私たちが住む日本は、経済的にも豊かな先進国と位置づけられています。しかし、子どもたちを取り巻く環境は、必ずしも安全で豊かとはいえません。実際日本は子育て支援策の不足や貧困といった、さまざまな問題を抱えています。
この記事では、日本が抱える子どもたちの問題について、データやその背景について詳しく解説します。日本の子どもたちが置かれている現状を知り、今の私たちにどのような支援ができるかを考えてみましょう。
日本の子どもたちを取り巻く環境は必ずしも安全で豊かとはいえない
まずは、日本における子どもの貧困や、政府の子育て支援策の現状について解説します。
日本の政府が提供している子育て支援策には、さまざまな取り組みがあります。0~2歳までの住民税非課税世帯を含む、3~5歳までの子どもたちは幼稚園、保育所、認定こども園などの利用料が無償化されています(注1)。
また児童手当は、年齢に応じて月額1~2万円が支給されます(注2)。このほかにも子どもや親同士が交流し、情報交換する場として「子育て支援センター」の拡充など、子育て支援策を複数実施しています。
2020年時点の日本の待機児童数は1万2,439名であり、前年より4,000名以上減少しているものの、まだ保育園や幼稚園が足りていない状況です(注3)。
さらに児童相談所へ寄せられる児童虐待の相談件数は、年々増加傾向にあります。2020年には相談件数が20万件を超え、過去最多となりました(注4)。この現状には、子どもや親に対して十分な公的支援が行き届いていないことも一因となっているといえます。
日本における子どもの相対的貧困率は、世界的に見ても非常に高くなっています。相対的貧困率とは、国内の大多数よりも貧しい状態のことを指します。
日本の17歳以下の子どもの相対的貧困率は、13.5%(2019時点)です(注5)。ドイツやイギリス、フランスなど8.0%未満の国が多いヨーロッパ諸国と比べても、高い数値となっています(注6)。
また、子どもによって貧困の状況はさまざまです。給食でしか栄養バランスの整った食事をとれない子どももいれば、貧困から虐待や育児放棄を受ける子どももいます。相対的貧困率について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
相対的貧困とは?絶対的貧困との違いや相対的貧困率についても学ぼう
日本は1994年に「子どもの権利条約」に批准しています。子どもの権利条約とは1989年に国連総会で採択された国際条約(国と国のあいだの約束事)であり、子どものあらゆる権利を守ることを目的として作られました。条項は全部で54条あり、具体的には以下4種類の権利について定められています。
1. 生きる権利
2. 育つ権利
3. 守られる権利
4. 参加する権利
たとえば子どもには等しく教育を受ける機会があることや、無理な労働から守られることなどが細かく記載されています。
ここまで、日本の子どもたちが置かれている現状と問題点について解説しました。次に、これから日本が向き合うべき課題と対策について見ていきましょう。
日本政府はさまざまな子育て支援策を講じています。しかし、世界的に見ると日本の子育て支援や保育施設にかける社会的支出の割合は、非常に低い水準です。
日本の子育てや教育に対する支出のGDP比は2015年時点で1.5%近くとなっています。3.5%を超える国も多い中、日本はまだまだ子育て支援に対して公的資金を投入できていないことが分かります(注7)。
さらに核家族化や地域と家庭とのつながりが希薄化し、子育てが孤立化しているといったことも、課題の1つです。この課題に対して、政府は親や子ども同士がコミュニケーションを取れる場所作りの一環として「地域子育て支援拠点事業」を推進しています。
しかし、そもそも子育て支援を行う施設について知らない人も多いのが現状です。地域子育て支援施設の情報が親たちに届いていないだけでなく、施設側が人員や施設に不足を感じているケースもあります(注8)。
今後は保育所だけでなく子育てに関する支援施設の拡充や、子育て世帯への給付金といった、さまざまな形で支援策を整えていくことが求められます。また虐待やネグレクトを未然に防ぐために、自治体や教育機関が各家庭へ介入する方法についても慎重に検討する必要があるでしょう。
政府は子どもの貧困に対する経済的支援として、「就学支援制度」や「児童扶養手当制度」の着実な実施を目指しています(注9)。
しかし、制度を利用してもらうためには、親への確実な周知が課題です。今後はこうした支援制度があることをより周知していく必要があるでしょう。教育機関や自治体も巻き込み、貧困世帯をサポートすることが求められます。
また、生活保護世帯の子どもが大人になって再び生活保護を受給するというケースは少なくありません。こうした貧困の連鎖は、社会経済全体にとっても深刻な課題であり、社会全体で連鎖を断ち切る必要があります(注10)。
さらに、子どもの貧困は表面化しにくいという課題もあります。子どもは「貧乏だと思われたくない」「現在の生活が普通だと思っている」といった理由から、周囲に助けを求められない場合があると言われています(注11)。こうした子どもたちに対する支援をどのように行うかも、課題の1つです。このような課題に対しては政府や親だけでなく、子どもの周りにいる大人全員が当事者意識を持つ必要があります。
