近年、世界中で難民が増え続けています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、紛争や迫害が原因で移動を強いられた人の数は2021年6月末時点で8,400万人超えとなり、過去最多を更新しました。このうち2,660万人が、国境を超えて移動することを余儀なくされた難民などです(注1)。
大量の難民が発生するとニュースにはなりますが、難民に対してどのような支援が行われているかについては、あまり見聞きする機会がないのではないでしょうか。この記事では、まず日本が行っている難民支援について概観し、ワールド・ビジョン・ジャパンによる実際の難民支援活動の事例を紹介します。その上で、市民一人ひとりが難民支援に貢献する方法を解説します。苦境にある難民のためにできることを考えるきっかけにしていただければ幸いです。
日本はさまざまな形で難民への支援を行っています。まずは日本政府による難民支援の規模や取り組み内容についての最新のデータを紹介します。さらに難民支援活動には政府や国連、NGOだけでなく、日本企業も参加していることを、事例を通して見ていきましょう。
難民への支援の多くはUNHCRを通して行われます。2019年、日本政府はUNHCRに1億2,646万ドル(約133億8,000万円)を拠出しました。これにより、日本はアメリカ、EU、ドイツ、スウェーデンに次いで世界第5位の資金拠出国となっています(注2)。UNHCRへ拠出した資金は、UNHCRの活動を通して世界中の難民支援に活用されます。
さらに、日本外務省はジャパン・プラットフォーム(JPF)を通じ、難民や国内避難民支援を中心とする緊急人道支援活動を行う日本のNGOに資金を拠出しています。2019年はJPFに対して合計55億4,000万円超の資金を拠出しましたが、このうち49億円以上が、イラク・シリア、南スーダン、ミャンマー、アフガニスタン、パレスチナ・ガザ、イエメンといった、紛争や迫害により多数の難民や国内避難民が発生している地域での活動に使われています(注3)。
UNHCRやNGOへの資金拠出以外にも、日本で行われている難民支援の取り組みはあります。そのひとつが、日本での難民の受け入れです。
日本は、出身国外で難民認定を受けてキャンプ等で暮らしている難民を先進国などに定住させる「第三国定住」と呼ばれる仕組みに2010年から参加しています。この仕組みのもと、2019年までの10年間で合計194人の難民を受け入れてきましたが、2020年度からは年間60人程度へと受け入れ規模を拡大することを公表しています(注4)。
第三国定住の受け入れは、難民条約に基づいて日本が難民認定の審査を行う、いわゆる「条約難民」の受け入れとは別の取り組みです。日本での条約難民の受け入れは1982年から行われており、2018年までに750人が難民と認定されています。これに加えて、2,628人の難民認定申請者が、難民とは認定されなかったものの、人道上の配慮を理由に日本に滞在することを認められています(注5)。
難民への支援活動を行っているのは、国連やNGOだけではありません。多くの日本企業も、難民支援に参加しています。
たとえば、ユニクロやジーユーといったアパレルブランドを展開している株式会社ファーストリテイリングは、2011年にUNHCRとグローバルパートナーシップを締結し、全国の店舗で集めたリサイクル衣料を難民支や国内避難民に届ける活動を行っています。これまでに世界48カ国で3,000万点以上の衣料品を配布した他、難民の雇用や自立のための支援なども展開しています(注6)。
UNHCRなどの国連機関やNGOに拠出された資金は、どのような難民支援活動に使われているのでしょうか。ワールド・ビジョン・ジャパンは、JPFの加盟団体として日本政府資金を使った難民支援活動を展開しているほか、UNHCRや国連児童基金(UNICEF)、国連世界食糧計画(WFP)、国連開発計画(UNDP)といった国連機関とも連携し、世界中で難民の支援に取り組んでいます。ここでは、ワールド・ビジョン・ジャパンによる近年の難民支援の例をご紹介します。
2011年にシリアの政府軍と反政府軍による武力衝突が本格化して以降、多くの住民が国内外での避難生活を強いられ、危機的な状況下で暮らしています。難民を出身国別に見ると、2020年時点でシリア難民は最多の670万人で、2位のベネズエラ難民(400万人)を大きく引き離しています(注7)。このうち65万人以上のシリア難民を受け入れているのが、隣国ヨルダンです(注8)。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、2014年からヨルダンにいるシリア難民向けの教育支援事業を実施しています。2019年には、多くのシリア難民が暮らすヨルダン北部の都市イルビドで、学習に困難を抱える子どもたち向けの補習授業を実施しました。研修や勉強会を行って教師の指導能力の底上げを図ったことで、質の高い授業が提供されるようになり、授業を受けたすべての子どもたちの成績が向上しました。
さらに、子どもたちのストレスを軽減するためのレクリエーション活動や校内イベント等も行い、シリア人とヨルダン人の子どもたちが交流する機会を積極的に設けました。
ミャンマーに暮らす民族集団であるロヒンギャは、ミャンマー政府から「バングラデシュからの不法移民」と扱われ、以前から軍や住民同士の武力衝突が繰り返されていました。2017年の大規模な衝突では70万人を超える人々が国境を越え、2020年5月時点で約86万人のロヒンギャの人々がバングラデシュ国内にとどまっています(注9)。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、難民の発生を受けて即座に支援物資の配布を開始し、その後も、子どもたちが安心して過ごすことができる居場所として、難民キャンプ内に「チャイルド・フレンドリー・スペース」を設置する活動などを展開してきました。
