(2019.02.21)
ワールド・ビジョン・ジャパンは、2017年3月よりカンボジア王国のタケオ州にて、母子の健康改善を支援する新事業を行っています。この事業は、外務省による「日本NGO連携無償資金協力」と皆さまからの募金で、カンボジア王国タケオ州キリボン郡、ボレイ・チュルサール郡、コー・アンデート郡、トレアン郡で実施しています。
タケオ州では、2013年よりワールド・ビジョンがチャイルド・スポンサーシップによる地域開発プログラム(ボレイ・チュルサールADP)を実施しており、これまでに保健・衛生、収入向上、教育分野での支援活動を行ってきました。同じ地域で母子保健サービスの改善を目指す新事業を行うことによる相乗効果が期待されています。
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PD Hearth(Positive Deviance Hearth)とは、低体重児をもつ家族を対象とした、地域でともに取り組む栄養改善、行動変容のための手法です。
この手法は、経済的には貧しくとも栄養状態の良い子どもを育てている母親や保護者の「優れた行動」を見つけ、その行動を栄養不良児を抱えた他の家庭にも普及させるために用いられます。
Sahakum Kaon Laor (SKL) とは、クメール語で「子どもが幸せに暮らすコミュニティ」を意味します。軽度から中程度の栄養不良改善に有効であると世界的に認知されている"PD Hearth"に、カンボジアの文化や地域性を考慮して変更を加えたものが "SKL"です。
プロジェクト・チーム・リーダー
Chamreun Vithより:
「SKLもしくはPD Hearthと呼ばれる栄養改善法は、母親、保護者、地域内の関係者とともに、子どもに食事を与えるときの習慣や行動を良い方向に変えるためのものです。
栄養バランスのよい食事を準備し、成長の各段階において必要な栄養素を子どもたちにきちんと与えることを学びます」
プロジェクト・マネージャー
松岡 拓也より:
「日本政府や日本の皆さまによるご支援のおかげで、ワールド・ビジョン・ジャパンはワールド・ビジョン・カンボジアと協力し、タケオ州のコー・アンデートおよびキリボン保健行政区において、母子の病気羅患率や死亡率削減にむけてカンボジア政府とともに事業を実施しています」
2017年3月から2018年8月にかけて、「タケオ州における母子健康改善事業」では、2歳未満児9,480人と妊産婦6,538人を対象に、保健サービスへのアクセス、利用および質の向上、また子どもの栄養不良率の削減のために活動しました」
研修、コーチング、啓発キャンペーン、振り返りといった様々な手法による活動が290の村で行われました。
保健サービス提供者が母親や新生児に安心・安全で良質なサービスを提供するための技術や知識を持てるようにし、また保健センターは利用者にとって使いやすい場所に整えられました。
保健センター職員
Him Phouより:
「この事業が始まって以来、コミュニティの人々は栄養に関してよく理解するようになり、保健サービスを受けるために保健センターまで来るようになりました。
事業開始前は、親が子どもの予防接種を拒んだり、家庭で伝統的産婆の介助で出産したりしていました。
今では子どもたちは予防接種を受け、妊婦は専門の助産師の介助のもと出産するようになりました」
村落保健支援グループ *1
Sreyneath Ounより:
「この事業に関わってから、私の住む村で母子の健康状態が改善してきていることが見てとれます。特に、女性とその家族が産前・産後のケアや子どもの健康診断により気をつけるようになりました」
*1 村落保健支援グループ:
村内で選出された2名の代表者が、村内の妊産婦、栄養不良児、その他保健サービスを必要としている住民の状況を把握し、家庭訪問や保健センターと連絡を取り合い、支援する。働きは無償で行う。
この事業により、水浄化システム2基、雨水貯水タンク9基、手洗い場付きトイレ2基が保健センターに建設され、安全な水や衛生設備へのアクセスが改善しました。2020年2月の事業終了時までに、さらに多くの水衛生施設が建設される予定です。
