2030年までの国際目標を定めた「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」 は、頭文字をとってSDGsと呼ばれています。17の目標と169のターゲットが設定されており、目標4に「質の高い教育をみんなに」が掲げられています。
世界では、紛争・貧困などにより教育を受ける場を奪われている人たちがいます。また、「日本は関係ない」と思われがちですが、国内の7人にひとりの子どもが相対的貧困に直面(注1)。「日本は関係ない」と思われがちですが、実は日本の教育においても、このSDGs目標4に照らして解決すべき課題があることに目を向けたいと思います。
本記事では、目標4である「質の高い教育をみんなに」について詳しく解説します。目標達成に向けてどのような課題があり、解決のためにどのような取り組みが行われているのか、そして、私たちができる支援について考えていきます。
「質の高い教育をみんなに」は、すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進することを目指しています。
質の高い教育は、持続可能な生活の維持能力を与え、貧困の連鎖を断ち切るだけではなく、不平等の是正やジェンダーの平等などの達成にも貢献します。つまり、教育はSDGsの目標達成において必要不可欠な要素だといえるでしょう。
SDGsは、2015年9月にニューヨークの国連本部で行われた国連サミットで採択されました(注2)。国連加盟193カ国が達成を目指す2016年から2030年までの国際目標です。
世界は、貧困・気候変動・人種・ジェンダーに起因する差別など、さまざまな問題や課題に直面しています。このような地球規模の問題を解決するために、「誰ひとり取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
「17の目標」に無縁な人は地球上に誰ひとりとして存在しません。開発途上国のみならず、これらの問題を自分のことだという意識を持って行動することが重要です。世界中で取り組む普遍的なものであり、日本でも積極的な取り組みが行われています。
「質の高い教育をみんなに」という目標は、SDGsのもとになったMDGs(Millennium Development Goals)においても、目標2「初等教育の完全普及の達成」として掲げられていました(注3)。
MDGsが設定され、世界の国々はその達成に向けて取り組みました。その結果、小学校に通う子どもたちの数は史上最高に達し、それまで男児に比べて低かった女児の就学率もほぼ同じになったのです(注4)(注5)(注6 p.19)。
ただし、すべての目標が達成できたわけではありません。MDGsでやり残したことはSDGsに引き継がれています。目標4の主なターゲットは、以下のとおりです(注7)。
4.1 | 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育および中等教育を修了できるようにする |
4.2 | 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達支援、ケアおよび就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする |
4.3 | 2030年までに、すべての人々が男女の区別なく、手頃な価格で質の高い技術教育、職業教育および大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする |
4.4 | 2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事および起業に必要な技術を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる |
4.5 | 2030年までに、教育におけるジェンダー格差をなくし、障がい者、先住民および脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする |
4.6 | 2030年までに、すべての若者および大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力および基本的計算能力を身に付けられるようにする |
4.7 | 2030年までに、持続可能な開発のための教育および持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和および非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、すべての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識および技能を習得できるようにする |
(参照元:SDGグローバル指標|外務省)
2016年から始まったSDGs。世界の現状はどのように変化しているのでしょうか。
世界のすべての子どもたちが教育を受ける権利を持っていますが、世界では、小・中・高校レベルの教育年齢にある6~17歳までの子ども・若者のおよそ6人にひとり、約2億5,000万人が学校に通えない状況です(2019年7月時点)(注8)。