JPFからの助成金を活用し、ジェンダーに基づく暴力を防止するための啓発セッションの実施や被害者に対する心理社会的支援、女性の尊厳や健康を守るための女性支援キットの配布、安全対策用のソーラー街灯の設置なども行いました。
2013年12月に南スーダンで紛争が勃発してから7年近くが経った今もなお、世界最大の南スーダン難民受入国である隣国ウガンダでは、約88万人が避難生活を送っています(注10)。ワールド・ビジョン・ジャパンは、UNDPとのパートナーシップのもと、ウガンダにいる南スーダン難民の人々のための生計向上支援の取り組みを行いました(2019年12月終了)。この活動では、労働に必要なスキルの訓練や労働の機会を提供し、実際に働いた対価としての現金支給も行いました。
労働の内容は難民の人々自身が決めますが、病院や学校に繋がる道路の整備や植林、公共施設の清掃など、彼らが住む地域で必要とされるものとなっています。また、収入を有効活用できるよう、支出計画の立て方や、グループ投資による新規ビジネスの展開方法などについて学ぶ機会も提供し、難民自身が雇用を生み出すことができるように支援しています。さらに、難民だけではなく、同じ地域に住んでいるウガンダの人々に対しても、同じように生計向上支援を行いました。
この記事を読んでいる人の中には、自分も難民への支援に貢献したいと考えている人もいるでしょう。ここまでで紹介したような難民支援活動に貢献するために、市民一人ひとりにできることはたくさんあります。
最初に考えられるのは、難民支援に関わる仕事に就くことです。UNHCRや国際移住機関(IOM)などの国連機関で働けば、難民キャンプなどでの難民支援活動や難民の第三国定住活動に携わることができます。ただし、多くの場合、難民を直接支援する活動は国連機関そのものでなくパートナーシップを組んでいるNGOによって行われます。より難民に寄り沿った支援に携わりたい場合は、ワールド・ビジョン・ジャパンのようなNGOで働くことを検討してみるといいでしょう。
ワールド・ビジョン・ジャパン以外にも、多くの団体が世界各地で難民支援の活動を展開しています。こうしたNGOの多くは、「日本UNHCR・NGO評議会(J-FUN)」と呼ばれる、難民保護と人道支援を行う団体が参加するフォーラムに参加しています。興味のある人は、参加団体を一つひとつ見てみれば、それぞれの団体の活動の特色が見えてくるでしょう。
難民支援を仕事にするのではなく、別の仕事をしながら空き時間を使って難民のために活動したい場合は、難民支援を行っている団体にボランティアとして参加する方法があります。NGOの活動は多くのボランティアの皆様さまの力によって支えられており、ワールド・ビジョン・ジャパンでも、日本全国にいる約450名のボランティアの方々に事務作業や翻訳、画像の編集などを行っていただいています。また、難民映画祭やグローバルフェスタといったイベントの際に、UNHCR駐日事務所がボランティアを募集する場合もあります。
難民支援に関わる団体の多くは、国際協力人材向けのキャリア情報サイト「PARTNER」で人材募集を行っていますので、ボランティアの募集が行われていないか定期的にチェックしてみるといいでしょう。
自分の時間を使って難民支援に貢献することが難しい場合でも、寄付や募金を通して難民のための活動を支えることができます。UNHCRなどの国連機関に寄付を行うこともできますが、難民支援活動を行うNGOに直接寄付を行えば、寄付金の使い道をある程度指定することもできます。
たとえば、この記事の始めに紹介したジャパン・プラットフォーム(JPF)は、政府や民間の資金をNGOに分配するハブの役割を果たす団体ですが、「ミャンマー避難民人道支援」、「南スーダン難民緊急支援」といったように、支援する対象を指定して寄付を行うことができます。支援したい対象が決まっている場合には、こうした寄付を選ぶことで、寄付をとおして活動に貢献していることをより実感できるのではないでしょうか
難民支援のための寄付をお考えの皆さまには、ぜひワールド・ビジョン・ジャパンへの寄付をご検討いただければ幸いです。
ワールド・ビジョン・ジャパンの「難民支援募金」にご協力いただくことで、この記事で紹介したシリア難民やロヒンギャ難民、南スーダン難民など、困難な状況に置かれている世界中の難民へ、より多くの支援を届けることができます。
キャンプで先の見えない生活を強いられている難民の子どもたちの命と未来を守るため、ぜひご協力をお願いします。
※このコンテンツは、2020年8月の情報をもとに作成しています(一部の数字は2022年4月に更新)。
「世界難民への支援は「受け入れ」だけではありません。ワールド・ビジョンでは、難民支援募金を通じて、シリア難民や南スーダン難民など、多くの難民に対して支援を行なっています。より多くの難民へ支援を届けるため、皆さまの難民支援へのご協力をお待ちしています。
難民支援のための寄付をする注1 UNHCR:Refugee Statistics 2021
注2 UNHCR:日本政府×UNHCR
注3 外務省:国際協力とNGO -令和元年度日本NGO連携無償資金協力 及びジャパン・プラットフォーム事業実績 -
注4 外務省:第三国定住事業の概要
注5 外務省:国内における難民の受け入れ
注6 UNHCR:ファーストリテイリング×UNHCR
注7 UNHCR:数字で見る難民情勢(2020年)
注8 UNHCR:Registered Syrians in Jordan
注9 Inter Sector Coordination Group:Situation Report Rohingya Refugee Crisis - Cox's Bazar | June 2020
注10 OCHA: SOUTH SUDAN Humanitarian Snapshot