ベネズエラの教育をわかりやすく解説【現状と問題、背景まで】

ベネズエラの正式名称は、ベネズエラ・ボリバル共和国と言います。世界でも有数の石油産出国であり、かつてはコーヒーやカカオの生産も盛んでした。

しかし今、ベネズエラは政治、経済、難民など、様々な危機に直面しています。それによって子どもの教育にも大きな影響を及ぼしているのです。

この記事では、ベネズエラの教育制度や現状、問題点について、分かりやすく解説します。

ベネズエラの教育の現状と問題

ベネズエラの田舎町で暮らす少女

はじめに、ベネズエラの教育の現状を、教育制度やデータをもとに解説します。また、そうした現状から見えてくる問題についてもあわせて解説します。

ベネズエラの教育制度

ベネズエラの教育制度は、初等教育が6年間、中等教育が5年間、大学などの高等教育が5年間の、6-5-5制を敷いています。

初等教育には、6歳になる年に入学し、1年生から6年生まで6年間学習します。その後の中等教育は、前期の3年間と後期の2年間に分かれています。

初等教育の6年間と前期中等教育の3年間の計9年間が義務教育として定められており、基礎教育学校と呼ばれる1つの学校で一貫教育を受けます。この義務教育期間の9年間を終えた者には、基礎教育修了証が与えられます。

また、後期中等教育は、主に大学進学を目指す生徒が進む大学教育準備課程(2年)と、職業教育課程(3年)があり、学生はそれぞれ自分の希望にあわせて進路を決定します。修了後には、それぞれ、バチジェラート、中等技術バチジェラートという学位が与えられ、この学位を有することが高等教育に進学するための条件となります。

高等教育には、大学のほかに、ユニバーシティ・カレッジと呼ばれる日本の短大のような学校もあります。大学は日本と異なり、学位をとるために最低でも5年間学ぶ必要があることも、ベネズエラの高等教育の特徴と言えるでしょう。

ちなみに、ベネズエラの学校年度は、初等・中等教育では通常9月に始まり、7月で終わります。高等教育では、1月から12月としている学校が多いようです(注1)。



データから見る教育の現状

次にデータからベネズエラの教育の現状を、世界銀行が公表しているデータをもとに見ていきましょう(注2)。

初等教育の純就学率(2017年) 87.4%
初等教育の第1学年の純入学率(2017年) 70.5%
初等教育の最終学年までの継続率(2016年) 83.0%
小学校の未就学児童の割合(2017年) 9.6%
中等教育の純就学率(2017年) 73.2%
前期中等教育の修了率(2017年) 75.2%
  • 初等教育の純就学率は、初等教育で学習すべき6~11歳の児童の全人口に対し、実際に学校に在籍している児童数の割合を表したものです。
  • 初等教育の第1学年への純入学率は、学校に入学するべき年齢である6歳児の全人口に対して、実際に新規で入学した児童数の割合を表したものです。
  • 初等教育の最終学年までの継続率は、第1学年に入学した児童のうち、最終的に初等教育の最終学年に到達した児童の割合を表したものです。
  • 初等教育の未就学児童の割合は、本来初等教育の学校に通うべき年齢の児童のうち、就学していない児童の割合を表したものです。
  • 中等教育の純就学率は、中等教育で学習すべき年齢の児童の全人口に対し、実際に学校に在籍している児童数の割合を表したものです。
  • 前期中等教育の修了率は、年齢に関係なく、中等教育の最終学年への新規入学者数を、中等教育の最終学年への入学年齢の人口で割ったものです。


ベネズエラの教育の問題点

以上のデータから、ベネズエラの教育の問題点は、就学率にあると言えるでしょう。

初等教育の純就学率は87.4%と十分ではなく、未就学児の割合は9.6%、つまり約10人に1人は学校に通って教育を受けていません。

とくに、6歳になる年に1年生として入学する児童の割合は、その年齢の児童人口の約7割にとどまっています。多くの児童が、本来教育を受け始めるべき年齢で入学できていないというのが現状です。

したがって、多くの児童が何らかの理由で入学できない、または入学しても途中で留年や退学をしてしまっていることが考えられます。

中等教育はさらに低い数値で、前期中等教育までを義務教育と定めているにもかかわらず、修了率が75.2%と低迷しています。就学率自体も低いことを考えると、実際に義務教育を修了できる児童はかなり少ないことが推察されます。



ベネズエラの教育問題の背景

深刻な難民問題はベネズエラの教育問題に重くのしかかる

このようなベネズエラの教育問題の背景には、不安定な政治情勢が大きく影響しています。以下では、ベネズエラの政治情勢について説明します。


経済破綻による問題

ベネズエラでは、1998年から2013年まで続いたチャベス政権の時代から、長らく経済政策の失敗が続いています。2014年以降GDPはマイナス成長となり、マドゥロ政権発足後、GDPは約80%減少しました。

