(2018.06.01)
学生時代に仲間と寄付を募り、カンボジアに小学校を建設した葉田さん。その後も現地に訪問を重ねる中、生後22日目の赤ちゃんを肺炎で亡くしたお母さんに出会います。病院までの交通費がなく受診をためらい、借金をして病院に向かった時には手遅れだったと話したそのお母さんは「ずっと泣いてた」そうです。
「赤ちゃんを失う悲しみは、日本でもカンボジアでも世界共通。その涙を減らしたい」葉田さんは立ち上がり、小学校を建設支援した地域でも見知っていたWVJ に連絡をくださったのです。
カンボジアでは、1991 年に約20 年に及んだ内戦が終結して以降、母子保健分野でのめざましい改善があり、妊産婦、乳幼児・新生児死亡率も減少しています。一方で、都市部と農村部では改善に開きがあります。背景にあるのは、産前産後検診や出産ができる保健施設の不足、専門的なスキルを持つ医療スタッフの不足、住民の知識の不足等です。
WV カンボジア、現地行政との協議の結果、タイ国境に近いバンティ・ミエンチャイ州から事業地が選ばれました。事業地では保健センターが老朽化し、分娩室の屋根が落ちるなど、安心して受診・出産する環境が整っていないことから、人々が保健センターに出向くよりも、自力や専門的な技術を持たない伝統的産婆の介助による出産を選択し、母子ともに危険にさらされる事態が続いていたのです。
2018 年2 月11 日(日)カンボジア保健省副大臣、州知事を主賓に迎え、葉田さん、あおぞら事務局長の近藤さん、新生児蘇生法講習を実施してくださった医師の方3 名、クラウドファンディング支援者290 名のうち13 名、保健センター長やスタッフ、地域の住民、WV カンボジア及びジャパンのスタッフが出席し、開所式が行われました。
保健センターの敷地は、地域住民の力でトラック1,000 台分の土により整地され、出席者300 名が晴れやかな表情で集いました。プロジェクト開始直後の2017 年春、葉田さんが事業地訪問中に出会ったお母さんとの再会もありました。当時、生後1カ月を待たず赤ちゃんを感染症で失った悲しみの中で保健センター建設の計画を知り、涙を流しながら「ありがとう」と話してくれたお母さん。開所式に参加した彼女は新しい命を授かっていました。その後、3 月中旬、この新しい保健センターで女の子を出産したのです。
開所式の記念事業として、カンボジアの新生児死亡の4分の1を占める新生児仮死に対応するための講習が助産師を対象に行われました。葉田さんと新生児蘇生法普及のために活動されている小児科医の嶋岡鋼さんの出会いがあり、嶋岡さんがWVJのチャイルド・スポンサーでもいらっしゃることから、WV が医師の皆さまと現地保健省の橋渡し役となり実現したものです。
「赤ちゃんの命を救うという行為はこの国の未来を支えている。そんなあなた方を誇りに思います」嶋岡さんの言葉に、助産師たちの目には涙が光っていました。
プロジェクト応援者:崎元美玖さん(沖縄県/高校生)
今回、学校で行った募金活動を通して、このプロジェクトに参加させていただきました。カンボジアに行き、開所式に参加して、完成した立派な病院を見た時の感動は今でも鮮明に覚えています。村人たちは、病院が建ったことをとても喜ん
でいて、たくさんのキラキラした笑顔を見ることができ、心から幸せに思いました。また、式ではスピーチもさせていただき、一生の思い出です。今回の経験を忘れずに、これからはたくさんの人の笑顔に繋がるような支援をしたいです。
葉田甲太さん(医師・NPO法人あおぞら理事長)
今日もどこかで亡くなっている世界の赤ちゃんを救う方法は、医学的にある程度
わかっています。しかし、赤ちゃんを失うお母さんの涙を世界中で減らすには、
あとどれだけ努力が必要なのか。今の自分には途方もなく思えますし、これから
も思い悩むこともあるでしょう。
そんな時には、開所式の皆さんの笑顔、再会できたお母さんの「ありがとう」、「お腹にいるのははじめての女の子だ」と喜んでいた顔を思い出そうと思っています。行動するのは時に怖いことです。でも、行動すれば救える命があります。そして、行動は自分自身が選べる選択です。これからも笑顔に貢献できるように、進んでいきたいと思います。