(2024.10.16)
10月10日(木)夜、中野坂上ハーモニーホールにて、「『The Forest Maker』映画上映&トークイベント~アフリカから世界へ。森と希望の再生ストーリー~」を開催し、117名の皆さまがご参加くださいました。
「The Forest Maker」(森をつくる人)は、「住民主体の自然再生アプローチ」により、アフリカのニジェールで1本の木も植えることなく600万ヘクタールもの森を再生させたトニー・リナウド・スタッフ(WVオーストラリア気候変動対策主任アドバイザー、以下トニー)のライフワークをおったドキュメンタリー映画で、アカデミー協会「外国語映画賞」やカンヌ映画祭「パルム・ドール」を受賞しているフォルカー・シュレンドルフ監督の作品です。今回は特別版を日本初上映しました。映画上映に続くトークセッションでは、特別ゲストとしてお迎えした、映画コメンテーターのLiLiCoさん、映画の主人公であるトニーと、WVJ望月スタッフが登壇し、LiLiCoさんの和やかな進行で、映画が生まれたエピソードや、映画で紹介された奇跡のストーリーの裏側について語り合いました。
「森を再生することは、希望をよみがえらせること」森を愛し、子どもたちを愛するトニーの温かい言葉と、チャイルド・スポンサーとして約10年にわたり3人のチャイルドをご支援くださっているLiLiCoさんが語ってくださった思いに、会場の多くの皆さまが頷きながら聞き入っていらっしゃいました。希望は勇気を出して行動を起こすことから生まれる、という力強いお二人の言葉に、会場は共感の大きな拍手で包まれました。
イベント概要、登壇者プロフィールはこちら
LiLiCoさんが、巨匠フォルカー・シュレンドルフ監督がトニーの軌跡を撮ることになったきっかけを質問し、トニーが答えました。「2018年に「もうひとつのノーベル賞」とも言われる『ライト・ライブリフッド賞(正しい生活賞)』を受賞し、そのお祝いの晩さん会でシュレンドルフ監督に会いました。彼は私の話に感銘を受け『トニー!君は世界中に協力者がいるのだろう?』と尋ねました。私が『全然いないんだ!』と答えると、シュレンドルフ監督はその時80歳でしたがテーブルを叩くとこう言ったのです『それは何とかしなければ!』こうして『The Forest Maker~森をつくる人~』が生まれたのです」
LiLiCoさんが、映画で紹介されたトニーの長年の森と希望を再生するための地道な活動に感銘を受けつつ、「どのようにこの取り組みを始めたのですか」と質問。トニーはこう答えました。「私を形作った大きなことが3つあります。第1に私の遊び場であった豊かな自然がブルドーザーで破壊されてしまったこと、第2に世界では自分と同じくらいの年齢の子どもたちが飢えている事実です。このことに私は怒りを覚えました。第3に大きかったのは母の存在です。母は信仰が深く、人生にはお金儲けより大切なことがあり、恵まれている私たちは苦しんでいる人を助ける責任があることを教えてくれました。少年だった私は祈りました。『神様、いつかどこかで、どうぞ私を用いてください』」
「その後、大学で農業を学び、そこで生涯のパートナーである妻のリズに出会いました。まさかアフリカに私と一緒に行ってくれる女性がいるなんて夢にも思いませんでしたから、リズから『アフリカの人々の役に立つために農業を勉強している』と聞いた時には、この人こそ私の結婚相手だ!と私は確信したのです。その時点でリズはそうでなかったようですが(笑)。その後ニジェールに家族で赴き、17年間活動したのです」
卒業後リズとお子さんを伴い派遣されたニジェールの土地は荒廃しきっていた、とトニーは語りました。「私が子どもの頃にはニジェールにも森があったのです。それが、20年にわたる伐採と自然破壊で砂漠化が進み、人々は貧困にあえいでいました。環境破壊には結果が伴います:高温、強風、長引く干ばつ、飢餓、争い、貧困、恐怖、落胆。中でも最も重荷を負っていたのは女性と子どもです」
ここでLiLiCoさんが「映画の中でも木が切られ、薪や木炭として売られていました。日本の私たちにとっても木は大切ですが、アフリカの人々の暮らしの中で木はどのような存在なのですか?」と質問、アフリカに駐在経験もある望月スタッフが答えました。「アフリカの人々にとって森と木は生活になくてはならない存在です。調理のための薪、住まいのための木材、家畜のえさに木の枝や葉っぱを使います。木が身近になくなれば、その分遠くまで薪を拾いに行かなければならなくなり、女性や子どもに大きな負担がかかります」
