万人のための教育(EFA)とは|背景や成果、ESDとの違いまで

世界の解決すべき問題のひとつに「教育」があります。教育はあらゆる課題を解決するために必要な横断的要素であり、より良い社会をつくっていくうえで欠かせないものです。

これまで国際機関や先進国を中心に、この教育問題を解決するために取り組んできました。その際に掲げられてきたスローガンのひとつに「万人のための教育(Education for All: EFA)」があります。

これまで国際社会で行われてきた教育支援の歴史を理解できるだけでなく、これからの教育支援のあり方についても考える上でも重要なEFA。EFAが誕生した背景や成果、ESDとの違いについて見てみましょう。

万人のための教育(EFA)とは

ニジェールの学校に通う子どもたち
ニジェールの学校に通う子どもたち


「万人のための教育(Education for All: EFA)」とは、世界中の人々が読み・書き・計算などの基本的な教育を受けることができる状態を目指すために宣言されたスローガンです。このEFAが登場した時代的背景や当時の課題、EFAの具体的な内容と成果について解説します。


背景・課題

EFAが採択されたのは、1990年にタイで行われた「万人のための教育世界会議」でのことです。この会議が行われた背景には、1980年代に世界銀行やIMFによって実施された「失われた10年」とも呼ばれる構造調整計画による途上国開発の失敗がありました。

当時、貧困問題が開発途上国にとって大きな課題となっており、世界銀行などはそれらの国々の経済や環境、社会のあり方などを変革しようと尽力しました。しかし、実際はサブサハラアフリカやラテンアメリカの国々を中心に、経済の停滞や後退を引き起こしてしまいます。

そのような中で開催された同会議では、社会を変革していくためには教育こそが重要な役割を果たすべきと強調され、EFAが採択されることになりました。

EFAの前文では、1億人以上の子どもが初等教育を受けられていないこと、9億6000万人以上の成人が読み書きができないことなどが言及され、全世界の人々への教育の機会の提供が呼びかけられています。

この会議は、ユネスコやユニセフ、国連開発計画、世界銀行の4国際機関が初めて共同開催したという点でも、その後の開発に大きな影響を与えることになります。

取り組み・内容

1990年に宣言されたEFAでは、2000年までに達成すべき目標として「行動のための枠組み」を採択し、就学前教育の拡充や成人非識字率の半減など、6つの目標を定めました。(注1)

しかし、目標達成の期限であった2000年時点で、一定の成果は見られたものの、ほとんどの目標は達成されませんでした。

そこで2000年にセネガルのダカールで開催された「世界教育フォーラム」では、新たに「ダカール行動のための枠組み」が発表され、2015年まで達成すべき目標として以下の6つが宣言されました。(注1)

1. 就学前教育の拡充
2. 2015年までにすべての子どもに対して無償義務初等教育修了の普遍化
3. 青年や成人の学習ニーズに応じた教育機会の保障
4. 2015年までに成人識字率(特に女性)の50%改善の達成・成人の基礎教育への公平なアクセスの保障
5. 2005年までに初等・中等教育における男女格差の解消・2015年までに教育のジェンダー平等の達成
6. 教育の質の改善



これらの目標の達成に向け、ユネスコやユニセフ、国連開発計画、世界銀行が中心となり、各国政府とともに問題の解決へと取り組んでいくことになりました。

成果と具体例

2000年に宣言された「ダカール行動のための枠組み」は、各国が協調して行動する指針ができたという点で大きな意味を持ちました。

たとえば、さまざまな知見や研究結果が共有され活用することができたり、EFAの目標達成に向けた進捗状況をモニタリングして報告する仕組みができたことで、戦略的にEFAを推し進めることにつながりました。

また、ユネスコが2015年に発表した「EFAグローバル・モニタリング・レポート2015(注2)」では、各目標の達成状況に対する成果が報告されました。以下は、その一部です。

