「女の子だから学校に通えない」
今の日本で、性別が理由で教育を受けられないことはあるでしょうか? おそらく、多くの方が性別に関係なく、小・中学校に通っているのではないでしょうか。しかしながら、世界には学校(小学校・中学校・高校)に通うことができない女の子が約1億3200万人います(注1)。
女の子が教育を受けることが、当たり前になっていない国や地域が存在するのです。
どうして、女の子が学校に通うことができないのか、女子教育が必要なのか、日本にいる私たちができることは何かをご紹介したいと思います。この記事が、あなたの女子教育に関する、理解を深める1つのきっかけになったら嬉しく思います。
現在、女子教育はさまざまな問題を解決するための重要な要素とされています。女子教育とはどのようなものなのか、女子教育の必要性を具体的な調査やデータをもとに紹介します。
女子教育という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?
女子教育という言葉は、以前は家庭教育や社会教育を含んだ意味で使用されていました。 これには女性は男性に比べ、能力や体力が劣るため、社会的役割が異なるという意味が含まれていました。このことから以前の女子教育は、男子の教育と区別されていたのが分かります(注2)。
しかしながら、現代における女子教育の考えは、教育における男女平等を示すものとなっています。1948年に採択された世界人権宣言で「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。(注3)」と宣言されました。
以降、人種をはじめ、性別に関する差別をなくすための条約や目標が制定されてきました。 例えば、1979年に採択された、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW)」(注4)や、2000年に採択された「ミレニアム開発目標(MDGs)」が挙げられます。これらは、初等教育の完全普及の達成とジェンダー平等推進/女性の地位向上を目指す(注5)内容が含まれています。
また、「持続可能な開発目標(SDGs)」でも、課題として開発途上国における女子教育の推進を挙げています(注6)。このような世界の流れで、女子教育は、性別に関係なく女の子が教育を受けることを示すものとなっています。
本来、教育とは性別に関係なく、すべての子どもたちが受ける権利があるものです。しかしながら、現実にはさまざまな要因からその権利が果たされていない状況が存在しています。
想像してみてください。もしも自分が学校に通うことができない女の子だったら将来どうなるのか?
おそらく以下の状況や問題が想像できると思います。
このように、教育を受けられないことは、女の子の将来に大きくかかわる問題になります。学校は、読み書き以外にも、女の子が生きていくうえで、大切なことを学ぶ場でもあります。
「女子教育への投資が世界の繁栄と安定を助け、皆に恩恵をもたらす(注7)」
これは2014年にノーベル平和賞を受賞した、マララ・ユスフザイさんの言葉です。女子教育は、女の子自身だけでなく、国や世界の私たちにもよい影響を与えるという意味です。同時に、女子教育の問題は、女の子だけの問題ではないということが読み取れます。
女子教育に関する、実際のデータや調査結果を紹介します。学校教育を受けられなかった母親を持つ子どもは、51%しか学校に行っていないのに対し、学校教育を受けた母親を持つ子どもは73%が学校に通っているという調査があります(注8)。
このことから、女の子が教育を受けることができないと、将来生まれてくる子どもにも影響を及ぼすことが分かります。
また、女子教育に力を入れていた東南アジアでは、経済開発の水準が上がっているというデータもあります。このように女の子が小学校へ入学する割合が上がるにつれて、一人あたりの国内総生産も増えてきていることが報告されているのです(注9)。
教育を受けた期間が1〜6年と短い母親のほうが、12年以上教育を受けた女性よりも、妊娠・出産で死亡する可能性が2倍高いというデータもあります。(注10)これは、女子教育が妊娠や出産での死亡リスクにも関係することを示すものです。
女子教育は、将来生まれてくる子どもや、国の経済にも関係するのです。そのため、女子教育の向上は、さまざまな課題を解決する糸口にもなります。
実際に教育を受けられていない女の子(6~17歳)は、現在、世界に約1億3200万人いるとされています(注1 P5 4つ目の表)。世界全体で見ると、2000年以降、男女での教育の格差は解消されつつあります。
しかしながら、地域や国によっては、改善されていない場所もあります。例えば、学校に通えない女の子(1億3200万人)のうち、約5200万人はサブサハラ以南のアフリカ、4650万人は南アジアの女の子です(注1)。
特に、農村部などの貧しい地域では、男女での格差は顕著です。世界全体では、初等教育を受ける女の子の数は増加しています。(注11)
一方で、中等教育や高等教育を受けられる女の子が少ないことが課題です。ユニセフの統計によると、サブサハラ以南のアフリカでは、約6割の女の子が高等教育を受けることができていないのが現状です(注1)。
