南スーダン共和国(以下、南スーダン)は2011年に独立した「世界で一番新しい国」です。しかし1つの国家となるまでには長い内戦を経てきたため、その爪痕は独立から10年以上が経過した現在も色濃く残っています。
そこでこの記事では南スーダンの歴史や現状、課題などから、南スーダンが必要とする支援について詳しく紹介します。今私たちにできることは何か、考えてみましょう。
まずは、南スーダンの歴史や現状について把握しましょう。正しい知識を持つことや、情報を発信することも支援につながります。
南スーダンの概要は、以下のとおりです(注1)。
首都 | ジュバ |
面積 | 64万㎡(日本の約1.7倍) |
人口 | 1,106万人(2019年) |
言語 | 英語(公用語)・アラビア語・その他各民族の言葉など |
人種・民族 | ディンカ族・ヌエル族・シルク族・ムルレ族・バリ族など |
宗教 | キリスト教・イスラム教・伝統宗教 |
南スーダンは東アフリカの一国で、国名にあるとおりスーダンの南に位置しています。東にはエチオピア、南にはケニアやウガンダ、南スーダンに隣接しているのは、コンゴ民主共和国です。西には中央アフリカ共和国が隣接しています。
国土面積は64万㎢であり、日本のおよそ約1.7倍の広さです。国民のほとんどは伝統宗教の混ざったキリスト教を信仰しており、毎週日曜日には500万〜600万人もの国民が教会に通います(注2)。
現在の国旗は独立前、南部スーダンとしてスーダン共和国と内戦していた時代に「スーダン人民解放軍(SPLM)」として掲げていた旗のデザインをそのまま使用。国旗に使われている色には、以下の意味があります(注2)。
黒 | 南スーダンの国民 |
白 | 平和 |
赤 | 自由のために流された血 |
緑 | 国土 |
青 | ナイル川の水 |
黄色の星 | ベツレヘムの星(南スーダンの団結の象徴) |
南スーダンはこれまで、分離独立前も、分離独立後も、長い内戦を経てきました。第1次スーダン内戦は、1955年までさかのぼります。元々南スーダンとスーダン共和国は、イギリスとエジプトの共同統治下に置かれた植民地でした。
このとき現南スーダンと現スーダン共和国は、宗教や人種の違いから分断して統治されていたのです。しかし独立を機に、両地域が1つの国家「スーダン共和国」として成立したため、独立分離を求めて南部(現南スーダン)が武力蜂起しました。
これが1955年に勃発した第1次スーダン内戦です。結果的に1956年には現南スーダンと現スーダン共和国を含む「スーダン共和国」が成立し、1972年まで内戦は続きました。1972年、アディスアベバ和平成立により内戦は一時的に沈静化します。
しかし1983年、政府が南部へイスラーム法を適用すると宣言したことで再び内戦が活発化して、第2次スーダン内戦が勃発します。そこからおよそ19年もの間、内戦は続きました。
長い内戦ののち、国連や諸外国からの後押しもあり2002年からは和平交渉を開始。2005年に包括的和平合意が締結され、同時に南スーダンには自治権が付与され、2011年の住民投票では99%が独立に賛成する結果になりました(注3)。
そして2011年7月に、南スーダン共和国として独立することになりました(注4 p.46 p.47)。そして2011年には国連安全保障理事会により「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)」が設立されました。
UNMISSでは南スーダンの平和と安全の確保、効率的な政治体制の構築などを目的としています。日本からも、司令部要員や自衛隊が派遣されました(注5)。
独立してからも、南スーダンでは民族間の対立や石油利権を巡る武力紛争がたびたび起こります。2015年には政府間開発機構(IGAD)の仲介もあり、衝突解決合意が締結。翌年の2016年には国民統一暫定政府が設立されたものの、同年7月には大統領が全ての閣僚を解任し、クーデター未遂事件が発生したことから再び内戦が勃発。
IGADが仲介し和平協定を試みるも、内戦は国内の広い範囲へ波及しなかなか沈静化しませんでした。
