世界では、難民や国内避難民など、紛争や迫害から逃れるために故郷を離れざるを得ない人々の数が増え続けています。ミャンマーから隣国バングラデシュに避難するロヒンギャ難民、あるいは、近隣国にとどまらずヨーロッパにまで避難するシリア難民の話を、誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
2020年には食糧支援を専門とする国連世界食糧計画(国連WFP)がノーベル平和賞を受賞しましたが、国連WFPは、難民キャンプでの食糧配布や物資・人員の輸送に携わるなど、難民支援でも大きな役割を担っています。この記事では、難民への支援が求められる背景を解説し、募金をとおして難民を支援する方法をご紹介します。
多くの難民たちは、国連WFPを含む国連機関に代表される国際社会の支援のもとで暮らしています。難民の数が増え、世界的な感染症拡大など影響でさらに脅威が増すなか、今まで以上に過酷な生活を強いられています。なぜ今難民への支援が必要なのか、まずはその背景を知ってください。
国連の難民支援機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によると、2019年末時点で7,950万人の人々が、紛争や迫害などを理由に強制的に故郷を追われ、難民や国内避難民となって暮らしています。この数字は現在の世界人口の約1%にあたる数字で、近年は過去最多を更新し続けています(注1)。
特に、2011年以降は急激な増加が続いています。2011年時点では、この数は3,850万人でしたので、わずか8年で倍以上に膨れ上がったことになります(注2:7頁)。
強制的に故郷を追われた人の数を出身国別で見ると、最も多いのはシリア、次いでベネズエラ、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマー、ソマリアと続きます(注2:8頁)。2011年からのシリア内戦をはじめ、ベネズエラでの政情不安やミャンマーのロヒンギャ問題など、近年発生した数々の危機的な状況が、多くの人を故郷から追い立てています。
このようにして難民や国内避難民の数が増え続けているために、ますます多くの支援が求められているのです。
もともと厳しい生活を強いられている難民や国内避難民にとって、2020年に世界的パンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症は、命にかかわる大きな脅威となっています。
難民キャンプは人口密度が高く、医療施設の数も十分ではありません。その上、トイレや手洗い場など、衛生状態を保つための設備も限られています。
レバノンのキャンプで暮らすシリア難民の少女、ヤスミンさんは「こんな過密状態の場所で、ソーシャル・ディスタンシングなんて不可能です」と語ります(注3)。
また、栄養不良は免疫システムの発達に深刻なダメージを与えるため、栄養不良の子どもやかつて栄養不良だった子どもは、新型コロナウイルスに感染するリスクが非常に高くなります。
南スーダンの首都にある国内避難民キャンプで暮らす2児の母サラさんは、「私の1歳の息子は、重度の栄養不良から回復したばかりです。外出禁止措置がとられると食糧の調達ができないので、息子はまた栄養不良になるかもしれません」と話し、新型コロナウイルスの感染拡大により、家族の生命線である食糧配布が途絶えるのではないかと心配しています(注3)。
このように、避難生活により極限状態に置かれていた難民たちが、新型コロナウイルスのまん延により、さらなる窮地に立たされています)。
2020年のノーベル平和賞は、国連WFPに贈られました。その受賞理由は、「飢餓と闘い、紛争地域での食料の安全保障に貢献し、飢餓が戦争の武器として利用されることを防ぐ重要な役割を果たした」というものでした。国連WFPは、世界88カ国で9,700万人を対象に活動していますが、その活動には難民支援も含まれます(注4)。
国連WFPの難民支援活動は、難民キャンプでの食糧配布にとどまりません。子どもや妊婦、授乳中の女性への栄養強化食品の提供や、学校給食の提供、現金給付なども実施しています。さらに、倉庫の増強、救援物資の戦略的備蓄ネットワーク「国連人道支援物資備蓄庫(UNHRD)」の運営、僻地にあるキャンプ等へ人道支援機関スタッフを運ぶ「国連人道支援航空サービス(UNHAS)」の運行などをとおして、ワールド・ビジョンを含む世界中の人道支援組織の活動を支えています。
