【シリア危機8年】 第3回ブリュッセル会合への政策提言

(2019.03.15)

子どもたちを守ることを最優先に

2011年3月15日にシリア紛争が始まってから8年。600万人以上が国内避難民、560万人以上がシリア国外へ逃れた難民となり、この数十年で最大の人道危機となっています。シリア国内だけでも、1,170万人が人道支援を必要としており、そのうちの500万人が子どもで、教育機会の喪失、児童労働、早婚などの問題に直面しています。

シリア難民の子どもたち


ワールド・ビジョンは、3月12-14日にブリュッセルで開催された「シリア及び地域の将来の支援に関する第3回ブリュッセル会合」を前にpdfアイコン政策提言書「Putting Children First-Toward a Brighter Future for Syrian Children―(子どもたちを最優先に―シリアの子どもたちの明るい未来に向けて―)」(英文)を発表し、シリア危機に対応する世界の政策決定者に対し、子どもたちを守ることを最優先にすることを求め、次の主旨の提言を行いました。

・深刻な暴力行為や、安全が確保されない状況での強制的な帰還などから子どもたちを守ってください

・子どもたちの基本的なニーズ、特に、教育と心理社会面での必要に応え、現状の苦難を乗り越えて未来へ立ち向かえるよう支援してください

・最も弱い立場に置かれた子ども、家族、コミュニティが命をつなぐための支援を、人道支援関係者が届け続けられるように、シリア国内での人道主義に基づく活動を支援してください

恐怖を乗り越え、未来の夢に向かって ―子どもたちに教育を―

2019年1から2月にかけて、ワールド・ビジョンはヨルダンとレバノンに暮らすシリア難民の子どもたちとグループディスカッションを行いました。明らかになったのは、紛争と逃避行の恐怖で心に傷が残りストレスを抱えている子どもたちの心の状況と、同時に、将来は医者、ダンサー、エンジニア、デザイナーなどになりたいと願い、シリアが再び平和で豊かな国になることを待ち望む子どもたちの夢でした。

マフムード君 8歳
「宇宙飛行士になりたい」 マフムード君 8歳
ダリンちゃん 9歳
「"安全"とは、お父さんとお母さんのそばに居ること」 ダリンちゃん 9歳
ハウラちゃん 12歳
「お医者さんになって、自分のクリニックを開きたい。勉強を続けられれば叶えられるわ」 ハウラちゃん 12歳

ヨルダンに住むシリア難民の少年、アフマドくん(15歳)は、学校へ行かずに働き、家族の生計を支えています。彼のような子どもの状況を変えるために国際社会に何ができるかを尋ねられ、アフマドくんは、病院や学校などの社会で不可欠な基本サービスが機能するようにしてほしい、と答えました。

ワールド・ビジョンは、今、国際社会ができることとして、次のような具体策を会合に集う政策決定者に提言しました。

シリア危機下の子どもたちを守り、未来を拓くための提言

シリアに暮らす子どもたちと家族の保護

・非武装地帯設置に関する合意の延長を含む、紛争の即時、平和的解決を急ぎ進めてください

・紛争に関わるすべての当事者が国際人道法と国際人権法を尊重し、いかなる時も子どもを守るよう求めてください

・紛争に関わるすべての当事者に、子どもを含む市民にもたらされた被害をモニタリング・報告できる強い仕組みを作って用いるよう強く働きかけてください

強制帰還からの保護

560万人を超えるシリア難民がトルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプトに避難しており、その約半数は子どもです。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の調査によると、現状では、安全で自発的な尊厳が守られるシリアへの帰還の条件はまだ整っていません。シリア難民の大部分はこの1年以内に帰還するつもりはなく、帰還における安全確保が最大の懸念事項となっています。家や生活に不可欠なインフラ施設が紛争で破壊されていることも帰還を難しくしています。危機の影響を受けた人々の回復を支えるため、持続的な支援が必要ですが、2018年、シリアにおける早期復興と生計向上のために計画された予算の充足率は30%にも満たない状況でした。このため、

・難民ホスト国の政府と協働して、難民の権利を尊重し、安全へのリスクがある状態での強制的な帰還が行われないようにしてください。また、難民が帰還について判断するにあたって信頼できる情報にアクセスできるようにしてください。

