ウガンダはなぜ難民受け入れ大国なのか?内戦の歴史と難民政策を解説

紛争や迫害などを理由に故郷を追われる人々の数は年々増加を続けており、アフリカでは現在も南スーダン、コンゴ民主共和国、ソマリア、スーダン、中央アフリカ、エリトリアなど多くの国々から多数の難民が流出しています。

多くの難民は母国より少しでも情勢が安定している近隣国へ避難するため、世界の難民のうち実に86%を低~中所得の国々が受け入れているのが現状であり、アフリカのウガンダも主要な難民受け入れ国の一つとなっています。

この記事では、ウガンダの難民受け入れの状況を最新のデータと共に紹介し、過去にはガンダ自身が難民を生み出していた歴史を振り返りながら、その特徴的な難民政策を概説します。ウガンダで避難生活を送っている難民のためにどういった支援が行われているのかも詳しくお伝えしますので、アフリカの難民たちのために何ができるのかを考えるきっかけにしていただければ幸いです。

ウガンダの難民受け入れ状況:人数の推移や出身国

南スーダンからウガンダに逃れてきた男の子
南スーダンからウガンダに逃れてきた男の子

はじめに、ウガンダにどういった国々からどのくらいの難民が避難しているのかを把握するため、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の最新のデータを使って、ウガンダの難民受け入れ状況を見ていきましょう。

ウガンダはアフリカ一の難民受け入れ大国

東アフリカに位置するウガンダは、2020年時点で世界第4位の難民受け入れ国となっています(注1 p.19)。第1位はトルコ、第2位はコロンビア、そして第3位はパキスタンですので、ウガンダはアフリカ地域では最大の難民受け入れ国です。

ウガンダが多くの難民を受け入れている主な理由として、アフリカ地域で近年特に多くの難民を生み出している南スーダンに隣接していることが挙げられます。南スーダンでは内戦の影響で膨大な数の人々が避難を余儀なくされており、2020年末時点で約219万人が難民となって他国に避難しています(注1 p.18)。ウガンダは南スーダン難民の最大の受け入れ国でもあり、89万人弱の南スーダン難民がウガンダに避難しています(注2)。



ウガンダの難民受け入れ数の推移

現在は世界第4位の難民受け入れ大国であるウガンダですが、昔から一貫して多くの難民を受け入れていたわけではありません。

次のグラフは、UNHCRが公開している1961年から2020年までのウガンダの難民受け入れ数をグラフにしたものです(注3)。


2013年頃までは、多い時でも20~30万人前後で全体的に大きな変化なく推移していますが、2014年頃から急激な増加が始まっていることがわかります。2014年からの3年間だけで実に100万人近くも受け入れ難民数が増加し、2017年には135万人に達しています。その後、一旦は減少したもののすぐにまた増加に転じ、2020年には過去最高の142万人を突破しました。

2014年以降の急激な増加は、南スーダンからの大規模な難民流出と時期がほぼ重なります。



ウガンダが受け入れている難民の出身国

ウガンダの難民受け入れ数の変化には南スーダン難民の急増が関係していることがグラフから読み取れましたが、ウガンダには南スーダン以外にも多くの国々から逃れてきた難民がいます。

UNHCRの2020年末時点のデータでは、合計20以上の国から逃れてきた難民がウガンダで避難生活を送っていることが示されています(注4)。次の表は、これらの国々のうち、受け入れ人数の多い10カ国をまとめたものです。

難民出身国ウガンダでの難民受入数ウガンダの総受入数に占める割合
南スーダン

88万7,452人

62.45%
コンゴ民主共和国 41万7,407人 29.37%
ブルンジ 4万8,466人 3.41%
ソマリア 3万7,536人 2.64%
ルワンダ 1万5,978人 1.12%
エリトリア 8,650人 0.61%
スーダン 2,790人 0.20%
エチオピア 2,222人 0.16%
パキスタン 235人 0.02%
ケニア 204人 0.01%