新型コロナウイルスが猛威をふるったこの年に国連WFPがノーベル賞を受賞したことは、困難な時こそ最も脆弱な立場にある人々への支援が必要であるということをあらためて強調する、国際社会へのメッセージと受け取れます。
国際社会の一員である私たち一人ひとりが難民を支援するためにできる最も身近な活動は、支援機関への募金です。具体的にどのような団体に寄付をすればよいのか、代表的な難民支援機関をご紹介します。
UNHCRは、難民の保護や支援に取り組む国連機関です。現在は世界135カ国で活動しており、1954年と1981年に2度、ノーベル賞を受賞しています(注5)。当初は、国境を越えて避難した「難民」だけを支援の対象としていましたが、現在では、国内避難民や無国籍者へも支援を行っています。
日本からのUNHCRへの募金は、UNHCRの公式支援窓口である「国連UNHCR協会」をとおして行うことができます。国連UNHCR協会が駅前などで支援者を募る街頭キャンペーンを行っているのを目にしたことがある人もいるでしょう。街頭キャンペーンで受け付けている「国連難民サポーター」は毎月の定額寄付ですが、任意のタイミングでの単発の寄付や、ポイントを活用した寄付なども受け付けています。
国連UNHCR協会に集まった寄付金はスイスのUNHCR本部に送金され、最も必要とされる援助プログラムに使用されます。
UNHCR以外にも、多くの国連機関が難民支援に携わっています。すでにご紹介した国連WFPも、UNHCRと同様に「国連WFP協会」という公式支援窓口を通じて日本からの寄付を受け付けています。毎月の寄付か単発の寄付かにかかわらず、寄付金の使途として「緊急支援」、「学校給食プログラム」、「母子栄養支援」のいずれかを選択することができます。
ワールド・ビジョンは、ミャンマー、ソマリア、南スーダン、スーダン、イラクなどで実施した数多くの事業でWFPと連携してきました。主な連携実績として、イラクにおけるシリア難民への現金給付や、ミャンマーのカチン州での国内避難民向け食糧配布や栄養支援などがあります。
国連児童基金(UNICEF)も、難民支援に携わる主要な国連機関の1つです。UNICEFは「すべての子どもの命と権利を守る」ことをミッションに掲げ、最も支援の届きにくい子どもたちを優先して、世界約190カ国で活動しています(注6)。多くの難民キャンプでも活動しており、単発の「緊急・復興募金」では、「シリア緊急支援」、「ロヒンギャ難民」などの複数の選択肢から、寄付の使途を指定することもできます。
ワールド・ビジョンは、UNICEFとも複数の連携実績があります。ミャンマーで洪水被害を受けた子どもや南スーダンで内戦の影響を受けた子どもへの教育支援など、緊急期にも子供が教育を受けられるようにするための支援活動を共に展開しました。
国連機関や政府との連携のもとで、国内外の多数のNGOが難民支援に携わっています。
日本で暮らす難民を支援している組織の代表的なものには、難民支援協会(JAR)があります。普段あまり意識することはないかもしれませんが、日本でも現在約2.5万人の難民とその子どもたちが暮らしています(注7)。JARは、UNHCRのパートナー団体として、法的支援、生活支援、就労支援、コミュニティ支援など、難民が失った権利を回復するための多岐に渡る支援活動を展開しています。
年間600人以上の難民が、助けを求めてJARを訪れるといいます(注8)。JARでは、現金での寄付のほか、食料や生活用品など物品の寄贈も受け付けています。
海外での難民支援では、ジャパン・プラットフォーム(JPF)加盟団体を中心とする多くの日本のNGOが活躍しており、ワールド・ビジョンもその1つです。
2019年度には、ワールド・ビジョンは、ウガンダ、エチオピア、南スーダン、イラク、シリア、ヨルダン、レバノン、バングラデシュで難民支援活動を実施しました。皆様には、「難民支援募金」を通じて、ワールド・ビジョンの難民支援を支えていただくことができます。
ワールド・ビジョンの難民支援募金にご協力いただくことで、苦境に置かれているシリア難民やロヒンギャ難民の生活を支えることができます。日本政府や国連と連携して長年難民を支援しているワールド・ビジョンの活動に、寄付をとおしてあなたも参加してみませんか。
