(2022.08.12)
バングラデシュの首都ダッカは、世界で最も人口増が著しい大都市のひとつであり、人口約2,000万人、2030年には2,800万人に達すると言われています。ダッカの人口の約4割が地方からの流入者であり、その多くは貧困層です。都市部のスラムに住む貧困層の方々は、廃棄物処理や下水道など衛生に関連する行政サービスへのアクセスが乏しく、劣悪な住環境に住むことを余儀なくされています。
そのような状況下において、ワールド・ビジョン・ジャパンは外務省(日本NGO連携無償資金協力)からの助成と皆さまからの募金によって、2019年11月よりダッカのミルプール地区にある10の貧困層居住地区で約21,000人を対象に廃棄物・衛生管理能力を強化する事業を実施しています。新型コロナウイルスの感染拡大により、何度も事業をストップせざるを得なかったものの、2019年11月から現在(2022年7月)に至るまで約2年8カ月間にわたって活動を続けることができています。
1:廃棄物管理
本事業では特に生ごみやプラスチックごみなどの各家庭からの廃棄物を、貧困層居住地区内でまとめ、行政がごみ収集車を送るごみ収集場所に持ち込むシステムを構築することに力を注ぎました。
まずは住民の方々から成る「ごみ・衛生管理委員会」を組織し、廃棄物処理の重要性を理解してもらう研修を実施しました。加えて、地域の有力者(教員や宗教的指導者など)とも会合を持ち、事業への理解・協力を得られる体制を整えました。
このように廃棄物の適切な管理を可能とする体制を整える一方で、住民やその関係者の方々に対する希望する全世帯(約6,000世帯)に蓋つきのごみ箱を配布しました。また希望する住民、ないしは関係者の中から有志をつのり、廃棄物管理に携わるための研修を継続的に実施しています。金額の多寡はあるものの、ほぼ全員が廃棄物処理に従事することで定期的に収入を得ることができています。
2:衛生管理
本事業では、適切なトイレを使用し手洗い行動を行う衛生管理にも取り組んでいます。前述した「ごみ・衛生管理委員会」のメンバーらを中心にトイレの新設および古くなったトイレの補修箇所を選定し、建設作業等を進めました。(2年間で合計296室分のトイレ)また、トイレの引き渡し時には清掃方法など、維持管理のやり方を教える研修も合わせて実施しています。
さらにトイレの使用後など、5つの重要なタイミング(排泄後、食事前、調理前、子どもにご飯を食べさせる前、および、子どもの排泄物処理後)で手洗い行動を実施してもらうよう啓発活動も実施しています。その一例として、それぞれ20人ずつから成る「子ども衛生グループ」を合計で34グループ組織し、子どもから大人に手洗いをしてもらうよう呼び掛けるキャンペーンも実施しました。
特に大人たちが調理前に手洗いをしている割合が1年次事業の終了時に特に低かったことに対し、「私たちが安全な食事を食べられるように手洗いをしてほしい」と訴えたことにより、手洗いをしている方の割合が大幅に上昇しました。(28.0%→67.2%)
2019年11月から2年8カ月間にわたって継続してきた本事業も、2023年3月をもって終了する予定です。以上のように確実に芽吹いてきた廃棄物・衛生管理をさらに盛り上げ、また、事業終了後には住民の方々のみで継続できるように、行政と住民グループの縦の繋がり、また住民グループ同士の横のつながりを構築・強化していけるように進めていきます。
ダッカは世界で最も混雑している大都市のひとつ(2021年)で、今も成長を続けている都市です。しかしその一方で行政などの公的ネットワークから取り残されてしまっている方々も多くいらっしゃいます。私たち、ワールド・ビジョン・ジャパンは、皆さまからのご寄付やご理解とともに、そのような方々も衛生的で人間らしい環境で生活することができるように支援を提供しています。
日本の中では当たり前であるような「ごみはゴミ箱に捨てる」や「トイレに行ったら手を洗う」などの概念ですが、今までまったくそのような考え方に接してこなかった方々にご理解いただくのは中々難しく、また新型コロナウイルスの感染拡大もあり、思うように事業が進まないこともありました。
そのような中でも皆さまからの応援をいただきながら、粘り強く事業を進めることで、少しずつ住民の方々にご理解いただき、衛生的な住環境になりつつあるのを感じています。この記事をここまで読んでいただいたということは、すでに少しでもご関心を持っていただけているのだと思います。これからも心をお寄せいただき、応援し続けてくださるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
バングラデシュ駐在員
吉川 剛史