・シリアへの帰還を望まず、第3国定住を希望する難民がいることを認識し、必要な支援が行われるようにしてください

・シリアで危機の影響下にある人々の回復を支え、早期復興を実現することは、安全、自発的で尊厳が守られた大規模な帰還を実現するための条件であることを認識してください

・早期復興のための資金はニーズに基づいて配分し、すべてのプログラムは国際人権法、国際人道法、そして、人道的な原則と一貫性のある内容としてください

資金拠出

紛争開始から8年が経ち、シリアの人口の半数以上が避難を余儀なくされ、国内避難者の多くは1度以上、避難しています。しかし、「シリア周辺地域・難民・回復計画(3RP)」に対する資金拠出は不十分で重要な人道的ニーズが満たされていません。このため、

・「外部リンクシリアの人道危機に対する対応計画(HRP)」および「外部リンクシリア周辺地域・難民・回復計画(3RP)」に実施に必要な資金拠出を行ってください。外部リンク2019年1月時点のHRPへの資金拠出状況は63.5%に留まっています

・シリアおよび、難民を受け入れているホスト国の教育支援のために、既に誓約している資金拠出を確実に履行してください。

・ホスト国に暮らす難民の子どもたちが通学を続けられるよう経済的支援を行ってください

・通学を中断しなければならなかった子どもたちの教育を受ける権利を守るため、非正規教育や補習授業(難民キャンプ内で行われる授業プログラムも含め)に必要な資金ニーズが満たされるよう、拠出してください

教育の質

シリア紛争の影響により、2010年には85%だったシリアの就学率は、2018年には61%まで低下しました。周辺ホスト国の難民の子どもたちの就学率はさらに低い状況で、また教育の質の低下も懸念されています。このため、

・シリア国内の現状において、すべての子どもたちが教育を受けるために、シリア政府と新たなアプローチで取り組む必要を認識してください

・シリアおよび周辺ホスト国の政府とともに、国家教育計画が強化されるよう協働してください

心理社会的サポート

危機がもたらした資金の不足によるサービス減少は、ホスト国の子どもたちに重大な影響をもたらしています。難民の子どもたちは、紛争と逃避行の記憶が心の傷となっています。ワールド・ビジョンがヨルダンのアズラック難民キャンプで実施した調査によると、半数を超える子どもたちが、感情、行動、仲間との関係において平時よりも高い問題傾向を示し、55%の保護者が、教育を促進する上で、心理社会的サポートを最も重要な要素と回答しました。このため、

・子どものための心の健康と心理社会的サポートプログラム(MHPSS)の重要性を確認し、学校、チャイルド・フレンドリー・スペース、保健サービスなどの活動と統合し、3RPやHRPの下で完全な資金拠出を実現してください

・最も弱い立場にある子どもたちのためのMHPSSを優先的に実施してください

幼児教育

幼少期の教育に対する投資には大きな成果が見込めることがわかっているにもかかわらず、3RPやHRPを通じた資金はほんのわずかです。このため、

・幼児教育のための資金拠出を優先的に行ってください

・ホスト国政府に対し、幼児教育を正式なものとし、難民の子どもたちも参加できるようにしてください

ドナーの関わり

・ドナーが求める要求事項に従うために必要なスタッフの研修等の資金を提供してください

・支援の停止は個別の事例ごとに決定してください

・どの紛争当事者がその地域を支配しているかということを理由に支援を停止するというやり方ではない方法で、人道支援団体の中立と独立を守ってください

・シリア国内の支援地の決定は支援対象の脆弱性とニーズに基づいて決定してください

人道支援者のアクセスと保護

・紛争の当事者に対し、人道支援団体がシリア全域にアクセスできるように求めてください

・紛争の当事者に対し、人道支援従事者の安全を確保し、報復行為が行われないよう求めてください

・すべての助成金がパートナー団体へのケアを義務とするよう明文化し、このための資金が確実に提供されるようにしてください

アドボカシーと支援活動を両輪で

シリア危機に対し、ワールド・ビジョンはレバノン、トルコ、ヨルダン、シリアで支援を展開し、2018年には約123万(うち70万人が子ども)に支援を届けました。これからも、政策決定者に対するアドボカシーと、現場での支援活動の両輪を走らせ、シリア難民とホストコミュニティの子どもたちへの支援を行っていきます。



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