(2022.10.13)
ウクライナ危機、気候変動、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの長引く影響によって食料供給量が減り、経済が打撃を受ける中、世界中の子どもたちと家族にとって飢餓の危険は高まり続けています。45カ国で約5,000万人の少女、少年とその家族が飢えにより命を落とす危機に瀕しています。
ワールド・ビジョン(WV)総裁/最高責任者アンドリュー・モーリーは現在世界が直面している食料危機を危惧しています。
アンドリュー・モーリーのメッセージをご紹介します。
ケニア、エチオピア、ソマリアの国境が接している、砂埃が舞う村に住む16歳のハンナさんのような子どもたちにとって、この壊滅的な干ばつと、それがこの地域にもたらしている致命的な影響は目をそらすことができない日常なのです。
ここではもう長い間雨が降っておらず、家や学校で保護され安全に過ごすことができるはずの子どもたちが水を求めて何kmも歩いています。これは単に喉の渇きと空腹による苦しみだけの話ではありません。栄養不良の子どもを抱える母親は子どもが寝ている間、呼吸が止まっていないか確認したり、あるいは、学校に通っているはずの学齢期の少年少女が学校に行けずに、ヘビのはびこる穴からでも水を集めるために何kmも歩いているという話も耳にします。
干ばつはここでの生活のあらゆる側面を引き裂いていて、すでにぜい弱になっていた無数の子どもたちとその家族の安全網をズタズタにしています。2017~2018年の干ばつ、2019年のイナゴの大量発生に続き、長引く新型コロナウイルス感染症の社会経済と生活への影響によって状況はさらに悪化しています。
先日東アフリカを訪問した際、医師を夢見る勉強熱心な10代のハンナさんに出会いました。しかし、雨が降らないことは、彼女の両親が飼育している牛の死を意味します。つまり、ハンナさんの両親は彼女の学費を払うことも、家族のために食料などの生活必需品を確保することもできないのです。
ハンナさんは、両親が、自分たちよりも夫の方がハンナさんを養ってくれると期待して、学校を退学させられ、強制的に結婚させられるのではないかと恐れています。残念なことに、WVが2021年に実施した調査で、この負の連鎖について明るみになりました。空腹に苦しむ子どもは、同年代の子どもよりも結婚する可能性が60%高く、幼くして結婚した子どもは空腹のまま眠る可能性が60%高いのです。
ハンナさんの父親から、彼が直面している途方もない困難について聞いていた時、彼は私に「この状況であなたならどうするだろう」と問うてきました。この日彼から聞いた話と、問われたことが頭の中で逡巡し、夜も眠ることができませんでした。彼をはじめとした親たちは自分たちのせいではなく、誰も強いられるべきではない苦しみに直面しているのです。私自身、2人の子どもを持つ父親ですが、答えを出すことはとてもではありませんが、できませんでした。
私が知っているのは、WVのスタッフの一部は、彼らが支援を通じて奉仕する地域の出身であり、地域が抱えている課題をその地域の人ならではの視点でよく理解しているということです。そして、彼らは、飢餓と闘う人々に、切望されている一縷の望みをもたらすためにできる限りのことをすべてしています。
今回の訪問で出会ったエバーリンスタッフもそのようなスタッフのひとりで、WVケニアの「チャイルド・プロテクション・セーフガーディング・オフィサー(子どもたちと、支援地域の人々の保護を専門に担当するスタッフ)」という仕事を担っています。彼女自身、ケニア北部の村で育ちました。彼女はしばしば空腹になり、食料援助を受けていました。彼女は女性器切除(FGM:Female Genital Mutilation, 主にアフリカのおよそ30カ国で行われている儀式的行事)と早婚を強要されそうになりましたが、宣教師が介入し、彼女を守りました。
今では、彼女はかつての自分のような少女たちが自分の権利を守り、豊かないのちを生きるための支援活動を行っています。
現在、4秒に1人が飢餓によって亡くなっていると推定されています。20年ほど前から国連は食料価格を調査しており、その調査によるとここ数カ月食料価格は顕著に高騰し、世界は過去最悪の飢餓に陥っています。
以前から飢餓の危機が深刻だったとすれば、ウクライナ危機がそれに拍車をかけ、より深刻にしました。壊滅的な飢餓状態に置かれている人々の数は、わずか15ヶ月の間に4倍に増加しました。紛争が穀物・肥料・燃料市場に与えた影響により、世界的に食料、様々な日用品、輸送価格が高騰し、難民や国内避難民への配給を減らさざるを得なくなりました。これらの輸出に依存して生計を立てている低所得国の人々に、特に大きな打撃を与えています。7月以降、食料価格は落ち着いてきていますが、依然として歴史的な高値を維持しており、生活は依然として厳しい状態です。
ウクライナ危機勃発前から、新型コロナウイルス感染症によるロックダウン、多くの国での紛争の長期化、気候変動の影響により、飢餓は世界的に劇的に悪化していました。2021年に、飢餓によって命の危険にさらされている人々の数は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック前の2019年と比べて1.5倍にのぼりました。
干ばつの影響で干上がったケニア北部で、私はわざわざ探さずとも何頭もの家畜の死骸を目撃しました。絶望の淵に立たされている牧畜民の家族は、子どもたちと、生き残っている最後の数頭の動物とに残されたわずかな量の食料を分け合っていました。食料支援を行う組織の多くは、ニーズに見合う十分な量の食料を確保できないため、支援する食料の量、質、頻度を減らす以外に選択肢がなくなっています。人道支援に寄せられる資金は過去最高を記録しているにもかかわらず、ニーズは支援を上回る状態が続いており、この資金的なギャップが解消されなければ、飢えに苦しむ何百万人もの子どもたちとその家族の命を守ることができないのではないか、と私は危惧しています。
課題はとても大きいものです。しかし、今行動すればこの危機を回避することができます。「世界の子どもたちを飢餓から守りたい」という決意さえあればよいのです。現時点で、ウクライナ危機への対応は、すでに支援に必要な資金の66%が集まっており、国際社会連帯のモデルとなっています。これと同じような連帯が必要です。
世界で最も弱い立場にある何百万人もの人々の命を守り、ハンナさんのような少女たちが学校から追い出されて児童婚をするのを防ぐということに向けて、世界が団結しないのであれば、それは道徳的な失敗以外の何物でもないのです。