・世界の就学前教育の就学者数は、1999年から2012年は3分の2増加し1億8,400万人となった。
・初等教育純就学率は、1999年の84%から2015年には93%を達成する見込み。
・成人の非識字率は、2000年の18%から2015年には14%下がる見込み。
・初等教育レベルでのジェンダー格差は、2015年までに69%の国で解消する見込み。
・初等教育における教師一人あたりの児童数は、83%の国で減少した。


このように、EFAは15年間で一定の成果を出しました。しかし、当初掲げた目標達成には程遠いものばかりであり、以下のような課題が多く残されることになります。

・不就学児童の数は約5,800万人と、足踏み状態にある。
・低中所得国の子どもの6人に1人(約1億人)が初等教育を修了していない。
・2000年に識字率が95%以下だった73カ国のうち、2015年までに半減できたのはわずか17カ国。
・サブサハラアフリカの国(ギニア、ニジェール)における2010年の不就学児童の割合は、再富裕層の男子が20%未満であるのに対し、最貧困層の女子では70%超だった。
・3分の1の国で、訓練を受けて国家基準に達した小学校教員の割合が75%未満。

万人のための教育(EFA)とESDの違い

熱心に勉強に励むジンバブエの子どもたち
熱心に勉強に励むジンバブエの子どもたち

ところで、教育を語る際に「万人のための教育(EFA)」とともによく耳にする言葉に「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)」があります。ここでは、このEFAとESDの違いについて説明します。

ESDとは

ESDとは、国際社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組むことにより、その課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出し、持続可能な社会を創造することを目指す学習や活動です。(注3)

そもそも「持続可能な開発」という言葉が急速に広がったきっかけとなった出来事が、1992年に国連が開催した国連環境開発会議(地球サミット)でした。この国際会議で議題の中心に挙がった気候変動問題の解決のために、地球環境等に配慮した開発、すなわち「持続可能な開発」の必要性が叫ばれたのです。

持続可能な開発の実践のためには、人々が多様な問題を認知し、具体的な行動に移すことができるようにならなければなりません。このような議論のもと、ESDが生まれたのです。

ふたつの概念の共通点と違い

EFAもESDも、教育を人権の一つとして捉え、それを享受していない人々に対してその権利を推進することで、質の高い生活(QOL)の向上や貧困の削減などを目指し、教育の質の向上にコミットしている点で共通しています。

しかし、それぞれが主に対象としている「教育」に注目した場合、両者はやや異なります。

EFAは、より多くの人々がアクセスできる基礎教育、すなわちフォーマルな教育プログラムの提供を対象にしています。一方でESDは、フォーマルな教育に加え、一般の人々の認識や理解の向上を目的とした研修や学習機会、すなわちノンフォーマルな教育もカバーしています。つまり、EFAに比べ、ESDはより広範な目的を有していると言えます。

したがってEFAは主に、基礎教育が無償で提供されていないことの解消を目指す一方で、ESDはこれまでの教育の在り方自体に疑問の余地があるという立場をとり、貧困などの社会課題を生まない持続可能な社会を目指すことにコミットした教育への転換を目指しています。

このようにEFAとESDには相違点があり、互いに対立する部分もある一方で、教育の質を向上させるという共通の目的があるため、両者が統合していくことでの相乗効果も期待されています。

万人のための教育(EFA)の現状

ウガンダの学校に通う子どもたち
ウガンダの学校に通う子どもたち

EFAは2000年に宣言された「ダカール行動のための枠組み」を最後に、新たな目標は宣言されていません。しかし、EFAの考え方は2000年の「ミレニアム開発目標(MDGs)」、そして2015年の「持続可能な開発目標(SDGs)」へと受け継がれる形で、現在もその取り組みが続いています。

MDGsからSDGsへ

2000年に国連が開催した「ミレニアム・サミット」において宣言されたMDGsは、貧困削減のための取り組みに対する目標を定めたものです。その8つある目標の中に、EFAの目標にも掲げられていた「初等教育の完全普及」と「教育のジェンダー平等達成」の2つが取り入れられました。(注4)

