「支援」という言葉は、どのような時に使われるのでしょうか。国際協力をはじめ、福祉や教育などの分野でもよく聞く言葉のひとつです。「支援」の意味や「援助」との違いを知り、開発途上国の子ども支援について考えてみましょう。
支援とはどういう意味があるのでしょうか。また、支援と援助にはどういった違いがあるのでしょうか。まずは支援という言葉の意味と、国際協力の分野などでどのように使われているのかを見てみましょう。
支援という言葉を辞書で調べると「支え助けること」「他人を支え助けること」「力を貸して助けること」などと書いてあります。支援には一般的に、人を支え、力を貸して助けるという意味があることが分かります。
国際協力の分野でも、支援という言葉はよく使われています。「人道支援」「復興支援」「難民支援」「教育支援」「人材育成支援」等々、開発途上国の人々に寄り添い、支えて助けるプログラムに「支援」が用いられているようです。
日本政府は「自助努力支援」の考え方を軸に、開発途上国への国際協力を実施しています。
自助努力支援とは、一言でいうと「途上国の人びと自らの手による努力を支援する」ことです。これは、途上国自身の努力があって初めて持続的な経済成長が実現するという考えに立ち、さまざまなプロジェクトを実施するときには、支援が終わっても途上国の人びとが自らの手で事業を持続・発展的に行えるような協力をしていこうというものです。
つまり、途上国の人びとの努力を"応援"するのが日本型の協力なのです。
JICA:世界の援助潮流と日本の取り組みについて/日本の取り組みの特徴は?(注1)
ここでは最後に「支援」が「応援」に言い換えられています。応援とは、辞書によると「助け救う事」「他人を手助けすること」という意味です。日本型の協力として、開発の主体は途上国の人々であること、日本国政府はそれを支援し応援する立場であるという態度を表しています。
支援という言葉は当然のことながら、国際協力分野だけでなく、さまざま分野で広く使われています。
たとえば福祉の分野では、支えが必要な人たちに向けて「自立支援」「障がい者支援」「就労支援」「相談支援」「児童発達支援」など、支援を用いた用語は数え切れません。厚生労働省が実施している生活困窮者自立支援制度の自立相談支援事業では、「生活に困りごとや不安を抱えている人」を対象に「寄り添いながら自立に向けた支援」を実施しています(注2)。
教育の分野でも支援という言葉が数多く使われています。2006年には学校教育法が改正され、障がいのある子どもを対象にしていた「特殊教育」が「特別支援教育」へと呼び名を変更しました(注3)。これは、一人ひとりの特別なニーズに応じ、障がいのある者と障がいの無い者がともに学ぶインクルーシブ教育システムを実現し、共生社会を形成するという意図が込められています(注4)。
このように支援という言葉は、寄り添って助けること、応援すること、きめ細やかなニーズに対応することなどの意味で用いられていることが分かります。
支援によく似た言葉に「援助」があります。援助を辞書で調べると「助けること」「困っている人に力を貸すこと」などと書いてあります。支援も援助も人を助けることのようですが、違いはあるのでしょうか。
国際協力分野で見てみると、支援と援助を明確に分けて論じているケースは少なく、多くの場合は両方とも同じように「助ける」「力を貸す」などの意味で使用されているようです。
一方で、寄り添ってサポートするという意味合いから、「支援」をボトムアップのアプローチ、代わりに助けるといった意味合いから、「援助」をトップダウンのアプローチと捉えることもあるようです。
たとえば国際連合食糧計画(WFP)では、2000年代後半以降は支援のあり方を戦略的に見直し、「食料援助」から「食料支援」に移行しました。その際に次のように「支援」と「援助」を明確に分けています。(注5)。
食料援助は国連WFPの創成期からの支援のあり方で、食料が余っている国から食料難の国へ、余剰分を提供するというものでした。「飢えている人たちがいるから、食べ物を与えよう」という、一方向のトップダウン的なものの見方から生まれたと言えます。食料支援は対照的に、人々が長期的に必要としている栄養の内容を複合的に理解し、彼らのニーズに応えるため、最も有効な支援方法を決めていくものです。
WFP:「援助」から「支援」へ~進化する国連WFP
つまりWFPでは、「飢えている人がいるから食糧を与えよう」という従来の食糧援助から、「飢餓には何らかの原因がある」と考え、受け手主体の食糧支援へと移行したというわけです。
このように「援助」という言葉には、トップダウンの響きがあるのかもしれませんが、それが悪いということではありません。JICAでは「4つの実践方式と4つの重要なアプローチ(注6)」の中で、「人々をさまざまな脅威から守るためには、(中略)マルチセクトラルなアプローチやトップダウンとボトムアップを組み合わせるアプローチなど、よりきめ細やかかつ総合的な取り組みが必要です」と述べています。
