【開催報告】公開セミナー「子どもに対する暴力撤廃を目指して」

(2019.7.26)


SDGs16.2 「子どもに対するあらゆる形態の暴力をなくす」の実現を目指して

日本では、多くの痛ましい事件をきっかけに、児童虐待防止法の改正や同法への体罰防止規定新設の動きなど、子どもに対する暴力をなくすための取り組みが加速しつつあります。一方国際的には、SDGs16.2(子どもに対するあらゆる形態の暴力をなくす)を実現するため、2016年7月、国連事務総長により「子どもに対する暴力撤廃のためのグローバル・パートナーシップ」(Global Partnership to End Violence Against Children 以下、GPeVAC)*が設立され、マルチステークホルダー・プロセス**を特徴とする取り組みが進められています。国内における子どもに対する暴力をなくすための動きを、国際的な動きと連動させながらより効果的に進め、さらに加速させるためにはどのような工夫が必要でしょうか。

ワールド・ビジョン・ジャパンは、平成30年度外務省NGO研究会(「SDGs16.2 子どもに対する暴力撤廃」とNGO)を受託し、GPeVAC日本フォーラムの協力の下、1年間の活動を行いました。この成果報告として、2019年3月7日(木)、衆議院第二議員会館第5会議室にて、公開セミナー「子どもに対する暴力撤廃を目指して:世界におけるマルチステークホルダーによる取り組みと日本への期待」を開催。子どもの暴力撤廃に対する取り組みを積極的に進めるスウェーデン、カナダ、インドネシアからの海外ゲストと、日本の政策決定者にご登壇いただいた本セミナーには、国会議員、関連省庁、企業、市民社会組織の方々など約50人が参加しました。各スピーカーがそれぞれの立場から語った内容をご報告します。

子どもに対する暴力撤廃」というテーマに対する高い関心を反映し、会場は約50人の参加者で熱気にあふれた

* 「子どもが暴力にさらされることなく育つ世界」の実現をビジョンに結成されたプラットフォーム。国家、市民社会、民間企業など、子どもの暴力撤廃に携わる様々なステークホルダー(利害関係者)により運営されている。

**マルチステークホルダー・プロセスとは?(内閣府による定義)

国会議員から

開会にあたって、塩崎恭久衆議院議員(自民党)から次のようなご挨拶をいただきました。

「日本は、1994年に子どもの権利条約を批准したものの、「子どもの権利」という言葉自体は日本の法律に含まれていない状態が続いていた。現在、児童福祉法の改正(抜本改正)の動きがあるが、子どもの命を守れない現実があるという現状に対して、まだまだ改善の余地があると実感している。懲戒権を見直すための民法の検討には時間がかかると聞いているが、議論に時間がかかることで失われるかもしれない命に対して危機感を持つべきであり、もっと速く動くべきだと考えている。諸外国の現状と比較し、一つの児童相談所が管轄する人口があまりにも多く、たとえば、ドイツ平均の10倍にもなっている自治体が日本に存在しているといった事例もある。弁護士や医師、子ども家庭福祉に関する専門家などの活用も急ぎ拡充していくべきだと考えている」

続いて、ご参加いただいていた宮内秀樹衆議院議員(自民党)、および桜井周衆議院議員(民主党)からも、子どもの暴力をなくすための政策づくりと、議員として果たすべき役割の重要性について、力強いメッセージをいただきました。

子どもに対する暴力撤廃のため、行動を急ぐべきだと熱弁をふるわれた塩崎議員

外務省からー国際協力局民間援助連携室 佐藤室長よりー

NGO研究会を主管する外務省国際協力局民間援助連携室、佐藤靖室長からは次のようなお言葉をいただきました。

「自分自身、一人の親であるという立場から、本日のテーマである子どもに対する暴力撤廃というテーマが、一人ひとりにとってより身近な問題になることが必要だと感じている。民間援助連携室長という立場としては、本日の議論、またこれから提出される報告書を楽しみにしているところだが、その内容が、今後の日本NGO連携無償資金協力や、ジャパン・プラットフォーム(JPF)による緊急人道支援など、NGOの皆さんの活動に役立つ内容となることを期待している」

子どもに対する暴力撤廃という問題を一人ひとりが身近な問題としてとらえることが重要、というメッセージをくださった佐藤室長

外務省からー総合外交政策局人権人道課 杉浦正俊課長よりー

外務省で児童(子ども)の権利条約を主管する総合外交政策局人権人道課、杉浦正俊課長は、子ども*に対する暴力撤廃に関する最近の日本の取組みをご紹介くださいました。

*外務省は「子ども」ではなく「児童」という呼称を使用しているが、本稿では全体として「子ども」に統一して表記した

「子どもの権利条約は1989年に国連総会で採択され1990年に発効し、日本が批准したのは1994年。最近の動きとしては、国連子どもの権利委員会による日本の条約履行状況(法律、政策、政策実施にあたっての計画など)を確認する審査があり、前回の審査(2010年)以来、日本における子どもの権利の保護・促進の面で様々な進展があったことが改めて確認された。

