難民の数は年々増加しているといわれています。難民となった人々は、どこに行くのでしょうか。難民の受け入れ先と海外の反応についてまとめました。
難民とは、どのような人たちのことを指すのでしょうか。難民の定義と数、生活について解説しましょう。
国連広報センターによると(注1)難民とは「迫害のおそれ、紛争、暴力の蔓延など、公共の秩序を著しく混乱させることによって、国際的な保護の必要性を生じさせる状況を理由に、出身国を逃れた人々」を指します。難民条約(注2)でも、国境を越えて逃れた人々を難民と定義しています。
同じように迫害や紛争に直面しながらも、国境を超えることができずに国内で避難生活を送っている人々は、国内避難民と呼ばれています(注3)。しかし、国境を越えていないために難民の定義から外れてしまい、支援の対象外になってしまうことが問題になっています。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、2018年のプレスリリース(注4)で「2018年、紛争や迫害によって故郷を追われた人の数は7,000万人を超えました。これはUNHCR 創設以来、この 70年で最高レベルの数値です」と発表しました。
7000万人という数は「強制移動」を余儀なくされた人々の数です。その内訳は、「難民2590万人」「庇護申請者(難民認定を待っている人々)350万人」「国内避難民4130万人」となっています(注4 P1)。これらのデータは2018年末のもので、2019年に入ってすぐに発生したベネズエラ危機の避難民は含まれていません。ベネズエラ国外に逃れた人は400万人と言われています(注4 P1)。実際はさらに深刻な状態と言えるでしょう。
難民はどのような生活をしているのでしょうか。UNHCRのプレスリリースによると、難民に関する重点ポイント(注4 P2)で次のように述べられています。
難民の半数が子どもで、6割が都市部に暮らしています。難民の3分の1は最貧国に集中しており、5人に1人は避難生活が20年以上という結果でした。難民の多くはとても長い間、辛い生活を強いられているのです。
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どのような国が難民を受け入れているのでしょうか。難民に対する海外の反応にはどのようなものがあるのでしょうか。ドイツとトルコを例に、難民受け入れの経緯や現状をまとめました。また、国連加盟国による難民支援の動きも見てみましょう。
外務省が平成30年にまとめた「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の概要」(注5 P2)に掲載されている拠出額の資料によると、ドイツのUNHCRへの拠出額は常に上位であることがわかります。2013年は拠出額7位でしたが、2016年には3位になり、2017年はアメリカに次いで2位になっています。
ドイツは2015年、EUの「ダブリン協定」を破り、ハンガリーに押し寄せた中東やアフリカの難民を受け入れました。ダブリン協定とは「EU域内で最初に入った国で難民申請をしなければならない」というものです(注6)。
UNHCRが発表した「グローバルトレンズ2018」(注7P17)には、難民受け入れ国上位10カ国がリストアップされています。1位はトルコで、パキスタン・ウガンダ・スーダンと続き、ドイツは5位です。そのあとはイラン・レバノン・バングラデシュ・エチオピア・ヨルダンとなります。先進国ではドイツだけが10位以内にランクインしているという現状です。
トルコは世界最大の難民受け入れ国です。2011年に勃発したシリア内戦により、国外へ逃れた難民は2019年までに500万人から600万人と言われています。シリアの隣国であるトルコが受け入れたシリア難民の数は、360万人に膨れ上がっているのです(注8)。
トルコにおける難民受入れの状況を見てみると、難民の95%が難民キャンプ以外で生活しているとのことです。キャンプ外のシリア人は、概ねトルコ人と問題を起こさずに生活しているようです。また、トルコ人はシリア人を兄弟として受け入れている様子もレポートされています(注9P4)。
しかし難民は、受け入れ国での生活が落ち着いたように見えても、常に世界情勢に翻弄されています。2019年10月、トルコが国境を越えてクルド人武装組織を攻撃しました。それをEU諸国が非難したところ、トルコの大統領は「360万人の避難民をEU諸国に送る」と反発しました。トルコは難民の事実上の防波堤になっており、難民がEUに流れるのを防いでいるのです。シリア難民360万人が、国際情勢の中で取引材料のように扱われているのです(注10)。
国連は、2018年12月に「難民に関するグローバル・コンパクト(注11)」を採択しました。その理由は次の通りです。
「各国が現在行っている支援やそれぞれのキャパシティとリソースを考慮しつつ世界の難民を受け入れ、支援する上で、負担と責任をより公平に分け合うことが急務となっている。難民と難民を受け入れる地域コミュニティが、置き去りにされるようなことがあって はならない。」(注11 P1)
難民に関するグローバル・コンパクトは、日本など181カ国が賛成して採択されました。現政権で難民の受け入れに消極的な米国とハンガリーは反対票を投じたのです。ドミニカ共和国・リビア・エリトリアは棄権。難民に関する海外の反応としては、国連加盟国の中でも意見が様々に分かれているということがわかります。
日本の難民受け入れと聞くと、インドシナ半島のボートピープルを思い出す人も多いのではないでしょうか。日本は現在も難民を受け入れているのか、気になるところです。難民問題に対する日本の現状と課題をまとめました。
法務省のデータによると、平成30年度に日本で難民認定を申請者したのは10,493人。そのうち難民として認定されたのは42人、難民とは認められないものの人道的な配慮を理由に在留を認めた外国人が40人という結果でした(注12)。日本で難民認定を受けるのは難しいという印象です。
