【子どものためのコロナ対策③】 世界で行動を起こす子どもたち
(2020.06.05)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、あらゆる年齢の人が影響を受けています。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、「子どもたちにも、分かりやすくて正しい情報を届けたい」「安心や自信の回復につながるメッセージを届けたい」との思いから、新型コロナウイルスに関する子どものための情報を定期的に発信します。
世界の国々で発信されている新型コロナウイルスに関する情報やメッセージの中から、日本の子どもや保護者・養育者にも届けたいものをシリーズで紹介していきます。(情報は随時更新します。外部の団体・個人が作成した情報も出典を明記して掲載することがあります。)
第3回は、中高生以上の皆さんと子どもに関わるすべてに方に向けて、ワールド・ビジョンが子どもたちを対象に実施した国際的な聞き取り調査の結果と、世界の子どもたちの生の声を紹介します。
世界で行動を起こす子どもたち ~13カ国・101人の子どもの声から~
現在、世界各地に新型コロナウイルス感染症の影響が広がる中、オンラインで自分の思いや情報・メッセージ等を発信する子どもや若者の行動も大きな広がりを見せています。ワールド・ビジョンの活動のひとつに、地域社会での子どもの様々な活動を支援する「子どもクラブ」「子どもフォーラム」等がありますが、これらの参加者の中にも、オンラインで行動を起こし始める子どもが増えてきました。
休校や外出禁止、心身の安全や虐待リスクの増加など、新型コロナウイルス感染症により日常生活が深刻な影響を受ける中、子どもたちがどのような思いで行動を起こし、何を社会に伝えたいのか。それらを詳しく知るため、ワールド・ビジョンは2020年3~4月にかけて、国際的な聞き取り調査を実施しました。
SNS等を活用しオンラインで行ったこの調査は、2人の大人の研究者と共に調査チームの中心的役割を担った12人の子どもたちと、聞き取りに参加した13カ国*に住む8~18歳までの101人の子どもたち(男子58人、女子43人)によって実現しました。
*13カ国: アルバニア、バングラデシュ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ブラジル、コンゴ民主共和国、マリ、モンゴル、ニカラグア、ペルー、フィリピン、ルーマニア、シエラレオネ、シリア(アルファベット順)
- 調査結果をまとめた報告書全文はこちら(英語)
調査では、次の3つの質問を回答者に示し、回答者の希望に応じて、一対一またはグループインタビューによる聞き取りを行いました。
- 質問1:新型コロナウイルス感染症があなた自身やあなたの国の子どもや若者の生活にどのような影響を与えていますか?
- 質問2:新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けて、子どもや若者はどのような取り組みをしていますか?また、どのようなことができると考えますか?
- 質問3:新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止について、他の子どもや若者に知らせたい行動のアイディアや、伝えたいメッセージはありますか?
質問1:新型コロナウイルス感染症があなた自身やあなたの国の子どもや若者の生活にどのような影響を与えていますか?
13カ国に共通して、自分たちの生活に最も大きな影響を与えているものとして次の3点が挙げられました。
①学校の休校
➡71%の回答者が休校によって孤立や孤独を感じています。
多くの国で休校が急に始まったため、学校・子ども・家庭いずれも家庭学習やオンライン授業への切り替えに対応できていないという声が寄せられました。
②ソーシャル・ディスタンシングによる心理的ストレス
➡91%の回答者が外出制限等により精神的な苦しさを感じています。
心理的なストレスの度合いは子どもにより様々で、年齢や類似の経験の有無等によっても違いが見られました。
③貧困の加速
➡31%の回答者が保護者の収入への影響を心配しています。
加えて、自分たちの地域で特にぜい弱な立場にある人々、貯蓄がない人や日雇い労働の人がより厳しい状況になることを心配する声が寄せられました。
- 新型コロナウイルス感染症の影響について子どもたちが描いた絵
・休校になってから、毎日の勉強がとても難しいです。家で本を読むかインターネットで調べ物をするしかありません。それに、マリでは多くの子どもが貧しい環境で生活していて、インターネットが使えないので、オンライン学習はできません。- サリマタさん(15才)マリ
・この状況は嫌です。もうすぐエボラ出血熱の流行から解放されるところだったのに、今度はコロナウイルスがやってきてしまう。人との接触を避けることがウイルスから身を守ることになるとは知っているけれど、ウイルスよりも飢えが私たちを死に追いやるかもしれません。- アニータさん(16才)コンゴ民主共和国
- 新型コロナウイルス感染症の影響について子どもたちが描いた絵
質問2:新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けて、子どもや若者はどのような取り組みをしていますか?また、どのようなことができると考えますか?