それぞれ北側と西側でウガンダと国境を接する南スーダンとコンゴ民主共和国からの難民の数が突出して多く、ウガンダが受け入れている全ての難民の9割以上がこの2カ国からの難民となっています。

その一方で、直接国境を接していないブルンジやソマリア、エリトリア、スーダン、エチオピア、そして少数ながら遠く離れたアジア地域のパキスタンからも、難民を受け入れていることがわかります。

ウガンダ内戦など難民に関わるウガンダの歴史と難民政策

おかゆを食べる難民の子ども
おかゆを食べる難民の子ども

ウガンダがアフリカ最大の難民受け入れ国となった背景には、ウガンダの特徴的な難民政策が関係していると考えらます。ここでは、かつては自らが多くの難民を生み出していたウガンダの歴史を振り返り、現在の難民政策が生まれた経緯に目を向けながら、この政策がどんなものかを解説します。

ウガンダ難民と国内避難民の数の推移

先ほど、ウガンダで避難生活を送っている他国出身の難民の数をご紹介しましたので、今度は他国で避難生活を送っているウガンダ難民の数を見てみましょう。
UNHCRが公開している1973年から2020年までのウガンダ難民の数をグラフにすると、次のようになります(注5)。



2008年以降は1万人未満で大きな変化なく推移していますが、1979年から急激に難民が増加し、1986年まではおよそ20~30万人規模のウガンダ難民が国外に避難していたことが示されています。その後、1988年には難民数が激減し、2万人程度に落ち着いていますが、1990年と1997年の2度にわたって一時的に5万人を超える規模にまで増加するなど、2000年代初頭まで増減を繰り返していたことがわかります。

1980年代にウガンダから大量の難民が流出し、その後も比較的小規模ながら断続的に難民が発生していた背景には、どういったいきさつがあったのでしょうか。



ウガンダ内戦:神の抵抗軍と子ども兵問題

1962年に宗主国イギリスから独立したウガンダは当初王制を敷いていましたが、軍を率いた首相によるクーデターを経て1967年に共和制に移行すると、1971年には再びクーデターが起きて軍司令官が新たな大統領に就任しました(注6 p.2)。この政権は一部部族を虐殺するなど独裁色を強め国際社会からも孤立していき、1978年には同政権が隣国タンザニアに派兵したことでタンザニア・ウガンダ戦争が勃発しました。すると、タンザニアやケニアに亡命していたウガンダ人が結集してタンザニア軍と共にウガンダへ侵攻し、翌1979年にウガンダの政権は崩壊しました(注7 p.60)。

政権崩壊を受けて実施された1980年の選挙では、1971年のクーデターで失脚した元大統領が政権に復帰しましたが、この政権が一部地域出身の軍隊に依存して独裁色を強めたことで、ウガンダは内戦状態に突入しました(注8 p.217-218)。最終的に、現在の大統領が率いるゲリラ部隊が1986年に首都カンパラを陥落させ、それ以降今日に至る長期政権を築きました(注8 p.219)。現大統領もまた、タンザニアで亡命生活を送っていた一人ですので、現在のウガンダは、国外で亡命生活を送っていた人々によって築かれたと見ることもできます。

1986年に内戦は終結したかに見えましたが、元大統領たちの出身地域である北部の兵士たちは、長年対立関係にあった新政権への反発から抵抗運動を始めます。こうして、国際テロ組織にも指定されている「神の抵抗軍(LRA)」など北部の反政府勢力と政府軍の間で、およそ20年にわたる北部地域での紛争が始まりました(注9)。

LRAは兵士不足を補うために子どもたちを誘拐して「子ども兵」として戦わせたり、少女を性奴隷にしたり、地域住民を殺害したりといった残虐行為を繰り返し、やがて国際刑事裁判所(ICC)の調査対象となりました(注8 224頁)。さらに、政府側も住民を強制的にキャンプに移住させるなどの対応をとったため、ウガンダ北部における紛争は「世界最悪の人道危機」と呼ばれるほどの惨状を呈しました(注10 序文(p.3))。

