2011年にスーダン共和国からの分離独立を果たした南スーダンは、今もなお「世界で一番新しい国」と言われています。独立の賛否を問う住民投票では約97%の圧倒的な賛成を得て、独立国家として希望に満ちた船出をした南スーダンでしたが、独立後の道のりは決して平坦なものではありません。独立からちょうど10年にあたる現在も、多くの南スーダンの人々が国内外での避難生活を強いられています。
この記事では、南スーダン難民の数や受け入れ国を紹介し、難民数の推移に影響する要因を読み解くために、独立前から現在に至るまでの南スーダンの歴史を解説します。歴史を踏まえて南スーダン難民たちが置かれた状況を知り、今求められる支援について考えるきっかけにしていただければ幸いです。
まずは、南スーダン難民の現在の数とその受け入れ国を見ていきましょう。ここでは、難民について考えるときに忘れてはいけない「国内避難民」の数もあわせて紹介します。のちほど解説する歴史と照らし合わせ、それぞれの数の変化の背景にどのような経緯があるのかを考えてみましょう。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2020年半ば時点での南スーダン難民の数は、合計約228万人です(注1)。同じ時点での世界全体の難民数は約2,630万人ですので、南スーダン難民は世界の難民全体の8.7%ほどを占めている計算になります(注2)。
難民の数を出身国別に見ると、最多はシリア難民の約660万人で、ベネズエラ(約370万人)、アフガニスタン(約273万人)がこれに続きますが、南スーダンはこれら3カ国に次いで、世界で4番目に多くの難民を生み出しています(注2)。
UNHCRのデータを使って南スーダン難民の数の年次推移をグラフにすると、次のようになります(注1)。
2011年の独立以降、わずかながら増加傾向にありましたが、2014年から大幅な増加が続いています。2017年に約244万人に達したのを境に減少に転じていますが、減少幅はわずかで現在までほぼ横ばいの状態にあり、2020年には微増を記録しています。
続いて、南スーダンから逃れることを余儀なくされて難民となった人々がどこで暮らしているのかを見てみましょう。次の表は、1,000人以上の南スーダン難民を受け入れている国を、受け入れ人数の多い順にまとめたものです(注3、2020年半ば時点)。
受け入れ国 | 南スーダン難民受け入れ数 | 総数に占める割合 |
---|---|---|
ウガンダ | 881,193人 | 38.68% |
スーダン | 820,687人 | 36.02% |
エチオピア | 344,275人 | 15.11% |
ケニア | 122,200人 | 5.36% |
コンゴ民主共和国 | 89,058人 | 3.91% |
エジプト | 17,674人 | 0.78% |
中央アフリカ | 1,803人 | 0.08% |
これら7カ国のうち、エジプトを除く6カ国は、南スーダンと直接国境を接している国々ですあり、エジプトは南スーダンの北側の隣国であるスーダンのすぐ北側にある国です。
この7カ国で南スーダン難民全体の実に99.94%を受け入れている計算になりますので、ほとんどの南スーダン難民がアフリカ大陸北東部の近隣国で暮らしていると言えます。
多くの南スーダン人が難民となって近隣国に逃れているのと同時に、南スーダン国内で避難生活を送っている人々もいます。このように、国境を越えてはいないものの国内で避難を余儀なくされている人々を「国内避難民」と呼びますが、危険から逃れて家を離れ、支援を必要としているという点では難民と同じです。
2020年半ば時点での南スーダン国内避難民の数は約16万人ですが、その数の推移は難民数の推移とは少し違っています。先ほどの難民数のグラフに国内避難民の数を併記すると、次のようになります(注1)。
国内避難民の数は2011年の独立以降徐々に減少していましたが、2014年に急増し、その後は数に大きな変化がありません。2014年の急増によって難民の数との間に大きな差が生じましたが、難民数が大規模な増加を続けたことで、2017年には難民の数が国内避難民の数を追い抜いています。
こうした難民や国内避難民の数の変化には、南スーダンの政情が深く関わっています。現在も多くの南スーダン人が避難生活を続けている背景には、どういった要因があるのでしょうか。独立に至るまでの経緯を含めて、南スーダンの歴史を振り返ってみましょう。
