世界の解決すべき課題のひとつに、教育格差があります。教育格差は、国や地域によって大きな格差が見られる一方で、同じ国の中でも地域や家庭環境によって生じる格差があります。また、教育格差は相対的な問題でもあるため、開発途上国と呼ばれる国だけではなく、先進国にも、ひいては私たちが住む日本にも存在しています。
この教育格差をなくすために、私たちには何ができるのでしょうか。この記事では、教育格差の現状や原因、その解決策について解説します。
教育格差と言っても、国や地域、その人が置かれた環境によって原因や状況はさまざまです。日本と世界でも事情は異なります。まずは、教育格差の定義を紹介し、日本と世界における教育格差の現状を解説します。
教育格差とは、その人が置かれた環境によって、受けることができる教育に不平等が生まれてしまうことを言います。
なかでも、子どもの教育格差は深刻な問題です。1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」の第28条では、子どもは教育を受ける権利を持っており、すべての子どもが小学校に通えるようにならなければならないという条文があります。この条約には196の国と地域が締約しています(2020年時点)。
日本でも、日本国憲法第26条において「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」とあります。子どもの教育格差は、すべての子どもが等しく享受できるはずの権利が侵害されている状態であり、真っ先に解決すべき問題のひとつです。
日本で生じている教育格差には、「学校間格差」「家庭環境による格差」「学歴格差」などがあります。
学校間格差とは、入学する学校によって受けることのできる教育の質に差が原因で生まれる格差のことです。例えば、公立校と私立校では、利用できる施設や設備、サービスに差がある場合があります。特に、近年推進されているICT教育に関しては、私立校に比べて公立校の環境整備は進んでいないのが現状です。
家庭環境の格差には、自宅の学習環境やPCなどの設備だけでなく、学習塾などに通っているかどうかでも格差が生まれています。これらは、大学進学率などその後の学歴格差にも影響を与え、その格差が経済格差をも生んでいると考えられています。
次に世界の教育格差に目を向けると、開発途上国と呼ばれる国では、教育の質だけでなく、教育へのアクセスがそもそも十分ではない現状があります。
国連児童基金(ユニセフ)が2018年に発表した報告書によると、世界の5歳から17歳の子どものほぼ5人に1人にあたる3億300万人近くが学校に通っておらず、その3分の1以上に相当する1億400万人は、紛争や自然災害の影響を受けています(注1)。
なかでも深刻な地域が、サブサハラアフリカ地域です。2019年のユニセフの報告書によると、同地域の小学校に入学する年齢の子どものうち、男子の19%、女子の24%が未就学であると報告されました。また、仮に小学校に入学できたとしても、卒業できた児童の割合は64%でした。これは世界の中でも群を抜いて大きな割合です(注2)。
教育格差が起こる最も大きな原因のひとつが「貧困」です。上述したサブサハラアフリカ地域の多くは開発途上国と呼ばれており、貧困が大きな問題になっています。なお一般的には、経済協力開発機構(OECD)内で開催される開発援助委員会(DAC)が作成する、ODA(政府開発援助)受け取り国リストに載っている国々が開発途上国とされます(注3)。
貧困家庭にとって、子どもを学校に行かせることで発生する金銭的負担は決して小さなものではありません。また、子どもを学校に行かせるよりも、家の手伝いや幼い兄弟の面倒を見てもらうことの方が重要であり、なかには児童労働をさせられているケースも少なくありません。こうして、貧困によって子どもの教育を受ける権利が失われている現状があります。
経済格差が教育格差に大きな影響を及ぼしているのは、開発途上国だけではありません。私たちが住む日本でも、貧困による教育格差は広がっています。2018年に厚生労働省が行った「国民生活基礎調査」によると、日本の相対的貧困率は15.4%となっています(注4)。
相対的貧困とは、その国の文化水準や生活水準と比較して困窮した状態のことを指します。各国の相対的貧困の基準は、貧困線としてOECDによって定められており、2018年の日本の貧困線は所得が127万円となります。
日本の相対的貧困は、この30年で見ると増加傾向にあります(1988年:13.2%)。また、過去2回の調査を見ても大きな改善が見られません(2012年:16.1%、2015年:15.7%)。このように、日本国内でも約6人に1人が相対的貧困状態にあり、子どもの教育環境にも大きな影響を与えているのです。
子どもが生まれた地域による格差もあります。開発途上国と呼ばれる国の多くは、都市部と農村部の教育格差が大きく、特に学校の数や教員の数に大きな差があります。したがって、地域によって教育へのアクセスにも格差が生じているのです。
日本国内でも都市部と地方では地域的な格差があります。ひとつは情報の格差です。都市部はさまざまな職業の人が集まり、多くの学校もあり、子どもが自分の進路や将来のキャリアを考えるための多くのロールモデルと選択肢があります。一方で、地方では都市部に比べると、人口が少なくそのような機会に乏しいことは否めません。
