世界で児童労働に従事する子どもの数は、2000年から2016年の間に38%減少し、この20年間でおよそ1億人の子どもたちが児童労働から解放されました。しかし、今でも世界の子どもの10人に1人が児童労働をしています(注1)。
国際社会共通の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)に「2025 年までに児童労働を撤廃する」と掲げられていますが、その達成には未だ程遠く、さらなる対応が求められています。
この記事では、児童労働の現状や原因、解決策について詳しく説明します。また、世界の取り組みや今日から私たちができることも紹介します。児童労働とは何か、解決のために行動できることがあるのか、この機会に考えてみましょう。
国際労働機関(ILO)と国連児童基金(UNICEF)の共同報告書によると、児童労働を強いられている子どもの数は2016年に比べ840万人増え、1億6,000万人に達したと記されています(注2)。世界の児童労働の問題について、詳しくみていきましょう。
児童労働として禁止されているのは、主に次の2つの場合です。1つ目は、15歳未満(開発途上国は14歳未満)の義務教育を受けるべき年齢の子どもが、教育を受けずに働くこと。2つ目は、18歳未満の子どもによる危険有害労働です。
危険有害労働とは、子どもの健康や安全、道徳を害する仕事を指します。具体的には、夜間や長時間の仕事、肉体的・心理的・性的虐待にさらされる仕事、地下・水中・高所・閉所での仕事です。また、危険な機械や道具を使う仕事、重量物を運ぶ仕事、化学物質や高温・騒音にさらされる仕事も含まれます。
これらの危険有害労働は、売春やポルノ製造、薬物の生産や取引など商業的な目的で児童を働かせることや、児童を販売したり、奴隷・強制労働をさせたりする「最悪の形態の児童労働」と同様に、最も搾取的な労働と位置付けられています(注3 p.8, 注4 pp.11-12)。
一方で、子どもの労働(Child Work)のすべてが児童労働(Child Labour)として禁止されているわけではありません。一部の軽易な子どもの労働や、就業最低年齢以上の子どもの危険有害ではない労働は認められています。日本における高校生のアルバイト、許可を得た中学生のアルバイトなどもこれに当たります。
このように、法的に認められた子どもの労働や児童労働を含めて、子どもの労働という言葉が用いられているのです。
2021年に発表された報告書によると、世界中で1億6,000万人の子どもたちが児童労働をしています。その数は、世界の子どもたちの約10%です。その内訳は、女の子が6,300万人、男の子が9,700万人です。ILOが2000年に世界推計値を発表して以来、20年にわたり減少し続けた児童労働数が初めて増加しました。
児童労働の70%は農業分野にみられます。家族経営の農場が全体の3分の2以上を占め、何千万もの家族経営の農場が児童労働に依存しています。これは、多くの国の農村経済や、国内外のサプライチェーンにおける構造的な問題です。
児童労働の数は地域によって大きく異なり、減少し続けている地域があります。アジア・太平洋地域とラテンアメリカ・カリブ地域の児童労働は減少傾向を保っています。一方、最近の傾向として、児童労働はサハラ以南のアフリカに集中しています。
現在、サハラ以南のアフリカで児童労働を強いられている子どもたちの数は、世界の他の地域を合わせた数よりも多いです。そのため、児童労働の解決を大きく進展させるには、サハラ以南のアフリカの取り組みで成果を上げることが不可欠です。
また、新型コロナウイルス感染症の影響で広がる貧困によって、児童労働は2022年末までにさらに890万人増加する可能性があります。予測される増加分の半数以上は、5歳から11歳までの低年齢の子どもたちです。児童労働が増加した場合の増加率は、パンデミック発生前の4年間に見られた増加率の2倍となります(注5)
劣悪な労働環境での児童労働が、子どもたちに与える影響は深刻です。感染症や農薬による健康被害、HIV/エイズ感染や望まない妊娠、うつ症状や自殺未遂に陥らせる精神的な問題、暴力や虐待など、さまざまな苦しみに耐えなければいけません。また、働くために学校へ通えず、子どもたちが教育を受ける機会を失います。
ここまで、児童労働の現状について解説してきましたが、そもそも、なぜ児童労働を強いられる子どもがいるのでしょうか。ここからは児童労働を生み出す2つの原因や、私たちの生活と児童労働のつながりについて説明します。
児童労働が起きる要因は多岐にわたります。その中でも子どもがいる家庭や地域、国の「貧困」は1つの大きな課題であり、貧困と強く関係しているのが「教育機会の欠如」です。
