在施設です(注4)。
難民キャンプ内の建物は地域によって異なりますが、安全を保障し、食べ物、水、衣類、医薬品、生活用品などを提供してくれる場所です。
難民がどのような場所で生活をしているか想像したことがあるでしょうか。
故郷を追われた難民は、自分と家族の命を守るため、陸や海を渡り国外へと脱出します。難民キャンプにたどり着くことができても、援助を求める難民が多すぎて人が溢れていることもあります。支援団体による審査によって「難民」として認められて初めて正式に難民キャンプで生活を始められるようになります。
また、避難先が資源やインフラの整っていない開発途上国が多いため、難民を受け入れることも簡単なことではありません(注5)。そのため現在、世界では国やNGOなどの機関が難民の支援活動を行っています。
キャンプの外の都市部で暮らす難民が多いのも現状です。JICAの報告書によるとトルコ国内では、難民の大多数(95%)が難民キャンプの外で生活していると報告されています(注6)。加えて64万人のシリア難民が暮らしているヨルダンでも、およそ85%の難民はキャンプの外に暮らしているという調査があります(注7)。
次に難民キャンプでの生活について紹介します。
難民キャンプでは、最低限生活に必要な物や設備が用意されています。
食糧、安全な水、住居、衣料、衛生用品などの基本的な物資はもちろん、教育を受けるための学校もキャンプ内にあります。世界中にある難民キャンプですが、キャンプ自体の作りや建物は、場所によって異なります。
難民キャンプでは最低限の暮らしは保証されていますが、慣れない環境で母国にいつ帰還できるか分からず生活することは、とても不自由なことです(注4)。
難民キャンプは安全が保障されていますが、集団で同じ場所に生活しているため自由がききません。また、地域によってはキャンプ内で貧富の差が生まれています。
例えば、言語が堪能であればキャンプ内で収入を得て比較的余裕のある暮らしができる場合もありますが、シングルマザーなど働いた経験や知識がないと貧困に陥ってしまうこともあります(注8)。
このような点以外にも難民キャンプでは様々な問題があります。 それらを4つに分けて紹介したいと思います。
まずは食事と栄養についてです。
難民キャンプでは国連世界食糧計画(WFP)などから、1日一人あたり1,900キロカロリー分の食べ物が支給されています(注4)。
WFPの2011 ~2013年に行われた栄養調査によると、子どもの成長阻害と貧血はすでに、難民居住地の大半で、危機的なレベルに達しており、92の難民キャンプのうち、貧血の子どもの割合が目標値以下に抑えられていたのはたったの1つという結果でした。
発育阻害についても、目標に達していたキャンプは全体の15%以下でした(注9)。このように成長期の子ども、さらに妊婦、授乳婦、病人などの栄養が不足しやすいのが問題です。中には、食べ物の一部を生活必需品を買うために売ってしまう人もいるため、栄養失調に陥る場合もあります。
また、難民キャンプでは水不足も起こります。90万人以上のロヒンギャ難民が住むバングラデシュ、コックスバザール地域では、毎年乾季の時期に水不足が問題となっていました(注10)。これにより近くの運河から水を汲み上げ、運ばなければいけませんでした。しかし、太陽光のエネルギーを利用し、井戸からポンプを通じて水を供給する仕組みを作ったことで、水不足の問題は解消されました。また、水中のバクテリアや微生物を殺すために塩素を加える「塩素処理」も安全な水を確保するにはとても重要なことです(注10)。
難民キャンプの生活で大切なことの一つに、トイレの設置と汚水処理があります。衛生環境を整えることは、難民キャンプ内での病気の蔓延を防ぎ、生活環境を整えることにつながります。UNHCRでは難民5,000人当たりに公衆衛生専門家1人、500人当たりに公衆衛生補助員1人を採用し、衛生環境を保っています(注4)。
キャンプ内の衛生環境を常に保つため、設置するトイレや井戸の数・場所を決めることも大切です。なぜなら、トイレや井戸の数を増やすとそれぞれの距離が近くなることで、水を供給する井戸が汚染されるリスクが高くなるからです(注10)。難民キャンプでは、最適なトイレの数は、一世帯あたり1基とされています。トイレには蚊やハエ、ノミ、シラミ、ナンキンムシ、ネズミなどが発生しないよう、清潔の保つための注意が必要です(注4)。
また受け入れ難民の増加により起こりうる、下水や廃棄物の投棄による衛生環境の悪化や下水管閉塞も問題となります。
世界ではおよそ2,800万人の子どもが難民や避難民として、移動を余儀なくされています(注11)。
こうした子どもたちにとっても、将来に備えて、一定レベルの教育を受けることはとても重要です。教育は子どもたちの苦しい生活に耐える力を養い、未来に目を向ける手段となるからです。しかし、難民の子どもの多くは教育を受けられておらず、様々な問題に直面します。