これら情報の格差も直接的ではないにしろ、長い目で見たときに子どもが受けられる教育に差が生まれる可能性があります。
教育格差を減らすことができない社会構造にも原因があると言えます。この社会構造が原因で、教育を十分に受けることができないことが、以下のような新たな問題を次々と引き起こしているのです(注5)。
さらには、このようにさまざまな問題は、その家庭に生まれた子どもにも影響を及ぼします。特に、開発途上国と呼ばれる国では、家計を助けるために子どもでも働いたり家の手伝いをしたりしなければならず、学校に通わせるお金もないため、子どもが教育が受けることができなくなります。この負の連鎖は、親から子、子から孫と続き、抜け出すことが困難になるのです。
こういった負の連鎖を止めるためには自分の力ではどうしようもできないため、社会の制度や援助の仕組みなど、社会構造を変える必要があります。
このような教育格差をなくすための取り組みとして、世界ではどのようなことが行われているのでしょう。また、私たち個人にできることはあるのでしょうか。
世界では、世界の教育格差を少しでも減らすために、国連機関、政府、企業、NGOなどの市民団体等で、さまざまな取り組みが行われています。
例えば、日本政府は、政府開発援助(ODA)を通じて、2016年より「平和と成長のための学びの戦略」を発表し、紛争影響国への教育支援、産業人材育成支援、それら支援のための幅広いアクターとの連携強化などに取り組んでいます(注6)。
彼らが世界共通の目標として掲げるものに、持続可能な開発目標(SDGs)があります。SDGsは、「誰一人取り残さない」を合言葉に2015年の国連サミットで宣言された、2030年までに達成すべき17のゴールと169のターゲットから成る世界共通の目標です。
その中の目標4「質の高い教育をみんなに」では、教育についての目標が掲げられています。例えば、ターゲット4.1「2030 年までに、すべての女児及び男児が、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする」は、まさに教育格差をなくすための目標のひとつと言えるでしょう。
次に私たち一人ひとりが、教育格差を少しでも減らすためにできることを3つお伝えします。
ひとつ目は「知ること」です。世界中で起きている問題を引き起こす最も大きな原因は、人々の「無関心」であると言われることがあります。
すべての行動は、「知る」ことから始まります。あなたが、この記事を読んで教育格差の深刻さを実感し、その現状を少しでも変えたいと思うならば、まずは「知ること」から始めましょう。書籍、映画、インターネットなど、探そうと思えばいくらでも情報が得られる時代です。ぜひ今すぐ調べてみましょう。
2つ目は「伝えること」です。あなたがさまざまな問題について知ることは大切です。さらにそれを友人に伝えれば、世界で問題を知った人は2倍に増えます。その問題をSNSなどに投稿し、発信すれば、その数は10倍、100倍にもなるでしょう。今や、一億総発信時代とも言われています。あなたの発信が、誰かを突き動かし、いずれ大きな力になるかもしれないのです。
3つ目が「寄付をすること」です。前述の「構造的な原因」の部分で、教育格差の原因には社会構造の仕組みそのものが影響していることをお話ししました。社会の仕組みは、簡単に変えることはできません。しかし、お金の流れは変えることでき、その変化を起こすことで、今ある教育格差問題を少しでも解決することができます。
教育格差問題のために活動しているNGOなどの市民団体に寄付をすることから始めましょう。例えば、国連や政府が行う活動に対して、いくら教育格差に力を入れてほしいと訴えても、その思いを直接反映してもらうことは難しいです。しかし、市民団体は私たちの寄付によって活動が支えられています。その寄付が大きくなればなるほど、その活動を大きく広げることができます。
ワールド・ビジョンは、世界の子どもたちが教育を受けることができ、教育格差のない世界の実現を目指して、開発途上国の教育や学校の支援活動を行っています。
チャイルド・スポンサーシップという支援プログラムは、多くの支援者の方々からの支援によって、世界中の子どもたちの教育の質の向上に役立てられてきました。
例えば、カンボジアのボレイ・チュルサール地域開発プログラムでは、2019年に15カ所の読書キャンプを設置しました。この読書キャンプによって、子どもたちの読み書きの能力を大きく向上させることができました。
また、中部アフリカに位置するコンゴ民主共和国のカンボブ地域開発プログラムでは、授業料を払えないために中退したり、鉱山で働いたりする子どものために、保護者への教育の重要性を伝える啓発活動を行いました。
注1 UNICEF:「盗まれた将来:学校に通っていない子どもたち(原題:A future stolen: young and out-of-school)」
注2 UNICEF:世界子供白書2019
注3 OECD:DAC List of ODA Recipients
注4 厚生労働省:2019年 国民生活基礎調査の概況
注5 JICA:国際理解教育実践資料集 2-1.教育の問題
注6 外務省:「平和と成長のための学びの戦略」の策定