日本が批准している「子どもの権利条約」は、まだ認知度が低いのが現状です。2019年の調査では、調査対象者(成人)の4割以上が「子どもの権利条約について聞いたこともない」と回答しました。
また同調査では「子どもの権利条約が守られていないと感じるとき」について、以下のような率直な意見が子どもたちから挙がっています(注12)。
子どもたちのさまざまな思いに気づかず、私たち大人が知らないうちに子どもの権利を無視してしまっていることがあるかもしれません。大人一人ひとりが子どもの権利について問題意識を持ち、考えていくことがこれからの課題といえます。
現在、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」に基づいて作成される「子供の貧困対策に関する大綱」では、以下4つの軸に沿って子育てや教育の支援を進めています(注13)。
しかし、子どもの成長を社会全体で支えるためには、政府の支援策だけでは不十分です。教育機関や自治、NPO法人などの組織はもちろん、国民一人ひとりが日本の現状を知り問題意識を持つことが大切です。
貧困や虐待に苦しむ子どもといっても、見た目はほかの子どもと変わらないケースが少なくありません。また子どもは自分から声をあげにくいため、問題が表面化しにくいという特徴もあります。そのため、多くの人が当事者としての正しい知識と問題意識を持ち、次世代を担う子どもたちを見守っていくことが必要です。
私たちワールド・ビジョンは、日本だけでなく世界の子どもたちが健やかに成長できるよう、開発途上国の教育や学校の支援活動を行っています。
ワールド・ビジョンは、子どもの権利が守られる世界の実現を目指す国際NGOです。特に、当事者である子どもたち自身が、自ら問題解決のために声をあげるための支援に注力しています。
具体的な活動内容は、直接的な支援活動の実施、子どもたちを取り巻く状況についての調査・報告など。そして調査内容に基づき、国連人権理事会等の国際的なフォーラムや地域・国家レベルでのアドボカシー(市民社会や政府への働きかけ)を行っています。
ワールド・ビジョンは、1950年9月にアメリカのオレゴン州で設立されました。キリスト教精神に基づき、開発援助・緊急人道支援・アドボカシーを行っています。現在では国連経済社会理事会に公認・登録され、約100カ国で開発援助や緊急人道支援、アドボカシーなどの活動を展開しています。
ワールド・ビジョンの活動は、朝鮮戦争によって両親を亡くした子どもたちへの支援から始まりました。それ以来、子どもたちの人権を守るための活動を続けています。そして1960年代には日本の子どもたちにも支援を届けられるほど組織が拡大しました。今では約100カ国で、すべての子どもたちが健やかに成長できる世界を目指して活動しています。
ワールド・ビジョン・ジャパンでは、日本国内の子どもに対する支援を行っています。たとえば、2020年9月には長期化する新型コロナウイルス感染症の影響を受けて「新型コロナウイルス対策子ども支援事業」が発足しました。
同事業では地域ごとの子ども支援団体への助成を実施。さらに、緊急の弁当配布支援や子ども食堂の継続支援、子どもの学習支援・遊び場・居場所等のオンライン化による継続支援等を行っています。
こうした支援だけでなく、子どもに対する暴力撤廃に向けた公開セミナーの実施、世界各国のNGO代表としての「SDGサミット」参加なども行っています。また、日本における「子どもの権利条約キャンペーン」の実行委員を務めるなど、子どもの権利を守るための支援や活動を牽引。さまざまな角度から子どもたちを支援しています。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、2020年に開始した、新型コロナに対する国内の子どもの支援を拡充することを決定し、2022年3月11日に募金の受付を開始しました。
「国内子ども支援募金」を詳しく知る
例えば、3000円のご支援で、子ども食堂で15食分の食事を提供したり、お米約6kgをひとり親世帯に提供することができます。
ぜひ、支援にご協力ください。
注1 内閣府:子ども・子育て支援新制度
注2 内閣府:児童手当制度のご案内
注3 厚生労働省:2020(令和2)年4月1日時点の待機児童数について
注4 厚生労働省:令和2年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数
注5 日本財団:子どもの貧困対策
注6 厚生労働省:国際比較からみた日本社会の特徴
注7 財務省:家族政策が出生率に及ぼす影響
注8 日本保育協会:子育て支援の実態と課題
注9 内閣府:子供の貧困対策に関する大綱のポイント(令和元年11月29日閣議決定)
注10 厚生労働省:「日本再生重点化措置」の要望について 「貧困の連鎖」の防止
注11 内閣府:2.日本の子どもの貧困と対策の現状
注12 厚生労働省:3万人アンケートから見る子どもの権利に関する意識
注13 厚生労働省:子どもの貧困対策における生活困窮世帯の子どもの学習支援等