インドの人口は2019年時点で13億6,641万人(注3)で、その数は中国に次いで世界第2位です。2050年にはインドが中国を抜き、世界で最も人口の多い国になることが予想されています(注4)。
国際貧困ラインである1日1.9ドル以下で生活する人びとが、インドには2015年時点で1億7,000万人以上存在していました(注5)。インドの人々が直面している貧困問題は何でしょうか。また現在、貧困率は減ってきているのでしょうか。
インドの人口は2019年時点で13億6,641万人(注3)で、その数は中国に次いで世界第2位です。2050年にはインドが中国を抜き、世界で最も人口の多い国になることが予想されています(注4)。
国際貧困ラインである1日1.9ドル以下で生活する人びとが、インドには2015年時点で1億7,000万人以上存在していました(注5)。インドの人々が直面している貧困問題は何でしょうか。また現在、貧困率は減ってきているのでしょうか。
極度の貧困にある人々の数は、世界的に減り続けています。1993年に19億人だった世界の貧困層は、2017年には6億8900万人に減少しています(注6)。国連開発計画(UNDP)の調査によると、インドでも栄養、衛生、資産等の分野で大幅な改善を達成し、農村部の貧困削減が都市部よりも速く進んでいます(注7)。
しかし2021年2月現在、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)によるパンデミックが世界の貧困層に打撃を与えています。それはインドも例外ではありません。インドが直面している貧困問題は、COVID-19によってさらに悪化すると予想されています。
インドの労働人口の80%にあたる4億5000万人は、路上での商売や行商、臨時雇い、ゴミ拾いなど、インフォーマルセクターで働いています。COVID-19の蔓延防止のために都市封鎖や外出禁止の措置がとられると、彼らは職を失ってしまいます(注2)。また、インドの労働者の11%はホテルやレストランで職を得ていると言われており、店舗や施設の閉鎖は彼らの生活を不安定にしてしまいます(注8)。
貧困を測る指標のひとつに、世界銀行と研究者グループによって定められた国際貧困ラインがあります。1990年は1日1ドル、2005年には1日1.25ドルになり、2015年に1日1.9ドルに定められました(注5)。貧困ラインに満たない生活をしている人びとの割合が貧困率です。
世界の貧困率は減少傾向にあり、1990年には36%だったものが2015年には10%になり(注5)、さらに2020年には8%まで減少すると予想されていました。しかしCOVID-19の影響で、2020年は8800万人以上、ひどい場合は1億人以上が極度の貧困に陥ると考えられています。世界の貧困率は9.1%に上昇し、貧困削減への取り組みが後退してしまうとも言われています(注6)。
インドの貧困率を見てみましょう。1973年、インドの貧困率は54.9%を占めていました(注9 P26 )。その後は減少を続け、1994年は49.40%、2005年は 41.60%、2010年は32.70%と推移していきました(注10 P2)。次回発表される2017年の貧困率データは、世界平均の9.2%をわずかに上回る程度と推定されています(注6)。しかし、COVID-19の影響はインドにも及んでおり、貧困率の増加が考えられます。
インドの貧困問題の原因の1つに、格差があるといわれています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、インドに昔からあったさまざまな格差を浮き彫りにしました。インドの格差社会の現状と、インド文化圏に特有の貧困カーストについて取り上げてみましょう。
インドは経済成長も目覚ましく、貧困削減が成功しているかのように見えます。富の85%は人口の10%が所有していると推定され、格差は更に広がっていると考えられています(注2)。所得層別人口の推移を見てみましょう(注12)。
2000年 |
2010年 |
2020年 | |
---|---|---|---|
高所得層 (世帯可処分所得35千ドル以上) |