なぜ、女の子は学校に行くことが難しいのでしょうか? 女の子が学校に通えない要因を、今回は大きく3つに分けて説明します。
貧困は、女の子が学校に行くことができない大きな要因の1つです。貧しい家庭では、教材費などを払うことが難しい場合が多いです。こういった場合、女の子は学校に行かせてもらえる優先順位が男の子よりも低くなります。
また、学校の代わりに、家事労働に従事する女の子も多いです。5~14歳で週に21時間以上、家事労働を行っている女の子は、3400万人いるというデータがあります。21時間というのは、子どもの通学や勉強に悪影響をおよぼし始める時間とされています(注12)。
例えば、女の子の就業率の低いサハラ以南のアフリカでは、家庭用の水くみ労働の71%を女性や女の子が担っています(注13)。これらの過度な家事労働が、女の子の教育の機会を奪っていると考えられます。
世界では結婚や出産を18歳未満で経験する女の子がいます。これは、児童婚と呼ばれ、女の子が学校に通うことができない要因の1つになっています。
これまで世界では、6億5000万人の女の子や女性が、子どもと定義される年齢(18歳未満)で結婚していると推定されています(注14)。
また、妊娠した場合、学校に通えていても途中で中退せざるを得なくなるケースもあります。未成年の女の子が出産をすることは、教育の機会を失うだけでなく、命を落とすリスクも高くなります。毎年、思春期の女の子7万人が、妊娠や出産の合併症によって命を落としているというデータがあります(注15)。
開発途上国では、年間9000万件の望まない妊娠が起こっている(注16)ことから、これらの多くは、女の子の意思ではなく、その地域や国の慣習や文化により結婚を強制されていることが要因と考えられます。
3つ目の要因として挙げられるのが教育環境の問題です。具体的には、通学路が危険であることや、女子トイレがないこと、学校内での差別、女子教員の不足などが挙げられます。これらは、女の子にとって学校が安心できる場所でないことの要因になっています。
アフリカの南スーダンでは、生理用品が手に入らないこともあり、月経中の女の子は学校に行くことが難しくなります(注17)。このような環境は、年頃の女の子には厳しい状況といえます。
これら3つの要因が、女の子が学校に通うことを難しくしています。「女の子には教育は必要ない」「女の子の役割は、妻や母親としてのみ」という偏見や差別が女子教育の向上の妨げになっていると考えられます。
ワールド・ビジョンでは、女の子が学校に通うことができるように、教育の重要性を伝える啓発活動、トイレの設置や教室の修繕、教員の指導力向上のための研修を行っています。
これらは、チャイルド・スポンサーシップという支援プログラムによって成り立っています。
チャイルド・スポンサーシップとは
ワールド・ビジョンでは、開発途上国の課題解決のための支援の一つとして、チャイルド・スポンサーシップというプログラムをご用意しています。 チャイルド・スポンサーシップとは、支援地域の人々が、子どもの健やかな成長のために必要な環境を整えていくことを支援するプログラムです。
ワールド・ビジョンでは、女の子が教育を受ける機会を増やすため、さまざまな国で活動を行ってきました。
例えば、バングラデシュのビロル地域では、子どもの権利についての啓発活動を行ったことにより、親が娘の結婚を考え直してくれたケースもあります。女の子が男の子と同じように教育を受ける権利があることを、周りが理解することで、女の子の早婚を防止することができました。
また、ウガンダのキルヤンガ地域では以前は、女の子が月経中に学校に通うことができませんでした。この問題を解決するため、生理用品の作り方や月経中の快適な過ごし方の研修を行い、女の子たちは休むことなく、学校に通い続けることができるようになりました。また、5つの簡易トイレを設置したことで、学校に通う子どもが増加しました。
教育を受けることは、女の子の自信につながります。そして、その自信は、世界のさまざまな問題を解決する糸口になります。
これからもワールド・ビジョンでは、世界のすべての女の子が教育を受けられるよう、教育環境の改善と女子教育への理解を広めるための活動を続けていきます。
ワールド・ビジョンの活動にご協力をお待ちしています。
※1 UNESCO 2018:子どもの5人に1人は学校に通えていない
※2 女子教育 コトバンク:女子教育の意味
※3 外務省:世界人権宣言
※4 男女平等参画局:女性差別撤廃条約
※5 外務省:ミレニアム開発目標
※6 外務省:持続可能な開発目標
※7 日本経済新聞:女子教育の欠如は「15兆~30兆ドルの損失」
※8 世界子供白書2007:女性と子ども
※9 世界子供白書2004:: 女子教育の大切さ
※10 UNICEF 2013:ジェンダーの平等
※11 UNICEF:女子教育の厳しい状況
※12 国際労働機関 ILO:児童労働報告書
※13 アフリカ人間開発報告書2016:ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの促進
※14 UNICEF:児童婚
※15 世界人口白書2013:母親になる少女
※16 国連人口基金:数で知る世界の現状
※17 UNICEF:見えなくても、すぐそこにある暴力
※このコンテンツは、2019年11月の情報をもとに作成しています。