アフリカの南東部に位置するマラウイ共和国は、タンザニア、モザンビーク、ザンビアと接する内陸国です。その国土の大部分を占めるマラウイ湖は、アフリカで3番目に大きな湖として有名です。またマラウイは独立以降、外国との戦争や内戦を経験しておらず、その穏やかさから「Warm Heart of Afirica(アフリカの温かい心)」と呼ばれています。
一方でマラウイは、教育に関して多くの課題を抱えており、その質の向上が叫ばれ続けています。この記事では、マラウイの教育の現状をデータをもとに解説しながら、今後の課題や私たちにできる支援を考えていきます。
まずは、マラウイの教育制度や教育の現状、マラウイが抱える教育の問題点について解説します。
マラウイは、8-4-4制の教育制度を導入しており、初等教育(Primary Education)が8年、中等教育(Secondary Education)が4年、大学などの高等教育(Higher Education)が4年という制度となっています(注1)。
初等教育では、児童は小学校(Primary School)に6歳から入学し、1~8年生まで学習します。義務教育とは定められていませんが、この期間の授業料は無償とされています。初等教育修了時(8年生)には国家試験があり、この結果によって中等教育への進学が決定します。
中等教育は、前期2年と後期2年に分かれており、合計4年間を中等学校(Secondary School)で学習します。ここでも、後期中等教育修了時に国家試験があり、その結果によって大学などの高等教育への進学が決定します。
ただし、上記の教育制度は主に公立学校に適用されるものであり、私立学校の中には、初等教育が6年、中等教育が6~7年と定めている学校もあります(注2)。
高等教育には、大学だけではなく、より専門的な職業に就くための教員養成カレッジや高等職業カレッジなどがありまず。また、大学も、日本のように学士過程(4~5年)だけではなく、サーティフィケート(1年)やディプロマ(3年)など、様々なプログラムが存在します。
次に、データを基にマラウイの教育の現状について見ていきましょう。マラウイ政府が発表した2017~2018年のデータをもとに解説します(注3)。
6歳児の初等教育の純入学率 | 84%(男子: 82%、女子: 86%) |
6~13歳児の初等教育の純就学率 | 90%(男子: 87%、女子: 92%) |
1教員あたりの児童数 | 66.8 |
1教員(有資格)あたりの児童数 | 120.9 |
1教室あたりの児童数 | 88.9% |
児童の留年率 | 24.5%(男子: 25.1%、女子: 23.9%) |
児童の小学校修了率 | 52%(男子: 54%、女子: 51%) |
初等教育から中等教育への進学率> | 38.3%(男子: 37.4%、女子: 39.5%) |
6歳児の初等教育の純入学率は、小学校に入学するべき年齢である6歳児の全人口に対して、実際に新規で入学した児童数の割合を表したものです。
初等教育の純就学率(6~13歳児)は、小学校で学習すべき6~13歳の児童の全人口に対し、実際に小学校に在籍している児童数の割合を表したものです。
1教員あたりの児童数は、全国の小学校の児童数を教員数で割った比率を表したものです。つまり、1人の教員で約70人の児童を指導しなければならないという計算になります。
1教室あたりの児童数は、全国の小学校の児童数を教室数で割った比率を表したものです。つまり、一つの教室を約120人で使用している計算になります。
児童の留年率は、全児童数に対して、2年以上連続して同じ学年に留まっている児童数の割合を表したものです。全学年の平均値であるため、実際はその学年によってやや異なりますが、10人に約2.4人が次の学年に進級しない計算になります。
児童の小学校修了率は、全国の8年生に在籍すべき年齢(13歳児)の全児童数に対して、小学校の最終学年(8年生)に新たに入学した児童数の割合を表したものです。つまり、6歳で小学校に入学し、留年などせずに8年生まで修了する児童は、約2人に1人しかいない計算になります。
初等教育から中等教育への進学率は、小学校を修了した全児童数に対し、中等学校に入学した児童数の割合を表しています。つまり、小学校を卒業した児童のうち、中等学校に進学する児童は、10人中約3.8人という計算になります。
以上のデータより、マラウイの教育の問題点は次のようにまとめることができます。
国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の目標4「質の高い教育をみんなに」の中には、「2030年までに、全ての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする」というターゲットがあります。
この達成のためには、まず就学率の改善が急務となります。また学校に入学させるだけでなく、留年や退学を減らし、修了率を向上させる必要があります。そのためには、教室数や教員数の不足を改善し、教育の質を向上させることも解決策の一つとなります。
したがって、上記で挙げた問題点一つひとつを解決することが、教育の質の改善につながっていくのです。しかし、その解決のためには、問題の裏に潜む様々な社会課題や背景を知る必要があります。
ここまで、マラウイの教育の現状と問題点について解説しました。次に、マラウイの教育問題についてより深く理解するために、その原因や背景を見ていきましょう。
マラウイは、1964年に独立を果たしましたが、当時から初等教育の就学率の低さは大きな問題とされていました。とくに、授業料の支払いが大きな負担となり、貧困家庭の就学率が著しく低い状況でした。
