(2016.03.31)
アフリカ大陸中部、赤道の少し下に、ルワンダという国があります。国土は四国の1.4倍程度ですが、安定した政治、そして約7%を誇る経済成長率(2014年)から、「アフリカの奇跡」と称されています。
しかし、ルワンダが「奇跡」と呼ばれる理由はこれだけではありません。ジェノサイド(大量虐殺)という悲惨な過去を、国民が一致団結して乗り越えようと尽力しているという事実こそ、「奇跡」の所以です。
1994年4月、それまでにも内戦化していた、ツチ族とフツ族の対立が再び激化。数で勝るフツ族による、ツチ族の大虐殺が始まりました。昨日まで普通に生活していた隣人が、木をも切り倒せるほどの大きなナタを振り回し、襲ってきたのです。ツチ族の人々は、家族を目の前で惨殺され、家や土地を奪われました。フツ族の人々も難民となり、200万人以上が隣国へ逃げました。
約100日間に80万人以上が殺されるという歴史上稀に見る大虐殺は、7月4日に新政権が樹立されたことで収束しました。残ったのは、荒廃した国土と、深い悲しみと憎しみに沈む国民。新政府は、大虐殺を乗り越えようと様々な改革を実施し、国民融和のための努力を続けました。その結果、ルワンダはどん底から立ち上がったのです。
新政権が樹立された1994年7月、ワールド・ビジョンはルワンダに事務所を設置し、壮絶なジェノサイドを生き延びた方々の支援活動を進めました。
ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は2008年からチャイルド・スポンサーシップによる支援活動を開始。現在、ルワンダ国内2箇所で、教育、生計向上、保健衛生等の分野で、地域の人々とともに活動しています。これらの活動に加えて、悲惨な過去を抱えるルワンダだからこそ必要としている取り組みがあります。それは、「平和再構築」。政府の手が届きにくい、「心の平和」を後押しする支援を行っています。
「私たちは二度と協力し合えないと思っていました。そして、そう思ってしまう自分が許せませんでした」
こう語るのは、ローズさん(仮名、女性)。大虐殺で、隣人のパトリックさん(仮名、男性)に家族を殺されました。パトリックさんは、今もローズさんの家の近くに住んでいます。「もう虐殺は終わった。彼は裁きを受けた。前を向いて生きなくては」頭では分かっていても、心はついていきません。道で会うことすら避け、姿を見かけると逃げていたそうです。
ローズさんが変わったのは、WVJの「平和再構築」プログラムに参加してからでした。特に、「平和の木プロジェクト」の効果は絶大でした。これは、大虐殺の被害者と加害者がお互いの家にオレンジの苗木を植え合い、自分が植えた木の世話をするというものです。
家族を殺した人の家に毎日通い、木を育てる。ローズさんの心情は、想像を絶します。しかし、毎日パトリックさんと顔を合わせ、話をするうちに、彼女は少しずつ変わっていきました。「人間として見ることができなかったパトリックさんを、1人の人間として見られるようになりました。今では、家族もお互いの家を行き来しています」
このプロジェクトによって、被害者だけでなく、パトリックさんのような加害者も、背負い込んだ苦悩が和らいだといいます。さらに、ローズさんとパトリックさんの姿は、未だ心にしこりを抱える周囲の人々にも良い影響を与えています。
ルワンダの人々は、まだ100%和解したわけではありません。しかし、真の和解に向けて努力し続けています。「憎しみを次世代に残したくない」「平和なくして国の発展はあり得ない」という、決意にも似た強い思いを持ち、前進しています。そしてその思いは、次世代を生きる子どもたちにも受け継がれ、多くの子どもたちが将来への希望を持って生きています。
どの家庭の庭にも平和の木が育ちオレンジが実る頃、ルワンダの人々の心にも真の平和が実るのかもしれません。
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