レバノンを寄付で支援する|爆発後の経済危機や難民の現状を解説

シリアとイスラエルと国境を接する地中海沿岸の国、レバノン。首都ベイルートの港で2020年8月に起きた爆発事故は、日本でも大きく報道されました。この爆発事故や新型コロナウイルス感染症も影響して、レバノンは現在、経済危機に見舞われています。

この記事では、レバノンの現状を経済危機の経緯も含めて解説し、危機下で特に深刻な影響を受けているシリア難民たちの置かれた状況をお伝えします。さらに、レバノンで暮らす人々を寄付を通して支援したいと検討している皆さまのために、レバノンでのワールド・ビジョンの取り組みも詳しくご紹介します。

爆発事故後のレバノンの現状:経済危機の悪化と政治不安

レバノンでの経済危機は子どものいる家庭にとって特に深刻です

レバノンでは現在、経済危機が悪化し、政治的にも不安定な状況が続いています。まずは、レバノンの現状を概観し、このような状態に陥ってしまった経緯を把握しておきましょう。

インフレや物価上昇など、レバノンの経済危機の現状

レバノンは経済危機の真っただ中にありますが、危機が始まったのは爆発事故より前の2019年10月です。

2021年8月に国連人道問題調整事務所(OCHA)が発行した資料によると、レバノンの通貨であるレバノン・ポンドは、2019年10月と比べて実に90%以上も価値が下落し、2020年5月から2021年5月までの1年間の物価上昇率は120%に達しました。特に食料の価格は高騰しており、2020年の1月から12月までの期間に400%も価格が上昇したとされています。このように物価が極端に上昇したことで、レバノンでの生活にかかる費用は、経済危機が始まった時点と比べて4倍に達しているとされます(注1)。

さらに、2020年末時点でレバノン国民の19%が主要な収入源を失ったと報告されています。レバノンには多数の移民が暮らしていますが、調査の結果、特に2020年の最後の四半期に移民の失業が相次いだことが分かっており、移民の失業率は最大50%と見積もられています(注1)。



デフォルトや爆発後の政治空白など、経済危機の経緯

それでは、レバノンは一体どのような経緯でこの経済危機に至ったのでしょうか。

レバノンの首都ベイルートはかつて「中東のパリ」とも呼ばれ、1970年代までは金融都市として栄えていました。しかし、1975年から断続的に内戦が続き、1990年に内戦が終結した後は、復興のために諸外国から多額の資金を借り入れました。公的部門の肥大化によって財政赤字が拡大する一方、隣国シリアで2011年から内戦が始まったことや近年の原油価格の低迷によって経済成長も失速。国内総生産(GDP)の170%に達していた政府債務の利払いに、歳入の半分を費やす状態に陥っていました(注2)。

2019年には預金の引き出し制限などが行われたことで、多数の企業が休業に追い込まれました。そして2020年3月、レバノン政府は経済破綻を回避するために外貨建て国債の支払い延期を発表。レバノンにとって初めての債務不履行(デフォルト)となりました。

デフォルト後間もない8月にはベイルート港で死者200人を超える甚大な被害を出した爆発が起き、内閣総辞職の引き金となりました。その後、2度にわたって首相候補の指名が行われたもののいずれも組閣に至らず、政治空白が続きました(注3)。2021年9月にようやく新政権が発足したものの、経済再建の見通しは不透明です(注4)。



経済危機下でのレバノンの人々の生活

このような状況にあるレバノンで、人々は苦しい生活を強いられています。国連児童基金(UNICEF)が2021年7月に公表した報告書によると、レバノンの世帯の77%では、食料や食料を買うためのお金が不足しています(注5)。

レバノンは食料品や燃料の多くを輸入に頼っているため、通貨価値の下落は物価上昇に直結します。中央銀行の外貨準備が底をついたために燃料の輸入もままならなくなり、2021年6月以降、1日の大半は停電状態にありました(注3)。10月には、燃料不足による発電所の操業停止によって、レバノン全土が停電に陥りました(注4)。

さらに、10月14日には、ベイルートで爆発事故の経緯の捜査についての抗議活動を行っていた集団に対する銃撃が発端となって、市街地での銃撃戦が勃発し、6人が死亡、30人以上が負傷する事態となりました。経済危機の中で宗教間や宗派間の政治的対立が深まっているとの見方もあり、さらなる社会の不安定化が懸念されています(注6)。

レバノンの経済危機で深刻な影響を受ける難民たち

レバノンで暮らす難民の兄弟

このようにレバノンの人々は経済危機によって大きな打撃を受けていますが、特に深刻な影響を受けているのは、レバノンで暮らす難民たちです。レバノンで避難生活を送っている難民たちが置かれた状況を詳しく見ていきましょう。



レバノンは人口1人当たりの難民受け入れ数世界一

2020年末時点で、レバノンで暮らす人口のうち実に8人に1人は、国外から避難してきた難民です。ベネズエラ難民を島民6人に対して1人という割合で受け入れているアルバ島(ベネズエラ沖のオランダ領の島)を除けば、レバノンは、自国の人口に対する割合で見た場合に、世界で最も多くの難民を受けている国となります(注7 p.2)。