「600万ヘクタールもの土地を、1本の木も植えることなく、再び緑にした。本当にすごいことだと思います。木の根っこを復活させる、とてもユニークですよね!実は私の庭の木の枝を夫がどんどん切ってしまったことがあったんです。大切な木に何をするの、と思ったのですが、これも同じことですよね」とLiLiCoさんが尋ね、トニーは答えました。「FMNRは本当にシンプルな方法です。そして、実は、今回、来日する前に日本の取り組みについて調べたのですが、日本にも、数百年も昔から「台杉」などの似た手法が用いられていますね」
「樹木を特定し、残す枝を決めて選定し、コミュニティみんなで保護し、育てます。適切にケアすれば木は驚くほどのスピードで成長します。FMNRで大切なことは、育った木はコミュニティの人々が活用できる、ということです。育てた木を切ってしまうの、と驚かれるかもしれませんが、木を持続可能に活用できるようになることで生活が改善するのです」とトニー。望月スタッフが付け加えました。「家の近所で薪を拾えるようになれば、女性や子どもたちが労働から解放され、子どもたちが学校に行く時間も生まれます。果物をつける木であれば栄養のある食料が得られます。土壌の改善、水資源の保全、生態系保全にもつながります。木が再生することで、大きな変化が生まれるのです」
トニーは語ります「FMNRが展開された地域で、破壊、貧困、絶望のマイナスのスパイラルが逆転するのを目の当たりにして来ました。FMNRによって土地が豊かになり、住民はより多様な農作物や家畜をよりよく育てられるようになります。そのことにより気候ショックへの耐性も高まります。マイナスのサイクルが、回復、繁栄、そして、希望のポジティブなサイクルへと転換するのです」「環境が回復し、人々が笑顔になること。人々の喜びこそが私が活動を続けてきたモチベーションです」
LiLiCoさんは10年近く3人のチャイルドを支援してくださっています。トニーがコミュニティの人々の喜びを自分の何よりの喜びとして語るのに大きく頷きながら、その思いを語ってくださいました。「途上国では女の子がより厳しい立場に置かれています。女の子の夢を応援したくて、私もお仕事を頑張って、チャイルド・スポンサーを続け、そして、新しくネパールでの学校建設プロジェクトも支援しています。子どもたちの笑顔が本当に嬉しいです」 「日本は残念ながら寄付文化がまだ浸透していないと思います。私の生まれ育ったスウェーデンでは、クリスマスに、『あなたにプレゼントを渡す替わりに寄付をしました』というカードを贈られることが普通なのです。私もそうでした。欲しいものを買うのもいいですが、寄付をして、世界の子どもたちの笑顔をもらう、ということも考えてみてはいかがでしょうか」
トニーは「希望には2人の美しい娘がいます。ひとりは「怒り」で、もうひとりは「勇気」です」という聖アウグスティヌスの言葉を紹介しました。自分の遊び場だった愛する自然が破壊されている、世界で苦しんでいる子どもたちがいる、干ばつや飢饉で失われなくともよい多くの命が失われている、その時に感じた「怒り」に触れながら、「でも、怒りだけでは意味がないのです。勇気をもって行動することが大切です」「希望は待っていれば降ってくるものではありません。希望は生み出すものです。行動によって、希望を生み出すことが大切なのです。希望は私たち誰もが生み出せるものです」と語りました。 LiLiCoさんは、トニーの話を受け、こう語りました。「本当にそう思います。希望は空から降ってくるだけではないですよね。私はよく言うのです『ハッピー(幸せ)は、怖いと面倒くさいの先にある』と。勇気をもって行動することが大切ですね」
ワールド・ビジョン・ジャパンでは、11月1日から12月26日の期間、クリスマスキャンペーン2024「希望を、贈ろう。」を実施します。子どもたちが希望(HOPE)を持って成長できるように願いをこめて、「I'm with HOPE」と記したステッカーをご用意し、イベントに参加し世界の子どもたちに心を寄せてくださった皆さまに、アクションの証としてお配りしました。クリスマスキャンペーンの詳細は後日発表予定です。