0.3% |
0.7% |
0.7% |
中間層 (世帯可処分所得5千ドル以上35千ドル未満) |
4.1% |
19.9% |
32.8% |
低所得層 (世帯可処分所得5千ドル未満) |
95.6% |
79.4% |
66.4% |
(在インド日本大使館:3.インドの人口・貧困状況(2)所得層別人口の推移より)
2019年に発足したモディ首相による新政権では、重要課題として「宗教、地域、カーストの対立を越えた協調的社会の実現」が挙げられました(注11,P2 )。
インドにはさまざまな宗教が混在しています。2011年に調査によると、ヒンドゥー教徒79.8%、イスラム教徒14.2%、キリスト教徒2.3%、シク教徒1.7%、仏教徒0.7%、ジャイナ教徒0.4%という割合です(注3)。他にも少数の宗教がいくつも存在しており、多数派の宗教と少数派の宗教の間で起る対立や格差が問題になっています。
また、貧困人口の州間格差も広がっています。貧困人口比率は、最も低いパンジャブ州が 8.4%であるのに対し、ビハール州では 41.4%、オリッサ州では46.4%となっています(注9,P27)。
他にも、保健医療格差、ジェンダー格差、世代間格差、情報の格差、民族による格差、環境格差など、さまざまな格差が存在しています。これらはインドをはじめ多くの国でも生じており、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で、さらに格差が広がると考えられています。
さらにインド文化圏の国々にはカースト制度という特有の格差問題があり、貧困問題を深刻で複雑なものにしています。
カーストは、インド文化圏で広く信仰されているヒンドゥー教と関りが深いといわれています。ヒンドゥー教にはインドの宗教・社会制度・文化・風習などが反映されており、身分制度「カースト」もそのひとつです。カースト制度は法律で禁止されていますが、根強く残っている地域が多くあるのが現状です(注13)。
カーストと貧困の関係については、次のように述べられています(注14 )。
貧困人口は社会階層によって大きく異なり、指定カースト(SC)・指定部族 (ST)及びその他の後進諸階級(OBC)の貧困人口比率は、農村部、都市部共にイン ド全体の比率と比較して高い数値となっている。また、指定カーストや指定部族は、農村部に多く、2004 年には、農村部貧困人口の 80%をこれらの階層が占めている。このことからも、貧困人口が農村部に集中しており、農村部の貧困が深刻であることがわかる。他方、近年農村部から都市部への移住者が増加しており、都市部における スラム化や生活環境の悪化等、都市部の貧困問題が顕在化している。
外務省:第3章 インドの概要・概況
指定カースト(Scheduled Castes)はヒンドゥー教社会の外にいる人びとで、差別を受けることが多い階層です。ダリットやハリジャンとも呼ばれています。指定部族(Scheduled Tribes)とはインドの大多数であるヒンドゥー教やイスラム教に属さず、独自の文化を守っているとされる少数民族のことです。カーストの外にいるということで、差別の対象になることが多い人びとです。
2011年の国勢調査によると、指定カーストは全人口の 16.9%を占め、5つの州に集中しています。指定部族は全人口の 8.6%を占め、農村部の遠隔地や僻地に居住しています。いずれも貧困率は全国平均より高く、指定カーストが29%、指定部族が43%となっています(注15 P13)。
さらにユニセフによると、インドでは1,500万人いる奴隷児童労働者の子どもたちの大多数が、もっとも低いカースト出身者だと言われています(注16 )。最下層のハリジャンに属する人々の冷遇や女性差別についても報告されています(注17)。
このように、インドにはヒンドゥー教の価値観をもとに設定されたカーストという身分制度があり、貧困問題と深く関わっていることが明らかとなりました。インド政府はカースト制度を否定しているものの、人びとの間に根強く残り、格差を拡げる原因のひとつとなっています。