日本政府が難民受け入れを始めたのは1978年、インドシナ難民が対象でした。2006年までに約11,000人を受入れ、その多くは神奈川県、埼玉県、兵庫県などで暮らしています(注13)。また、日本は2010年より「第三国定住」のパイロットプログラムを開始しました(注14)。これはアジア地区では初めての事例です。日本の難民認定は厳格であると言われていますが、政府や市民の取り組みによって、改善に向かっていると言えるでしょう。
日本によるUNHCRへの拠出額は、常に上位に位置しています(注5 P2)。2013年はアメリカに次いで2位でした。2017年は、アメリカ・ドイツ・EUに次いで4位。2018年度には5位になり、国連難民高等弁務官は「日本の寛大な支援に感謝している」と言いつつも「まだ向上の余地がある」(注15)と述べています。
日本は難民条約加入国であり、難民条約に記されている「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがある」という難民の定義をほかの国に比べて厳格に守っています(注16)。今日では武力紛争や人権侵害などを逃れるために国境を越えて他国に庇護を求める人々のことも指すようになっています(注17)。しかし、難民条約の定義を厳格に守ることで、日本では紛争から逃れて避難した人を難民として認められないのです。また、日本は偽装難民を防ぐためにも、難民受け入れを厳格にしています(注18)。これらの理由から、日本の難民受け入れ人数は極端に少ないという結果となっています(注19)。日本は難民受け入れに消極的であるという見方もあり、今後の課題とも言えるでしょう。
難民問題は遠い国の話。そのような印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。難民は毎年増加しています。辛い状態にある難民の人々に対して、日本にいる私たちにできることは何でしょうか。
まず、一番大切なのは難民を"知る"ことです。支援団体のHPには、難民に関する記載があります。ワールド・ビジョンも、世界の難民危機と子どもたちについて、様々な視点からレポートしています。
支援団体が実施する、難民に関するイベントに参加するのも良いでしょう。実際に難民支援の現場にいた人の話を聞いたり、パネルを見たりするのは、難民の現状を知り身近に感じる事ができる、とても良い手段の一つです。ワールド・ビジョンでは、シリア難民支援の活動報告「難民の子ども×教育=子どもたちが豊かな夢を描ける世界」を実施しました。他にも様々なイベントを実施しており、支援が実際にどのように行われているかを知ることができます。
これまで実施した難民理解のイベントは、次の通りです。
・難民の子ども×教育=子どもたちが豊かな夢を描ける世界(開催報告)
・難民ユースシンポジウム2019
・「難民とともに生きる」を支援現場の最前線から考える「世界難民の日」特別シンポジウム
・開成高校×WVJ特別講演会「難民問題は、じぶんごと?」
・未来ドラフト2019 わたしと難民がつながるアイディア・コンペティション
・未来ドラフト2018 わたしと難民がつながるアイディア・コンペティション
ワールド・ビジョンは難民支援にも力を入れており、その時々の実状に即したプログラムを実施しています。危険とされている地域にいち早く入り、まずは命を守る緊急支援を実施。そして、傷ついた心のケアや、よりよい未来を描く力をつけるため、長期的な支援を行っていきます。支援の手がとどきにくい国内避難民も支援の対象にしています。
【シリア】紛争により深刻な被害を受けた南西部で、教育支援事業を開始しました
ワールド・ビジョンは、難民のなかで最も弱い立場の子どもたちを対象に支援活動を実施しています。難民の半分は18歳未満の子どもです(注4 P2)。難民の子どもたちの多くは、教育の機会や安全に過ごせる場所が与えられていません。基礎学力に乏しくなり、暴力や虐待、児童労働や早婚などのリスクにさらされているのです。紛争などの影響で子どもらしい生活を奪われるばかりか、兵士として過ごさなければならなかったケースも沢山あるのです。明るい未来を描くことができない子どもたちが、とても多いのです。
この活動は、皆さまからの募金によって成り立っています。難民支援へのご協力をお待ちしています。
※1 国際連合広報センター:難民と移民の定義
※2 UNHCR:難民条約について
※3 OCHA:国内避難民
※4 UNHCR:プレスリリース
※5 外務省資料:国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の概要
※6 法政大学:難民受け入れ国としてのドイツ
※7 UNHCR:グローバルトレンズ2018
※8 JICA:JICA、UNHCR共催「トルコにおけるシリア難民支援セミナー」
※9 JICA:トルコにおけるシリア難民受入
※10 時事ドットコム:難民再流入を警戒=トルコ軍事作戦-欧州
※11 UNHCR:難民に関するグローバル・コンパクト
※12 法務省:平成30年における難民認定者数等について
※13 UNHCR:日本の難民認定手続きについて
※14 UNHCR:第三国での生活の新しいスタート 日本の第三国定住パイロット事業
※15 時事ドットコムニュース:日本、もっとできる=かつて2位、今は5位-国連難民弁務官
※16 日テレNEWS24:難民受け入れ、日本で少ないワケ 偽装も・・・
※17 UNHCR:難民とは?
※18 nippon.com:「偽装難民」の就労認めず=認定制度の運用厳格化-法務省
※19 nippon.com:日本の難民認定:2018年も申請の1%に届かず―わずか42人
※このコンテンツは、2019年10月の情報をもとに作成しています。