現在のスーダンと南スーダンは、植民地時代にイギリスとエジプトによる共同統治下に置かれていました。現在のスーダンにあたる北部にはイスラム教を信仰するアラブ系住民が多く、現在の南スーダンにあたる南部にはキリスト教や伝統宗教を信仰するアフリカ系住民が多いという地理的特徴を利用し、両者を分断する植民地政策がとられていました。
両地域は1956年にスーダン共和国というひとつの国家として独立しましたが、独立前の1955年に分離独立を求める南部が武装蜂起したことで、第1次スーダン内戦が勃発。1972年のアディスアベバ和平成立により一旦は内戦が終結したものの、政府が南部へのイスラーム法の適用を宣言したことを受けて1983年に再び武装闘争が活発化し、第2次スーダン内戦へと突入しました。
国際社会の後押しを受けて2002年から和平交渉が始まり、2005年に包括的和平合意が結ばれると、南部スーダンに自治権が与えられました。移行期間としての6年間の自治を経て2011年1月に行われた住民投票では、約97%が独立に賛成し、同年7月9日に南スーダンとして独立を果たしました(注4, p.67-70)。
圧倒的多数の支持を得て独立を果たした南スーダンでしたが、自治政府時代に選出された大統領に対して、徐々に独裁者との批判の声が上がり始めます。
次期大統領戦に向けて党内での権力争いが激化する中、2013年7月に大統領は全ての閣僚を解任し、さらなる政権批判を招きました。また、独立前から地方部では政権に対する不満を理由に反乱が起きていたこともあり、独立前から国内に対立を抱え込んでいました(注5, p.25-26)。
2013年12月、南スーダンの首都ジュバで国軍兵士らの銃撃戦が勃発すると、その対立が大統領を支持する政府軍と前副大統領を支持する反政府勢力の武力衝突に発展。さらにこれが民族対立の様相を呈するようになり、地方部へと戦闘が広がっていきました(注6, p.172)。特に2016年には大規模な衝突が発生し、一般市民への被害が拡大したことで、多くの南スーダンが避難を余儀なくされました(注7)。
幾度もの和平協定の挫折を経て2020年2月に暫定政府が発足し、現在はようやく復興への道を歩み始めた段階と言えます(注8)。
南スーダンには、国連平和維持活動(国連PKO)の1つである国際連合南スーダン共和国ミッション(UNMISS)が展開されています。
これは第2次スーダン内戦の終結時に設立された国連スーダン・ミッション(UNMIS)を引き継ぐ形で南スーダン独立時に設立されたもので、平和と安全の定着および南スーダンの発展のための環境構築支援等を目的とするものです。日本の自衛隊も司令部への隊員派遣や施設部隊の派遣を行い、活動に貢献してきました(注9)。
南スーダンで2013年以降に戦闘が広がると、避難民となった一部の市民が国連施設内に逃げ込みました(注10)。これを受けてUNMISSは文民保護と人道支援を行う方針を決め、自衛隊も国連施設内での避難民への医療活動や給水活動などを実施しました(注11)。
長きにわたる内戦を乗り越えてスーダンから独立したものの、その後も国内での武力紛争が続き、多くの人々が家を捨てて避難することを強いられました。避難生活を送る南スーダンの人々が現在どのような状況にあるのかを知り、求められる支援について考えてみましょう。
2020年2月に暫定政府が発足したことを受け、国内での暴力行為は減少しており、一部地域には平和が戻っています。こうした国内状況の改善により、2020年だけで12万人の難民が南スーダンへと自主的に帰還しました(注12, p.12)。
一方で、2021年3月末時点で未だに12万5,000人が国連PKO部隊の文民保護区に避難しています。この状況からは、避難生活中の南スーダン人の多くが、元いた地域を未だに安全とは見なしていないことがうかがえます(注13, p.7)。
南スーダン難民全体の実に83%は女性か子どもであり、避難生活においては特に多くの困難に晒されがちです。このうち子どもは難民全体の65%を占めていますが、6万6,000人以上は両親など通常の保護者のいない状態で避難しており、ハラスメントや搾取、虐待などの被害に遭う懸念が特に深刻です(注12, p.11)。