そして長い内戦を経て、国連や諸外国からの後押しもあり2020年2月に国民統一暫定政府が設立(注4 p.46)。南スーダンはここから、平和への一歩を踏み出したのです。
南スーダンは現在、着実に平和な国づくりを進めています。しかし、内戦の爪痕は未だ色濃く残っているのが現状です。ここからは南スーダンが直面している課題を見ていきましょう。
2020年に暫定政府が発足してからも、南スーダン国内では内戦の余波が残っています。2013年の内戦以降、約40万人もの人々が命を落としました。2021年12月末時点で約240万人の人々が難民として国外に退避しているほか、約137万人の人々が 国内退避民としての移動を余儀なくされています(注6)(注7)。
2021年末時点での南スーダン難民の数は約240万人です。国民の約20%が、難民生活を余儀なくされています(注6)。240万人という数は、世界の難民全体の約8.85%にあたる非常に多い割合です。南スーダンはシリア、ベネズエラ、アフガニスタンに続き、世界で4番目に難民が多い国です(注6)。
2020年には約12万人の難民が南スーダンへと自主的に帰還したものの、未だに避難生活を余儀なくされている人々は少なくありません。2021年3月末の時点で、国連PKO部隊の文民保護区に避難している人の数は12万5,000人にものぼります。
難民としての避難生活は、決して安全なものではありません。特に南スーダン難民のうち、83%は女性か子どもです。特に子どものうち6万6,000人以上は両親など通常の保護者のいない状態で避難しています。
立場の弱い女性や子どもは、暴力やハラスメントなどさまざまな危険にさらされるリスクがあります。こうした人々にとって安全な環境を確保し、自国で平和に暮らせるような対応が課題です。
南スーダンの国土は、ほぼ全域が未開発の状態です。電気や道路、水道といった基本的なインフラも、整備されていません(注8)。
また南スーダンはサハラ以南アフリカのなかでも、ナイジェリアとアンゴラに次ぐ3番目の石油埋蔵量を誇る産油国です。財政における歳入の9割が石油による収入であり、食料品をはじめとする大半の生活必需品をウガンダなど隣国からの輸入に頼っています。
さらに財政は度重なる内戦の軍事出費により赤字が続き、中央銀行や民間の金融機関もほとんど機能していません(注4 p.48)。そのうえ、内戦の影響で南スーダン国内では飢饉が発生しています。国連児童基金(UNICEF)によれば、人口の約54%に該当する635万人もの人々が深刻な食料不足にあるとのことです。
特に重度の急性栄養不良に陥っている5歳未満児の割合は、2018年〜2019年の1年で約3%も増加しています(注9)。こうした背景があるため、飢饉に苦しむ人々に対して十分な水と食料を確保することが喫緊の課題です。長期的には農業や漁業といった石油以外の産業も構築し、輸入や食糧支援に頼らない産業スタイルを構築することも課題とされています。
南スーダンの国民は、医療や教育を受けることもままならない状況です。基本的なインフラが整っていない状況のため、こうした社会的サービスも整備されていません。
なお南スーダンでは、8年間の初等教育が暫定憲法第29条により保障されています。しかし、国内の未就学児童は紛争下にある22カ国中、世界最悪の72%です。特に親のいない孤児は、就学率が極めて低い傾向にあります(注10 p.116)。
南スーダンの北東部にあるアッパーナイル州では、特に内戦の被害が甚大でした。約30%の学校が一回以上の武力攻撃を受けており、約20%の学校が機能していません。教室そのものが破壊され、子どもたちが勉強をする環境も整っていない現状です。
教員の人手不足も深刻で、教員の資格を持たない大人が授業をしているケースもあります。さらに2019年頃からは新型コロナウイルスの影響で、小学校7年生、中学校4年生以外は休校を余儀なくされました。今まで学校へ通えていた子どもたちも教育を受けられなくなってしまったのです。
約240万とされていた学校へ行けない子どもたちの数は、約440万人まで新型コロナウイルスの影響で増加したという報告もあります。このように、南スーダンの将来を担う子どもたちの教育と環境整備も、大きな課題です。