LRAは、誘拐した子どもたちが村に逃げ帰ることができないようにするため、子どもたちに自分の家族を殺させることがありました。元子ども兵の中には、これが理由となって故郷で疎外されてしまい、社会復帰ができずにいる人たちが今も大勢います(注11)。内戦は終結したものの、内戦が生んだ子ども兵問題は今も続いているのです。



ウガンダの難民政策:難民キャンプでなく難民居住地

このように、過去には内戦や一部地域での紛争により多くの難民を生み出していたウガンダですが、現在はアフリカ最大の難民受け入れ国となりました。難民受け入れ数の多さには、ウガンダの寛容な難民政策が関係しています。

ウガンダでは、難民の暮らす地域は「難民居住地」あるいは「難民居住区」と呼ばれ、多くの国で採用されている「難民キャンプ」よりも大幅な自由が認められています。具体的には、2006年と2010年に成立した法律により、難民は移動の自由を認められ、就業や教育、医療サービス、さらには起業の権利を保障されています。これに加え、難民たちが仮設住宅を建てて作物を育てられるよう、ウガンダ政府は難民に土地を提供しています(注12 p.11)。これにより、難民たちはウガンダ市民と同等の権利を享受できるだけでなく、経済的に自立することが可能となるのです(注13)。

このことから、人道支援の専門家たちは、難民に門戸を開くウガンダの政策を「世界一寛容な」難民政策だと賞賛しています。実際に、ウガンダに逃れた難民の中には、事業を興してウガンダ人を雇用している人々や、農業を通じて食料の生産増に貢献している人々、専門職として活躍している人々がいます。UNHCRのアフリカ部長が「他の国々にもウガンダと同じモデルを踏襲するよう促そうとしている」と語っているとおり、ウガンダの難民政策は世界の模範と考えられています(注13)。

ウガンダで避難生活を送る難民への支援

ワールド・ビジョンの支援を受ける南スーダン難民の人々
ワールド・ビジョンの支援を受ける南スーダン難民の人々

こうした寛容な難民政策のもと、ウガンダで避難生活を送る難民たちに対してどのような支援が展開されているのでしょうか。日本による支援活動やワールド・ビジョン・ジャパンの取り組みから、支援の現状を知ってください。

ウガンダに避難した難民への支援の状況

ウガンダは難民と地域住民の平和的共存を掲げており、難民は近隣地域に住むウガンダ人住民たちと共に生活するというアプローチが採られています。このため、難民もウガンダ人住民も同じ医療機関を利用し、双方の子どもたちが同じ学校に通います(注12 p.11)。

2017年に成立した「包括的難民対応枠組(CRRF)」では、難民と受入地域住民の自助自立、そして双方に対する地域でのサービス提供の強化に特に重点が置かれています(注12 p.11)。こうした方針に沿って、全国および地域別の開発計画にも、難民関連の施策が盛り込まれています(注12 p.12)。

一例として、2021年4月には、ウガンダのジェンダー・労働・社会開発に関する省庁が「ウガンダの難民と受入地域住民のための仕事と生計統合対応計画」を発表しました。この計画では、「難民と受入地域住民が2025年までに持続可能な形で社会的、経済的そして財政的に地域開発に統合される」という目標が掲げられています(注14 p.9)。



ウガンダにいる難民のための日本の支援

ウガンダ政府の政策的リーダーシップのもと、日本もウガンダに避難している難民への支援を行っています。

近年、ウガンダに避難してくる難民の数が急増したことを受け、ウガンダ政府は財政難に陥っています。難民の流入により公的サービスの需要が急増し、学校に大勢の子どもたちが詰め込まれるような状況が起きているのです(注15)。

そこで、日本の国際協力機構(JICA)は、難民が流入している地域において、地方政府の開発能力を強化するための支援を行いました。この支援事業は、地方政府の担当者に「開発計画ツール」を紹介する研修を行い、村から上がってくる要望の優先度を客観的に評価し、優先度の高い事業を実施できるよう促すものです(注15)。

JICAはこのほかにも、難民と受入地域住民双方を対象にした稲作研修を実施してきました(注15)。難民と受入地域住民の自助自立を目指すウガンダ政府の方針に合致した、平和的共存のための生計向上支援であると言えるでしょう。



