ルワンダ~ゆっくりと子どもの命を奪う栄養不良~

2010.11.15

今年、子どもの権利条約が発効されてから20周年を迎えますが、世界では未だに多くの子どもたちの「生きる権利」や「育つ権利」さえ保障されていません。11月20日の「世界子どもの日」に向け、ワールド・ビジョンが活動のなかで出会ったルワンダのジャネットちゃんやコンソーレちゃんのストーリーを通じて、栄養不良が子どもへ与える悪影響や、子どもの発育不良と経済の関係について考えます。
また、解決方法として、効果的な投資や家庭とコミュニティレベルでのケアも紹介します。

第1話:栄養不良だったジャネットちゃん
第2話:栄養不良による長期的な悪影響
第3話:子どもの発育不良と経済の関係
第4話:家庭とコミュニティレベルでのケア

第1話:栄養不良だったジャネットちゃん

栄養不良だったジャネットちゃん(ルワンダ)
栄養不良だったジャネットちゃん(ルワンダ)

ルワンダで暮らすジャネットちゃんは5歳ですが、年齢のわりにはとても小柄です。1年前、彼女は立つことも、他の子どもと遊ぶことも、硬い物を食べることも、話すことすらもできませんでした。ジャネットちゃんのお母さんであるエスペランスさん(45歳)は、ジャネットちゃんのやせこけた姿と、か細い声に悩まされていました。
「娘が死んでしまうのではないかと考えると、絶望的な恐怖に襲われました。
栄養不良によって、娘の髪はオレンジに変色してしまったんです」

と、エスペランスさんは語ります。

ジャネットちゃんは当時、クワシオルコルという微量栄養素の欠乏による病気に苦しめられていました。この病気の症状として、手や足に浮腫ができ、歯が抜け、髪がさびたような色に変化し、お腹が膨張します。
エスペランスさんは、最悪の事態になることを恐れていました。この病気は、治療をしないで放置しておくと、子どもの体をむしばみ、命をも奪ってしまうからです。

栄養不良は、静かに命を奪う「敵」です

エスペランスさんとその家族が住むギクンビ郡
エスペランスさんとその家族が住むギクンビ郡

エスペランスさんには12人の子どもがいましたが、そのうち4人の子どもを飢えで、1人を病気で失いました。ニラムタラムビルワちゃんは7歳で、マニラファシャちゃんは3歳で、栄養不良によって命を落としました。ムカガカニちゃんも下痢にかかってから、数日中に命を落としてしまいました。わずか5歳でした。

エスペランスさんとその家族が住むギクンビ郡は、ルワンダ北東部の人里離れた所にあります。夕日で薄紫色に染まる空や、緑豊かな丘の風景を見ることができる、美しい地域です。しかし、その美しい景色とは裏腹に、この地域は世界の最貧国の、最も貧しい地域であり、慢性的な食糧不足や部族間の暴力など、多くの課題を抱えています。

エスペランスさんは、1994年の大虐殺によって長男を失いました。
この大虐殺は、人類の歴史上で最も集中的に虐殺が行われ、6週間で80万人もの人々が命を落としたと推測されています。
しかし、現在のルワンダにとっての最大の敵は、この暴力的な行為ではなく栄養不良だ、とエスペランサさんは考えます。
「栄養不良は、少しずつ命を奪っていくため、最も危険です」と、彼女は言います。

第2話 栄養不良による長期的な悪影響

栄養不良だったジャネットちゃんと
ワールド・ビジョンのスタッフ

「栄養不良は命を奪うだけではなく、発育不良にも影響します」と、ワールドビジョン・ルワンダの保健・栄養マネージャーであるアグネス・ムカマナスタッフは説明します。「ルワンダでは、栄養不良は大きな課題であり、国内の子どもたちに深刻な影響を及ぼしています」ジャネットちゃんが4歳の時の体重は、年齢と性別としてはとても軽い、わずか10キロでした。ジャネットちゃんの状態は改善されてきていますが、現在も年齢にしてはやはり低身長で、やせており、発育が遅れています。現在、ジャネットちゃんと家族は食糧支援を受けていますが、長期的な見通しはついていません。

ジャネットちゃんの家族

ジャネットちゃんは最悪の状況から脱け出しましたが、長期的な栄養不良の結果もたらされる運動能力の低下、認知能力の低下、貧血、免疫力の低下、慢性的な疲労など多くの問題と、今後も闘っていかなければいけません。ジャネットちゃんの免疫機能が低いため、ワクチンの効果も限られています。そのため、生命を脅かすような感染症にかかってしまう危険性が高いのです。「栄養不良の子どもたちは、十分に成長することができません。精神的発達にも悪影響を受けているため、学校で自分の力を十分に発揮できないのです。協調性を失い、集中して物事に取り組んだり、勉強することができなくなるのです」とアグネススタッフはいいます。

