国際開発学会に上智大学小松教授とWVJ松﨑スタッフが登壇しました!

(2021.01.14)

2020年12月5-6日にオンラインで開催された国際開発学会第31回全国大会に、ヨルダン駐在の松﨑スタッフが上智大学の小松太郎教授、ガラーウィンジ山本香研究員とともに登壇し、発表を行いました。

国際開発学会は、開発問題に関して様々な学問分野が横断的知識、経験体系を集約し学術研究活動を展開する学会で、2021年現在、1614人の多様な分野における開発研究および開発協力に従事する人が参加する学会です。

難民の子どもたちの教育の継続性

発表は「困難な状況下にある難民教育の継続性ー第一次庇護国ヨルダンにおけるシリア難民への教育提供をめぐってー」をテーマとし、ヨルダンにおけるシリア難民の子どもたちへの教育提供を事例に、将来を見据えた難民教育の継続性について、ラウンドテーブルで行われました。本セッションには当日10人の方が参加しました 。

発表は初めに松崎スタッフより、第一次庇護国における難民の教育をいかに継続させるか、というテーマについて、現在事業で難民の子どもたちの教育を継続させるためどのような教育支援を行っているか、また新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による遠隔教育支援についての報告を行いました。

そのあと小松教授より、WVJとの共同調査で得られた結果を交えながら、難民の子どもの安全保障をいかに実現するか、というテーマでホスト社会の難民教育に対する意識についての研究報告がなされました。

最後にガラーウィンジ山本研究員より、ヨルダンで実施したインタビュー調査の結果をもとにしたシリア難民の母国への帰還や第三国定住を行う場合の、難民自身がいかに教育を継続していこうとしているか、展望や教育観についての調査報告を発表されました。

各発表者からの報告・研究発表の後、フロアより質問やコメントが挙げられ、オンラインながら今後の難民の子どもたちへの教育を考える深い議論のやり取りが行われました。


人間の安全保障と難民の子どもたちへの教育支援

上智大学総合人間科学部の小松太郎教授にうかがいました。
(Q:WVJからの質問 A:小松教授の回答)

Q1:人間の安全保障を守るために、教育はどんな役割を果たすことができるのでしょうか?

A1:「人間の安全保障」という考え方は、戦争や自然災害など人命に関わるリスクに晒された人々、その中でも特に脆弱な立場におかれた人々の生存・生活支援を重視する考え方です。教育、特に基礎教育は、子どもや若者のこれからの生活の基盤を作るという意味において、後回しに出来ません。

Q2:子どもたちにとって教育を継続することはなぜ重要なのでしょうか。特に紛争を経験した子どもたち、難民の子どもたちにとって、教育が継続できることはどんな意味を持つでしょうか。

A2:難民となった子どもたちは、人間の安全保障の考えからすると、まさに守るべき対象となります。戦争から避難して逃げ込んだ隣国(多くは開発途上国)での生活が長引く場合、より安定した先進国で定住する場合、それぞれその地で自活していくためには基礎教育は欠かせません。また、将来、母国が安定して帰還した際に、戦争で荒廃した国の再建を担っていくためにも、必要な知識やスキルを獲得していく必要があります。

補習授業のワークシートに取り組むシリア人の女の子
補習授業のワークシートに取り組むシリア人の女の子

Q3:人間の安全保障は、誰がその役割を担うべきなのでしょうか。その中でNGOにはどのような役割が期待されているのでしょうか。小松先生が考えるWVJのヨルダン教育支援事業の意義とは?

A3:本来、人々の命や生活を守るのは、国家です。しかしその意志が無い場合やあまりに負担が大きい場合は、国際社会が支援することが必要になります。脆弱な立場に置かれている人々、特に子どもに対するきめ細かな支援は、大規模なインフラ整備などを得意とする政府開発援助(ODA)よりNGOの方が得意な場合が多いと思います。子どもが置かれている個々のコンテクストに配慮し、学力向上や様々な暴力からの保護、ホスト社会の子どもたちとの関係作りを促せるのはNGOが出来ることですし、WVJの事業もそれを実現していると思います。

キャンプ内の学校に通学する子どもたち
難民キャンプ内の学校に通学する子どもたち

Q4:COVID-19下での遠隔補習授業の経験は、今後の教育支援、特に紛争の影響を受けた子どもたちへの支援において、どのような可能性が期待できるでしょうか?

A4:感染症拡大の影響を受けて、世界中で様々な遠隔教育が実施されています。特徴的なのは、動画や教師との頻繁なやり取りなどを取り入れた対面授業に近いものを実現しようとしていること。WVJのヨルダン事業でも、職員や補習授業教員の方々が日々創意工夫して取り組んでいらっしゃいます。ある意味、日本国内の教育機関よりも積極的にオンラインの取り組みが進められている気もします。この取り組みから得られた教訓は、積極的に国内外に向けて発信し、困難な状況に置かれている子どもたちの教育継続に生かして欲しいと思います。

オンラインツールを使って授業を配信する教師
オンラインツールを使って授業を配信する教師