複雑な要素の絡み合う国際協力の現場には、トップダウンが必要なケースとボトムアップが必要なケースが混在しているので、場面に応じて使い分けたり組み合わせる必要があると言えるでしょう。
「支援」という言葉を見てきましたが、ここで開発途上国で暮らしている子どもたちへの支援に注目してみましょう。子どもたちがどのような問題に直面しているのか、それを解決するためにはどのような支援が必要なのかを考えていきます。
世界104カ国で、6億6,200万人の子どもが多次元の貧困に陥っている。そんなショッキングなデータを、国連開発計画(UNDP)とオックスフォード貧困・人間開発イニシアティブ(OPHI)が発表しました(注7)。多次元の貧困とは、健康、教育、生活水準に関する加重指標のうち、少なくとも3分の1で貧困状態にあるということです。
国際NGOワールド・ビジョンは、世界の子どもたちが直面している問題を8つ挙げています。貧困、教育、水衛生、保健・栄養、紛争・難民、災害、人身取引(人身売買)、児童労働です。これらの問題は複雑に絡み合っており、子どもたちの健やかな成長を妨げているのです。それでは、開発途上国の子どもたちが直面している問題を、ひとつひとつ解説しましょう。
貧困の定義にはいくつかあります。経済的な指標は、世界銀行による「国際貧困ライン」で1日1.9ドル未満で暮らす人々のことを示します。先ほど述べた多次元貧困指数は、経済的な指標では測れない貧困をあらわしています。必要最低限の生活水準が満たされない「絶対的貧困」、ある集団の中の標準に比べて貧しい「相対的貧困」などもあります。
いずれの指標で測っても、貧困とされる集団には、かなりの数の子どもたちが含まれています。立場の弱い子どもは、貧困の一番の犠牲者となってしまうのです。
貧困の状態に陥れば、教育や就業の機会を得られず、安全な水や食料が限られ、医療や福祉へのアクセスが閉ざされます。安全で健康的な暮らしもできなくなり、子どもの権利も保障されません。そして、将来への希望すらも持てなくなってしまうのです。
教育は、子どもたちに生きる力と希望を与えます。子どもには教育を受ける権利があるのですが、2018年のユニセフの発表によると、世界の5歳から17歳の子どものうち5人に1人にあたる3億300万人が、学校に通っていないことが明らかになりました。そのうち1億400万人は、紛争や自然災害の影響を受けている国に暮らしている子どもたちでした(注8)。
教育は貧困の連鎖を断ち切る鍵となります。教育を受ける機会を無くした子どもは安定した職業に就くことができなくなり、現金収入が極端に少ない状態になります。教育の重要性がわからないことと学費のねん出が難しいことで、自分の子どもを学校に通わせないケースが多くなります。こうして貧困の世代間連鎖が生じるのです。
学校へ通っている子どもたちも、質の良い教育が受けられているとは限りません。学校へのアクセスが悪く通学が危険だったり、教員の質が低かったり、女の子だからという理由で初等教育だけしか受けられない、などの問題にも直面しているのです。
蛇口をひねると清潔な飲み水が出てくる日本からは想像もつきませんが、ユニセフと世界保健機構(WHO)のデータによれば、世界の約22億人が安全な飲料水を得ることができない状態であることが明らかとなりました。また、42億人が衛生で安全なトイレを使えず、30億人が基本的な手洗い施設の無い環境で暮らしています(注9)。
毎年、29万7,000人の5歳未満児が不適切な水と衛生に関連する下痢症で命を落としています。不適切な衛生状況と汚染された水は、コレラ、赤痢、A型肝炎、腸チフスなどの病気の感染と関連しています。
ユニセフ:水と衛生 進歩と格差
数多くの子どもが保健や栄養に関する問題に直面しています。ユニセフによると、5歳未満で亡くなる子どもは、2019年に発表されたデータでは530万人にものぼることが分かりました。減少傾向にあるとはいえ、地域格差が大きいのも問題です。例えば、ヨーロッパでは5歳字未満死亡が2018年には196人に1人だったのに対し、サハラ以南アフリカでは13人に1人という結果でした(注10)。保健や栄養が改善されれば救うことができた命が沢山あるのです。
「世界子供白書2019」では、世界の5歳児未満の3人に1人が栄養不足や過体重の状態に陥っていると報告されています。栄養に乏しく質の悪い、偏った食生活が原因です。栄養不足によるリスクについて、ユニセフは次のように述べています(注11)。
生後6カ月から2歳までの子どものおよそ3人に2人が、この時期の子どもの身体や脳の急速な成長に必要な食べ物を得ることができていません。このため、子どもは、脳の発達の遅れ、学習の遅れ、免疫力の低下、感染症の増加、そして多くの場合、死に至るリスクに晒されています。
