(2019.06.05)
70万人近くのシリア難民を受け入れるヨルダンでは、難民の子どもたちにも教育機会を提供するため、多くの公立学校が午前・午後の二部制で運営されています。しかし、二部制の導入により授業時間が短縮され、一部の子どもは授業についていけなくなっています。また、午前に勉強するヨルダン人と午後に勉強するシリア人の間の交流がないことから、いじめや差別が発生しています。ワールド・ビジョン・ジャパン(以下WVJ)は2014年から、シリア難民が多いヨルダン北部の都市イルビドとザルカで、勉強についていけない子どもたちのための補習授業と、ストレス解消や両国籍の子どもの交流を目指したレクリエーション活動を行っています。
2011年3月のシリア危機発生から8年が経過した今も、シリア国内の情勢がいまだに不安定なため、ヨルダン国内にいるシリア難民の85% が「1年以内にシリアに帰るつもりはない」と回答しています。シリア危機の長期化に伴い、WVJのヨルダンでの支援事業も5期目を迎えた今、これまでの事業の成果を客観的に評価し、今後の事業の進め方を検討するため、緊急時の教育の専門家である上智大学の小松教授の協力を得て、評価調査を行いました。
事業の対象児童と非対象児童の成績、学習意欲、中退率、他国籍の子どもとの交流等に関する数百人規模のデータ収集を行い、データを比較分析するとともに、対象児童や保護者、補習授業の教員等の関係者への聞き取りを行いました。この結果、以下のような事業の成果が見えてきました。
◆補習授業に参加した子どもたちの公立学校での成績※が向上 ※英語、アラビア語、算数の平均点
◆事業の対象児童の方が、非対象児童より「他の国籍の友だちと遊ぶ」率が高い
◆補習授業に参加する前と比べて参加後の方が「怒りをコントロールできる」「学校で落ち着いた気持ちで過ごせる」と答える子どもたちが70%以上
補習授業の先生は丁寧に説明してくれるので、内容がよくわかるようになり、勉強するのが楽しくなりました。普段の学校の授業で困ることも今はありません。
みんなが内容を理解するまで、次に進まずに待ってくれるところが、補習授業の良いところだと思います。学校ではヨルダン人の友だちと一緒に勉強する機会はないけれど、近所にはヨルダン人の友だちもいます。将来はサッカー選手になるのが夢です。
上智大学総合人間科学部 小松太郎 教授
8年間にもおよぶシリア内戦のため70万人近くの人々がヨルダンに逃れました。その多くはヨルダンの地域社会に住んでいます。紛争の影響により大きなストレスを抱え、異なる教育カリキュラムで苦労し、加えて学校での体罰や、難民に対するいじめなど、シリア難民の子どもたちは厳しい環境に置かれています。補習授業を視察すると、子どもの保護研修を受けた教員のもと、子どもたちは意欲的に授業に参加しています。彼らの学力も上がっています。
一方で、自尊心を持ち、安心して学習に取り組めない子どもたちもまだ多くいます。ヨルダン社会で生活するため、そして将来シリアで平和な社会をつくる一員となるためにも、彼らが学び続ける環境を整えることが大切です。