ワールド・ビジョンの活動の核であるチャイルド・スポンサーシップは、すべての子どもたちの健やかな成長の実現を目指し、地域とともに歩む支援プログラムです。
当初は、一つの地域でいくつかの村落を対象とし、物資配布を主な内容とする、限定的な規模のコミュニティ支援を展開していましたが、1995年頃から、ワールド・ビジョンの世界的な方向性として、より広い地域で多くの子どもたちと人々を対象とし、水・衛生、保健・栄養、教育、生計向上など複数のセクター支援を、総合的に、長期間実施する地域開発プログラム (ADP:Area Development Programme)に移行し、現在に至っています。
これは、インパクトをもたらす支援と、成果の持続性を追求した結果の支援モデルで、子ども一人ひとりを対象にお金や物の提供をするのではなく、地域の人々とともに進める各セクター支援を通じて、子どもたちが健やかに成長できる環境を整えます。活動の成果が支援終了後も維持され、発展できるように、現地パートナーとの連携を大切にし、人材や住民組織の育成に力を入れ、成果をあげてきました。
水・衛生、保健、栄養など各セクターの活動を、地域住民の組織と進めることにより、スタッフだけではリーチできない、広い範囲に住む多くの子どもたちのニーズに応えることが可能となりました(①)。貯蓄グループ等を立ち上げ、地域住民が主体的に計画を立て、自らの経済状況を改善するための取組みを進めることも実現しました(②)。
一方、活動を支えてくださるチャイルド・スポンサーの皆さまには、支援地域に住む子ども「チャイルド」と心のつながりを持ちながら、支援の成果を実感していただけることを目指してきました(③)。海の向こうのチャイルド・スポンサーの存在に励ましを受けながら育ったチャイルドたちが未来に向かって前向きな姿勢で生きることにつながっているという報告も届いています。
設立当初、バングラデシュなど6カ国で、チャイルド数438人からスタートしたチャイルド・スポンサーシップは、これまでに、合計40カ国での支援事業を実施し、2017年度の支援実績は、30か国、チャイルド数56,812人へと成長しました。
この地域では、支援開始から終了まで20年間勤め上げた現地スタッフの存在も語り継がれています。
タンザニアの人にとっても厳しい農村の環境でのスタッフの献身的な働きは人々の心を動かし、対話と相互理解の文化を育むという、数字だけでは測りきれない成果を地域にもたらしました。
タイがアジア通貨危機に襲われた1997年に開始したスリンADP(1997~2007年)は、グローバル経済に翻弄されないため、住民組織の能力を高めることを目指しました。
支援終了から5年後に行った調査では、60.1%の地域住民が支援前と比べ生活状況が良くなっていると回答。理由として37.3%の人が挙げたのが「地域の強い互助システム(貯蓄グループ、農協など)」でした。ADP終了時に761人だった農協組合員は5年後に830人へと増加し、生計向上・貯蓄グループのほとんども存続して活動していることから、住民組織の強化という支援の成果が、その後も発展を遂げ、子どもたちが健やかな成長に不可欠な経済的安定に寄与していることが確認されています。
―海の向こうのチャイルドとの目に見えない絆―
チャイルド・スポンサーになると、支援地域のチャイルドとの手紙のやり取りを通じて、一対一の関係を築くことができます。30年を経た現在、グリーティングカード(年末年始のご挨拶)や成長報告のほか、年間約50,000通の手紙をチャイルド・スポンサーにお届けしています。
―チャイルドに会い、支援の成果を実感する―
チャイルド・スポンサーになると支援地域を訪問していただくことができます。2017年度はベトナム、ルワンダへのツアーを開催し、38人のチャイルド・スポンサーが参加しました。
(アンケートより)
【フィリピン】―J・ジャイレーII ADPでの支援を受けて―
ローレンスさんは7歳の時に父親を亡くし、家族は遺族年金が頼りの厳しい暮らしを強いられました。ローレンスさんが10歳の頃にWVによる支援が始まり、教育支援を受け、様々な活動に積極的に参加するようになりました(2008年に終了)。
「代表を務めたユースグループの活動を通じて、"分かち合うことの大切さ"を学びました。そして『日本のお父さん』、チャイルド・スポンサーの中澤さんの存在に励まされ続けました」とローレンスさん。
夢をかなえて教師となったローレンスさんは、「学問」だけでなく「人生」も教えることができる存在となることを目指し、現在公立高校で子どもたちを指導しています。
【タンザニア】―ンゲレンゲレADPでの支援を受けて―
6人兄弟の長女、ソフィアさんは、チャイルド・スポンサーシップの支援により7年間の初等教育を修了し、縫製の職業訓練を受けることができました。ミシン、ハサミ、アイロンや生地などを支給され、2010年に仕立屋の営業を始めました。
1番嬉しかった支援は?という問いに、「1年間の縫製の職業訓練に参加できたことです。『子どもの権利』を学んだことも強く印象に残っています。どちらも今の生活に大きく活かされています」と答えたソフィアさん。
支援事業部 プログラム・オフィサー 蘇畑光子
チャイルド・スポンサーシップによる地域開発プログラム(ADP)の支援地域を訪問していつも印象に残るのは、支援を通して様々な「気づき」や変化を得た人々の姿です。
自分には早婚に対して"ノー"と言う権利があると気づいた少女や、トレーニングを受けて自分も収入源を持てると気づいた女性、アルコール依存症から回復し、家族を養えるようになった父親など、多くの人々に出会ってきました。自分の経験を話してくれる彼らの表情は、自信に満ちていました。
こういった小さな気づきや変化が子どもたちや人々に生まれ、積み重なるからこそ、彼らが中心となって地域の課題にともに取り組む仕組みを作り、残していくことができるのだと思います。十数年という長期間にわたり、地域と人々に寄り添い続けるWVだからこそできる、未来につながる支援です。