難民とは?条約上の意味や移民との違い、現状、難民問題の解決策

近年、国内外で難民がクローズアップされる機会が増えています。ニュースやドキュメンタリー、映画等をきっかけに関心を持ったという方もいらっしゃるでしょう。でも、難民という言葉がどういった人たちを指すのか、正確に理解している人は少ないかもしれません。

この記事では、難民条約における定義にもとづいて「難民」という言葉の意味を解説し、難民と移民の違い、そして難民と似た状況にある「国内避難民」についてご説明します。そのうえで、難民の数や主要な受け入れ国と出身国など、難民をとりまく現状を概観し、最後に、難民問題を解決する方法とその達成状況、そして求められる支援についてお伝えします。

難民の意味とは?条約上の定義や移民との違い

バングラデシュに逃れてきたロヒンギャ難民の親子
バングラデシュに逃れてきたロヒンギャ難民の親子

まずは、「難民」という言葉の意味を確認し、難民と同じような意味に捉えられることも多い「移民」との違いを明確にしておきましょう。また、難民と似ているもののあまり知られていない「国内避難民」についても、難民との違いを踏まえて解説します。

難民条約における難民の定義

難民の定義は、1951年に採択された「難民の地位に関する条約」の第1条で、次のように定められています(注1)。

人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者


すなわち、難民とはさまざまな理由により自国で迫害を受けたか、迫害を受けるおそれがあることを理由に、他国へ逃れた人のことと言えます。今日では、定義で触れられている理由のほかに、自国での武力紛争や人権侵害などを逃れて国境を越えて他国に庇護を求めた人々のことも「難民」と指すようになっています(注2)。


難民と移民の違い

難民は移民と混同されることがありますが、この2つの違いは、双方の定義を見ればよくわかります。

国際移住機関(IOM)によると、移民とは、本人の法的地位や移動の自発性、理由、滞在期間にかかわらず、「本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」のことを指します(注3)。

これに対し、上述のように難民は「迫害を逃れるため」という特定の理由で、国境を越えて移動した人々を指します。つまり、難民と移民は異なる対象を指しますが、別個のものではなく、移民の中の一部の人々が難民と呼ばれるのです。


国境を越えない難民「国内避難民」

難民について考えるとき、忘れてはならないのが「国内避難民」です。国内避難民は、難民と比べて話題にのぼることが少ないので、聞いたことがない人も多いかもしれません。

国内避難民とは、紛争など難民と同様の理由で家を追われ、国境を越えてはいないものの、国内で避難生活を強いられている人々のことを言います(注2)。難民と同様に自発的でない理由で移動を強いられた人々なので、外部からの支援が不可欠ですが、必要な支援が得られない場合には、国境を越えて難民となる可能性もあります。

このように、難民と国内避難民を分ける基準は「国境を越えたか」という一点であり、両者はほとんど同じ境遇に置かれていると言えます。

難民の現状:人数の推移や主な出身国・受け入れ国

ウガンダの難民居住地で暮らす子どもたち
ウガンダの難民居住地で暮らす子どもたち


難民がどういった人々を指すのかが明確になったところで、続いては難民や国内避難民の数、そして主要な難民の出身国や受け入れ国を見ていきましょう。数の推移や地理的な分布からは、難民をとりまく近年の動向が見えてきます。

難民や国内避難民の数の推移

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、難民や国内避難民など、紛争や迫害が原因で移動を強いられた人の数は、2019年末で7,950万人に達し、過去最高となりました。このうち4,570万人が国内避難民、2,960万人が国境を越えて避難した難民などです(注4)。

UNHCRが毎年発行している年間統計報告書「グローバル・トレンズ・レポート」の2019年版では、過去10年間の難民や国内避難民などの数が示されています。合計人数の年次推移をグラフにすると、次のようになります(注5 7頁)。



難民や国内避難民が近年増加を続けていること、そしてその数が過去10年で約2倍にまで膨らんでいることが見て取れます。なお、2019年の7,950万人という数字は世界人口の1%を超える数字であり、全人類の97人に1人が強制的に移動を余儀なくされている計算になります(注4)。

難民に関する近年の動向

2015年、地中海を渡ってヨーロッパに逃れようとする難民の数が急増し、一部の国が国境を封鎖するなどした「欧州難民危機」は、まだ記憶に新しいでしょう。当時ほど盛んに報道されなくなったものの、先ほどのグラフからわかるように、その後も難民や国内避難民の数は増え続けています。

移動を強いられる人々の数が増え続け、過去最高を記録した背景には、避難する人の数が増加する一方で、母国に帰還する人の数が減少しているという近年の傾向があります。

強制移動がもはや「短期的かつ一時的な現象ではない」と国連難民高等弁務官が発言しているとおり、避難生活は長期化し、難民や国内避難民は「故郷に戻る機会もなく、自身で未来を築ける希望もない」状況に置かれているのです(注4)。


主な難民の出身国と受け入れ国

難民の増加を受け、日本でも2020年から「第三国定住制度(後述)」での難民の受け入れ枠を増やしていますが(注6)、難民の実に85%は、開発途上国と呼ばれる国々で避難生活を送っています(注4)。

2019年末時点で、世界で最も多くの難民を受け入れているのはトルコで、受け入れ数は約360万人です。トルコの受け入れ数は突出しており、トルコに次ぐ受け入れ大国であるコロンビアの受け入れ数は、トルコの半分の約180万人です。この2カ国の後にはパキスタン(約140万人)、ウガンダ(約140万人)、ドイツ(約110万人)、スーダン(約110万人)、イラン(約100万人)が続きます(注5 9頁)。