今回の審査にあたり、日本は2017年6月に第4回・第5回政府報告を提出。本年1月にジュネーブで対面審査が実施された。2月、子どもの権利委員会が公表した総括所見では、民法、刑法、児童福祉法、児童売春・児童ポルノ禁止法の改正等、子どもの権利保護に関する国内法改正や新たな施策が肯定的な評価を得た一方、差別の禁止、児童の意見の尊重、体罰の禁止、家庭環境を奪われた児童の保護、少年司法等については委員会による見解・勧告が含まれた。

「子どもに対する暴力撤廃」に関する日本政府としての国際的コミットメントとその背景についてご説明くださった杉浦課長

子どもに対する暴力に関する国際的な流れの中では、GPeVACに参画し、日本として①パスファインディング国入り*、②「子どもに対する暴力撲滅基金」への拠出**、③理事国加入***という3つのコミットメントを実現している。2018年12月には、市民社会の代表と本分野における議論を深めるため、マルチステークホルダ―のプラットフォームを立ち上げる準備会合を開催した。

*パスファインディング国になると、子どもに対する暴力をなくすための国家計画の策定、マルチステークホルダープラットフォームの設立データ整備など、3-5年の集中した取り組みが求められる。

** 6.5億円を拠出。ナイジェリア、ウガンダで暴力から子どもを保護するプロジェクトに用いられている。
*** 2018年5月、河野外務大臣が理事に就任。

今後、GPeVAC関係では、近日中にマルチステークホルダーのプラットフォームを立ち上げ、「子どもに対する暴力撲滅ナショナル・アクション・プラン」を策定し、来年2月ごろに開催予定の「第2回子どものための2030アジェンダ:ソリューションズ・サミット」で同プランを発表すべく準備を進めていく意向。こうした取り組みは政府だけでは限界があるところもあり、市民社会等と協働を進めていくことに期待している」

日本の市民社会から

今回、NGO研究会による調査の実施を主管したワールド・ビジョン・ジャパン、アドボカシー・シニア・アドバイザー、柴田哲子より調査の背景と概要について報告しました。

「そもそもこの調査を外務省から委託していただくことになった背景には、子どもの暴力撤廃への機運が国際的にも国内的にも高まっていることがある。これまでにも、性的搾取や虐待など個別のイシューに対する取り組みが行われてきた経緯はあるが、それをすべて「子どもに対する暴力」という傘の下で一括して捉え、多機関の連携によって実質的に暴力をなくしていこうという機運が国際的に非常に高まっている。日本ではSDGs推進本部が安倍首相の下で立ち上げられ、その中でも子どもに対する暴力をなくそうということが明記されているという背景がある。こうした状況の中、国際NGOとしてどのような貢献ができるのか、という問題意識から実施したのが今回の調査であり、①子どもに対する暴力撤廃の潮流と基本事項、②パスファインディング国におけるマルチステークホルダープラットフォームの基本事項、③NGOの役割という調査スコープにより実施した。

NGO研究会により実施した調査内容を発表するワールド・ビジョン・ジャパン アドボカシー・シニア・アドバイザー 柴田
まず、子どもの暴力をめぐる国際的潮流についてだが、原点は、今年30周年を迎える「子どもの権利条約」である。ここで明確に、条約の締約国が、子どもへの暴力をなくすための義務を負うということが示されている。その後、国連事務総長からの指示によって行われた初の包括的な調査結果が2006年「子どもに対する暴力 調査報告書」としてまとめられ、2009年にはこれをふまえて国連事務総長特別代表という組織が設置された。2015年、持続可能な開発目標(SDGs)が、子どもの暴力に関するターゲット(SDG16.2)を含めて採択された後、2016年にGPeVACが立ち上がり、2018年2月には、ソリューションズサミットという第1回目の子どもに対する暴力撤廃のための国際会議が67カ国から約400名の参加を得て開催された。

2番目にマルチステークホルダ―プラットフォームに関しては、グローバルレベルではGPeVACにより、政府、国連機関、市民社会、宗教グループ、民間企業など様々なステークホルダーが協働を始めている。設立以来2年間で23カ国がパスファインディング国として参加し、2021年までに100カ国に増やそうと目指しており、また、子どもたち自身にとって意義のある参加を奨励している。