さらには、2015年に国連が開催した「持続可能な開発サミット」では、MDGsの後継として「持続可能な開発目標(SDGs)」が宣言されました。

このSDGsで掲げられた2030年までに達成すべき17の目標のうち、目標4「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」において、EFAの理念は引き継がれています。

その内容は、これまでのEFAの目標よりもさらに踏み込んだ内容になっています。たとえば「ターゲット4.1」では、フォーマル教育の無償化を中等教育段階まで引き上げました。「ターゲット4.5」では、ジェンダー格差だけでなく、障がい者なども含めたより包括的な目標になっています。

その他にも、就学年数ではなく獲得した知識やスキルで測定することや、ESDの考え方も含めた持続可能な開発を促す教育の促進を念頭に置いた文言も加わりました。

今も続く教育問題

SDGsの目標達成に向けた取り組みは現在も続いていますが、その達成まではかなり険しい道のりとなっています。特に2020年に起こった新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、状況をさらに厳しいものとしました。

2020年に国連が発表した「SDGs報告2020」では、2030年までの目標達成の見通しについて次のように報告されています。(注5)。

  • 新型コロナウイルス感染症以前で、2030年になっても学校に通えない子どもは世界で2億人以上いる見通し。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響により、休校によって90%の児童・生徒は学校に通えず、教育分野での数年分の前進が帳消しに。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響により、低所得国における子どもの学校教育の修了率の格差は拡大(富裕層で79%、貧困層では34%)。
  • 少なくとも5億人の児童・生徒がオンライン学習を依然として受けられていない。

このように、新型コロナウイルス感染症の影響もあいまって、世界の教育問題の現状はむしろ悪化しているのです。

万人のための教育(EFA)に関するワールド・ビジョンの活動

シリア難民の少女と話すワールド・ビジョン スタッフ
シリア難民の少女と話すワールド・ビジョン スタッフ

ワールド・ビジョンはこれまで、EFAの目標達成のためにさまざまな取り組みを行ってきました。

ワールド・ビジョンの取り組み

ワールド・ビジョンは、最貧国と呼ばれる国々の子どもたちが平等に教育を受けることができるよう、チャイルド・スポンサーシップを中心とした取り組みを通じて、子どもたちが教育を受けることができる環境づくりに貢献しています。

たとえばウガンダで行われているキルヤンガ地域開発プログラムでは、子どもたちの教育を受ける環境を整えるために、2019年までに3つの教室と5つの簡易トイレを備えた小学校を建設しました。

その結果、学校の在籍人数も174人から276人にまで増加しただけでなく、それまで教室が無く、外で授業を受けざるを得ない環境で学んでいた子どもたちは、清潔で安全な学習環境を手に入れたことで、学びの質も改善されました。

資料請求をして世界の現状を知ろう

教育の問題とは、決して最貧国だけの問題ではありません。これらの問題を解決するためには、私たち一人ひとりの意識や行動を変えることが必要です。そのために私たちが行うべき最初の一歩は、その問題や現状を「知ること」です。

自分自身が知り、誰かに伝えることで、問題を認知する人は広がっていきます。その広がりはやがてその問題を解決するための大きな力になっていきます。

私たち一人ひとりは微力ですが、決して無力ではありません。

まずは、「知ること」から始めてみませんか?

ワールド・ビジョンでは、世界のさまざまな問題やそれに対する取り組みをまとめた資料をお配りしています。皆さま一人ひとりが世界の問題や現状を「知るため」のきっかけとして、ご活用いただけます。詳しくは、「伝える・広める」をご覧ください。

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参考資料

注1 JICA:万人のための教育(EFA)への挑戦:日本のODAに対する提言外部リンク
注2 ユネスコ:EFAグローバル・モニタリング・レポート2015外部リンク
注3 文部科学省:ESD(Education for Sustainable Development)外部リンク
注4 国際連合広報センター:MDGsの8つの目標外部リンク
注5 国際連合広報センター:持続可能な開発目標(SDGs)報告2020外部リンク


※このコンテンツは、2020年11月の情報をもとに作成しています。

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