教育や弱者への保護に関して、政府による政策の不備があることや、児童労働や教育への意識が不足していることで、子どもは過酷な環境で労働を強いられ学校に通えません。また、児童婚の慣習がある地域では、学齢期に結婚することによって女の子が十分な教育を受けられないまま大人になることもあります。
教育を受けられずに成長した大人の多くは、不安定で低賃金の仕事にしか就けなくなりがちです。さらに、子どもの時から続いた過酷な肉体労働によって健康な体を失い、継続的に働けなくなることがあります。
そのような大人のいる家庭では、本人だけでは家計を支えられず、子どもが働いて家族を養わなければいけません。しかし、児童労働で得られる収入は決して十分ではなく、家族が貧困から抜け出すのは簡単でありません。貧困と児童労働が繰り返される悪循環が生まれてしまいます。
児童労働の原因を別の側面から考えると、子どもを安い労働力として雇用するビジネスが挙げられます。人権侵害と言えるこの扱いが横行し、多くの子どもたちが児童労働を強いられているのです。
子どもを安い労働力として雇用するビジネスがなくならない理由は、商品の生産過程における人権侵害に関する情報や意識の不足です。また、安い商品を求める消費行動も児童労働を引き起こす間接的な原因となります。
私たち消費者が安い商品を求めることで、企業側もそれに応えるために他社より少しでも安い商品を販売しようとします。そして安い商品を作りつつ売上や利益を上げるために、生産コストを削減します。その削減されていくコストが、原材料の調達費や労働者に支払われる賃金です。結局、コスト削減の大きなしわ寄せがいく先は、開発途上国の生産者たちであり子どもたちなのです。
私たちの日常生活の中では、児童労働を目にする機会は少ないかもしれません。例えば自分の住んでいる街の一角で、10歳程度の幼い子どもたちが学校に通わず重い荷物を運ぶ姿を見かけることはあるでしょうか。
日頃の生活で直接目にすることがない児童労働。働く子どもたちの姿は見えなくとも、実は姿を変えて私たちの目の前に存在しています。例えば、店頭に並ぶチョコレート、普段からよく着回している洋服、毎日使うスマートフォンなどです。原料はカカオやコットン畑、コバルトの採掘現場から得られたもので、そこでは多くの子どもが学校に通えず児童労働を強いられています。
児童労働で作られた商品は、すでに日本で暮らす私たちの生活の一部になっているのです。安く買いたいという考えや、安く作って販売し利益をあげたいという企業の考えが、児童労働につながっていると言っても過言ではありません。
成長途中の未熟な身体で重労働を強いられれば、健康が損なわれます。また、学校に通えず教育を受けられなければ基本的な読み書きさえできません。大人になっても自立して生きるのが難しくなります。奪われた子ども時代は戻って来ることなく、彼らが将来に支払う代償の大きさは看過できません。世界の子どもたちの10人に1人が児童労働をしている現状と、私たちの生活には接点があるのです。
児童労働の現状や原因について解説してきましたが、ここでは児童労働を解決するためにどんな取り組みをしているのか、南アフリカの地域の事例に触れながらみていきましょう。併せて、私たちができることは何かを考える機会にしてみてください。
「砂を運んでる。すごく重いのに、遠くまで運ぶの。朝4時半から8時まで働いている。夕方4時にまた始めて終わるのは7時。前は学校に通っていたけど、今は食べるために稼がなきゃ」と話すコンゴ民主共和国の14歳の少女(注6)。
コンゴ民主共和国では内戦により数十万人が家を追われましたが、その半数以上は子どもです。貧困、飢餓、疾病に直面し、5歳の子どもですら働いて親を支えています。「悲しい。いいことなんて1つもない。みんな砂が重いと言ってる。もう、へとへと。働くのを止めて、学校に戻れたらいいのに」と少女は続けます。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの人道団体は、この地域の避難民を支援してきました。人々は今も生き延びるために必死です。
「インドや南アジアで児童労働と戦う中で、1つの国だけの問題ではないと気づきました。グローバルの取り組みが必要です。力強い社会運動を起こすこと。強力な法律も必要です」とノーベル平和賞受賞者のマルカイラッシュ氏は話します。
収入を増やすために多くの貧困家庭が町へ子どもを送り、危険な仕事に就かせています。状況を改善するため、ILOは児童労働をする子どもたちへ教育や訓練の機会を提供しています。
毎日、ILO労働査察官が町をまわり視察しますが、児童労働の事例はすぐに見つかります。食堂で働く小さな子どもを見ながら、労働監督官はこう言います。「彼女は仕返しが怖くて状況を話せないのです。子どもにも権利があることを教え、雇い主に法律を守らせねばなりません」