NGOの役割として、世界では、GPeVACの活動を活発化させるために15団体から成る市民社会連合(Civil Society Forum to End Violence Against Children)が立ち上がっており、日本では、「子どもに対する暴力撤廃日本フォーラム」を9団体で立ち上げ、アドバイザーとして国連子どもの権利委員会委員の大谷美紀子弁護士にもご参加いただいている。なお、本調査の報告書は完成後、外務省のホームページにも掲載される予定なのでご参照いただきたい。また、本調査の一環として、「子どもに対する暴力撤廃(End Violence Against Children)―グローバル・パートナーシップ―」と、WHO(世界保健機構)による「INSPIRE:子どもに対する暴力撤廃のための7つの戦略」という2つの資料を和訳したのでこちらも合わせて役立てていただければと願っている。

海外の市民社会/政府から

本セミナーでは、現在パスファインディング国となっている23カ国のうち、インドネシア、スウェーデン、カナダからゲストを招き、各国の事例を紹介していただいた。

インドネシアにおける市民社会の協働について紹介した ワールド・ビジョン・インドネシア 戦略・アドボカシーディレクター チャンドラ・ウイジャヤ
子どもに対する暴力撤廃に向けて世界でも先進的な取り組みを行っているスウェーデンの事例を紹介してくださったアダム・ベイエ 広報・文化担当官
ビデオ登壇でカナダ政府の取り組みを共有してくださったシャノン・ハーレイ家庭内暴力防止課長
インドネシアの事例

ワールド・ビジョン・インドネシア 戦略・アドボカシーディレクターチャンドラ・ウィジャヤ

子どもに対する暴力はインドネシアでも深刻な問題である。このため、国家中期開発計画(2015-2019)の具体的な行動計画として、子どもの保護に関する国家行動計画と、子どもに対する暴力撤廃国家戦略が定められた。その後SDGsが始まり、この問題を重要視しているインドネシアは最初のパスファインディング国となった。

インドネシアでは27の市民社会組織から成る「子どもに対する暴力撤廃のためのインドネシア市民社会連合」が2017年2月から活動している。調査や法律に特化した組織も含まれている。活動には次の3つの目的がある: ①政策と現場のギャップを埋めること、②(特に虐待を受けた)子どもの声を届けること ③政策変容を促すこと。 いろいろなバックグラウンドを持つ組織がともに活動するので、目的とルールを明確にして活動することが大事であり、6つの領域(①法的側面②社会規範③ペアレンティング④ライフスキル⑤システム向上⑥データ収集)で役割分担をして活動している。最初に戦略的パートナーとの協働のため、女性エンパワメント/子ども保護省などの関連省庁と面談を行い、国連関係者等とも面会の機会を持ってきた。2017年7月から子どもに対する暴力撤廃キャンペーンを実施しているが、「子どもフォーラム」という、15~17歳の子どもが声をあげ、政策決定プロセスに対して参加できる機会を設ける活動を中心に展開し、子ども自身のエンパワメントを大切にしている。これからも日本と学び合える機会を持ち、マルチステークホルダーによるプロセスを成功させていきたいと願っている」

スウェーデンの事例

アダム・ベイエ(スウェーデン大使館 広報部広報・文化担当官)

スウェーデンでは現在、如何なる体罰も家庭と学校の両方で禁じられている。しかし、1958年に学校での体罰が、1979年に家庭での体罰が法律で禁じられるまでは、子どもが大人に叩かれることは当たり前のことだった。法律による禁止は、子どもは両親の所有物ではなく独立した個人である、という考え方に基づいている。法律の可決前後に、子どもに対する暴力に関する意識向上キャンペーンが全国で行われ、1990年代には叩かれる子どもの数は法律施行前の5分の1となった。スウェーデンが世界に先駆けて子どもに対する暴力を禁じた国となった要因には、経済発展、就学前教育の普及が考えられるが、最も重要なのは民主主義、平等への理想が発展し、多くのスウェーデン人が子どもを含めたすべての国民が、暴力から平等に守られるべきだと感じたことが挙げられる。

法律的な禁止を実行するにあたり、「社会における子どもの権利(BRIS)」と「児童オンブズマン(BO)」という2つの組織が特に助けとなった。BRISは子どもや青少年自身、また子育てに悩む大人が様々な悩みを話すことができる相談窓口を持っていることで知られている。BOは政府機関で社会省の管轄にあり、権利擁護と子どもと青少年の権利に関する情報の普及に従事している。とはいえ、スウェーデンでは今も5%の子どもが殴られており、課題は残っている。体罰の禁止は、確かに暴力を減らす力となったが、これからも努力を続けることが大切だ」

③カナダの事例

シャノン・ハーレイ(カナダ公衆衛生局健康増進センター 家族暴力防止課長)