このような状況が影響してか、2015年の選挙では反政府派の候補者が次々に当選し、国会で反政府派の議員が過半数の議席を獲得することになりました。2018年の大統領選挙でマドゥロ政権が再選を果たしたものの、その結果に不正があったことを理由に選挙の正当性を国会で主張した反政府派のグアイド国会議長が暫定大統領に就任することを宣言しました。

これによってベネズエラ国内に2つの政府が誕生し、現在に至るまで混乱が続いているのです。ベネズエラの経済は破綻状態が続いており、貧困層に生存に関わるような大きな打撃を与え続けています。

この影響が、ベネズエラの教育にも大きな打撃を与えることは容易に想像できるでしょう。

例えば、経済が破綻しているため、政府は学校や教員など、教育の質に関わる分野に十分な予算をかけることができません。学校や教室の数、教員の数や質が十分でなければ、児童が受ける教育の質が下がり、結果として留年や退学の増加につながりかねません。

また、経済状況の悪化は、貧困層の生活を苦しめることになります。「明日食べるのもやっと」という状況の家庭にとって、子どもを学校に通わせることは難しいものでしょう。

このように、現在のベネズエラの教育問題は、政治や経済の悪化によって引き起こされていると考えられます。



深刻な難民問題

このような政情不安により、ベネズエラでは新たな問題も発生しています。それは、難民問題です。

ベネズエラはかつては伝統的に難民を受け入れる国でした。しかし、先述の通り、政情不安や経済破綻の影響で、多くの国民がベネズエラからの脱出を試み、今ではシリアに次いで世界で2番目に多く難民が流出する国となってしまいました。実に560万人もの人々が故郷を追われ、南米最大の難民危機と呼ばれています。

難民が問題である理由は、国外に脱出したあとも、人々が様々な危険に直面している点です。

命がけで国境を越えて避難したとしても十分な保護を得られず、避難先では搾取・虐待・性的暴行・差別・排外などにさらされています。入国に際して、正式な書類や法的許可もないため、公的な保護を受けられず、立場が非常に弱いことも問題なのです(注3)。

彼らの多くは、家族でベネズエラを逃れ難民となります。難民となった子どもたちは、避難した先でその国の学校に通い、教育を受けることはできません。したがって、彼らの学習の機会を確保することは非常に難しい問題です。

ワールド・ビジョンの取り組み

ワールド・ビジョン総裁/最高責任者のアンドリュー・モーリーが
ベネズエラを訪れた際の様子

ワールド・ビジョンでは、世界の子どもたちが教育を受けられるよう、開発途上国の教育や学校の支援活動を行うだけでなく、貧困家庭の経済的支援なども行い、様々な角度から子どもの教育問題の解決を目指しています。



ベネズエラでの取り組み

ベネズエラは現在、壊滅的な経済崩壊と世界的なパンデミックという二重の危機に瀕しています。多くの人々が、食料や医療、子どもの教育など、最も基本的な必需品を買うことさえできずに苦しんでいます。

このような状況に対して、ワールド・ビジョンは5つの州の800世帯を対象に、7万5千ドルの多目的現金支援プログラムを試験的に実施しました。このプログラムによって3カ月間、各家庭に毎月約30ドルを支給しました。

現金を受け取った大多数の世帯は、その現金を食料の購入に使い(約97%)、食料の種類を増やすことができた(約80%)ことから、それまで家族全員分の栄養を十分に取れていない可能性が高いことが分かりました。

事実、調査対象となった全世帯のうち、80%の世帯が、資源不足に対処するために、低品質の製品を購入したり、食事の量を制限したりしていると回答しました。また、全世帯の7割が「1日の食事の回数を減らした」と回答しており、子どもが十分に食べられるように食事の量を減らしていたことが分かりました。

これらの調査結果をもとに、今後も支援を必要とする人々に支援が届くよう、活動を続けていきます(注4)。



チャイルド・スポンサーシップ

チャイルド・スポンサーシップとは、ワールド・ビジョンを代表する取り組みの1つで、開発途上国の子どもと支援者の絆を大切にした地域開発支援です。

チャイルド・スポンサーになっていただいた方には、支援地域に住む子ども"チャイルド"をご紹介します。ご支援金はチャイルドやその家族に直接手渡すものではなく、子どもを取り巻く環境を改善する長期的な支援活動に使わせていただきます。

チャイルド・スポンサーシップは、アジア・アフリカ・中南米など世界21カ国に支援を届けており(2020年度の実績)、子どもの健やかな成長のために必要な環境を整え、支援を受けた子どもたちが、いずれ地域の担い手となり、支援の成果を維持・発展させていくことを目指しています。

今すぐチャイルド・スポンサーシップに参加するには

ベネズエラで暮らす13歳の少年と犬

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※このコンテンツは、2021年11月の情報をもとに作成しています。

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