IT産業や金融業のような新しい職業は、カーストがつくられた時代にはなかったため、身分に関係なく職に就くことができます。そのため若い世代は可能性を求めて、これらの職業に集中しているのです(注18)。
ワールド・ビジョンは、キリスト教精神に基づいて開発援助、緊急人道支援、アドボカシー (市民社会や政府への働きかけ)を行う国際NGOです。子どもたちとその家族、そして彼らが暮らす地域社会とともに、貧困と不公正を克服する活動を行っています。宗教、人種、民族、性別にかかわらず、すべての人々のために働いています。
インドの貧困層は、格差や差別に苦しんでいます。ワールド・ビジョンは困難に直面している貧しい人びとに手を差し伸べ、寄り添いながら自立に向けた支援を行っています。
2019年度、ワールド・ビジョン・ジャパンは世界32カ国で159事業を実施しました。そのうちインドでは5つの事業を行いました。これらの事業は全て寄付や募金、補助金などによるものです。
2019年度にワールドビジョンがインドで実施した支援活動は、次の5つです。
キラユ地域開発プログラム
地域ヘルスワーカーの能力強化を通じた母子保健プログラム支援事業(インド)
2020年度からは上記の活動に加え、デオガル地域開発プログラムが始まりました。その内容について、詳しく見てみましょう。
デオガル地域開発プログラムは、首都デリーから南東へ約900kmに位置するジャールカンド州デオガル郡で実施しています。実施期間は2020年から2031年の予定です。
インドでは地域格差が問題になっていますが、ジャールカンド州も地方と都市部で貧困率に差があります。2009年から2010年のデータによると、地方の貧困率は41.6%で都市部の貧困率は31.1%でした(注19, 図表13)また、2005年から2006年のデータでは、3歳未満の低体重割合は59.2%で、調査された19州の中で2番目に高い値でした(注9, P27 )。
デオガル地域には、農業で生計を立てている人々が多く暮らしています。しかし農地はぜい弱で、サイクロンや干ばつなどの自然災害の影響を直に受けてしまいます。農業だけでは生計が立たず、季節労働などで出稼ぎに出る住民も多いのが現状です。
デオガル地域は比較的新しい行政区であるためか公共のサービスが行き届いておらず、医療や教育へのアクセスが限られています。食料も充分ではなく栄養に関する知識も低いため、2015年のデータによると、デオガル地域に住む約半数の子どもが慢性的な栄養不良の状態に陥っています。
衛生環境の劣悪さも課題です。2015年のデータでは、衛生的なトイレを使っている家庭は32%のみで、残りの68%は不衛生な環境で生活していることが明らかとなりました。
子どもの権利が守られていないことも深刻な問題です。児童婚が横行し、教育の機会も限られています。男性優位の認識が根強く残っていることから、女性の識字率が低いという現状があります。(「女の子だから学校に通えない」ということはインドだけではなく他の国でも起きている問題です。)
このようなデオガル地域で、ワールド・ビジョンはジェンダーに配慮しながら、保健・栄養改善と子どもの保護を中心に活動を始めました。この活動はチャイルド・スポンサーシップや募金/寄付により実施しています。
チャイルド・スポンサーシップは、日本にいる私たちにもできる、インドの貧困問題を解決する方法の1つです。1日当たり150円の継続支援で、貧困に直面しているインドの子どもが健やかに育ち、未来に希望を持てるようになります。チャイルド・スポンサーシップの効果はそれだけではありません。子どもが住む地域全体が確実に改善されるための、持続的で効果的な支援に繋がっているのです。
2019年年次報告書によると、ワールド・ビジョンに集まる寄付の半分がチャイルド・スポンサーシップに対するものでした。インドをはじめ世界の貧しい子どもを救うことができるチャイルド・スポンサーシップとは、どのようなプログラムなのでしょうか。
チャイルド・スポンサーシップは、地域に根差した開発援助を行うことで、子どもたちの健や かな成長を目指すプログラムです。ご支援金により、教育、保健・栄養、水資源開発、貧困削減など様々な支援活動を長期(10 ~15年) にわたって行い、子どもの人生に変化をもたらします。