教育、とりわけ初等教育は、子どもの人格育成の場であるだけでなく、生きるための基礎的な力を身に着ける重要な場です。このため、教育は平和構築や国づくりにおいても重要な役割を果たします。
南スーダンでは、2013年12月以降の混乱の中、学校に通えず教育の機会を失った子どもたちが240万人以上いると言われています。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響で休校措置が取られたことで、学校へ通えなくなった子どもの数は約440万人まで増加したと報告されています(注8)。
独立後の混乱を乗り越えたばかりの南スーダンにとって、国の未来を担っていく子どもたちへの教育の提供は、これからの復興と国づくりのあり方に大きく影響しうる重要な課題と言えるでしょう。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、2021年3月まで、南スーダン国内で紛争の影響を受けた子どもたちを対象にした教育支援事業を実施しました。この事業では、校舎の修復や備品・教材の提供、新型コロナウイルス感染症対策用の石けんや体温計の配布といった学習環境の整備に加え、教員への基礎研修や心理社会的サポート研修なども実施し、教育の質の改善にも貢献しています。
ワールド・ビジョンはさらに、最も多くの南スーダン難民を受け入れているウガンダでも、子どもたちへの支援を行っています。ウガンダの難民居住地では、南スーダン難民と地元の子どもたち両方を対象に、10歳未満の子どもたち向けの就学前教育プログラムや、学校に通う機会を失っていた10代の子どもたち向けの短期集中教育プログラムを提供しました。
このほかにも、子どもの保護を担当するケースワーカーへの研修を行い、保護者のいない子どもなど厳しい環境にある子どもたちの保護や環境改善にも取り組んでいます。
和平プロセスの進展により安定化の兆しが見え始めてはいるものの、南スーダン難民や国内避難民が故郷に戻って生活を立て直せる日がいつになるのか、今の段階で先行きを見通すことは困難です。
ワールド・ビジョンは、教育支援によって南スーダン難民や国内避難民の子どもたちの「未来を築く」活動を展開していますが、これと同時に、新型コロナウイルス感染症対策のように「命を守る」ための活動や、紛争で傷付いた心のケアなどを通して子どもたちが環境に「順応する」ための活動にも重きを置いています。
故郷を離れて先の見えない生活を強いられている子どもたちの命と未来を守るため、ぜひワールド・ビジョンの難民支援募金へのご協力をお願いします。
※このコンテンツは、2021年6月の情報をもとに作成しています。
注1 UNHCR:Refugee Data Finder 2011 ~2020年の南スーダン難民・国内避難民数
注2 UNHCR:Refugee Data Finder - Key Indicators
注3 UNHCR:Refugee Data Finder 2020年の国別南スーダン難民受け入れ数
注4 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所:第I部 紛争勃発後の和平プロセス 第1章 スーダンという国家の再構築―重層的紛争展開地域における平和構築活動―
注5 村橋 勲:戦火の一年 ―南スーダンにおける内戦と和平の行方―
注6 村橋 勲:難民とホスト住民との平和的共存に向けた課題 : ウガンダにおける南スーダン難民の移送をめぐるコンフリクトの事例から
注7 WVJ:SKETCH THE FUTURE未来ドラフト2019 エントリーサポートブック
注8 WVJ:【南スーダン】アッパーナイル州の小学校2校で、緊急期の教育支援事業を実施
注9 防衛省:国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)
注10 国際連合日本政府代表部:国際連合南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に係る物資協力の実施について
注11 防衛省:UNMISSにおける自衛隊の活動について
注12 UNHCR:2021 South Sudan Regional Refugee Response Plan
注13 OCHA:Humanitarian Response Plan South Sudan