(2020.06.02)
ワールド・ビジョンが進める新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への緊急対応の現状を事務局長の木内から、ヨルダンでの状況と遠隔での教育提供の様子を、ヨルダンに駐在する松﨑からご報告するイベント「【緊急オンライン報告会】COVID-19x難民支援」を2020年5月28日(木)に実施し、351名の皆さまに視聴いただきました。
当初定員100名でご案内をスタートしたこの報告会には、告知開始直後から多数のお申込みをいただき、Web会議システムの設定上限である500名に定員を増やしました。5月24日には500人を超えるお申込みをいただき受付を終了する事態となり、皆さまの関心の高さがうかがえました。(ご参加いただけなかった皆さまには、録画動画から報告会をご覧いただけます。)
はじめにワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)事務局長の
「COVID-19は、国際社会がこれまで数十年にわたって貧困や格差をなくそうと努力してきたことを一気に逆戻りさせ、非常に厳しい生活に陥るリスクにさらされる人を多く発生させています。
また、次世代が教育が受ける機会、就職をする機会、自己実現のために何かに挑戦するといった機会等、様々な機会を奪われるといった脅威があります。こうした2次的な影響からもたらされる脅威は、COVID-19に感染するリスクそのものよりも大きく、しかも長期にわたって開発途上国に住む子どもたちの生活に深刻な影を落とします。
ワールド・ビジョンは、この支援が短距離走ではなくマラソンになると考えています。感染拡大防止のような緊急的な課題にしっかり対処しつつ、同時に2次的な影響から次世代を守るということに注力していきます」
今回のCOVID-19対応は日本を含めた世界中が現場であり、「ワールド・ビジョンが過去70年に対応してきた数多くの緊急人道支援とは大きく異なることを日々実感している」と木内は語りました。その中にあって、すでにチャイルド・スポンサーシップを通して活動をしている地域的な基盤があること、信頼関係があることがCOVID-19で必要な活動を迅速に行うことができていることを、感謝とともにお伝えしました。
COVID-19は、そもそも前から厳しい状況での生活を強いられている人々と子どもたちに、より大きな影響をもたらしています。その筆頭が、紛争により避難を強いられている難民、避難民の方々とその子どもたちです。昨年9月からヨルダンに駐在し、シリア危機の影響を受けるシリア難民とヨルダン人の子どもたちを対象とした教育支援事業(ジャパン・プラットフォーム助成および一般のご支援による)を担当している松﨑スタッフよりご報告しました。
ヨルダンでCOVID-19の感染が確認され始めた3月、ヨルダン政府は素早く大胆なロックダウンを実施して感染拡大を防止しました。急なロックダウン実施決定を受け、ワールド・ビジョン・ヨルダン事務所を閉鎖して在宅勤務に切り替える準備、水や食料の買い出しなどに追われたこと、ロックダウン開始後は一歩も外に出られない「異常な緊張感を経験した」と松﨑スタッフは語りました。
(ブログ「ロックダウン20日目のヨルダンから」参照)
ワールド・ビジョンは、4月にシリア難民とヨルダン人の合計470人の方に電話で調査を実施しました。その結果、①生活資金、②食料などの生活必需品、③教育支援の3つを喫緊に必要としている状況が分かりました。
ヨルダン政府はロックダウン後にテレビとオンラインで公教育を提供していますが、難民の子どもたちは、様々な理由でこうした公教育を受けることが難しい状況にあります。さらに、ロックダウンによるストレスで不安定になった家庭では子どもが暴力・虐待を受けやすく、児童労働、児童婚のリスクにもさらされています。学校に行かれない子どもたちは孤立し、大人に助けを求めにくい状況です。
こうした状況をふまえ、ワールド・ビジョンではシリア難民の子どもたちに向けた遠隔での補習授業を実施しています。
(ブログ「ロックダウン1カ月半のヨルダンから~教育を止めるな!~」参照)
遠隔授業を受けたシリア難民のアブドゥラマン君(11歳)が、分度器を使えるようになって喜んでいる様子の動画を送ってくれた、という微笑ましいエピソードもご紹介しました。「こうした小さな成功体験を積み重ねていくことが勉強を続ける意欲、自信を持つことにつながります。一人でも多くの子どもが成功体験を持てるよう、粘り強く頑張っていきます」と、松﨑スタッフ。
世界中の難民の半分は子どもたちであり、子どもたちが学びの機会を失うことは次世代を担う人材が育たないことを意味します。シリアのような紛争の被害を受けた国の再建のためにも、いま次世代を担う人材を守ることは重要です。
松﨑スタッフは「日本もCOVID-19で大変な状況ではありますが、今日の報告を聞いて少しでも難民のことを考えていただく機会になれば幸いです」と締めくくりました。
「国や年齢、文化がどんなに違っていても、絶対に共通するのがお母さんから生まれたことだと考えてきたが、今回もうひとつ人類の共通点ができたのではないかと感じています。生まれがどうであれ、どこでどういう生活をしていても、今や世界でCOVID-19の影響を受けずにいられる人いないのではないかということです。
そういう意味では、COVID-19は大変な危機ではありつつ、同時に世界がようやくお互いのことを自分のことのように感じられる機会をもらっているのかな、とも思います」
松﨑からの報告のあと、こう語った事務局長の木内は、続けてフランスの経済学者、ジャック・アタリの言葉を紹介して報告を締めくくりました。
「パンデミックという深刻な危機に直面した今こそ、他者のために生きるという人間の本質に立ち返らねばならない。協力は競争よりも価値があり、人類は一つであることを理解すべきである。利他主義という理想への転換こそが、人類のサバイバルの鍵です」