ワールド・ビジョンは、JPFの加盟団体として日本政府資金を使った難民支援活動を展開しているほか、UNHCRや国連WFP、UNICEF、国連開発計画(UNDP)といった国連機関とも連携し、世界中で難民の支援に取り組んでいます。
2019年度、ワールド・ビジョンの「難民支援募金」には、日本の皆様から合計8,200万円超の資金が集まりました。
ワールド・ビジョン・ジャパンは「認定NPO法人」として認定を受けていますので、個人の方からのご支援金は寄付金控除の対象となり、確定申告をすることで還付を受けられます。法人の皆さまからのご支援金は、一般の寄付金等の損金算入限度額とは別に、特別損金算入限度額の範囲内で損金算入をすることができます。
難民支援募金をとおしていただいた資金は、ワールド・ビジョンが行う様々な国での難民支援に活用されますが、その1つにシリア難民支援があります。
2011年にシリアの政府軍と反政府軍による武力衝突が本格化して以降、多くの住民が国内外での避難生活を強いられ、危機的な状況下で暮らしています。ワールド・ビジョンは、66万人弱のシリア難民を受け入れているヨルダンで、2014年から教育支援を継続しています(注9)。
長期間学校に通えなかった子どもたちが、ヨルダンの学校の授業に追いつけるよう、補習授業を実施するとともに、レクリエーション活動を通して、紛争のトラウマや避難生活によるストレスを和らげる活動も行っています。また、経済的困窮を理由にして保護者が子どもに労働や早婚を強いることがないよう、教育の重要性を呼びかけています。
ワールド・ビジョンは、子どもたちの教育の機会が奪われないようにするため、これからもシリア難民への支援を続けていきます。
ミャンマーに暮らす民族集団であるロヒンギャは、ミャンマー政府から「バングラデシュからの不法移民」と扱われ、以前から軍や住民同士の武力衝突が繰り返されていました。2017年の大規模な衝突では70万人を超える人々が国境を越え、2020年9月末時点で約86万人のロヒンギャ難民がバングラデシュ国内にとどまっています(注10)。
ワールド・ビジョンは、毛布や調理器具など支援物資の配布、チャイルド・フレンドリー・スペースの設置、ジェンダーに基づく暴力を防止するための啓発セッションの実施や被害者に対する心理社会的支援、女性の尊厳や健康を守るための女性支援キットの配布、安全対策用のソーラー街灯の設置など、幅広い活動を行ってきました。
ロヒンギャ難民への支援活動には、「ミャンマー難民危機緊急支援募金」をとおして参加いただけます。
世界中で苦しい避難生活を強いられている難民を助けるため、ぜひワールド・ビジョンの難民支援募金へのご協力をお願いします。
現在、ワールド・ビジョンは、新型コロナウイルス感染症等を予防するための石けん配布や手洗い指導など、難民の「命を守る」活動を行っているほか、紛争で傷ついた子どもたちの心のケアや個別に必要な物資の提供など、避難生活に「順応する」ための支援も展開しています。さらに、補習授業により学習の遅れを取り戻し、学び続けられる環境作りを行うなど、「未来を築く」ための支援にも力を入れています。
キャンプで先の見えない生活を強いられている難民の子どもたちの命と未来を守るため、ぜひご協力をお願いします。
※このコンテンツは、2020年11月の情報をもとに作成しています。
注1 国連UNHCR協会:UNHCRの難民支援
注2 UNHCR:Global Trends 2019
注3 ワールド・ビジョン:6月20日は「世界難民の日」-極限の状況で新型コロナウイルスと闘う子どもたち
注4 日本経済新聞:世界食糧計画(WFP)にノーベル平和賞 飢餓撲滅に尽力
注5 UNHCR:UNHCRとは?
注6 UNICEF:UNICEFについて
注7 難民支援協会:難民を知る
注8 難民支援協会:命の危機から逃れた難民が、私たちに助けを求めている
注9 UNHCR Operational Portal:Syria Regional Refugee Response - Jordan
注10 UNHCR Operational Portal:Refugee Response in Bangladesh