ユニセフ:ユニセフ「世界子供白書2019」
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2018年の難民情勢で「難民のうち18歳未満の子どもの割合は5割」と発表しました(注12)。その約半数以上である370万人が学校に通っていません(注13)。子どもは紛争や迫害の影響を最も多く受けているのです。トラウマをかかえながら1人で逃げる子どもは2018年だけで11万1000人(注12)とも言われています。大人の保護が得られない子どもは、少年兵として徴兵されたり、人身売買の被害者になるなど、命の危険に直面しているのです
紛争下で暮らしていたり難民キャンプに住んでいる子どもは、勉強する権利を奪われているだけではなく、暴力の危険にさらされていたり、不衛生な環境に置かれて健康を害したり、子どもらしく遊ぶこともできないという問題に直面しています。
自然災害は世界各地で起こっています。WFPは、自然災害によって子どもの飢餓や栄養不良が2050年までに20%増加すると予想しています。それから「フィリピンでは過去20年間に、台風の襲来時に亡くなった子どもの数よりも、台風発生後24カ月以内に亡くなった子どもの数の方が15倍多くなっています。また、そのほとんどが女児でした(注14)」という事実も明らかにしました。
自然災害の被害が最も大きいのはセーフティーネットの無い貧しい地域です。その中でも子どもは最も弱い存在で、支援の手が届きにくいという問題を抱えています。
人身取引や人身売買の犠牲になっている子どもの問題は、実態が見えにくく、とても深刻です。2016年の国際労働機関(ILO)による調査では、世界で約4030万人が人身取引の犠牲となっており、その半数がアジアに集中していることが分かりました。犠牲者の25%は子どもである、という説もあります。水面下ではそれよりも多くの子どもが犠牲になっていると考えられています。
人身取引や人身売買は深刻な人権侵害であり非人道的行為です。犠牲になっている子どもたちは、自由を奪われ肉体的にも精神的にも危機的な状況にあるのです。
児童労働の数は年々減少しているものの、2016年のデータでは、世界で1億5200万人の子どもが何らかの形で労働を強いられていることが明らかとなりました。児童労働者の約半数は5~11歳の小さな子どもであるという驚くべきデータもあります。とても危険で有害な労働を強いられている子どもは7300万人にものぼります(注15)。
ユニセフは児童労働について次のように述べています(注16)。
児童労働は、子どもたちの権利と健全な発達を侵害するだけでなく、貧困の連鎖を生み、その国の経済発展や社会の安定に悪影響を及ぼします。また、子どもたちから教育の機会を奪う大きな要因の一つでもあります。
ユニセフ:児童労働
開発途上国の子どもたちが直面している問題は、多岐にわたり複雑に絡み合っていることが分かりました。困難な状態に陥っている子どもを支えて助けるために、どの様な方法が適しているのでしょうか。
ワールド・ビジョンは、困難な状況にある世界の子どもたちのために活動しています。先ほど触れた、子どもが直面している8つの問題(貧困、教育、水衛生、保健・栄養、紛争・難民、災害、人身取引・人身売買、児童労働)を解決するために、活動の柱を「開発援助(チャイルド・スポンサーシップなど)」「緊急人道支援」「アドボカシー」の3本とし、多角的なアプローチを実施しています。
開発途上国の子どもを支援する具体的な方法として、チャイルド・スポンサーシップについてご紹介します。
ワールド・ビジョンが実施しているチャイルド・スポンサーシップは、困難に直面している子どもと地域を継続して支援する事業です。そこには、開発途上国の子どもをとりまく問題を解決し、「生きる力」をつけることができる仕組みがあります。
チャイルド・スポンサーシップとは、子どもたちに直接物資や学費を送る方法ではなく、長期的に子どもたちの住む地域をサポートし、地域全体で問題を解決していくように働きかけていくものです。
1日150円、1月4500円のご支援を継続する「チャイルド・スポンサー」になると、支援地域に住む子ども「チャイルド」と出会います。 詳しくはこちら
毎年届くチャイルドの成長報告では、子どもが健やかに育っている様子を確かめることができるでしょう。また、チャイルドと文通したり、会いに行って交流することもできます。日本から遠く離れた国に住むチャイルドと心のつながりを持つことは、大変貴重な体験になることでしょう。
イベントや非公開Facbeookグループ等、チャイルド・スポンサー同士の交流の機会もあるので、同じ志の仲間を得ることも可能です。 チャイルド・スポンサーの声(全国30人のチャイルド・スポンサーに聞きました!)