ワールド・ビジョン、国際連合児童基金(以下UNICEF)と世界食糧計画(以下WFP)による最近の報告書によると、多くの子どもたちがジャネットちゃんと同じような境遇にいます。ルワンダでは現在、約52%の子どもたちが低身長で発育不良の状態にあります。さらに18%の子どもたちが低体重、3.2%が深刻な栄養失調に陥っています。栄養不良を改善するための取組みが何もされなければ、2009年から2012年の間に40,000~50,000人のルワンダの子どもたちが命を落としてしまう、と言われています。

取り戻すことのできないダメージ

栄養不良の男の子(インド)

UNICEFによると、2億人もの5歳未満の子どもたちが栄養不良に苦しんでおり、1億3,000万人もの子どもたちが低体重であるとされています。わずか24カ国が、世界の発育不良の子どもたちの80%以上を占めています。また、すべての新生児死亡の要因の60%は低体重による出生です。

アフガニスタンは、発育不良の子どもの割合が高い国です。インドは、低身長の子どもの数が最も多く、7億人もの子どもが低身長です。発育不良は、ただ単に低体重であるということ以上に深刻な問題です。発育不良は、生まれる9カ月前から生後24カ月までの、発育において最も重要な時期の栄養不良や病気に起因することが多く、低体重とは違ってそのダメージを取り戻すことはできません。アフガニスタン、イエメンやグアテマラなどでは、5歳未満の子どもたちの半分以上が発育不良です。ルワンダでは、51%の子どもが発育不良に苦しんでいます。

お母さんの胎内にいる時期の栄養不良は、子どもの健康と発育に一生涯影響を与えると言われています。また、発育不良のお母さんは、身体的にも精神的にも弱さを抱えているため、発育不良の子どもを産む可能性が高く、その子どももまた、低体重の子どもを産む傾向があります。まさに発育不良は、何世代にもわたる問題なのです。

第3話:子ども発育不良と経済の関係

栄養不良の女の子(グアテマラ)

2006年の世界銀行の報告書によると、発育不良が広範に広がっている場合、経済成長の鈍化と慢性的貧困につながると言われています。身体的な弱さからくる直接的な生産性の損失、知的な弱さと、その結果としての学習力低下による間接的な生産性の損失、そして医療費の増加による財政的負担の3つが、経済成長の低下につながる原因です。

発育不良は人々の生涯賃金の10%を奪い、国家的には国内総生産(Gross Domestic Product:GDP)の最大6%を損失する可能性があります。インドでは、発育不良によるヨード欠乏や鉄欠乏は、GDPの3%の損失の原因になっています。世界銀行は、子どもの栄養不良による世界的な経済的損失は、1年間で200億ドルから300億ドルになると予測しています。UNICEFは、子どもの栄養不良は、貧困を撲滅するための取組みやミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)の達成を困難にしている、と指摘しています。

「発育不良が開発途上国の経済に与える影響を、軽視してはいけません」
と、ワールド・ビジョンの食糧計画管理グループの栄養アドバイザーであるマリアナ・ステファンズスタッフは言います。子どもの発育不良の問題が拡大しているにも関わらず、なぜ政策の中で重要視されていないのでしょうか?「無知や貧困だけが原因ではない」と、ステファンズスタッフは説明します。より問題なのは、長期的な投資が必要なプログラムに資金を拠出することに、ドナーや政府が難色を示していることです」と、ステファンズスタッフは指摘します。ステファンズスタッフによると、ドナーや途上国の予算は、12カ月から3年間単位のものがほとんどです。 「私たちは5年から10年にわたる資金の確約が必要です。そのような長期的な取組みによって初めて、発育不良の改善への効果的なインパクトが可能となるのです」

効果的な投資

栄養価の高いお粥を食べる子どもたち(ルワンダ)

2008年、ノーベル賞受賞者を含む世界の著名な経済学者たちによるコペンハーゲン・コンセンサスで、栄養改善プログラムへの投資は、投資に対して100倍の利益があるものであり、最も費用対効果に優れた開発分野の取組みであることが明らかにされました。

2歳未満の子どもたちを対象とした微量栄養素改善プログラムへの投資は、死亡率の減少、健康改善と将来の増収により、1ドルあたり17ドル以上の結果に結びつきます。栄養改善の取組みは、その成果が明らかになるまでにはしばらく時間はかかりますが、必ず良い結果につながるでしょう。

生後2歳まで栄養価の高い食糧の供給を受けていたグアテマラの男の子たちは、栄養不良の子どもたちに比べて1時間で推定0.67ドル以上の収入を得ることができ、平均賃金の46%増加につながっています。世界銀行によると、栄養不良が深刻な国で乳幼児時代の貧血をなくすことができれば、成人の生産性を5~7%増加し、そしてGDPを最高2%まで向上すると言われています。

