(2023.03.06)
世界の子どもを支援する国際NGOワールド・ビジョンは、ちょうど1カ月前、現地時間2023年2月6日(月)に発生した地震と、今月でまる12年を迎える紛争の影響で、シリア北西部において、特に子どもたちがメンタルヘルスの危機に直面していることに警鐘を鳴らしています。
シリア北西部で暮らす子どもたちは、震災の前から長引く紛争の影響でPTSDの症状が認められていました。ワールド・ビジョンのメンタルヘルスの専門家は、今回のマグニチュード7.8の地震と一連の余震によってPTSDを発症する人が増える可能性があることを懸念しており、子どもたちとその家族のメンタルヘルスのケアがより求められるようになると考えています。
シリア北西部の38歳の住民は以下のように述べました。
「私たちにとって非常に過酷な日でした。私たちは明け方から翌日の夜までがれきの下で遺体を探し続けました。病院の前の歩道は遺体が入った黒い袋であふれていました。家族の多くが震災で命を落とし、埋葬する人がいなくなった人もいました。私は家族を亡くした人々の前で自分の感情を抑えようと心がけました。しかし、私の心理状態は全く良くありません。私は何もできませんでした」
今回の震災でどれだけの人々が避難を強いられたかは、まだ調査中ですが、ワールド・ビジョンがシリア北西部の322世帯を対象に実施した初動調査では、調査対象となった世帯の94%が家や一時滞在先が地震によって被害を受け、51%が家を失ったことが明らかになりました。
この初動調査では、地震によるこのような被害の結果、調査対象になった世帯の82%が集団避難所に避難していることが分かりました。さらに、回答者の42%が住んでいた場所の近隣で教育施設が被害を受けたと報告し、84%は今回の地震が子どもの教育に影響を与え、搾取、児童労働、児童婚などのリスクが増していると述べました。
ワールド・ビジョンが昨年実施した調査では、回答者の66%が子どもたちは自らを取り巻く生育環境のストレスゆえに自殺念慮に対して行動をとる可能性が「非常に高い」と考えていることが明らかになっていました。また、暴力が激化していた2021年にワールド・ビジョンの提携団体がシリア北西部のとある県で実施した別の調査では、この地域の18歳未満の避難民の100%、全員がPTSDの症状を示していました。ワールド・ビジョンが実施したさらなる調査では、自殺念慮・慢性的に発生し続ける性別に基づいた暴力・児童婚・児童労働の増加によって多くのシリアの人々が負の連鎖に陥っていることが報告されています。
「この地震について報道で取り上げられる機会が減り、報道陣は一人、またひとりと去っていきますが、瓦礫の山は動かず、遺体を発見することもできず、子どもたちは多くの場合、両親や愛する人に最後の別れを告げることができませんでした。しかし、今回の地震と12年にもおよぶ紛争によって多くの人の死に触れることは、目に見える破壊だけでなく、感情や精神にも目に見えない大きな傷を残しています。残念ながら、シリア北西部に暮らす子どもたちは長く続き、多方面におよぶ、破壊的なトラウマと向き合っていかないといけないのです。
ワールド・ビジョンのメンタルヘルスの専門家は、これまでの経験をふまえても、今シリア北西部の子どもたちが直面しているこれほど大きな精神的な苦悩と苦しみを放置するならば、長引くシリア危機によってすでに危機的状況だったメンタルヘルスの問題が大惨事につながるだろう、と述べています。トルコとシリアを襲った壊滅的な地震から1カ月が経過しましたが、人道支援は12年にもおよぶ様々な危機に苦しんできた避難民の家族や子どもたちの莫大なニーズをまだ満たせていません。シリア北西部への支援が円滑に届けられ、緊急対応のために割り当てられた資金を通じて支援を拡大することが重要です。そうすることで、子どもたちが必要としているメンタルヘルスのケアを受け、トラウマに対処することが保証されるのです」
「子どもの頃に厳しい逆境にさらされると、行動や感情に対して様々な問題が生じる可能性があります。例えば、リスクがある行動・自殺・攻撃的な行動・他者との関係性について課題を抱えることです。特に今回の地震のような出来事の後のPTSD発症には憂慮しています。
これまでの調査で、地震はPTSD、気分の落ち込み、不安などの精神疾患の増加と関連していることが明らかになっています。シリアの子どもたちは今回の震災前から、脳や他の器官の発達に深刻な影響をもたらし、ストレスに起因する疾患や認知障害を発生させる可能性のあるようなレベルで、ストレスに対処し続けざるをえない環境に置かれていました。
トルコとシリアを襲った地震発生から1カ月の節目を迎えるにあたり、ドナーと支援団体がメンタルヘルスのケア優先することが不可欠です。子どもたちは、今、彼らの若い命を、これからの人生を破壊的に傷つけるような状況で、苦しんでいるのです」
ワールド・ビジョンはかねてよりシリア北西部で活動を実施していたため、発災後すぐに初動調査を行い、発災から2時間後には喫緊に必要とされる暖房器具や燃料の配布を開始することができました。発災から1カ月間でワールド・ビジョンが実施した支援内容は以下のとおりです。
キリスト教精神に基づき、貧困や紛争、自然災害等により困難な状況で生きる子どもたちのために活動する国際NGO。国連経済社会理事会に公認・登録された、約100カ国で活動するワールド・ビジョンの日本事務所です。
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