チャイルド・スポンサーになることで、チャイルドが住んでいる地域全体の教育、保健衛生、水資源開発、経済開発、農業などの状況を改善する事業をサポートすることができます。地域に住む大人たちの意識も変わり、チャイルドの生活環境が向上します。
地域の実情に沿った開発をするチャイルド・スポンサーシップの取り組みこそが、開発途上国の子どもを支援し、直面している8つの問題(貧困、教育、水衛生、保健・栄養、紛争・難民、災害、人身取引・人身売買、児童労働)を解決する仕組みなのです。
チャイルド・スポンサーの支援を受けたチャイルドは、確実に生き方が変わります。たとえば経済的な理由で学校に行けなかった子どもが、教育を受けることができるようになり、将来への選択肢を増やすことができます。衛生的な環境ができ、必要な栄養がとれるようになることで、健康状態が改善した子どもたちもいます。チャイルド・スポンサーシップによって夢をかなえたチャイルドも大勢います。その一例をご紹介しましょう。
ケニアのスティーブンさんは、母と兄弟6人でスラムで貧しく暮らしていました。チャイルド・スポンサーシップにより学校に行けるようになり、京都大学の大学院で農業エンジニアリングを学ぶ機会も得ました。
インドのアマンディ―プさんは「女の子には教育は必要ない」という価値観が残る地域で貧しい暮らしをしていました。チャイルド・スポンサーシップにより学校に通えるようになり、看護師になる夢を叶えました。学校に通うことで「自分にも可能性がある」ことに気づいたのだそうです。
タンザニアのエリエットさんは、1日9時間かけて水くみをする生活で、学校へ通うことができませんでした。ワールド・ビジョンの支援で村に井戸ができたことと、チャイルド・スポンサーシップによって学校へ通えるようになりました。学校の先生になるという夢をかなえ、子どもたちに「あなたにも人生を変える力がある」と教えています。
エルサルバドルのデルビンさんは、12年間支援してくれたチャイルド・スポンサーに実際に会うことができました。チャイルド・スポンサーに励まされ、現在ではプロの陸上選手として活躍しています。
2019年度、ワールド・ビジョンは世界32カ国で159事業を実施しました。チャイルド・スポンサーの数は48,426人、チャイルドは57,575人です。世界にはまだまだ、支援を待っている子どもが大勢います。
チャイルド・スポンサーシップに参加して、困難に直面している子どもたちを救ってくださいませんか。あなたの存在が、開発途上国に住む子どもの希望なのです。
世界的に感染が拡大しているCOVID-19新型コロナウィルスへの緊急支援も実施しています。開発途上国の殆どは衛生環境が悪く、手を洗う清潔な水やマスクが手に入りません。病院が無い地域や難民キャンプに暮らす最もぜい弱な立場にいる子どもを守るため、ご協力をお願いいたします。
注1 JICA:日本の取り組みの特徴は?
注2 厚生労働省:制度の紹介
注3 文部科学省:特別支援教育について
注4 文部科学省:文部科学省:共生社会の形成に向けて
注5 WFP:「援助」から「支援」へ~進化する国連WFP
注6 JICA:4つの実践方針と4つの重要なアプローチ
注7 UNDP:世界の貧困層の半数は子ども
注8 ユニセフ:世界の就学状況報告書発表
注9 ユニセフ:ユニセフ:水と衛生 進歩と格差
注10 ユニセフ:世界の5歳未満児死亡数、年間530万人に減少
注11 ユニセフ:ユニセフ「世界子供白書2019」
注12 国連UNHCR協会:数字で見る難民情勢(2018年)
注13 国連UNHCR協会:難民の子どもの半数以上、370万人が学校に通っていません。
注14 WFP:自然災害、飢餓、そして栄養に関する8つの事実
注15 ILO:国連が2021年を児童労働撤廃国際年と宣言
注16 ユニセフ:児童労働
※このコンテンツは、2020年6月の情報をもとに作成しています。