日本と同様、カナダも子どもに対する暴力撤廃のためマルチステークホルダープラットフォームのプロセスを開始しているが、カナダ政府には、マルチセクター(複数部門)による協働を省庁横断的に促し、家庭内暴力の問題に対応してきた経験がある。家庭内暴力への対応には、警察、司法、保健、住宅の部門からアクションが必要で、複数の部門がサービスや支援を提供するが、互いの重複やギャップが生まれないよう調整することを目的に30年前、家庭内暴力イニシアティブ(FVI)を開始し、女性とジェンダーの平等、公共の安全と警察、司法、経済・社会開発、住宅、保健、その他の領域に責任を持つ14の省庁と機関が協働できるプラットフォームを整えた。

FVIはデータや学びの機会などのリソース共有を可能とし、それぞれの部局が抱える問題に他の部局の視点を持ち込む成果を上げている。一方で、各省庁には異なる優先順位と視点があるため、協働において共通の土台と言葉を見つけるという挑戦も発生しているが、それこそが、この協働がもたらす根本的な意義だと捉えている。

カナダ政府は日本と同様、GPeVACに参加してパスファインディング国となり、マルチステークホルダープラットフォームの招集と、その計画と行動支援にコミットした。政府外の組織と、真のパートナーとして協働することは新しい挑戦であり、機会だ。カナダとしての取り組みを推進しつつ、日本の皆さまの経験から学ぶことも楽しみにしている」

国際機関から

最後に、公益財団法人 日本ユニセフ協会、中井裕真 広報・アドボカシー推進室長から閉会のご挨拶をいただきました。

「GPeVACの初代事務局長を務めたスーザン・ビッセルは、ユニセフでチャイルド・プロテクションのスペシャリストだった人物だ。ユニセフの中でチャイルド・プロテクションや暴力の問題がクローズアップされたのは、1989年に子どもの権利条約が採択されてからである。それまでも問題ではあったものの、どちらかというと、生存や教育というのが主要なイシューだったが、この10~20年の間にチャイルド・プロテクションや暴力の問題の存在がとても大きくなった。暴力の問題は、MDGs(ミレニアム開発目標) ではまったく含まれていなかったが、SDGs(持続可能な開発目標)は途上国だけでなく先進国も課題を共有するので、これを含めるべき重要性をUNICEFとしてもかなり働きかけ、SDGsターゲット16.2が誕生した経緯がある。その後、ビッセルは子どもに対する暴力という問題はUNICEFだけでは解決できないとして、UNICEFの外へ出て、GPeVACの事務局長に就任し、マルチステークホルダーによるプラットフォームを動かし始めた。日本政府がこのプラットフォームに参加して下さったことを感謝する。本日皆さまの発表を聞きながら、マルチステークホルダーの各メンバーが、子どもに対する暴力という問題をいかに身近な問題ととらえて参加し、自分ゴト化してアクションを取っていけるかが重要だと感じた」

閉会挨拶にてユニセフによる子どもの暴力撤廃のための取り組みをご紹介くださった中井広報・アドボカシー推進室長

セミナー開催概要

【日時】 2019年3月7日(木)11:00-13:00
【会場】 衆議院第二議員会館第五会議室
【プログラムと登壇者】(発話順)
 基調挨拶:  塩崎恭久(衆議院議員)
 冒頭挨拶:   佐藤靖(外務省国際協力局民間援助連携室長)
 
マルチステークホルダープラットフォーム調査結果概要紹介:
        柴田哲子(GPeVAC日本フォーラム/ワールド・ビジョン・ジャパン アドボカシー・シニア・アドバイザー))
 インドネシアの事例&市民社会の役割と視点:
        チャンドラ・ウィジャヤ(ワールド・ビジョン・インドネシア 戦略・アドボカシーディレクター)
 スウェーデンの事例&政府の役割と視点:
        アダム・ベイエ(スウェーデン大使館広報部広報・文化担当)
 カナダの事例&政府の役割と視点:
        シャノン・ハーレイ(カナダ公衆衛生局健康増進センター家庭内暴力防止課長)(ビデオ登壇)
 日本の取り組み:
        杉浦正俊(外務省総合外交政策局人権人道課長)
 
閉会挨拶:  中井裕真(公益財団法人 日本ユニセフ協会広報・アドボカシー推進室長)

【主催】 平成30 年度外務省NGO 研究会
【後援】スウェーデン大使館
【協力】GPeVAC 日本フォーラム※

※構成メンバー:(団体等ABC 順、法人格略)
  ACE 、チャイルド・ファンド・ジャパン、国際子ども権利センター、ヒューマンライツ・ナウ、国際人権NGO ヒューマン・
  ライツ・ウォッチ、プラン・インターナショナル・ジャパン、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、日本ユニセフ協会、
  ワールド・ビジョン・ジャパン


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