読み書きができない生活を、あなたは想像することができますか?
本が読めない、注意書きがあっても意味が分からない、病気になっても薬の飲み方がわからない、モノを買うときにだまされてしまうかもしれない。自分の名前を書くことができないので、選挙に投票することもできなければ、社会サービスを受けるための書類も書けず、どんどん社会から、世界から取り残されていってしまう...。
でも、途上国に住む若者の5人に1人が文字を読むこと、書くことができません。
今回は、世界の識字率に注目して、読み書きができないことで起こる問題、原因を解説していきます。
識字という言葉の意味をご存知しょうか。
識字とは、読み書きができる能力のことです。ユネスコでは「日常生活で用いられる簡単で短い文章を理解して読み書きできる」ことを、基準としています。(注1)
識字率とは、「読み書きができる人の割合」で、その国の教育水準を表す指標として用いられています。
識字率自体は、世界レベルで年々向上しています。
成人(15歳以上)の識字率は、1990年では76%であったのに対し、2016年には86%にまで伸びています。(注2)ミレニアム開発目標など、世界各国で「初等教育の完全普及の達成」に向けて活動したことが実を結んでいると言えるでしょう。
しかし、それでもなお、学校に通えない子どもが約5800万人、読み書きができない大人が約7億8100万人いるのが現状です。(注3)
ユニセフの調査によれば、2011年〜2016年における成人の識字率は、世界平均で78%ですが、後発開発途上国だけで見ると63%にまで低下します。
後発開発途上国とは、開発途上国の中でも特に開発が遅れているとされる47カ国を指します。うち33カ国は、南スーダンやルワンダなどアフリカの国々です。(注4)
特に識字率が低い国々としては以下になります。(注5)
国名 |
成人の識字率(%) |
ニジェール | 15% |
チャド | 22% |
南スーダン | 27% |
マリ | 33% |
中央アフリカ共和国 | 37% |
また、国全体としては識字率が高くても、地域によって識字率が大きく異なる例もあります。
以下の図は、ベトナムのディエン・ビエン州と全国平均を比較したデータです。ディエン・ビエン州は、ベトナムで最も貧しい州のひとつです。
引用:(注6)
2010年時点のベトナムにおいて、15歳以上の識字率は、全国平均で男女ともに90%以上あるのに対して、ディエン・ビエン州では男性は約76%、女性は約51%しかありません。
冒頭で、識字率が世界平均で90%近くまで向上していると述べましたが、国別・地域別で見れば、まだまだ改善の余地があることがわかります。
識字率が低い国は、「5歳未満児の死亡率」が高いという特徴があります。
以下の表は、前述した低識字率国の、識字率と「5歳未満児の死亡率」を並べたデータです。
(※「5歳未満児の死亡率」:出生時から満5歳に達する日までに死亡する確率。出生 1,000人あたりの死亡数で表す)
国名 |
成人の識字率(%) |
5歳未満児 |
5歳未満児 |
ニジェール | 15% | 11 | 91 |
チャド | 22% | 2 | 127 |
南スーダン | 27% | 11 | 91 |
マリ | 33% | 5 | 111 |
中央アフリカ共和国 | 37% | 3 | 127 |
後発開発途上国 平均 | 78% | - | 68 |
世界 平均 | 63% | - | 41 |
引用:注5
(※死亡率の順位は上位ほど死亡率が高くなる。最低順位は192位)
このデータを見る限り、識字率が低い国は、5歳未満児の死亡率が高い傾向があることがわかります。成人の識字率が15%しかないニジェールでは、出生 1,000人あたり5歳の誕生日を迎えられずに命を落とす子どもが91人もいます。世界平均での41人、日本での3人と比べ、非常に多くの子どもが命を落としているのです。
日本における初等教育の純就学率は100%(注1)であり、身体的・精神的ダイバーシティを持つ人を除けば、ほとんどの人が読み書きをすることができます。そのような社会では気づきにくいかもしれませんが、読み書きができないことは、日常生活に大きな支障をもたらします。
読み書きができなければ、安定した仕事に就くことは難しくなります。
現代社会において、読み書きを全くしなくても済む仕事が、いったいどれだけあるでしょうか? あなたの身の回りの仕事でも、業務中にマニュアルや資料を読んだり、報告書をやりとりしたりすることは、いたって普通のことでしょう。
もちろん職業に貴賤はありませんが、どんな仕事でも、少しでも改善しようとすれば、必ず読み書きをする場面は求められます。読み書きが必要ない仕事となると、どうしても単調な仕事、危険な仕事に限られてしまいます。
読み書きができる人が少ない社会では、企業が育ちづらく、国の経済も発展が難しくなります。結果、雇用機会も生まれづらく、貧困も解消されない、という負の連鎖に陥ります。
読み書きができないと、公共サービスを受けるために必要な情報を得て理解すること、手続きをすることができない、といった問題が起こります。
正しい情報を得ることができないことによって、意図しないトラブルを招いたり、悪意のある人に騙されてしまう危険もあります。
字が読めないと、薬を正しく服用することができません。病気になって、医者から薬を処方されても、飲み方がわからない、ということが起こってしまうのです。
また、危険なエリアに注意書きがされていても、それに気づかず命の危険にさらされることも起こりえます。
ここまで、世界の識字率の現状と、読み書きができないことで起こりうる問題についてご説明してきました。
ここからは、子どもたちが読み書きができないまま、大人になってしまう原因をご説明していきます。 原因は、大きく3つあります。
学校が近くにないために教育を受けることができない子どもたちがいます。地域によっては、学校まで何時間も歩いて通わなければなりません。また、学校に行っても先生が来ていないことが日常的に起こるような国もあります。そうした環境では、継続的に学校に通うことが難しくなります。
また、 少数民族の子どもたちが、正しく適切に教育を受けられないケースもあります。例えば、ベトナムの山岳地帯に暮らす少数民族の子どもたちはベトナム語の授業についていけず、学校を中退してしまうことが少なくありません。
女性には教育が必要ないという慣習が根強く残る地域もまだまだ存在します。女性は早く結婚して家事をするものだから、学校の勉強は役に立たないという考え方です。
また、学校に女性用のトイレがない、通学路で襲われてしまう危険があるといった理由で、女子生徒が学校に通うことができない地域も存在します。
2018年1月、ユニセフによると「世界の紛争や災害の影響を受ける国々に暮らす若者15歳~24歳のうち、読み書きができない人の数はおよそ10人に3人の5,900万人で、その割合は世界の非識字率の3倍にのぼる」と発表しています。(注7)
例えば、ヨルダンに住むシリア難民の子どもたちは、紛争で学校に行けない期間が長かったために授業で落ちこぼれたり、いじめや差別を受けて学校に通えなくなってしまうことがあります。
ワールド・ビジョンは、識字率向上のために、チャイルド・スポンサーシップを中心とする支援プログラムを通じて、どのような状況においても、子どもたちが教育を受けることができる環境づくりを行っています。
具体的には、以下のような例があります。
支援地域の人々が子どもの健やかな成長のために必要な環境を整えていけるよう、長期的な支援プログラムに力を入れています。
※1 識字とは? | 万人のための教育(EFA) | 教育協力事業 | 活動のご案内 | ACCU | 公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター
※3 2015_gemr_summary_japanese.pdf
※4 後発開発途上国(LDC:Least Developed Country) | 外務省
※6 ユニセフ子ども物語
※7 2015_gemr_summary_japanese.pdf
※このコンテンツは、2019年9月の情報をもとに作成しています。