児童労働に対する取り組みは世界中で行われています。例えば、マダガスカルのサロビディでは、ILOが訓練センターを設置し190人の子どもに技能訓練を提供しました。そして2,000人に人権教育を行い、2,500人を児童労働から救いました。しかし、児童労働撤廃には今後も多くの努力が必要とされ、世界の子どもたちの10人に1人が児童労働をしている現状は続いています。
「多くの成果が見られますが、まだ十分ではありません。人類は火星に手が届くのに、危険にある全ての子に手を差し伸べることができない理由はありますか?」とマルカイラッシュ氏は述べています(注6)。
ここまで、解決のための取り組みについて触れながら児童労働の現状や問題の根深さを解説してきました。紹介してきた内容は児童労働の一部分ではありますが、考えを深めるきっかけになったのではないでしょうか。
世界では国連機関や政府、NGO(非政府組織)などが児童労働をなくすためにさまざまな取り組みをしています。その一方で、児童労働にさらされている子どもたちのために、私たちにできることは一体何でしょうか。
今日から今すぐできることは「知ろうとする」ことです。児童労働で作られた可能性のある製品を、日常生活の中で私たちはいつも目にしています。まずは関心を持ち、問題やその解決のために必要なことを考える姿勢が大切です。個人から始まる意識の変化が、児童労働のない社会の実現に繋がっていくはずです。
また、関心を持つだけでなく行動したい方には、NGOに寄付をする方法もあります。NGOは困難な状況にいる人たちへ支援活動を行っており、寄付はその活動を直接支援できる有効な手段です。
ワールド・ビジョンは、1950年に設立された国際NGOです。これまでアフリカをはじめとする世界中の開発途上国で、児童労働をしている子どもたちのために支援を行ってきました。
しかし、児童労働がなくなるまでの道のりはまだ長く、継続的な取り組みが必要です。世界の子どもたちの10人に1人に当たる1億6000万人が、児童労働から抜け出せていません。
別の記事で紹介している1日中働いても稼ぎが23円という4歳の少女や、10歳で社会人6年目となる少女も、仕事のために学校へ通うことはできません。彼女たちのように、未来を夢見ることも、叶えることも許されず、可能性が閉ざされる子どもが多く存在します。
ワールド・ビジョンは、世界の子どもたちが教育を受けることができ、児童労働のない世界の実現を目指して、開発途上国へ支援活動を行っています。
チャイルド・スポンサーシップ
設立から70年以上の歴史を持つワールド・ビジョンが実施する「チャイルド・スポンサーシップ」は、1日150円(月々4,500円)の支援で子どもたちの未来を切り拓くプログラムです。毎月の継続支援は、児童労働や人権などの問題から子どもたちを保護するための活動に用いられます。
ほかにも、保健サービスの提供や安全な水の確保、栄養改善など、子どもたちが健やかに成長できる環境を整えるために支援金が使われます。アジア・アフリカ・中南米など世界21カ国で実施されている支援プログラムです(2020年度実績)。
また、写真や手紙で支援地域に住む子ども、チャイルドと交流ができるので、お互いを身近に感じられます。交流を通じて、自分のチャイルドの成長と、地域の明るい変化を実感できる支援です。
1日あたり150円(月々4,500円)から支援できるチャイルド・スポンサーシップには、日本で約5万人の支援者が参加しています。公式サイトにあるこちらのページから申し込めます。
また、子どもたちが暮らしの中で抱えている国際問題をこちらのページで紹介しています。支援する子どもたちへの理解を深めるきっかけとして、ぜひ一度ご覧ください。
皆さまのご支援とご協力をお待ちしています。
貧困、紛争、災害。世界の問題が複雑に絡み合って、
子どもたちの健やかな成長を妨げています。
世界の問題に苦しむ子どもとともに歩み、子どもたちの未来を取り戻す活動に、
あなたも参加しませんか。
注1 国際労働機関:児童労働撤廃国際年~概要
注2 国際労働機関:世界の児童労働者数 1億6,000万人に、この20年で初の増加
注3 デロイトトーマツコンサルティング合同会社, 株式会社オウルズコンサルティンググループ, 認定NPO法人ACE:児童労働白書 2020 ビジネスと児童労働
注4 国際労働機関:「児童労働の世界推計:推計結果と趨勢、2012〜2016年」
注5 国際労働機関:最新報告書『児童労働:2020年の世界推計、動向、前途 』5つのポイント
注6 国連広報センター (UNIC Tokyo):児童労働との闘い
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