遠いシリアの記憶~子どもたちの3653日~

(2021.06.01)

シリア紛争開始から10年。子どもたちが失ったものと、いま夢見ているもの
2011年3月に発生した反政府デモが武力衝突に発展してから、シリアでは、10年(3653日)以上にわたって紛争が続いています。今日、シリアは子どもにとって世界で最も危険な場所の一つであり、数百万人の子どもたちに壊滅的な影響を与えています。

増え続けるシリア内外の避難民の約40%は子どもで、ワールド・ビジョン(WV)が実施した調査によると、この紛争によってシリアの子どもたちの平均寿命は13年短くなっています。「今世紀最大の人道危機」ともいわれるこの事態に追い打ちをかけるように、昨年からは新型コロナの脅威が迫ります。

平穏な日常を突然奪われ、困難を極める生活を強いられるシリアの子どもたちの「今」を、知ってください。

美しく豊かだった祖国

紛争が始まる前年の2010年、古代都市ダマスカスやパルミラ遺跡等6つの世界遺産を有するシリアには、860万人の観光客が訪れていました。この数字は、当時の日本と同規模です。

観光ガイドブックでは「世界屈指のホスピタリティを持つ国」と紹介され、治安も非常に良かったといいます。国民は教育や医療を無料で受けられ、シリアの義務教育就学率は98%を超えていました。

多くの人々が、不自由のない豊かな暮らしを送っていたことが伺えます。

整然とした美しい街並みが広がる紛争前のシリア
整然とした美しい街並みが広がる紛争前のシリア

子どもたちを取り巻く厳しい現状

美しかったシリアは、この10年で一変しました。度重なる戦闘で街は荒廃し、人々は豊かな暮らしを失いました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、シリア紛争によって、国外に逃れ難民となった人は約660万人、国内で避難生活を送る人は約670万人にものぼります。

紛争が始まって以来、推定55,000人の子どもが殺害され、一部の子どもたちは処刑や拷問によって命を落としました。武装勢力によって徴用された子どもの約82%は実際に戦闘に動員され、その25%は15歳未満でした。

WV がシリア北西部で行った調査によると、少女たちは性的暴行を受けることを恐れながら生活しており、重大な身体的・精神的危害や虐待をもたらす可能性のある児童婚は驚くべきレベルにまで増加しています。

戦闘で家を追われシリア国内で避難生活を送るアミナさん(18歳)は言います。
「安全な家で暮らし、もっと教育を受けていれば、今ごろ私は社会の役に立つ人間になれていただろうと思います」

10年間で失われたのは、子どもたちの未来です。

ワールド・ビジョンの支援

WVはシリア国内外で避難生活をおくる人々に対して、緊急物資の支援をはじめ、安全な水の提供、医療サービスの提供、衛生習慣の啓発等を行ってきました。

また、難民の子どもたちが未来を創っていく力を育めるよう、補習授業等の学習支援事業にも力を入れてきました。

この10年間で支援を届けた人々・子どもの数は、シリア、トルコ、ヨルダン、レバノン、イラクで合計12,771,719人に達します。

新型コロナの影響で学校が閉鎖された子どもたちのため、家庭学習用教材を届けました
新型コロナの影響で学校が閉鎖された子どもたちのため、家庭学習用教材を届けました

平和を夢見るシリアの子どもたち。もし1日だけ世界の大統領になれるとしたら―

10歳の頃を思い出してください。その時、あなたの人生はどうだったでしょうか? 夢は何でしたか?
ここにいるシリアの子どもたちが夢見ていることは、ただ一つ。「平和」です。

ラーマちゃん(10歳)
ラーマちゃんとその家族は、2013年にヨルダンのザータリ難民キャンプに逃れてきました。恐ろしい銃撃戦を経験し、彼女は心の傷を負いました。その後、家族とともにヨルダン北西部の町に移り、難民として生活しています。しかし、シリア人は自由に働くことが許されていないため、お父さんは安定した仕事に就くことができず、家族の生活は苦しい状況にあります。

そのような中でも、ラーマちゃんには情熱を注ぐものがあります。「絵を描いていると、自分の内側から何かが出てくるのを感じます」とラーマちゃん。WV の補習授業に参加する彼女は、先生やお母さんに励まされ、絵画の腕をめきめきと上げています。

強い女性を描くのは、彼女たちのようになりたいからです。
1日だけ世界の大統領になれるとしたら、争いを終わらせて、世界を良いものにしようとするでしょう。私は自分を変えてもっと強くなります」

