開発途上国での学校の課題とは《教育格差の現状を知ろう》

2018年に発表された国連児童基金(ユニセフ)の報告書によると現在世界では、およそ3億300万人の子ども(5歳~17歳)が学校に通うことができていません(注1)。これらの多くは開発途上国、紛争災害などのぜい弱な環境に置かれた子どもたちです。中には「教育」を受けるための学校はあるものの、さまざまな理由から学校に行くことができない子どももいます。今回はそんな開発途上国での学校の現状と課題をご紹介します。

開発途上国での学校の現状

コンゴ民主共和国の小学校
コンゴ民主共和国の小学校


まずは開発途上国とはどこの国のことを指すか?どのような国のことを開発途上国と呼ぶのか?開発途上国での教育の現状を見ていきましょう。


開発途上国とは

あなたは開発途上国というとどんな国や場所を思い浮かべますか?世界196の国と地域のうち開発途上国は146に上ります。世界の人口およそ74億人のうち約8割が開発途上国に住む人々で、日本を含めた先進国は少数です(注2)。開発途上国とは以下の2つの定められた基準のうちどちらかに当てはまる国で、経済開発協力機構の発表しているODA(政府開発援助)受け取りリストに記載されている国のことを指します。

1.世界銀行によって「高所得国」以外に分類される国々(2016年時点の一人当たり国民所得(GNI)が12,235米ドル以下の国々)

2.国連によって後発開発途上国(Least Developed Countries)に分類される国々(一人当たり国民所得(GNI)、人的資源指数(HAI)、経済脆弱性指数(EVI)によって判断される)

(注3)


開発途上国は、一人当たりの所得の違いから4つに分類されます。特に開発が遅れている国や地域を「後発開発途上国」と呼び、2018年12月の時点では、47カ国が後発開発途上国とされています。そのうち33カ国がサハラ以南アフリカの国々で、9カ国がアジアとなっています(注4)。

開発途上国や後発開発途上国における子どもの割合は先進国に比べて多く、2050年までの少子高齢化の進行度もアジアや欧州に比べると低いと言われています。出生率を見ても、開発途上国が先進国を上回っていることが多いです(注5)。しかし、一方で5歳未満死亡率の割合が高いことも問題となっています。特にサハラ以南アフリカと南アジアでの死亡率が高くなっており、妊産婦と新生児の死亡数は世界の80%を占めています(注6)。

開発途上国での教育の現状

次に開発途上国での教育の現状について紹介します。開発途上国では小学校から高校までの基礎教育をすべて受けることができない子どもが多く、特にサハラ以南アフリカは世界の中でも識字率の低い地域となっています。西部・中部のアフリカでは識字率が男女ともに70%に満たない数字となっています(注7)。

【西部アフリカの国々】
マリ、ニジェール、ナイジェリア、ガーナ、コートジボワール、ベナン、トーゴ、ブルキナファソ、リベリア、シエラレオネ、セネガル、ギニアビサウ



【中部アフリカの国々】
コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、カメルーン、ガボン、中央アフリカ、チャド、アンゴラ


サハラ以南アフリカでは初等教育の総就学率が男女ともに90%以上ですが、出席率が75%ほどと低く、最終学年を終えて卒業する子どもは半数ほどに減ってしまいます(注7)。

また、開発途上国では就学前教育(幼児教育)を受けている子どもの数も極端に少なく、低所得国では5人に1人にすぎません(注8)。開発途上国では就学前教育の教員が少ないことや義務教育でないこともあるため、費用がかかることなどで多くの子どもが就学前教育を受けることができていません。また、教育を受け始めるタイミングが遅くなるため、就学前教育を受けた子どもとの教育格差もできてしまいます。

開発途上国での学校の課題と要因

水汲み仕事をするマラウイの少女
水汲み仕事をするマラウイの少女

では具体的に開発途上国での学校の課題はどんなものがあるのでしょうか。前述のとおり、開発途上国では学校に通うことができない子どもが多くいます。なぜ子どもたちは教育を受けることが難しいのでしょうか。ここでは開発途上国の学校の課題とその原因を見ていきます。

