食品ロスは日本だけではなく、世界的な問題です。2015年に採択された持続可能な開発目標:SDGs(Sustainable Development Goals)においても、食品ロスを減らす目標が掲げられています。また多くの食品を廃棄する国がある一方で、飢餓に苦しんでいる人々がいることも事実です。こうした格差を解消し、食料が無駄なく適切に行き渡る世界を実現する必要があります。
そこで本記事では食品ロスの現状や、日本や世界における食品ロス削減に向けた取り組みを紹介。私たちと一緒に、どのようなことができるのかを考えていきましょう。
SDGsの目標のなかには、目標12「つかう責任 つくる責任」という項目があります。地球の限りある資源を使い、ものを作る立場としての責任を果たすといった趣旨の目標です。細かい目標は以下になります。
ターゲット | |
12.1 | 開発途上国の開発状況や能力を勘案しつつ、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組み(10YFP)を実施し、先進国主導のもと、すべての国々が対策を講じる。 |
12.2 | 2030年までに天然資源の持続可能な管理および効率的な利用を達成する。 |
12.3 | 2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体のひとり当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。 |
12.4 | 2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。 |
12.5 | 2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用および再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 |
12.6 | 特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する。 |
12.7 | 国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣行を促進する。 |
12.8 | 2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発および自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする。 |
12.a | 開発途上国に対し、より持続可能な消費・生産形態の促進のための科学的・技術的能力の強化を支援する。 |
12.b | 雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する。 |
12.c | 開発途上国の特別なニーズや状況を十分考慮し、貧困層やコミュニティを保護する形で開発に関する悪影響を最小限に留めつつ、税制改正や、有害な補助金が存在する場合はその環境への影響を考慮してその段階的廃止などを通じ、各国の状況に応じて、市場のひずみを除去することで、浪費的な消費を奨励する、化石燃料に対する非効率な補助金を合理化する。 |
(注1)
とくに「12.3」の項目では、食品ロスを減らすことがターゲットとして定められています。このほかの項目でも、食品をはじめとする地球の資源を大切に使い、持続可能な社会を目指すことが目標とされています。
食品ロスを減らす必要がある理由は、主に以下の3つです。
世界の食料需要量は増加傾向にあり、2050年には2010年の1.7倍にまで増加すると見込まれています(注2)。また生ごみは水分を多く含み、燃えにくいため、焼却時に燃料を使用することも懸念されています(注3)。
そのため食品ロスは食品そのものだけではなく、製造から廃棄までの工程であらゆる資源を無駄にしていることになるのです。結果的にCO2の排出量も増え、地球温暖化が促進することにもつながります。
日本の食品ロスは年間およそ612万トンも発生しており、これは東京ドーム約5杯分に相当します。国民ひとりあたりに換算すると、毎日1人がお茶碗1杯ほどの食品を捨てている計算になります(注4)。
なお食品ロスをもっとも多く発生させているのは、食品製造業で、その次が一般家庭です(注4)。工場の製造過程などで本来食べられるはずの食品が規格外などの理由から328万トンも廃棄されているほか、一般家庭でも284万トンもの食品が廃棄されています。一般家庭で発生する食品ロスは、ただ食べずに残して捨てるだけではなく皮の剥き過ぎといったものも含まれます。
また日本の食料自給率(カロリーベース)は38%と、先進国の中では最低水準です。アメリカの食料自給率が121%であるのと比べても、その差は歴然です(注5)。多くの食料を輸入に頼っている日本はなおのこと、食料を無駄にせず自給率を上げていくことが必要とされています。
世界では、毎年13億トンの食品ロスが発生しています。これは世界における食料生産量の3分の1に相当する量です(注4)。毎年40億トンもの食品が生産されており、本来であれば全人口の食事をまかなえます(注6)。
