世界有数の石油輸出国で、カリブ海のリゾートとしても有名だったベネズエラが、緊急事態に陥っています。昔から難民を受け入れてきたベネズエラですが、現在では難民を出す国になってしまいました。なぜこのような悲劇が起きているのでしょうか。
ベネズエラ難民が発生した原因には、ベネズエラの政情不安があるといわれています。社会的秩序が保たれなくなったことで暴力行為が蔓延し、人々は常に命の危険にさらされている状態です。経済状況が悪化したため食料や医薬品、生活用品など生活物資が不足し、飢えや病気に苦しむ人が増えました(注1)。
政治的な問題で社会が混乱し、年率130万%という、恐ろしいほどのインフレになりました。昨年1円だったものが、翌年には130万円になっているのです(注2)。
病気になっても薬も買えず、医者もいません。人々はベネズエラでは生きる事ができなくなり、よその国に避難せざるを得ない状況となったのです。ベネズエラに古くから住んでいた先住民までも避難を余儀なくされました。周りの人がどんどん亡くなるのを見て、彼らには大切な土地を捨てて避難する選択肢しかありませんでした(注3)。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、毎日5,000人ものベネズエラの人々が近隣諸国に避難しています。故郷を追われた人々の数は2020年7月現在で520万人で、その数は増え続けているのです(注1)。
ベネズエラから避難して庇護申請している人の数は、2014年には3,872人でした。2017年には110,825人、2018年は248,669人と、その数は増え続けています。
ベネズエラ難民は周辺諸国に避難しました。一番多いのは、隣国のコロンビアで、2019年6月現在で130万人の難民を受け入れています。ペルー、チリ、エクアドル、アルゼンチン、ブラジルなどでも受け入れています。推定320万人のベネズエラ難民が、南米とカリブ諸国で避難生活を送っているのです(注7)。
ベネズエラ難民は、どのような問題を抱えているのでしょうか。また、周辺国へはどのような影響があるのでしょうか。
ベネズエラ難民はとても困難な状況に陥っており、人道的状況が悪化しているという大きな問題に直面しています。
ベネズエラ国内では暴力が横行し、医療機関も薬も無くなってしまいました。命がけで国境を越えて避難しても、十分な保護を得ることができず、満足なシェルターもありません。避難先では搾取・虐待・性的暴行・差別・排外などにさらされています。正式な書類や法的許可も無いため、社会的なセーフティーネットを受けられず、立場が非常に弱い事も問題です(注1)。
ベネズエラ国内の問題も深刻です。命の危機にある子どもは90万人、人道支援が必要な子どもは320万人いると、ユニセフは報告しています(2019年8月)。食糧、安全な水、教育、医療などが不足しており、子どもの保護が急務となっています(注4)。
数多くの難民を受け入れるベネズエラの周辺国では、様々な問題がおきています(注5)。
エクアドルは、押し寄せるベネズエラ難民により経済や社会に打撃が生じたことで関係国との協議の必要性を感じ、2018年9月3~4日に周辺諸国と会議を開催しました。どの国もベネズエラ難民の受け入れたことで問題が生じ、治安が悪化するなど社会に悪影響が起こりはじめていたのです。
エクアドルの首都キトで行われた会議では、受け入れ国同士で協力しながらベネズエラ難民を受け入れることを決めた「キト宣言」が採択されました。しかし、実際にどのように負担を分け合うのかなどは次回の会議に持ち越され、実効性があるのか疑問視されています。エクアドルはベネズエラにも会議に参加するよう呼びかけましたが、当事者であるベネズエラ政府は難民の存在自体を認めていなかったために、会議には参加しませんでした。
日本政府は、ベネズエラ難民が押し寄せている国々に対して関係機関を通じた無償資金協力を行い、受け入れ国の負担軽減に努めています。
たとえばコロンビアに対しては、ベネズエラ難民や移民、コロンビア帰還民、そしてそれらの受け入れコミュニティを支援するために、UNHCRと国際移住機関(IOM)を通して無償資金協力を行いました。UNHCRとIOMはそれぞれコロンビア政府と連携し、迅速な支援を続けています(注6、注7)。
ブラジルに対しては「ベネズエラ難民・移民人道支援計画」を策定し、UNHCRと連携して実施しています(注8)。エクアドルへは、国際連合世界食糧計画(WFP)を通じて食糧援助を行っています(注9)。
国際NGOであるワールド・ビジョンは難民支援にも力を入れており、その時々の実状に即したプログラムを実施しています。危険とされている地域にいち早く入り、まずは命を守る緊急支援を実施。そして、傷ついた心のケアや、よりよい未来を描く力をつけるための長期的な支援を行っていきます。支援の手がとどきにくい国内難民も支援の対象にしています。
ここでは、世界で発生している難民問題に対する、ワールド・ビジョンの支援について解説します。
この世界が子どもにとって安全で平和な場所になるように、ワールド・ビジョンは政府や国際機関、市民社会に働きかけ、様々な方法でアドボカシー活動を行っています。
アドボカシーとは、一人ひとりが問題について知り、その原因について声を上げ、解決のために訴えることで、ワールド・ビジョンの重要な活動のひとつとなっています。アドボカシー活動によって政策を変え、不公正な社会を変えることができるのです。
難民支援に関するアドボカシー活動も実施しています。これまでも難民の子どもへの教育支援強化についての優先順位を上げるよう、日本政府に働きかけてきました。そして紛争が起こり難民が発生するとすぐに、子どもに配慮した支援を行うよう各関係機関に呼びかけています。
ワールド・ビジョンは、難民のなかで最も弱い立場の子どもたちを対象に支援活動を実施しています。難民の半分は18歳未満の子どもです。難民の子どもたちの多くは、教育の機会や安全に過ごせる場所が与えられていません。基礎学力に乏しくなり、暴力や虐待、児童労働や早婚などのリスクにさらされているのです。
2018年からは難民の子どもたちを対象にTake Back Future キャンペーンを実施しており、教育を通して暴力が繰り返されない未来を築くことを目指して活動しています。
ワールド・ビジョンの活動の大きな柱のひとつが緊急人道支援です。緊急援助活動は人々の命を守るために、文字通り時間との戦いになります。緊急人道支援募金を常時受け付けており、いつ起こるとも知れない突発的な災害や紛争に備えています。
難民支援には長期的な支援も必要です。難民キャンプで何年も暮らす人々のために教育・職業訓練の支援や、将来的には紛争地の復興支援や難民再定住などのプログラムも必要になっていきます。
難民支援活動は、皆さまからの募金によって成り立っています。難民支援へのご協力をお待ちしています。
※このコンテンツは、2020年7月の情報をもとに作成しています。
注1 UNHCR:南米ベネズエラ難民危機
注2 日本経済新聞:ベネズエラ、「クーデター」不発で難民急増 国境ルポ
注3 国連UNHCR協会:死の脅威と病によってベネズエラ人の避難がさらに加速
注4 ユニセフ:ベネズエラ危機 命を守る支援待つ子ども、90万人
注5 日本経済新聞:ベネズエラ難民、受け入れ国でトラブル
注6 UNHCR:日本政府による無償資金協力
注7 外務省:コロンビアに対する無償資金協力に関する書簡の交換
注8 外務省:ブラジルに対する無償資金協力
注9 外務省:エクアドルに対するWFPを通じた食糧援助に関する書簡の交換