教育を受けられない理由、そして、教育が受けられないことで生じる問題について解説します。
教育を受けられない理由が明確でも、貧困や飢餓という「生きる」ことに目が向けられ、「学校に通わせたところで意味がない」と考える親たちがいます。
未来を担う人材育成のための教育環境を整えるという根本的な理解が広がらず、教育の普及を妨げていると考えられます。
教育を受けられない子どもたちは「受けたくても受けられない」状況にあることが見て取れます。
国や地域などの事象が絡み合って、読み書きすら思い通りにできない人たちが約7億7,300万人いるといわれています(注9)。もし、すべての学生たちが基礎的な読解力を身につけることができれば、多くの人たちが貧困から抜け出す可能性が高まるでしょう。教育が受けられない理由は、大きく分けて5つあります。
理由 | 背景 |
---|---|
1.先生が足りない | ・学校があっても先生が足りなくて授業を受けられない ・教師として子どもたちに教育できるおとなが、十分な知識を持っているとは限らない |
2.お金に余裕がない | ・生活をすることが精一杯で、学校に通うお金がない ・家事や幼児の子育ては子どもが担っており、両親が働きに出ている間は、小さな兄弟・姉妹の面倒を見なくてはならない ・飲み水などを確保するための水道や井戸がない地域では、水くみも子どもたちの仕事 |
3.親が学校に行かせてくれない | ・子どもを働かせた方が家計のためになると考える親や、女性には教育は必要ないと考えている親がいる ・女性よりも男性が優遇される慣習が残る地域も多く、貧困家庭の場合は、男性を優先的に学校へ通わせている |
4.病気 | ・医療が遅れていたり不衛生な暮らしを余儀なくされていたり、病気にかかりやすい 治療も満足に受けられず学校に通えないこともある |
5.戦争・紛争 | ・学校は訓練所や避難所に指定され、学校が攻撃されることもあるため、安心して学校に通える環境ではない |
(参照元:SDGs|目標4 質の高い教育をみんなに|すべての課題解決の為に|SDGsジャーナル)(注10)
教育が受けられないことは、おとなになってからの人生にも大きな影響を与えます。まず、学校に通えず、文字の読み書きや計算などの教育を受けられないことで、識字の問題が深刻といわれています。
また、文字の読み書きができなければ、読書や筆記もできません。その状態では仕事に就くこともままならず、収入の不安定にもつながります。結果として、貧困が子どもたちの世代へと受け継がれる、負のスパイラルに陥ることになってしまうのです。
このように、必要な情報や知識を得られない環境では、社会に取り残される懸念もあり早急な解決が求められています(注11)。
教育をとりまく諸問題を解決しなければ、
SDGsの「誰ひとり取り残さない」という共通理念は達成できない
日本の子どもたちは、「最低限の教育は受けられている」と思っていませんか。
日本では、小学校と中学校が義務教育であるにもかかわらず、経済的な理由などで学校に通えない子どもたちが存在します。近年は、経済格差と学力格差の関係性が問題視されるようになりました。
文部科学省の「平成30年度子供の学習費調査」では、家庭が自己負担する学習費のうち、60%以上が学校外活動費であることが分かっています(注12 p.1 p.16)。つまり、経済的余裕のない家庭では、部活動・塾・習いごとなどのさまざまな学習機会が奪われています。
日本ではここ数年、不登校が急増しています(注13 p.4)。その理由が、家庭の状況や事情によるケースも少なくありません(注14 p.15 p.19)。子どもの貧困率は、相対的貧困の状態にある18歳未満の子どもの割合を指しており、日本の子どもの7人にひとりが、相対的貧困の状態にあるといわれています。学習・進路の面だけではなく、医療や食事などの生活面での課題があります(注15 p.6)。
相対貧困率とは、OECD(経済協力開発機構)によると、「世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分(貧困線)に満たない人々の割合」と定義され、国や地域の生活レベルとは関係なく、衣食住における必要最低限の生活水準が満たされない人の割合を指します。
日本における教育格差をどう解決していくのかは、早急に取り組むべき課題です。不登校生徒の増加で述べたように、学習機会が十分に与えられない子どもたちは、学力や能力が低下する傾向が見られます。それは、進学の機会を失うとともに、将来の所得格差にもつながります(注16)。
また、過疎化が進む地方では、都会に比べて学習塾や予備校が少ないため、教育機会の不平等も課題です。
日本においても、開発途上国のような教育問題はないものの、親の経済格差による子どもの教育格差は社会的問題として捉えなければなりません。こうした問題を解決しなければ、SDGsの「誰ひとり取り残さない」という共通理念は達成できないのです。
教育は、子どもたちが自らの健康を守り、
貧困から抜け出すために必要となる知識を提供します
質の高い教育を受けられない子どもたちをひとりでも多く減らすために、国連機関やNGO・NPOでは、さまざまな支援活動を行っています。自分ひとりだけでは、地球規模の課題解決に直接的に貢献することは難しいかもしれません。