「強い女性を描くのは、彼女たちのようになりたいから」自慢の絵をもって微笑むラーマちゃん
「強い女性を描くのは、彼女たちのようになりたいから」自慢の絵をもって微笑むラーマちゃん

ムアスくん(16歳)
編み物をすることで、ムアスくんはいまだに悩まされているシリア紛争の記憶を
忘れることができます。2016年、故郷の町で暴動が起こり、彼は両親と5人のきょうだいと逃げ出しました。しかし家族は、途中の砂漠で道に迷い、3日をかけてようやくヨルダン国境にたどり着きました。

新型コロナによるロックダウン中にふと始めた編み物は、もう彼にはなくてはな
らない趣味になりました。「僕が好きなのはニット帽です。大切な人にあげると、僕の気持ちが伝わるような気がして」とムアスくんは言います。

もうこれ以上紛争が続いてほしくありません。1日だけ世界の大統領になれるなら、シリアが以前のように戻るよう働きかけます」

編み物を教えてくれたお母さんと。医者になる夢があるが、叶わなかったと きに備えてビジネスの勉強もしている
編み物を教えてくれたお母さんと。医者になる夢があるが、叶わなかったときに備えてビジネスの勉強もしている

ファティマさん(18歳)
2011年、8歳の時に故郷を逃げ出したファティマさん。ヨルダンでの生活は非常に厳しく、最愛の父親が亡くなると、家族の面倒を見てもらうためにファティマさんはいとこと結婚させられました。学校も辞めさせられました。夫とはすぐに別れたものの親戚がそれを許さず、連れ戻された彼女は第一子を出産。ファティマさんは希望を失いかけていました。

しかし、友人が教えてくれたWV のサポートセンターで心理的支援と職業訓練を受けると、ある夢を抱くようになりました。ソーシャルメディアを利用して、女性の権利を啓発することです。

「1日ですべてを変えることはできませんが、世界の大統領になったら、2つのことをします。1つは世界中の戦争を終わらせること。2つ目は、女性のための新しい法律を制定することです。18歳未満の結婚を禁止します

子育てをしながら勉強を続けるファティマさん
子育てをしながら勉強を続けるファティマさん

現地スタッフが見た子どもたち

ワールド・ビジョン 中東・東欧地域リーダー  
エレノア・モンビオ

通常、子どもたちは驚くほどの回復力を持っているものですが、シリアで3653日以上にわたって続く破壊、死、負傷は、子どもたちから希望を奪い取りました。

私たちは、子どもたちや若者に「今、そして未来に何を求めていますか?」と尋ねました。すると彼らは、「お願いだから、紛争を止めて。家に帰ろう」「学校や病院や住む家を建てたいから、手伝ってください。争いを終わらせて、平和に遊ぼう」と答えました。

子どもたちや若者は変化を求めており、それは国際社会や私たちに対して求めていることです。私たち、そしてあなたの関与と支援が、シリアの子どもたちが豊かな暮らしを取り戻す一助になると信じて活動しています。

ワールド・ビジョン中東・東欧地域リーダー エレノア・モンビオ

紛争から避難する子どもたちに迫る新型コロナの脅威。
子どもたちを感染症から守る、難民支援募金にご協力ください

シリア国内で避難した人々は、誰の所有でもない川沿いの土地や廃墟、自然発生的に形成された避難民キャンプ等に身を寄せています。紛争の影響下での避難生活は、1 つの家に大勢が身を寄せるケースも多く、「3密」の回避等、日本で定着しつつある感染予防策を実践することも簡単ではありません。上下水道などの生活インフラがない地域で、テントや破壊された建物等を仮住まいとして、終わりの見えない日々を送っています。

学校や友だちとの日々、安心できる家等、あるのが当たり前と思っていたものを失い、未来への夢や希望をも失いつつある難民・避難民の子どもたち。

その命と未来を守るため、ワールド・ビジョンは、シリア国内避難民を多く受け入れるコミュニティで、安全な水、石けんや消毒液、マスクなどの衛生用品の提供や、下水管の修復等で、衛生環境の改善を進めています。コロナ禍で集会が制限される中、最前線のスタッフたちが、対象となる地域で戸別訪問をしています。

恐怖の中にある子どもたちが、未来に希望を持てるように、
難民支援募金にご協力ください。

リンク難民支援募金について、詳しくはこちら

6/17(木)オンラインイベントを開催します

報道のプロとして長年中東で取材をしてきた飯野元NHKディレクター。これまでニュースでは伝えられなかったシリアの人々の素顔や生き様、現場で感じたことを事務局長の木内(きない)とお伝えします。

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