イスラエルと国境を接するレバノンには、以前から多くのパレスチナ難民が暮らしています。次のグラフは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がデータを公開している1952年から2020年までの期間における、レバノンが受け入れているパレスチナ難民数の推移を表したものです(注8)。


レバノンに避難しているパレスチナ難民の数は、1952年時点に10万人強であったのに対し、2020年にはその5倍近い48万人弱にまで増加しています。ただし、これは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によって難民と認定されているパレスチナ難民の人数であり、このほかに難民として認定を受けていないパレスチナ人もいるとされています(注9 p.64)。


レバノンで避難生活を送るシリア難民

このように元々パレスチナ難民が多く暮らしていたレバノンに、近年になって隣国シリアから多くの難民が流入しました。UNHCRのデータを使ってレバノンが受け入れているシリア難民数の推移をグラフにすると、次のようになります(注10)。



2011年まではごく少数であったシリア難民の数が、シリア内戦勃発を受けて2012年には突如12万人を超える規模となり、そのまま急増して2014年には115万人弱にまで膨れ上がりました。2015年以降は徐々に減少が続いていますが、2020年末時点で86万人を超えるシリア難民がレバノンにとどまっています。

2020年末時点で、全世界に逃れたシリア難民の数は合計670万人ほどでしたので、シリア難民全体の13%弱がレバノンに避難している計算になります(注7 p.3)。




レバノンで暮らす難民たちの置かれた状況

レバノンで避難生活を送る難民たちには、レバノン国民と同等の権利が与えられていないため、難民たちはもともと困難な状況に置かれていました。今、爆発や経済危機によって、難民たちの置かれた状況はさらに悪化しています。

爆発のあったベイルート港は低賃金労働者の拠点となっていたこともあり、爆発で命を落とした犠牲者のうち43人はシリア人でした。さらに、爆発によって多くのシリア難民が職を失ったほか、難民1万人の住居が破壊されました。

先に紹介したUNICEFの報告では、十分な食料や食料を買うためのお金がない世帯の割合は、シリア難民に限れば99%に達するとされています(注5)。また、OCHAの資料によれば、強制退去や難民の入店拒否、割増価格での商品販売など、難民に対する差別的な行為も増えているといいます(注1 p.6)。

レバノンの人々を寄付を通して支援する

レバノンで暮らす少女

このように苦境にあるレバノンの人々を、寄付を通して支援することができます。そこで、最後に、レバノンで現在求められている支援の内容や、ワールド・ビジョンのレバノンでの活動をご紹介します。



レバノンで現在求められている支援

OCHAの資料によれば、レバノン人口の36%、そしてレバノンで暮らすシリア難民の実に89%が、極度の貧困状態に置かれているといいます(注1 p.6)。こうした状況の中、食糧安全保障、栄養、保健、教育、水衛生などあらゆる分野で人道支援が求められています。

UNICEFの報告によると、経済的困窮などを背景として、レバノンで暮らす子どもの10%が労働に駆り出され、15%の家庭では子どもの教育をやめてしまったといいます。UNICEFのレバノン事務所代表は「子どもたちを危険な仕事に就かせたり、幼い娘を結婚させたり、家財を売ったりするなど、悲観的な対処法に頼らざるを得ない家庭がいっそう増えています」と語り、経済危機によってレバノンの子どもたちが危機的な状況に置かれていることへの懸念を表明しました(注5)。

経済危機の最中にあってレバノン政府による効果的な介入が望めない中、国際社会からの継続的な支援が望まれています。



レバノンでのワールド・ビジョンの取り組み

ワールド・ビジョンは、レバノン全土で、生計向上に焦点を当てた長期的な支援プログラムを実施しています。

特に、空腹にさいなまれ、パンデミックによる学校の閉鎖によって学ぶ機会を奪われている子どもたちへの支援は不可欠です。全ての子どもたちが質の高い教育を受けられるようにすることは、健康状態や生計の向上のためだけでなく、長期的な社会の成長にも貢献するものであり、最終的には、子どもたちにとってより良い世界を築くことにつながっていきます。

ワールド・ビジョンは、UNICEFのほかイギリスやフランスの政府とも連携し、約700人のシリア難民の子どもたちに対して、リモート学習を通じた早期教育を提供しています。このプログラムは、初等教育以降の子どもたちの生活に必要となる社会的、感情的、そして認知的なスキルを発達させることを目的としています。



ワールド・ビジョンへの寄付で難民を支援する

ワールド・ビジョンは、レバノンに限らず、世界中で避難生活を送っている難民の子どもたちのための支援活動を行っています。「命を守る」「順応する」「未来を築く」の3つを活動の軸とし、次のような活動を展開しています。

  • 「命を守る」:新型コロナウイルス感染症等を予防するための、石けん配布や手洗い指導等

  • 「順応する」:紛争で傷ついた子どもたちの心のケアや、個別に必要な物資提供等

  • 「未来を築く」:補習授業により学習の遅れを取り戻し、学び続けられる環境作り等


故郷を離れて先の見えない生活を強いられている子どもたちの命と未来を守るため、ぜひワールド・ビジョンの難民支援募金へのご協力をお願いします。

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参考資料

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