まずは、世界や日本の現状を知り関心を持つことが重要です。そして、私たちにできることから始めてみましょう。
教育を受けられるように、世界が行っている解決策を考えていきます。
貧困層が多い国では、女性だからという理由で教育を受けられないこともあり、そんな中で、トイレがないことも女性が学校に通えない理由の一つに挙げられます。そのため、学校に女子トイレを設置する取り組みも行われています。
また、水などの衛生環境の改善は、さまざまな問題解決につながります。それは、教育においても例外ではありません。
例えば、水道や給水所の設置は、子どもたちが水くみをする時間を削減できます。また、衛生的な水を手に入れることで、病気になることも減り家族の看病をする時間も減らせるでしょう。そのため、空いた時間を勉強に充てることが可能です。
続いて、貧困な家庭が多い開発途上国では、両親の共働きが多く家のことや小さい兄弟たちの世話などもしなければなりません。そのため、学校へ通える時間がないのです。
貧困であることは、教育を受けること自体への妨げとなっています。貧困などの家庭環境で勉強に集中できなかったり、居場所がなかったりする子どもたちへの支援も実施されています。
このように、労働の担い手である子どもたちは、生活をしていくうえで重要な知識を得ることが難しいといえるでしょう。医療や衛生面などへの知識もないことから病気になりやすく、健康を保つことも厳しい状況でもあります。
教育を受けられないことがどれだけの危険性があるのか、そして受けることのメリットなどを指導することが重要なのです。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、チャイルド・スポンサーシップを通して、アジア・アフリカ・中南米の世界21カ国に支援を届けています(2021年度)。
モノを支援するだけでは、問題は解決しません。教育においては、地域のリーダーや保護者を対象に、教育の重要性を伝え、子どもたちが教育を受けられるように働きかけています。
また、教育施設・備品を整え、教師へのトレーニングも行い、保健施設の整備や生計向上への活動支援などにも携わっています。
ワールド・ビジョン・ジャパンが副代表・運営委員として参加する教育協力NGOネットワーク(JNNE)では、「SDG4教育キャンペーン2021」を実施。全国から3,896名の子ども・ユース・市民が参加しました。
SDGsの目標4を2030年までに達成することを目指して、教育課題への政策優先度を上げるための提言活動に、ユースとともに引き続き取り組んでいきます。
すべての子どもたちが教育を受ける権利を持っています。教育を受けられない子どもたちのために、私たちにできることを見直してみましょう。
これらの行動は、世界中すべての人の未来のために必要です。今は、インターネットがありさまざまな国や地域の情報を得られます。そして、インターネット上から寄付することも可能です。
つまり、子どもたちが平等に教育を受けるためのサポートを間接的にすることができるのです。「質の高い教育をみんなに」を理解し、SDGsの目標達成のために積極的に参加してみてください。
世界中に公平な教育を届けるためには、まだまだ資金が足りていないのが現状です。
また、教育のためには、貧困の連鎖を断ち切り、子どもたちを取り巻く環境を変えることが必要です。ワールド・ビジョンでは、農業の収穫が少ない地域には食料の支援だけではなく、農業技術の支援も行っています。このように、子どもたちを取り巻く環境の整備によって、教育が受けられる未来へとつながります。
ワールド・ビジョンの活動にご関心を持っていただけた場合は、ぜひチャイルド・スポンサーシップへのご協力をお願いいたします。
注1 厚生労働省:各種世帯の所得等の状況|貧困率の状況
注2 外務省:SDGsとは?
注3 外務省:ミレニアム開発目標(MDGs)
注4 株式会社ミラサス:SDGsの前身『MDGs』
注5 ユニセフ:ミレミアム開発目標(MDGs)
注6 国際連合:国連ミレミアム開発目標報告2013
注7 外務省:SDGグローバル指標|4.質の高い教育をみんなに
注8 ユネスコ:New methodology shows that 258 million children, adolescents and youth are out of school
注9 ユネスコ:世界寺子屋運動について
注10 SDGsジャーナル:SDGs|目標4 質の高い教育をみんなに|すべての課題解決の為に
注11 ユニセフ:世界の就学状況報告書発表 学校に通っていない子ども3億300万人 紛争地・被災地では1億400万人
注12 文部科学省:平成30年度子供の学習費調査
注13 文部科学省:令和2年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」結果について
注14 文部科学省:平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要
注15 厚生労働省:子供の貧困に関する現状
注16 文部科学省:第1章 教育の課題と今後の教育の基本的方向について