例えば、難民キャンプ内でも人身取引や児童労働、性的搾取に遭うことがあります(注4)。 これらのリスクをなくすためにも「教育」を受けることは必要不可欠です。
キャンプ内で教育を受けるためには、まず学校と教師が必要です。しかし教育活動は、難民の危機的状況が過ぎて3~6カ月後から始められ、教師は、難民の中からボランティアとして募る場合が多いので、教師の質や数が問題となることがあります(注4)。
難民の約8割は女性と子どもが占めています。
難民キャンプでは、一般の経済活動が禁止されるため、仕事のない父親たちはほとんど家の中で過ごしています。そのため女性が、男性の役割や責任を果たせなくなった夫から、その苛立ちを暴力という形でぶつけられることがあります(注4)。
また、夜間に外へ水汲みやトイレに行くことがある場合に、女性は性暴力にさらされる可能性があります。
ワールド・ビジョンでは難民支援を行っています。
ワールド・ビジョンが行っている難民支援の活動や日本国内からできることを紹介します。
ワールド・ビジョンでは難民キャンプでの教育支援事業や衛生環境整備、緊急支援物資配布事業などに取り組んでいます。
特に「教育」を通じて、「紛争や貧困により移動を強いられる子どもたちに対する暴力を撤廃し、暴力が繰り返されない未来を築く」ことを目指して活動を行っています。
2018年から4年間の計画で展開しているTake Back Futureキャンペーンというものです。
ここでは、2つの難民キャンプでの支援活動を紹介します。
1つ目は、65万人以上のシリア難民を受け入れているヨルダンでの活動です。
ヨルダンでは教育支援事業や緊急人道支援活動を行っていますが、増加し続ける難民児童の数に対して教室の不足が続いているのが現状です。そのため私たちは、学校の授業についていけるように難民の子どもたちに対して補習授業を設ける支援などを行っています。 その他にも衛生に関する啓発活動や女性・女子児童に対するヘルスサービス、ブランケットやマットレスなど生活に必要な物資も提供しています。
2つ目はミャンマーのロヒンギャ難民を受け入れているバングラデシュでの活動です。
2017年ミャンマー西部ラカイン州で発生した武力衝突をきっかけに、60万人以上のミャンマー人がバングラデシュへの避難を余儀なくされています。避難民の数は増え続けており、避難先での生活も厳しいのが現状です。
このような問題に対して、ワールド・ビジョンでは毛布、調理器具および衣料の提供を行っています。支援を通して、子どもたちを含む住民が健康と尊厳を確保すること、冬季を迎えた同地で生活を維持し、疾病り患のリスクを軽減することを目指しています。
またワールド・ビジョンは、難民キャンプの子どもたちを人身取引などの危険から守るための「チャイルド・フレンドリー・スペース(CFS)」をキャンプ内に設けました。これは、暴力から逃れてきた子どもが安心して過ごすことができる居場所です。キャンプ内の40カ所に設置し、4,000人の子どもに居場所を提供しています。
このように私たちは困難な状態にある避難民、もっとも弱い立場にいる子どもたちのために様々な分野での支援を行い、難民の尊厳ある生活を守り、未来に希望を見出せるよう取り組んでいます。
難民問題は深刻な問題です。今回紹介したように、難民が生活をしているキャンプでの問題点も多くあります。
しかしすべての難民が難民キャンプで生活をしているわけではありません。難民キャンプには知り合いが少なく、1から生活を始めることに不安を持つ難民の方もいるからです(注7)。
難民キャンプは最低限生活していくための設備や環境は用意されています。 しかし、難民の子どもや家族にとって一番の理想は、住み慣れた自分の家に帰ることです。 最も大切なことは、紛争や災害などの問題を解決し、難民一人ひとりが故郷の安全が保障された環境で暮らすことだと思います。 どこか遠いことのように感じてしまう難民の問題ですが、世界で起きている問題は私たちにも関係します。
これからもワールド・ビジョンでは難民問題解決のために活動を行っていきます。
難民支援にご協力ください
あなたの難民への理解が、世界を一歩前進させます。ぜひ、この機会に「難民支援募金」へのご協力をお願いします。
ワールド・ビジョンの活動にご協力をお待ちしています。
※1 UNHCR:数字で見る難民情勢2018
※2 UNHCR:難民とは
※3 UNHCR:支援現場から/資料
※4 UNHCR:難民キャンプでの生活
※5 JICA:JICA-UNHCRパートナーシップ2019
※6 JICA:トルコにおけるシリア難民の受け入れ
※7 UNHCR:ヨルダンの都市難民を訪ねて
※8 JICA:ある難民キャンプの事実
※9 WFP:アフリカの難民80万人への食糧支援を削減
※10 UNHCR:コックスバザール難民キャンプでの水不足との闘い
※11 WVJ:世界の難民危機と子どもたち
※このコンテンツは、2019年12月の情報をもとに作成しています。