ワールド・ビジョン・ジャパンのウガンダでの難民支援

ワールド・ビジョン・ジャパンは、2016年以降に多数の南スーダン難民が避難してきたことで「世界最大の難民居住地」となったウガンダのビディビディ難民居住地において、子どもたちのための支援を行っています。この居住地では、一時29万人もの難民が暮らしていましたが、その70%以上が17歳以下の子どもでした(注16)。

ワールド・ビジョンは、居住地内にチャイルド・フレンドリー・スペース(CFS)と呼ばれる施設を整備。この施設で、3~9歳の子どもたちには、安全に遊び学べるように就学前教育プログラムを提供し、学校に通う機会を失っていた10代の子どもたちには、小学校低学年のカリキュラムに該当する短期集中教育プログラムを提供しています。

このほかにも、保護者と離ればなれになった子どもなど、厳しい環境に置かれた子どもたちを保護し、環境改善を図る取り組みも行っています。


ワールド・ビジョンの難民支援にご協力をお願いします

ウガンダで暮らす難民の親子
ウガンダで暮らす難民の親子


ワールド・ビジョンは、ウガンダに避難している難民の子どもたちだけでなく、世界中で避難生活を送っている難民の子どもたちに対して、次の3点に重きを置いて支援を届けています。

  • 「命を守る」:新型コロナウイルス感染症等を予防するための、石けん配布や手洗い指導等
  • 「順応する」:紛争で傷ついた子どもたちの心のケアや、個別に必要な物資提供等
  • 「未来を築く」:補習授業により学習の遅れを取り戻し、学び続けられる環境作り等

故郷を離れて先の見えない生活を強いられている子どもたちの命と未来を守るため、ぜひワールド・ビジョンの難民支援募金へのご協力をお願いします。

※このコンテンツは、2021年7月の情報をもとに作成しています。

紛争により家を追われ、生活が一変した子どもたちに難民支援募金にご協力ください。

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参考資料

注1 UNHCR:Global Trends Forced Displacement in 2020pdfアイコン
注2 UNHCR:Refugee Data Finder  2020年の国別南スーダン難民受け入れ数外部リンク
注3 UNHCR:Refugee Data Finder  ウガンダの難民受け入れ数の推移外部リンク
注4 UNHCR:Refugee Data Finder  2020年のウガンダの出身国別難民受け入れ数外部リンク
注5 UNHCR:Refugee Data Finder  ウガンダ難民数の推移外部リンク
注6 在ウガンダ日本国大使館:カンパラ通信~ナカセロの丘から 第10回 ウガンダ独立後の歴史の刻みとなる数字「6」pdfアイコン
注7 小田英郎:タンザニア・ウガンダ戦争とアミン政権の崩壊pdfアイコン
注8 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所:第II部 紛争後の制度構築を考える 第5章 ウガンダ1986、南アフリカ1994―紛争後の包括的政治体制の比較分析―pdfアイコン
注9 公安調査庁:神の抵抗軍(LRA) Lord's Resistance Army外部リンク
注10 独立行政法人国際協力機構(JICA)アフリカ部:ウガンダ共和国北部地域復興支援協力準備調査報告書pdfアイコン
注11 在ウガンダ日本国大使館:カンパラ通信~ナカセロの丘から 第38回 ウガンダの「ダークツーリズム」にようこそpdfアイコン
注12 国際連合:Africa Renewal "Uganda stands out in refugees hospitality"外部リンク
注13 The Office of the Prime Minister & UNHCR:Revised 2020-2021 Uganda Refugee Response Planpdfアイコン
注14 Ministry of Gender, Labour and Social Development:Jobs and Livelihoods Integrated Response Plan for Refugees and Host Communities in Uganda外部リンク
注15 JICA:隣国の兄弟と支え合う ウガンダ外部リンク
注16 WVJ:SKETCH THE FUTURE未来ドラフト2019 エントリーサポートブックpdfアイコン



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