新型コロナウイルス感染症の影響で、「子どもクラブ」や「子どもフォーラム」の集会が中止となる中、回答者やその周囲の子ども・若者は、次のような取り組みをしていることがわかりました。
- 新型コロナウイルス感染症にかからない・うつさないために人との接触を避けつつ、家にいながらも他者の力になれる方法を探している。
- 同年代の子どもたちに情報を伝えることや、自分が住む地域で特に脆弱な立場にある人々を助ける活動をしている。
- 新型コロナウイルス感染症の予防に関する情報を入手し、友人に伝えるバングラデシュの子ども
・地域の人々に新型コロナウイルス感染症のリスクについて伝える活動をしています。予防のためにできるだけマスクや手袋をつけるよう、呼びかけています。今こそ自分が皆の力になれるときだと感じています。- ジョマリーさん(17才)フィリピン
・動画やフリップチャートを使って、感染予防のためにしてはいけないことを発信しています。子どもたちが楽しく家で過ごせるよう、外に出かけてしまわないように、オンラインで子ども向けの読み聞かせもしています。- ララさん(17才)ブラジル
また、すべての回答者が、自分自身が貧困や困難の中にいることを感じながらも、より厳しい立場にある他者の力になりたいと考えていることがわかりました。
特に、子どもや若者は、家族や地域の中でも読み書き能力が高く、SNS等のインターネットを使ったコミュニケーションに慣れている場合が多いため、子どもや若者の間で正しい情報が広まれば、家族や地域にも伝わり、感染症の拡大防止に役立つのではないかとの声が多く寄せられました。
- 新型コロナウイルス感染症の予防に関する情報を入手し、友人に伝えるバングラデシュの子ども
・新型コロナウイルス感染症のパンデミックがなぜ危険なのか子どもたちに教えたいです。多くの子どもは初めての経験なのでわからないことが多いですし、大人もまだこの問題にそれほど関心が無いようです。子どもたちに情報が伝われば、子どもから家族にも伝わると思います。- アホナさん(16才)バングラデシュ
・多くの人が誤情報や噂に惑わされているので、他の10代の仲間と一緒に、WHOの情報や行政のホットラインの電話番号などを拡散しています。ホットラインへの電話のかけ方がわからない人に教えたりもします。集会はできないので、安全な方法で連絡を取り合っています。- サンジドゥルさん(15才)バングラデシュ>
一方で、
インターネットやSNS等を利用できない人々が取り残されないように注意や工夫が必要だとの意見も、複数寄せられました。
・携帯電話やコミュニティ・ラジオを使って、感染予防の情報を発信しています。混雑した場所に行かないこと、よく手を洗うことなど、文字を読めない人にも大切な情報がきちんと届くように工夫しています。- シエラレオネの回答者
・インターネットやSNSへのアクセスがありませんが、同年代の子どもや若者に必要な情報やメッセージを届けたいです。そのための方法を考えています。- シリアの回答者(トルコ国境付近の難民キャンプで生活するシリア難民の子ども・若者)
・SNSはとても便利ですが、使えない人もいることが問題です。山間部に住む子どもや若者は、携帯電話も使えない場合があります。- サミラさん(16才)ペルー
・ラジオはSNSと同じくらい大切なメディアです。生放送の番組に子どもたちが電話して参加することや、専門家を呼んで話をしてもらうこともできます。- サンジドゥルさん(15才)バングラデシュ
質問3:新型コロナウイルス感染症の拡大防止について、他の子どもや若者に知らせたい行動のアイディアや、伝えたいメッセージはありますか?
【子ども・若者の間の意識啓発について】
- ニュースをあまり見ていない友達に、SNSやテキストメッセージを使って情報を届ける。- オマールさん(15才)ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
- メッセージを送るときにハッシュタグ #stayhome をつける。同年代の子どもが使うハッシュタグにはインパクトがあると思う。- カタリンさん(13才)ルーマニア
- 予防方法を子どもが楽しく学べるアニメ動画を作る。- ドラさん(14才)バングラデシュ
- 手洗いの歌と動画を作った女の子(ヨルダンのシリア難民キャンプ)
【大人や行政などへの働きかけについて】
- 誤情報を信じている大人がいるので、大人向けの動画を作る。- ベタニアさん(15才)ブラジル
- 日々の生活にも困っている貧困家庭がたくさんあるので、そのような家庭を支援するよう行政に働きかける。- クララさん(14才)ペルー
【社会の変革、最もぜい弱な立場にある人々の力になるために】
- マリでは多くの人が文字を読めないので、書かれた情報よりも、簡単な動画とメッセージの方が多くの人に届きやすい。- サリマタさん(15才)マリ
- 困っている家庭のために募金を集める。SNSで統計データを広めて、新型コロナウイルス感染症の拡大を信じていない人に、本当のことだと知らせる。 - エトナさん(14才)アルバニア
- 新型コロナウイルス感染症に最前線で対応する人たちへの励ましのメッセージを広め、人々に家にいるよう呼び掛ける。- ミルナさん(15才)ルーマニア
- 地域の集会所に感染予防のポスターを貼る女の子(タイ)
新型コロナウイルス感染症の影響下での「子どもの参加」について
13カ国・101人を対象に行った今回の調査の結果から、改めて、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けて、子どもや若者が様々な行動を起こしていることがわかりました。
回答者たちは、インターネットやラジオなどの手段を駆使して正しい情報を得ること、それを理解し周囲に伝えること、他者のために行動すること、社会の変革のために人々に働きかけることなど、日常生活が一変し、外出や集会が制限される中でも、それぞれができることを考え、取り組んでいます。
子どもや若者は一人ひとりが権利の主体であり、社会の重要な一員です。新型コロナウイルス感染症の拡大によって社会全体が影響を受けている今も、その事実に変わりはありません。
このような状況下でも子どもや若者が力を発揮できるよう、ワールド・ビジョンは、オンラインで安全に活動する方法について情報提供したり、「子どもクラブ」や「子どもフォーラム」の活動をオンラインや小グループの集まりに切り替えて継続するためのサポートなどに取り組んでいます。
また、危機的状況の今、子どもの権利の大切さ、自分自身や他者を尊重すること、ジェンダー平等や誰も取り残さない社会づくりなどについて、改めて子どもや若者と共に考える機会を設けています。
新型コロナウイルス感染症の拡大というかつて無い状況においても、子どもや若者が十分な配慮のもと、安全で有意義に活動を続けられるよう、各国政府・国際社会・市民社会がそれぞれの立場で創意工夫し、環境を整えていくことが必要です。その一助として、この調査結果が参考になれば幸いです。
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