反対に、難民の出身国を見ると、最も多くの難民を生み出しているのはシリアで、その数は約660万人となっています。ベネズエラ(約370万人)、アフガニスタン(約270万人)、南スーダン(約220万人)、ミャンマー(約110万人)がこれに続きます(注5 8頁)。この5カ国を母国とする難民が、難民全体の約3分の2を占めています(注4)。

多くの難民は自国を出て近隣国に逃れるので、受け入れ国と出身国は地理的に近い分布となっています。

難民問題の解決に向けて

ウガンダの難民居住地で暮らす人々
ウガンダの難民居住地で暮らす人々

このように膨大な数の難民や国内避難民が世界中で避難生活を送っているのが現状ですが、難民問題はどのようにすれば解決できるのでしょうか。次にご紹介する3つの解決策とその実現状況を踏まえて、今求められる支援について考えてみましょう。

難民問題の解決方法

一般に、難民問題の恒久的な解決策は、次の3つとされています(注7)。

1.難民が出身国へ帰る「自主帰還」
2.難民が庇護を求めた国に定住する「庇護国社会への統合」
3.難民が庇護国から第三国へと移動し、そこで定住する「第三国定住」

第三国定住では、出身国を離れて近隣国の難民キャンプで暮らしている難民を、欧米を中心とする先進国が受け入れる例が一般的です。

帰還や再定住の実績と避難先への統合状況

上述の3つの解決策がそれぞれどの程度成果を挙げているのか、UNHCRの「グローバル・トレンズ・レポート」の2019年版の報告内容を詳しく見ていきましょう。

まず「自主帰還」については、過去10年で母国に帰還した難民の数が約390万人となっています。内訳を見ると、アフガニスタンとシリアからの難民が多数帰還していますが、2019年に最多の帰還者を記録したのは南スーダン難民でした(注5 50~51頁)。

ただし、帰還がかなうかどうかは出身国の情勢に依存します。たとえば世界最多の難民を生み出しているシリアの場合、UNHCRは積極的に帰還を推進していないのが現状です(注5 50頁)。

一方、過去10年の間に「第三国定住」によって定住に至った難民は、100万人超です。このうち約55%をアメリカ、20%をカナダ、11%をオーストラリアが受け入れていますが、ヨーロッパの国々も近年受け入れ枠を劇的に増やしており、過去10年でヨーロッパに再定住を果たした難民の数は14万4,000人に及びます(注5 51~52頁)。

「庇護国社会への統合」には、法的地位の付与や帰化などが含まれます。過去10年の間に庇護国に帰化した難民は32万2,400人で、これは合計65の受け入れ国で報告されています。

他方、難民の労働市場への参加状況は世界的な課題となっています。たとえば、ノルウェーでは全人口の被雇用率が73%であるのに対し、移民では64%、難民では51%となっています。ただし、定住期間が伸びるにつれて被雇用率が上昇する傾向も明らかになっており、統合には時間を要するということがあらためて浮き彫りになったと言えます(注5 53~55頁)。

受け入れ国での難民への支援

上述のように、3つの解決策のそれぞれが地道な成果を挙げています。しかしながら、先に触れたとおり難民キャンプなどでの避難生活は長期化してきており、自主帰還の目途が立たず、庇護国への統合や第三国定住も望めない状況に留め置かれる難民がますます増えているのが現状です。

このような先の見えない状況でも、難民たちができるだけ快適に過ごせるように、国際社会は世界中で難民支援活動に取り組んでいます。

難民への支援の多くはUNHCRを通して行われますが、UNHCRの活動資金の大部分は各国の政府が拠出しています。2019年時点で、日本はアメリカ、EU、ドイツ、スウェーデンに次いで世界第5位の資金拠出国となっています(注8)。

難民を直接支援する活動の多くは、UNHCRとパートナーシップを組むNGOによって行われます。なお、各国政府はNGOへの直接の資金提供も行っているので、NGOは国連や政府、そして個人や企業からの寄付金など、多様な資金を活用して難民を支援していると言えます。

また昨今では、企業が国連やNGOと協働して直接支援活動に参加する例も増えています。


ワールド・ビジョンの難民支援にご協力をお願いします

コロンビアに逃れてきたベネズエラの少女とワールド・ビジョンのスタッフ
コロンビアに逃れてきたベネズエラの少女とワールド・ビジョンのスタッフ
ワールド・ビジョン・ジャパンは、日本政府(外務省)による助成金等の資金や皆さまからの募金をともに活かして難民支援活動を展開しているほか、UNHCRをはじめとする複数の国連機関とも連携し、世界中で難民の支援に取り組んでいます。

現在は、難民の出身国上位5カ国に入っているシリア、南スーダン、ミャンマーなどから近隣国へ逃れた難民に対して、「命を守る」、「順応する」、「未来を築く」を合言葉に、支援活動を展開しています。

「命を守る」活動では、2020年に拡大の始まった新型コロナウイルス感染症等を予防するために、石けんの配布や手洗い指導等を行っています。「順応する」活動では、紛争で傷ついた子どもたちの心のケアや、個別に必要な物資の提供等、そして「未来を築く」活動では、学習の遅れを取り戻すための補習授業や、学び続けられる環境作り等の活動を実施しています。

先の見えない避難生活を強いられている難民の子どもたちの命と未来を守るため、ぜひワールド・ビジョンの難民支援募金へのご協力をお願いします。
※このコンテンツは、2021年1月の情報をもとに作成しています。

紛争により家を追われ、生活が一変した子どもたちに難民支援募金にご協力ください。

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