保健センター職員のHim Phouより:
「この事業のおかげで、保健センターには十分な設備が整い、職員は専門的な技術に関する研修を受け、地域の人々により良いサービスを提供できるようになりました」
経済的状況にかかわらず、全ての人々がいつでも保健サービスを受けることができるように、155の村に「コミュニティ保健栄養基金」がつくられました。
これまでに、5,282の家庭が13,564ドルを寄付し、村人は保健センターを受診するための交通費が必要な際に、資金を即座に借りられるようになりました。
受益者の1人
Mrs. Lin Nithより:
「私の息子はわずか生後20日のときから心臓弁膜症を患っています。病院に必要な治療を受けに行くためのお金が私にはありませんでした。*2
私は泣き続けるばかりでしたが、コミュニティ保健栄養基金が村に設立されたので、お金を借りることにしました。
病院で輸血を受けた後、息子は意識を取り戻しました。コミュニティ保健栄養基金により無利子で必要なお金を借りることができ、息子の体調はよくなりました。本当にありがたく思っています。
また、SKL/PD Hearthのおかげで、息子が健康に育つよう栄養豊富な食事の作り方、与え方を学ぶことができました。
今では息子は元気になり、歩いたり、座ったり、笑ったり、「ママ」、「パパ」、「おばあちゃん」と私たちを呼ぶこともできます」
コミュニティ保健栄養基金のおかげで、タケオ農村部に住む子ども、妊産婦を含む577人が必要な時に遅延なく保健サービスを受けられました。
*2 この母親は、Kantha Bopha Hospital という、プノンペン市内にある私立病院に子どもを連れていきたかった。この病院はスイス人医師が解説し、スイス政府、カンボジア政府その他多くの寄付や基金により運営されており、子どもたちに無料で質の高いサービスを提供していることから、カンボジア全国から人々が集まる。この母親は、病院まで子どもを連れていくための交通費や入院時の食費等のためのお金を工面できず、困っていたという状況。
コミュニティ保健栄養基金委員*3
Mr. Visal Povより:
「ワールド・ビジョンのおかげで、私たちはコミュニティ保健栄養基金について知り、開始することができました。
この取り組みは、私たちの村全体を助け、益をもたらしてくれます。
私たちはコミュニティ保健栄養資金について運営方法に関する知識や資金管理の方法を教えてもらいました」
*3 各村には「コミュニティ保健栄養基金」を設立する際に、5人の委員で委員会を組織する。
郡女性児童委員
Mrs. Samoeun Sinより:
「コミュニティ保健栄養基金は妊産婦と子どもの死亡率や栄養不良率の削減に貢献しています。
まず、コミュニティ保健栄養基金のおかげで、妊産婦は必要な時にお金を借りて、迅速に治療を受け、医師が指定した日に確実に定期健診を受けられるようになりました。
この活動は子どもたちも助けています。
深刻な栄養不良児が見つかった場合、コミュニティ保健栄養基金を利用し、その子どもは保健センターに送られます。そして適切な治療を受け、健康な状態を取り戻すために支援を受けることができます」
予防可能な病気から幼い子どもたちを守るために、デング熱、下痢、母乳育児、離乳食、産前・産後ケアに関する啓発活動が257の村で開催されました。
深刻な栄養不良状態にあった5歳未満児207人が適時に保健施設に搬送され、適切な処置を受け、健康を取り戻すことができました。
これは、コミュニティと保健センターの連携がうまく機能していること、保健サービス担当者の能力も向上したこと、家庭訪問を通して栄養不良の子どもがいるかどうか、コミュニティ内の状況をしっかり把握できたことによります。
これまでに、324人の子どもたちが親や保護者とともにSKL/PD Hearthの活動に参加して、栄養豊富な食事をとりました。
多くの子どもたちが栄養不良の状態から「正常」な健康状態になることができました。
温かいご支援で支えてくださった皆さまに感謝します。ありがとうございます。