第4話:家庭とコミュニティレベルでのケア

ルカラ保健センターでワールド・ビジョンのスタッフと遊ぶ栄養不良の子どもたち(ルワンダ)

栄養改善プログラムを進めるということと同様に、家庭とコミュニティレベルでのケアを行うことが重要です。ほとんどの保健計画が国や地方レベルで行われ、家庭とコミュニティレベルでの正確なニーズを把握していない傾向があります。このため、計画やモニタリングの段階で、地域に住んでいる女性や子どもが、しばしば軽視されています。「家庭とコミュニティレベルでのケアに重点を置き、地域の保健従事者を活用するならば、子どもの健康の改善につながるサービスの飛躍的な浸透につながるでしょう」と、ワールド・ビジョンの食糧計画管理グループの栄養アドバイザーであるステファンズスタッフは語ります。医者、看護師や助産師とは異なり、地域の保健従事者は彼らが働いている地域に住んでいます。研修を受けた地域の保健従事者は、ごくわずかな費用で保健教育、予防接種、栄養相談や出産前のケアなどの、基本サービスを提供することができます。

1980年代ニカラグアでは、研修を受けた保健従事者が、子どもの生存と健康において飛躍的な改善をもたらすことを実証しました。パキスタンの女性保健従事者も、妊産婦や新生児の死亡率の低下に貢献しました。ワールド・ビジョンでは、家庭やコミュニティレベルでの取組みが栄養不良を減らし、子どもの健康状態を改善するために、最も早く、効率的な手段だと考えています。地域や家族を中心に働く保健従事者は、妊産婦や出産後の女性を対象に、栄養に関する基本的な知識ついて指導し、遠隔地域に住む人々など、公的サービスの目が届きにくい人々の間での栄養状態をモニタリングすることで、栄養不良や発育不良を早期に発見することができるのです。

母乳で育てることの重要性

ワールド・ビジョンのスタッフと子ども(ルワンダ)

子どもの発育において大切な生後2年間の時期に母乳で育てることが、子どもの健康を維持する最適の方法です。子どもを健やかに育てるために、母乳で育てることの重要性をお母さんたちに説明することが必要です。また、妊産婦は出産後の9カ月間は最も体が弱っているため、妊産婦自身が適切な栄養を摂取することも大切です。

途上国に限ったことではありませんが、母乳で育てることの重要性を女性たちに説明するのは大きな挑戦です。彼女たちは出産後すぐに働かなくてはならないため、母乳で育てる時間がある女性は少ないのです。家族計画について知る機会がほとんど、もしくは全くないので、貧困にある何百万人もの女性たちが、十分な出産の間隔をあけず、子どもたちの母乳離れを早めてしまいます。国際的な疫学の専門誌である"International Journal of Epidemiology"に掲載された2004年の論文によると、ボリビアでは、子ども1人が誕生するたびに発育不良のリスクが高まり、最も幼少の子どもたちに、最も深刻な栄養不良状態が見られるとも言われています。

栄養不良だったコンソーレちゃん

以前は栄養不良だったが、元気になりお母さんの
お手伝いができるようになったジャネットちゃん

第1話で紹介した、ルワンダの現状に再び目を転じると、リベラタさん(38歳)はその現実をあまりにもよく知っています。自給自足で農業を営むリベラタさん自身も、栄養不良に苦しんでいるのです。4歳のコンソーレちゃんを出産した数カ月後に、8人目の子どもを妊娠しました。

「これは私にとって大変な経験でした」と、彼女はゆっくりとした口調で話します。「私自身も病気で、幸せではありませんでした。コンソーレに多くの時間を必要としたため、家族のためには何もできませんでした」小さくやせて、恐ろしいほど低体重なコンソーレちゃんは、幼くして命を落とした2人の兄弟と同じ、深刻な危機に瀕していました。「彼女は歩くことも、自分で座ることも、はっきり話すこともできませんでした」と、リベラタさんは説明します。「以前の娘を見たら、彼女の足に骨があるかさえ疑ったでしょう。彼女はとても柔らかく、機嫌が悪く、他の子どもと一緒に遊ぶこともできませんでした」

第2話で紹介した、栄養不良の最悪の状況から抜け出すことができたジャネットちゃんのように、コンソーレちゃんも、今は話すことも数を数えることもできます。しかし、コンソーレちゃんが住むルテテ村では、ジャネットちゃんの村よりも状況がさらに絶望的で、68%の子どもたちが発育不良で苦しんでいます。ステファンズスタッフは言います。「とても悲惨な状況です。この状況を改善するために、更なる支援が必要です」

-----------------------------------------------------------------------
"何もかも"はできなくとも、"何か"はきっとできる。
たくさんのルワンダの子どもたちも、チャイルド・スポンサーシップによる支援を待っています
-----------------------------------------------------------------------