教育予算の問題

開発途上国における学校運営の大きな課題が、教育予算の不足です。予算が十分にないことで、学校環境や教員の質などに影響が出てしまいます。

多くのアフリカの国々では、政府予算のうち教育費用の配分割合そのものは、国連が推奨している数字を上回っています。しかしながら、学生一人に対する政府の支出は世界でも最も低くなっています。アフリカ諸国では教育予算の多くが教員の給与をはじめとした経常支出にあてられる傾向があるのです。その結果、アフリカ諸国における学生一人あたりの政府支出は、小学校では533ドルとなり、アジア諸国の5分の1に、中学校では925ドルとなり、中南米の半分未満にとどまっています。

また、アフリカ政府の教育への支出は、初等教育と中等教育が75%を占めており、高等教育へは20%ほど、就学前教育や職業訓練などにはわずか数パーセントとなっています(注9)。ユニセフがまとめた就学前教育の報告書によると「少なくとも1年、就学前教育を受けた子供は学校で成功するための可能性を発達させ、留年や中退をする可能性が減少する」と述べられています。

読み書きや計算などのスキルを順調に習得していく可能性が、就学前教育を受けていない子どもの2倍になるという調査結果もあります(注8)。早期教育は未来の子どもの可能性をより広げるための重要な役割を担っていますが、教育予算が十分にないためすべての子どもに行き届いていないのが現状です。

そのため教材や学校施設の改善、教員への研修などが費用が行き届いていないのが現状です。また、教員の給与は決して高いわけではありません。アフリカでは一般的に教員の地位が社会的に低いため、職業として人気がないことや給与の低さが教員自身のやる気にも影響していると考えられます(注10)。

貧困問題

教育と貧困はとても密接なつながりがあります。そのため教育が豊かになれば極度の貧困を根絶できるとも考えられており、貧困が教育の機会を妨げる最大の要因となっています。後発開発途上国では先進国と比較して、初等教育を受けている子どもの割合が低く、中等教育、高等教育と学年が上がるにつれて就学率が下がっていきます。

最貧層の初等教育学齢期の子どもが学校に通うことができない可能性は最富裕層の4倍と言われています(注1)。ここ数年で小学校に入学する割合は増えてきてはいるものの、中退率は依然として高いままで、小学校に入学した約半数が卒業までに中退しています(注7)。


児童労働も子どもたちの教育の機会を奪ってしまう要因の1つです。貧しい家庭では家事などを手伝うために学校を休まなければいけなかったり、学校に通うことができない子どももいます。学校を休むことで学年が上がることができず、留年したり、本来小学校に入学する年齢で入学することができない子もいます。また、学校の授業料を払えないために中退するケースもあります。

子どもたちの周りの環境的問題

子どもたち自身の住む地域によっては、教育に対する理解が乏しいことがあります。女子教育が行き届いておらず、男女間での格差が学校に通う機会をなくしている場合もあります。世界では1億3200万人の女の子が教育を受けられていないというデータもあります(注11)。

日本ではあまり考えられませんが、開発途上国では女の子に教育は必要ないという考えがあったり、児童婚が行われているような地域もあります。通学距離によって教育を受けることができるか左右されてしまう場合もあります。例えば、アフリカの子どもの4人に1人が最寄りの学校が2キロ以上離れているという調査結果もあり、農村地域や低所得国では状況はさらに劣悪になります。このような通学路の問題は、学校の欠席や中退につながってしまう原因になります(注9)。

また、難民や避難民といったぜい弱な環境に置かれた子どもたちも、学校で学ぶことが難しい環境に置かれています。シリアでは2011年から紛争が始まって10年目を迎え、670万人が難民となり、うち550万人が近隣国に避難しています。ヨルダンではこのうち65万以上が避難生活を送っており、その半数以上が18歳未満の子どもです。ヨルダンの学校ではシリア難民の子どもを受け入れていますが、3人に1人は学校に通えていません。二部制の授業を実施していますが、学習時間が足りないことやヨルダンの学校に編入するまでの数年のブランクから授業についていくことができない子どもが多いことが課題となっています。