1994年、この問題を解決しようと、当時の大統領であったバキリ・ムルジ氏がサブサハラアフリカ地域でいち早く初等教育の無償化を導入しました。これによって一時的に純就学率は100%近くまで一気に改善されました。しかし、この状態は長くは続きませんでした。
政府による教育の無償化は、児童数の急激な増加を引き起こし、至る所で教室数や教員数の不足が起こりました。これによって教育の質は大きく低下し、人々の学校教育への信頼は下がっていき、再び就学率が減少していくことになります(注4)。
初等教育の無償化によって発生した教員数の不足を解決するために当時の政府が行ったことは、教員になるための条件を緩和することでした。とくに、初等教育の無償化を行った直後は、無資格の教員をたった2週間半の研修で学校に送り込んだことで、たしかに教員数は充足されましたが、教育の質は低下しました。
その後、教員養成制度が改正され、現在は中等教育を修了し、大学の教員養成課程に入学したのち、学校での実地訓練を経て教員になることができる制度へと整備されました。
しかし、現在でも小学校の教員の約10%は、無資格の教員であると言われています(注5)。データにもあったように、そもそも中等教育に進学できる児童の数が限られているため、そこから教員になる人材を確保することは難しいからです。
つまり、「初等教育の質の低下→中等教育への進学率の低迷→教員養成校への進学者数の不足→有資格教員の不足→無資格教員の増加→初等教育の質の低迷」といった負の連鎖が起こっており、これに加えて教員の不足という問題が追い打ちをかけている状態が続いているのです。
教育の地域格差にも注目する必要があります。公表されているデータは、マラウイ全国の平均であることが多く、都市部と農村部を比べると全く異なる結果になっていることも珍しくありません。
例えば、15歳以上の識字率は全国では71.8%ですが、都市部では91.2%とほぼ全員が最低限の読み書きができるのに対し、農村部では68.2%しかありません。
他にも、15歳以上で最終学歴が中等教育以上(中等学校卒または大学などの高等学校卒)の人の割合は、都市部では44.1%いるのに対し、農村部では9.9%しかいません(注6)。
これらの原因として、都市部に比べて農村部では学校の数が少ないため学校までの距離が遠いことや、質の高い教員を集めにくいことなどが考えられます。
このように農村部が都市部に比べて劣っている部分を改善することが、マラウイ全体の教育の質を上げていくためには重要であると言えるでしょう。
ワールド・ビジョンでは、世界の子どもたちが等しく教育を受けられるよう、開発途上国の教育や学校の支援活動を行っています。
ワールド・ビジョンの支援活動を行う国の中には、今回紹介したマラウイも含まれています。特に教育環境の整備や子どもたちのHIV/エイズからの保護、農業支援などを行っています。
クーユ地域開発プログラム
クーユ地域開発プログラムは、首都リロングウェから北に約325キロメートルの場所に位置するムジンバ兼チンディ地区で実施されています。住民のほとんどが農業に従事していますが、生産性が低く収穫量が少ないため、貧困が大きな問題となっています。そのため、栄養状態が悪く、下痢や肺炎、マラリアなどが多数発生しており、HIV/エイズの感染率が高いことも深刻な問題の1つです。また、小学校を中退する生徒の割合も14%と高く、教育への支援も必要としている地域です。これらの課題を解決するために、次のような支援活動を行っています。
チャイルド・スポンサーシップとは、ワールド・ビジョンを代表する取り組みの1つで、開発途上国の子どもと支援者の絆を大切にした地域開発支援です。支援者の皆さまからの月々4,500円の継続支援により、上述したマラウイにおける支援活動も成り立っています。
チャイルド・スポンサーになっていただいた方には、支援地域に住む子ども「チャイルド」をご紹介します。ご支援金はチャイルドやその家族に直接手渡すものではなく、子どもを取り巻く環境を改善する長期的な支援活動に使わせていただきます。
チャイルド・スポンサーシップは、マラウイだけでなく、アジア・アフリカ・中南米など世界21カ国に支援を届けており(2020年度実績)、子どもの健やかな成長のために必要な環境を整え、支援を受けた子どもたちが、いずれ地域の担い手となり、支援の成果を維持・発展させていくことを目指しています。
公式ホームページにてチャイルド・スポンサーシップ参加のお手続きを承っています。支援内容についての詳細や個人情報等を入力するだけで、簡単に申し込みいただけます。
また、ワールド・ビジョンでは、世界のさまざまな問題やそれらに対する取り組みをまとめた資料を用意しています。皆さま一人ひとりが世界の問題や現状を「知るため」のきっかけとして、ご活用いただけます。詳しくは、「伝える・広める」をご覧ください。
ワールド・ビジョンでは皆さまのご支援・ご協力をお待ちしています。
注1 文部科学省:マラウイ共和国(Republic of Malawi)
注2 外務省:世界の学校を見てみよう マラウイ(Republic of Malawi)
注3 Ministry of educatio, science and technology:MALAWI EDUCATION STATISTICS 2017/18
注4 澤村信英(2009)「マラウイの初等教育無償化後の現実―学校レベルの質的改善―」,国際教育協力論集,第12巻第2号,203ー209頁
注5 川口純(2016)「マラウイの「無資格教員」に関する一考察ー誰が、なぜ、雇用されていたのかー」,アフリカ教育研究,第7号,105ー118頁
注6 Government of Malawi:National Statistical Office Statistical Yearbook 2017 P28