チャイルド・スポンサーシップによる支援は、1人の子どもだけを対象にした お金や物を提供する支援ではありません。その地域に住む子どもたちが健やかに成長できる持続可能な環境を整えていけるよう、支援地域の人々とともに水衛生、保健・栄養改善、教育、生計向上、子どもの保護等の地域の課題に取り組みます。また、活動の成果を地域の人々自身が将来にわたって維持し、さらに発展できるように、人材や住民組織の育成にも力を入れています。
2019年度、48,426人のチャイルド・スポンサーが、57,575人のチャイルドを支援しました。チャイルドから約4万通の手紙がチャイルド・スポンサーに送られ、暖かい交流が生まれています。
チャイルド・スポンサーとチャイルドの文通の方法については「手紙の書き方」をご覧ください。チャイルド・スポンサーが手紙を送ると、通常4~5カ月でチャイルドから返事が来ます。
チャイルド・スポンサーの声をお聞きください。チャイルド・スポンサーシップは開発途上国の支援に役立つだけではなく、感動に満ちたプログラムであることもおわかりいただけるでしょう。
チャイルド・スポンサーになると、チャイルド と文通をしたり、訪問して直接交流することもできます。支援地域がどのように発展し、チャイルドがそこでどのように成長しているか、毎年お送りする「プログラム近況報告」と、チャイルドの「成長報告」を通じて、支援の成果を実感していただけるでしょう。
インドの子どもたちの喜びの声を動画でご覧いただけます。子どもたちの権利が守られ、教育の機会を得て、衛生環境も改善し、健やかに育っている様子が伝わります。動画の中では、大人たちからも感謝のメッセージが伝えられており、チャイルド・スポンサーシップが地域全体にもたらした成果を知ったり、支援地域をとても身近に感じられたりできるでしょう。
ワールド・ビジョンの支援によって夢を叶えた大勢の子どもがいます。その中から、インドのアマンディ―プさんについてご紹介しましょう。
アマンディ―プさんは「女の子には教育は必要ない」という価値観が残る地域で貧しい暮らしをしていました。「貧しいから、女の子だから」という二重苦の中、教育を受けられない苦しみを知っている両親が、生活を切り詰めてアマンディ―プさんを学校に通わせました。アマンディ―プさんは教育を受けることで「自分にも可能性がある」と気づき、看護師になるという夢を持つようになりました。
しかし、看護学校の学費がどうしても払えず夢をあきらめかけた時に、ワールド・ビジョンから学費の支援を受けることができるようになりました。睡眠時間3時間で勉強に励み、看護師になる夢を叶えることができました。
ワールド・ビジョンの活動を支援し、世界の子どもたちと交流してみませんか?
注1 THE WORLD BANK:1年を振り返って:14の図表で見る2019年
注2 UNDP:新型コロナウイルス後の開発ビジョン
注3 外務省:インド(India)基礎データ
注4 国立社会保障・人口問題研究所:人口統計資料集(2020)表1-16 人口の多い国
注5 THE WORLD BANK:世界の貧困に関するデータ
注6 THE WORLD BANK:1.The near future of global poverty
注7 UNDP:2019年グローバル多次元貧困指数
注8 THE WORLD BANK:Poverty & Equity Brief
注9 外務省:第3章 インドの概要・概況
注10 JICA:インド平成 26 年度国別ジェンダー情報整備調査(ジェンダー分析)
注11 外務省:最近のインド情勢と日インド関係
注12 在インド日本大使館:3.インドの人口・貧困状況
注13 国土交通省:6.ヒンドゥー教
注14 外務省:第3章 インドの概要・概況
注15 JICA:インド JICA 国別分析ペーパー P13
注16 ユニセフ:ユニセフの主な活動分野|インクルージョン 差別・偏見
注17 ユニセフ:世界の子どもたち インド
注18 外務省:台頭するインド・パワー インド経済とこれからの日印関係
注19 JICA:貧困プロファイル インド