しかし食品ロスで3分の1あまりが廃棄されていることにより、飢餓に苦しむ人々がいまだに大勢いるのです。SDGsでは2030年までに飢餓人口をゼロにするという目標が掲げられていますが、現状のままでは達成困難とされています。
2022年にユニセフが発表した世界の食料安全保障と栄養の現状報告書によると、2021年時点で飢餓に苦しむ人々は約8億2800万人にものぼるとされています。この数字は前年よりも増加しており、新型コロナウイルス感染症やウクライナ危機の影響で飢餓が拡大していることがわかります(注7)。
日本政府は食品ロス問題を受け、令和元年5月31日に令和元年法律第19号として「食品ロス削減推進法」を施行しました。同法律では食品ロスの削減の推進に関する基本方針だけではなく、消費者や事業者等に対する啓発や支援といった内容も盛り込まれています(注8 P.16)。
また日本政府は、2017年時点で328万トン発生している食品事業由来の廃棄物を2030年度までに273万トンまで減らす目標を立てています。こうした法律や目標を受け、各食品事業者はロス削減に向けて取り組んでいる最中です。
具体的には賞味期限の延長、フードバンクへの寄付、不揃い品の販売といった取り組みが挙げられます。
世界でも食品ロス削減に向けて、さまざまな取り組みが行われています。例えば、2016年にはフランスで世界初となる食品廃棄禁止法が制定されました。これは店舗面積が400平方メートルを超える大型スーパーを対象として、賞味期限切れなどの理由による食品廃棄を禁じる法律です(注9 P.6)。
食品は捨てるのではなく、事前に契約した慈善団体に寄付をするか、肥料や飼料に転用(再利用)することを義務付けました。またフードバンク発祥の地であるアメリカでは、1966年に善きサマリア人の寄付法が制定されています。
これは食料の寄付において、寄付者とフードバンク双方が刑事上、民法上の責任から保護されることを定めた法律です。仮に寄付した食べ物で誰かがお腹を壊すようなことがあっても、良心のもとに行われた寄付であれば刑事罰は問わないというもの。こうした法律を整備することで、民間の食料寄付を促進しています(注9 P.5)。
食品ロスが問題となる一方、飢餓に苦しむ人々の問題は深刻で、緊急度の高いケースもあります。例えば2017年2月20日には、南スーダン旧ユニティ州の一部で飢饉が宣言されました。これに対し、ワールド・ビジョンでは緊急食料支援を実施。非常時用として確保している入手ルートから食料を調達し、現地に届けました。
ワールド・ビジョン・ジャパンでは、例年11月から、水不足や飢餓に苦しむ子どもたちに向けた「クリスマス募金(水と食料のための募金)」を案内。紛争や異常気象、災害などさまざまな理由で飢餓に苦しむ子どもたちに水と食料を届けるべく、皆さまからの寄付を募っています。
またチャイルド・スポンサーシップという支援プログラムでは、一人ひとりの子どもに対し長期的な支援を実施。皆さまからの寄付を活用し、食料だけでなく子どもを取り巻く環境も含めてより良い生活ができるような支援を行っています。
ワールド・ビジョンは、食品ロスに関する情報発信や啓発活動を行っています。例えば2022年9月29日、食品の損失と廃棄の削減に関する国際意識デーには、食品の無駄遣いを止めるための世界的な取り組みが必要であることを呼びかけました。
このほかにもワールド・ビジョンは、日頃から国連や政府、その他のパートナーと協力し、食品の無駄と損失を減らすよう喚起しています。正しい知識や情報が広まることで人々の行動が変わり、より良い社会が実現できるはずです。
食品ロスを減らすことは、環境保護にも世界から飢餓を減らすことにもつながります。あらゆる問題は密接に関わり合っており、私たち一人ひとりの行動がより良い社会を作る一歩となります。ぜひご自宅で、食材を無駄にしない生活を心がけてみてください。
なおワールド・ビジョンでは皆さまからご支援いただいた寄付金で、今まさに飢餓に苦しんでいる子どもたちへの支援を行っています。その日の食料すら十分に確保できない子どもたちの命を救うためにも、ぜひワールド・ビジョンの支援活動にご協力ください。
ワールド・ビジョンでは世界の貧しい子どもたちに対し、「チャイルド・スポンサーシップ」という長期的な支援プログラムを実施しています。1日150円、月々4,500円から支援いただけます。また継続的な支援ですので、子どもたちが健やかに成長していく様子を、定期的なレポートと子ども本人からの手紙でご覧いただけます。私たちと一緒に、より多くの人々が健やかに暮らせる世界を作っていきましょう。
注1 農林水産省:SDGsの目標とターゲット
注2 農林水産省:世界の食料需給の動向
注3 埼玉県:食品ロスの削減
注4 農林水産省:食品ロスの現状を知る
注5 農林水産省:世界の食料自給率
注6 国連WFP:考えよう、飢餓と食品ロスのこと。
注7 国連WFP:記録的飢餓が拡大:世界の食料安全保障と栄養の現状
注8 農林水産省:食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢
注9 参議院:フランス・イタリアの食品ロス削減法