バーコードによる食糧支援~マラウイより~

2013.05.17

「待たせない」 バーコードで配給

食糧配給を行う場所に集まった女性たち
食糧配給を行う場所に集まった女性たち

この記事はワールド・ビジョン・ジャパンの望月スタッフが執筆し、2013年5月12日付SANKEI EXPRESS紙に掲載されたものです。

2012年8月、アフリカ・マラウイでは人々が深刻な食糧不足に直面していた。通貨切り下げによる物価高騰に加え、特に南部では前年の降雨不足で不作が続いた。そのためワールド・ビジョンを含む多くの支援団体が、緊急食糧援助を行った。

マラウイ国民の多くは小規模な自給自足農業を行い、主食となる白トウモロコシ(メイズ)などを作っている。雨水に頼った農業なので、生活をぎりぎり維持できる程度の収穫しかない。そのため降雨が少ないと、日々の糧に困窮するほどの状況に陥るのだ。

今年3月、マラウイ南部のムワンザ郡マパンガ村とチクワワ郡サポア村を訪れた。
どちらも昨年の干魃(かんばつ)の影響で、まだ食糧支援活動が続けられていた。

バーコードと顔写真がついたカードを使って、食糧を受け取る人を確認する
バーコードと顔写真がついたカードを使って、食糧を受け取る人を確認する

午前10時30分、マパンガ村の食糧配布場所では、300人ほどが集まっていた。1世帯が受け取る1カ月分の食糧は、メイズの粉50キロ、豆類10キロ、トウモロコシと大豆を混ぜた高栄養な粉(CSB)5キロ、サラダ油2リットル。食糧支援を受け取る世帯は、政府の調査と村の中での調整で決まる。

食糧を配る際、最も時間を要するのが、配給の対象になっているかどうかの確認作業だ。以前は配布状況を各世帯ごとに記した紙をチェックするやり方で時間がかかり、村人たちを何時間も待たせることもあった。

そこで今回、顔写真入り・バーコード付きのカードを世帯ごとに発行。本人確認、これまでの受給状況、世帯構成などが一括管理できるようになった。バーコードリーダーは電気が通ってなくても動く電池式だ。おかげで本人確認は数秒で完了。「この支援が生活の支えになっている」と感謝の言葉が聞かれ、事業が実際に役に立っていることを実感できた。

「依存」の助長ではなく自立の一助に

貯蓄グループのメンバーと望月スタッフ
貯蓄グループのメンバーと望月スタッフ

ところがマラウイで食糧支援の現場を訪ねてみて、別の考えも浮かんだ。暮らしを支える一方で、「食べ物を配り続けることが、自立した生活を妨げるのではないか」という懸念が頭をよぎる。

食糧支援の難しさは、食糧を提供することが受け取る側に「依存心」を生み、結果的に更なる援助を助長するのではないかという恐れがともなうことだ。自然災害や極度の貧困への支援は一時的なものであるという意識を、支援「する側」も「される側」も持たなければいけない。そのためには、貧困から抜け出し自立するための支援が大切だ。

チクワワ郡サポア村でワールド・ビジョンは、食糧支援と並行して、村人が小規模なグループを作って共同で貯蓄し、相互扶助的に貸付をする仕組みを根付かせようと取り組んでいる。30人程度のグループを作り、一人当たり毎月2~3ドルを集めて貯め、
グループのうち1人が全額を借りて元手にし、新たなビジネスを始める。
ビジネスは、市場で大量の塩や炭を購入し、村で小分けにして販売したり、ドーナツのような
揚げ菓子を作って販売したりするという身近なニーズに応えるものだ。
こうした小さなビジネスでも利益が出る。すると借り手は売り上げの中から毎月、
利子をつけて返済、そのお金がまた次の貸付への原資になる-という仕組みだ。

子どもは好奇心旺盛。カメラを向けるとたちまち集まってくる
子どもは好奇心旺盛。カメラを向けるとたちまち集まってくる

このグループに入っているある女性は「生活費だけでなく、子供を学校に通わせるために必要な資金も稼ぐことができた。今後はヤギを購入して、更にビジネスを大きくすることが目標。子供の教育に投資すれば自分たちの子供は将来もっと良い仕事を見つけることができる」と目を輝かせる。

何より「ずっと援助に頼りたくない」という思いを持っていることがうれしかった。もちろんビジネスが軌道に乗るまでに時間がかかる人もいる。グループの女性からは「帳簿の記入の仕方など基本的なビジネス管理術を学ぶ機会があれば」という声もあがり、課題も見つかった。

食糧支援から自立や持続的な開発へと、マラウイの人々の暮らしがうまく安定していくことを期待しつつ、より良い支援を考える努力を日々、続けていきたい。そんな思いを胸に日本への帰路についたのだった。