南スーダンの人々はどのような支援を必要としているのでしょうか。ここからは南スーダンで必要とされている支援や、ワールド・ビジョンが行っている支援活動について具体的に紹介します。
南スーダンでは、未だに多くの難民や国内避難民が苦しい生活を余儀なくされています。避難している人以外も含め、特に食糧難は深刻です。そのためこうした人々へ充分な食料と、安全な生活拠点を提供することが第一に必要な支援として挙げられます。
次に挙げられるのは、医療や教育といった社会的なサービスの整備です。社会的に弱い立場の人々もこうしたサービスに等しくアクセスできる体制を整える必要があります。これには内戦で破壊された学校を修復するだけでなく教育が必要だという意識を広めたり、教員を育成することも必要です。
もちろん、こうしたサービスの拡充と同時に道路や電気といったインフラも整備していかなければなりません。ほかにも経済を回復させるために人々が農業や漁業といった新たな産業に従事できるよう体制を整えるといったことも大切です。
このように、南スーダンが必要とする支援は数多くあります。現在はさまざまな課題を乗り越え、豊かな国を作っていく途中です。
ワールド・ビジョンでは、南スーダンが独立する前の2002年から支援活動を続けています。2006年からはジャパン・プラットフォーム(JPF)からの助成を受け、「JPFプログラム事業」として南スーダンとアッパーナイル州で帰還民支援を行いました。
例えば、2013年からは、以下の支援活動を行っています。
また2020年からは、特に内戦の被害が甚大だったアッパーナイル州の小学校2校で、緊急の教育支援事業を実施しました。具体的な取り組みは、以下のとおりです。
教員の基礎研修では、内戦や難民生活で心に傷を追った子どもへの心理的サポートや、新型コロナウイルスの影響で学校へ行けない子どもたちに家庭訪問を実施する方法についてもトレーニングを行いました。
このようにワールド・ビジョンでは、皆さまからの募金やJPFからの助成金で南スーダンにさまざまな支援を実施しています。
ワールド・ビジョンのさまざまな支援活動は、皆さまからのご寄付に支えられています。ご協力をお願いしている募金の中で、難民支援募金は、長引く紛争や難民生活に苦しむ子どもたちを支援するための募金です。
例えば3,000円募金いただいた場合、南スーダンの保健施設に、感染症予防の備品(マスク3箱、液体石けん60ℓ)を提供可能です。
また、ワールド・ビジョンでは継続的な支援ができる「プロジェクト・サポーター」も募っています。
プロジェクト・サポーターは、月々1,000円、1日あたり33円から始めることのできる継続支援プログラムです。皆さまのご寄付は、紛争や自然災害など恐怖の中にいる子どもたちの命を守り、回復を支え、未来を築くための活動として支援地に届けます。食糧や水、緊急支援キットの提供をはじめ、子どもたちの心のケアや教育体制の整備などを行います。
募金、プロジェクト・サポーターへのご寄付による活動と成果は、年次報告書でご確認いただけます。
このようにワールド・ビジョンではさまざまな形で、皆さまとともに世界中の子どもたちを支援しております。もし私たちの考えにご賛同いただけるようでしたら、ぜひ支援にご協力ください。ワールド・ビジョン・ジャパンの活動にご関心を持っていただけた方は、メールマガジンに登録いただくと、月に1回最新の情報をお届けします。
注1 外務省:南スーダン共和国(The Republic of South Sudan)基礎データ
注2 外務省:南スーダン
注3 AFPB News:スーダン南部住民投票、99%近くが独立賛成
注4 財務省:「世界で一番新しい国」の国づくりに携わる
注5 外務省:国連南スーダン共和国ミッション
注6 UNHCR:Regugee Data Finder
注7 UNHCR:Regugee Data Finder(Internally displaced persons)
注8 JICA:南スーダン
注9 ユニセフ:南スーダン 人口の半数以上が深刻な食料不足
注10 澤村信英,山本香,内海成治:南スーダンにおける紛争後の初等教育と学校運営の実態