ワールド・ビジョンが開発途上国の学校と子どもたちのために行っている活動

小学校で学ぶ子どもたち(コンゴ民主共和国)
小学校で学ぶ子どもたち(コンゴ主共和国)校

私たちワールド・ビジョンでは世界の子どもたちが教育を受けることができるよう、開発途上国の教育や学校の支援活動を行っています。ワールド・ビジョンが取り組んでいる具体的な活動内容と私たちにできることについて考えていきます。

開発途上国における学校支援の活動について

私たちは、開発途上国での学校環境の改善や教育の質を向上するため活動しています。開発途上国の人々の中には、教育の必要性をしっかりと理解していない大人もいます。そのため、教育の重要性を啓発する運動を行っています。ここではコンゴ民主共和国の学校で行っている取り組みをご紹介します。

コンゴ民主共和国のカンボブ地域開発プログラム
コンゴ民主共和国は中部アフリカに位置する国で、いまだに内戦や隣国との紛争が続く地域があります。そのため国土は荒廃し、行政のサービスも機能せず教育に充てる予算がないのが現状です。既存の学校は老朽化が激しく、学習環境や設備が整っていません。ワールド・ビジョンでは、コンゴ民主共和国にあるカンボブという地域で活動を行っています。

この地域は鉱山の町で、住人は発掘作業や農業などで生計を立てています。カンボブ地域では児童の数に対して学校の数が少なく、校舎の老朽化が進んでいることが問題でした。また、授業料を払えないために中退したり、鉱山で働いたりする子どももいました。そのため私たちは保護者への教育の重要性を伝える啓発活動を行っています。

また、学校の設備の修繕や教員への指導力向上のための研修を行いました。ある男の子は14キロの道のりを毎日に歩いて学校に通っていましたが、学校が近くにできたことで成績も上がりました。50人の子どもを持つ親が教育の重要性を学び、そのうち47人の子どもが学校に通うようになりました。

「教育」は未来を担う子どもたちに必要不可欠なものです。国連の事務総長が「教育に投資することは、経済開発を推し進め、若者たちのスキル向上と機会創出を促進するために最も費用対効果の高い方法であり、持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のすべてを前進させる鍵となります。

教育のために資金を調達することは、私たちができる最前の投資なのです(注12)」と述べているように、質の高い教育をすべての人に平等に届けることは様々な問題を解決する糸口となり、その恩恵は世界の子どもたちだけでなく、私たちにも大きく関係することなのです。

開発途上国の子どもたちのためにできること

日本のチャイルド・スポンサーへの手紙をもつベトナムの子どもたち
日本のチャイルド・スポンサーへの手紙をもつベトナムの子どもたち

ワールド・ビジョンでは「チャイルド・スポンサーシップ」を通じて、開発途上国の子どもたちに向けた支援活動を行っています。

「チャイルド・スポンサーシップ」は寄付を行うだけではなく、開発途上国の子どもとつながりを感じることのできる点が特徴です。例えば、「チャイルド・スポンサー」になると、年に1度、子どもの成長をうかがえる写真や支援を行っている活動の報告書が送られてきます。また、あなたから手紙を送ったり、実際に会いに行くことも可能です。年に一度、団体の活動状況と寄付金の使い道を記載した年次報告書も届きます。

特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンは2002年5月1日、国税庁により「認定NPO法人」として認定され、その後のNPO法の改正を受け、2014年8月1日に東京都により改めて認定されています。皆さまからの支援金が寄付金控除等の対象になります。

世界にはまだ、明日の生活が困難な子どもたちが多く存在します。
・学校に通えない子ども
・児童労働を強いられる子ども
・安全な水が飲めない子ども

私たちはこれからも「チャイルド・スポンサーシップ」を通じて、これらの問題を抱える子どもたちの未来を紡ぐ活動を行っていきます。

ぜひこの機会に、あなたも「チャイルド・スポンサーシップ」にご参加ください。
(1)今、あなたの力を必要とする子どもたちが待っています。
(2)今、子どもたちはあなたの力を必要としています。
(3)あなたの力は、未来の希望へつながります。

リンク1日150円からできる支援。チャイルド・スポンサーシップとは



※このコンテンツは、2020年7月の情報をもとに作成しています。

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